先天性非交通性水頭症の原因疾患
7. 頭蓋底奇形
「頭蓋底」とは脳の底の部分を支える頭の骨の部分です。頭の上 の方(円蓋部)は髪の毛が生えていますが、外から見たり触ったり して、異常がないかどうか判断がつきます。一方、頭の底の部分は 顔や頚につながる部分に当たり、骨の形は外からはわかりにくく なっています。この脳の底の部分には脳幹や小脳などが納まってい ます。また、頭蓋底部にはたくさん孔が骨にあいています。脳幹が 脊髄につながる骨の孔(大後頭孔)や、脳を流れて心臓に帰ってい く血液が通る頚静脈が通る骨の孔もあります。また、頭蓋底部にあ る脳幹や小脳の表面にはくも膜下腔があります。
ここで、髄液の循環の経路について復習しておきます。髄液のほ
とんどは脳室の脈絡叢という特殊な血管で、血液成分から濾過され るようにして作られます。この髄液は、側脳室から第3脳室、そし て第4脳室に流れ、第4脳室の3つの出口(真ん中にあるマジャン ディ孔と左右にひとつづつあるルシュカ孔)から、頭蓋底部のくも 膜下腔に押し出されます。頭蓋底部にある脳幹や小脳の表面のくも 膜下腔を髄液が通ります。そのあと、大脳の表面のくも膜下腔に流 れ、髄液が上矢状静脈洞の中に吸収されて、静脈にもどります。
頭の骨、特に頭の底の部分の骨、喉の奥に当たる斜台や頭の後ろ の部分にある後頭骨が頭の重さを支えきれなくなれば、頭蓋底部の 骨が変形し、頭を支える頚の骨(第一頚椎や第二頚椎の歯突起)が 頭の底の部分に食い込んできます。これが「頭蓋底陥入症」です
(図)。
骨の病気の代表的なものとして「骨形成不全症」があります。こ の病気では、骨は作られますが、軟らかく骨折しやすいのです。そ のため、頭全体の重さを支えられなくなり、斜台や後頭骨の骨が頭 蓋底の部分で入り込んで頭蓋底陥入症になります。入り込む程度が 図
脳幹 小脳
第一頚椎 第一頚椎
歯突起 第ニ頚椎
第ニ頚椎
<正常>
脳幹 小脳
歯突起が 入り込む
後頭骨の変型
<頭蓋底陥入症>
頭蓋底部 円蓋部
進行すると、頚の骨の一部(歯突起)が前方の脳幹を圧迫したり、
キアリ奇形を合併したりします。さらに進行すると第3脳室や脳幹
(中脳水道)を圧迫して水頭症をきたすことがあります。
シャントは有効ですが、脳の圧迫は残るため、根本的な治療には なりません。この場合、入り込んだ歯突起を手術して取り除く手術 が必要となります。口の中からや顔の骨を一部切らないと頭蓋底か ら頭の中に入り込んだ歯突起は取り除けないため、難しい手術にな ります。
「軟骨無形成症」は軟骨がうまくできないため、上肢や下肢の骨 が伸びず、上肢と下肢が短く、また背骨(脊椎)が十分大きくなら ないため、背が低いのが特徴です。頭蓋底部の骨は軟骨からできる ので、この病気の場合、神経や血管が通る骨の孔が狭くなります。
脳幹からつながる脊髄の通る孔(大後頭孔)が狭いと脳幹や脊髄が 圧迫されて、呼吸障害、無呼吸、上肢下肢の麻痺が発生します。ま た、脳の血流を心臓に返す頚静脈が通る孔(頚静脈孔)も小さいた め、脳の静脈の流れが悪く、静脈の圧が上昇することがあります。
その結果、髄液が静脈洞に吸収されにくくなり、水頭症が生じると いわれています。
「頭蓋縫合早期癒合症」は、頭の骨が脳の成長とともには大きく ならない病気です。この中でもクルーゾン病やアペール症候群など と呼ばれる特殊な型(症候性頭蓋縫合早期癒合症)では、頭の骨ば かりではなく、顔の骨(上顎骨)の発育が悪いため、眼が顔の骨に 納まりきれずに前に出ている状態が特徴的です。この特殊な型の病 気では、小脳や脳幹の発育にともなって骨が十分大きくならないこ とが多いため、頭蓋底部のくも膜下腔が狭くなり、髄液が流れにく くなります。これに加え、頚静脈の通る骨の孔が狭いため、髄液が
吸収されにくいなどの原因で、水頭症を伴いやすいとされていま す。
どの部分が圧迫されているために症状が出ているのかを検査し、
圧迫を取りのぞくような手術を行う必要があります。水頭症が主な 病気であれば、シャント術を行えば治療は可能ですが、水頭症の原 因を残したままでは新たな神経の障害を起こすことが多いと思われ ます。とはいえ、原因となる病気の部分を治療することはしばしば 困難なため、なかなかうまくいきません。シャント以外の治療法と して、頚静脈の出口に当たる頭蓋底部の骨の孔が狭いことが理由 で、血液の流れが悪くなって水頭症になっている例では、骨の孔を 広げる手術が有効であるという報告がありますが、どの例によく効 くかが判定しにくく、また手術が技術的に難しいため、一般的な方 法ではありません。
はじめに
後天性非交通性水頭症は、脳腫瘍などの何らかの疾患によって、
本来あった髄液の流路に問題が生じ、二次的に脳室に髄液が貯留し た状態を指します。先天性水頭症、交通性水頭症と異なり、ほぼ全 例で明らかに頭蓋内圧は亢進しています。
後天性水頭症で考慮しなければならないのは、1)水頭症の原因 が一過性のものか、ほぼ永久的なものか、2)原因を取り去ること が可能か否か、3)水頭症が生じたのは急速にか、徐々にか、4)
原因を取り去れば発達遅延などの症状が消失するか、などです。
以上の1)〜4)の状態によって、治療方針は異なります。原因 がはっきりしているものが多いため、安易なシャント術は慎まなけ ればなりません。
以下にそれぞれの問題点と治療の方向性を述べ、ついで各原因疾 患と治療方針についてお話します。