シャント手術の実際
L- P胸部前後 P胸部側面 (バルブなし)
3. バルブの選択
当院では上記に紹介したバルブを用意し、それぞれの特徴をよく 説明した上で、患児にどのバルブを使うかは、ご両親に選択してい ただいています。ここでは、当院で特によく使われる代表的なバル ブを取り上げ、その特徴についてご説明しましょう。
定圧バルブ(低圧/中圧/高圧の別があります)
利点:圧が固定されているので、磁場の影響を受けません。
欠点:圧を変更しなければならない場合は、バルブ自体を手術で取 り替える必要があります。
可変圧バルブ(磁気バルブ)
利点:外側から磁力を使った機械(プログラマーなどと呼ばれま す)によって、手術することなしに、1分以内で圧の変更ができま す。
欠点:磁場の影響を受けて設定した圧が変わってしまう可能性があ ります。変わる原因となり得るのは、MRI(終了後、圧を再設定す る必要があります)、磁石、スピーカー、リニアモーターカーなど
Burr Hole designバルブ 髄液が皮下に漏れにくくて良い のですが、交換しにくいのが欠 点です。
です。
また、これらの可変圧バルブは、使用している場所が日本やアメ リカやヨーロッパといった先進国に限られており、例えば発展途上 国で働こうとする人にはお勧めできません。そこに、圧を設定する ための機械がないからです。
可変圧バルブの製品例
・Codmann Hakim
設定圧:3cmH2O 〜 20cmH2O の 18 段階 設定圧の確認:レントゲンが必要です。
磁気の影響:80 ガウスのものがバルブの 1cm 以内に近づくと、設 定圧が変わる可能性があります。
その他の特徴:バルブが長い構造をしています。チェンバー(髄液 の溜まる部分)が大きいので、フラッシング(チェンバーを押して 髄液を流すこと)はしやすいです。
・Medtoronic with delta chamber (2001 年 3 月から保険適用)
設定圧:2.5 〜 15.5cmH2O の5段階
設定圧の確認:方位磁石のようなものを使って、外から設定圧がわ かりますので、レントゲンは不要です。
磁気の影響:90 ガウスのものがバルブの1 cm 以内に近づくと、設 定圧が変わる可能性があります。
その他の特徴:バルブがコンパクトでありながら、アンチ・サイ フォン・バルブ≒デルタ・チェンバーも含まれています。しかし、
このチェンバーは小さく、フラッシングしにくいという欠点があ
ります。
〈アンチ・サイフォン・デバイスの種類〉
ASD
SCD
4.シャント手術の効果と危険性
この CT の患者さんは、術後一カ月で脳室が縮小していますが、
人によっては数カ月、あるいは数年かかることもあります。
Hyer-Schulteバルブwith ASD低圧
Anti-Siphon Device
Siphon Control Deviceの 略。
シャント手術前CT CT術後1カ月 右側の小さい装置
このように、シャント手術を行うことによって、脳の発達の促進 という初期の目的を達成することできるわけですが、その一方で、
合併症を招く危険性がないわけではないことを言っておく必要があ ります。多くの外科手術と同様に、さまざまな状況が重なること で、最悪の場合には命にかかわることもないとは言えません。ま た、全身麻酔によって命を失う人も、数万人に一人という確率では ありますが、存在はします。
ここでは、シャント手術に合併するおそれのある障害を列記しま す。決して脅すわけではありませんが、知識としては知っておいて ください。
・神経学的障害 意識障害 運動麻痺 感覚麻痺 視野視力障害
言語障害 失語 失認
→大脳の優位半球(右利きの人は左半球、左利きの人は右半 球)が障害されると、失語症になることがあります。
脳神経障害 I 〜 XII 膀胱直腸障害 てんかん、痙攣 知的障害
・発達障害
・内分泌障害
尿崩症 SIADH
・細菌感染症 髄膜炎
MRSA VRE 抗生剤に抵抗性の細菌(多剤耐性菌)
・出血 術中出血
大量出血 DIC 凝固障害 術中死 術後出血
再手術
・創部離開 創部感染
・輸血による合併症
致死的な合併症として AIDS(エイズ)や GVHD(移植片対宿 主病)がありますが、そもそもシャント手術において、輸血が行わ れることは稀です。