西宮協立脳神経外科病院 院長
三宅裕治
閉塞以外に、髄液蛋白濃度が上昇していることが多く、これによる 髄液流通・吸収障害も病態に関与していると考えられています。
また、中脳水道狭窄症による閉塞性(非交通性)水頭症と考えら れた例にシャントを行うと、狭まっていたはずの中脳水道が術後に は開いているという場合もあります。このような例では、交通性水 頭症による側脳室拡大とそれに伴う第3脳室の下方偏位により、二 次的に中脳水道が狭窄・閉塞されており、シャント術後にこれらが 改善した結果、中脳水道の狭窄・閉塞状態が解除されたものと考え られています。
炎症後の交通性水頭症に対してV-Pシャントを行うと、側脳室や 第 3 脳室が縮小し、二次的に中脳水道が閉塞することがあります。
このような状況下では、第 4 脳室のみが孤立して拡大し(=isolated fourth ventricle)、脳幹部の圧迫症状を呈することがあります。
2. 外傷性水頭症
一口に外傷性水頭症と言っても、外傷の程度によって水頭症のタ イプも自ずから異なってきます。
脳室内出血が起こった場合には、脳室内での髄液流通障害による 閉塞性(非交通性)水頭症が発生します。この場合は通常意識レベ ルの低下を伴う、急性高圧性水頭症として発症します。
くも膜下出血が主体の場合は、血腫そのもの、あるいは出血にと もなう髄液蛋白濃度の上昇などの影響による、くも膜下腔での流通 障害・吸収障害により、交通性水頭症が発生します。外傷性くも膜 下出血単独で非常に重篤なものは稀なため、急性高圧性水頭症の形 をとることはまずなく、外傷を契機として、徐々に痴呆・歩行障害・
尿失禁などが進行してくる、いわゆる正常圧水頭症(NPH)の形で
発症することが多いと言われています。
3. くも膜下出血(SAH)後水頭症
ここでいうくも膜下出血(SAH)は、脳動脈瘤破裂によるものを 指します。外傷性のものとは異なって、脳底部の比較的太い脳血管 からの出血であり、発症早期にはくも膜下腔での髄液流通障害・吸 収障害により、意識レベルの低下をともなう急性高圧性水頭症が発 生します。このような病態は、血腫の消失とともに、ある程度改善 しますが、正常に比べると髄液流通障害・吸収障害は残存し、さら に出血にともなう髄液蛋白濃度の上昇や、脳血管攣縮(れんしゅ く)などによる脳灌流圧(脳内で血液を流す力)の低下などの要素 が相互作用を及ぼして、S A H 発症の数週間後に正常圧水頭症
(NPH)が発症してくることがあります。「正常圧」という言葉が誤 解を招きやすいのですが、高圧性水頭症にみられる、意識レベルの 低下を伴うような非常な高圧ではないものの、患者個々にみれば軽 度高圧と考えて良いと思います。SAH 発症数週間後に痴呆・歩行 障害・尿失禁などが出現してくれば、正常圧水頭症(NPH)の発症 を疑って、CT 等の検査をする必要があります。
4. 脳出血後水頭症
脳出血をきたす原因疾患は、高血圧性のもの以外に、脳動脈瘤破 裂、脳動静脈奇形破裂、モヤモヤ病などが挙げられます。ほとんど は、脳出血が脳室内にまで穿破する(入り込む)ことにより、急性 閉塞性(非交通性)水頭症として発症します。
小脳出血や脳幹部出血では、脳室内穿破が見られなくても、中脳 水道から第 4 脳室の圧迫により急性閉塞性(非交通性)水頭症が引
き起こされることがあります。
5. 特発性正常圧水頭症
高齢者で、くも膜下出血や外傷などの明らかな原因がないのに、
痴呆・歩行障害・尿失禁などがみられ、画像上、脳室拡大が存在す る場合、特発性正常圧水頭症が疑われます。何らかの原因疾患が あって発症してくる場合 (症候性正常圧水頭症)に比べて、特発 性正常圧水頭症は、発症時期の特定が困難で、診断も難しいので す。また画像所見などで、加齢性変化とハッキリと区別することは 困難で、手術適応は、髄液排除によって症状が改善するかどうかで 判断されます。
痴呆症状の主体は、記銘力障害(最近の出来事を覚えられない)
で、意欲も減退していることが多く、同じように記銘力障害を呈す るアルツハイマー病がしばしば攻撃的であったり、徘徊や他人の話 にうまく合わせるというような症状が見られるのと対照的です。ま た、歩行障害は、小刻み・すり足・突進現象などが特徴的です。
高齢者は、もともと無症状ではあっても、脳動脈硬化により脳循 環不全状態にあることが多く、この状態に軽度の髄液循環障害が加 わることによって、さらに脳の灌流圧が低下して、特発性正常圧水 頭症が発症するものと考えられています。もちろんアルツハイマー 病やパーキンソン病などと合併することもあります(図1)。