先天性交通性水頭症の原因疾患
4. 二分脊椎
「二分脊椎」とは、脊椎と脊髄の形成不全や異常を総称すること ばですが、その多くは「脊髄髄膜瘤」という形をとります。
脊髄髄膜瘤を持つ人の 90% が水頭症を合併します。診断は胎児 エコー、MRI で行いますが、髄膜瘤そのものの診断は、瘤が小さ い時や、適切な角度の画像が得られない時は困難です。
水頭症は、側脳室の後角が優位に拡大し、20%は生後数週間以後 に発症します。
近年、アメリカでは脊髄髄膜瘤の胎内手術が行われ、その有効性 を検証中です。妊娠週令26週前後で脊髄髄膜瘤修復術を行うと、キ アリ奇形や水頭症を合併する頻度が低くなると報告され、期待され ています。
図4:CT脳槽造影(CTC)動態による髄液bulk-flowの視覚化
水溶性造影剤の腰部くも膜下腔投与後、6時間(右上)以内の脳室内 逆流と、24時間(左下)での脳室内停滞を示す。
顕在性(外から見て分かる)二分脊椎では、嚢胞性瘤内に脊髄、
神経などの神経組織を含むものを「脊髄髄膜瘤」といい、神経組織 を含まないものを「脊椎髄膜瘤」といいます。
また、中心管が局所的に拡大し、脊髄の背側部が膨隆したものを
「脊髄嚢瘤」、髄膜瘤を伴うものを「脊髄髄膜嚢瘤」といいます。「脊 髄披裂」とは、奇形性脊髄が露出し、胎生期の神経板に類似したも のをいいます(図5)。
「脊椎髄膜瘤」以外は、神経学的に大きな問題があります。嚢胞 の大きさや表皮の被覆状況、茎の有無はさまざまですが、発生頻度 は、日本では出生1000 に対して0.3 程度とされ、諸外国の0.6 〜4.5 に比較して、著しく低くなっています。分布は、神経管の最終閉鎖 部位である腰仙椎、第1・第2腰椎、胸腰椎の移行部に多いとされ ています。
図5:二分脊椎の病型概念図
a.脊椎髄膜瘤 b.脊髄髄膜襄瘤
c.脊髄髄膜瘤 d.脊髄披裂
(背側)
(背側)
横断図 矢状断図
(腹側)
(腹側)
顕在性二分脊椎の 70% 以上は「脊髄髄膜瘤」であり、皮膚で覆 われていることは稀です。多くの例で髄液の漏出がみられ、「開放 性脊髄髄膜瘤」と呼ばれることもあります。約 80% が腰部、腰仙 部にみられ、稀に前方仙椎部髄膜瘤がみられます。70 〜 80% に水 頭症を合併します。「脊髄披裂」の場合の水頭症の合併は96% にも 上ります。
嚢内に癒着した神経組織を神経斑と呼びます。神経斑は披裂部で 固着しているため、正常では胎生 9 〜 25 週に生ずる、成長の著し い脊椎管と、成長の穏やかな脊髄との間の相対的なずれによる脊髄 の上方移動が生じず、脊髄円錐は仙椎より上昇しません。このため 脊髄は伸展されています。外観上、中心部は光沢のある赤黄色の神 経組織で、その周辺にくも膜に連続する上皮層、さらにその周辺に 皮膚層があり、硬膜は皮膚層に癒着します。皮膚層は母斑様でブド ウ酒様の赤みをおび、形成不全があります。
髄液をいれた硬膜、くも膜が嚢胞状に突出しながらも、嚢胞内に 神経組織の入らない脊椎髄膜瘤は、嚢胞性二分脊椎の 5% を占め、
男女のどちらに多く発症するということはなく、腰椎、腰仙部に多 いものです。生まれたばかりの時には、神経学的異常を示さないこ とも少なくありません。脊椎管内の病変として、割髄症、終糸の肥 厚の合併例があります。水頭症の合併頻度は 5 〜 20% と低く、キ アリ奇形の合併も少ないです。
初期管理として、胎児診断がついていれば、水頭症の進行する前 に計画的に帝王切開にて分娩させます。治療は修復術であり、その 手術目的は、瘤を除去し、神経組織に及ぼしている圧迫や牽引を解 除して硬膜形成を行い、正常に近い神経解剖学的状況を復元し、向 後の症状の発現や進行を防止すること、また、生命予後と密接する
感染を防止することです。
術後は定期的に MRI で経過を追い、脳では低形成の構造、キア リ奇形の変化、脳幹空洞症、くも膜嚢胞、水頭症の発現、変化、脊 髄では脊髄空洞症、くも膜嚢胞の発現、脊髄の虚血性変化、割髄症 の存在、脊髄係留、脂肪腫、皮様嚢腫などの発現に注意します。
積極的治療を行った場合、2年生存率は 95% と報告されていま す。死亡する子全体の 80% は2歳までに亡くなります。原因は水 頭症のシャント機能不全、感染、キアリ奇形や他の合併奇形により ます。
機能予後として、知能予後は水頭症の治療とその合併症の管理が 十分であれば、比較的良好です。しかし詳細に検討すると、IQ が 高くても多動、学習障害、学業不振がみられます。言語性 IQ が良 いのに対して、動作性 IQ は残念ながら明らかに不良です。
知能予後と最も相関するのは水頭症の管理を含めた治療効果であ り、定期的な CT や MRI による頭蓋内構造の形態観察に加えて、精 神運動発達テスト、知能テスト、心理テストなどによる発達と問題 点の把握、対処が必要であり、専門の臨床心理士、言語療法士との 協力を要します。
運動機能は、足、下肢、下肢帯の運動障害が主体であり、二分脊 椎の部位が腰椎3より上であれば歩行は不能です。腰椎4 より下で あれば装具によって歩行が可能です。先天性、あるいは成長にとも なって進行する、足、股関節、脊柱などの変形に対しては、積極的 な整形外科的治療が必要であり、また筋力と矯正後の状況に応じた 装具の装着、理学療法士と協同したリハビリテーションを要しま す。また知覚障害があるため、火傷、辱創には気をつける必要があ ります。
二分脊椎の 80 〜 90% は神経因性膀胱を生じ、泌尿器科的管理を 要します。残尿や膀胱尿管逆流現象は尿路感染症を高頻度に合併 し、腎盂炎、腎盂腎炎、水腎症を生じ、腎不全に至ることがあります。
また、直腸障害も便秘をはじめ 腸閉塞をきたして大きな問題と なることもあります。
斜視、眼振、視力低下もおこり得ますので、眼科的管理も必要で す。
脊髄髄膜瘤の患児の身体的成長障害の一因に、内分泌学的異常と して中枢性思春期早発症、成長ホルモンの分泌低下があり、5 〜 35%に起こると報告されています。一般の発生頻度より高く、脊髄 髄膜瘤の高位の例やシャント再建の多い例に多いとされています。
しかし、これについては治療可能なので、早期に診断し、治療を行 うべきです。
以上のように、顕在性二分脊椎の患児の管理には、熱意ある脳神 経外科、整形外科、泌尿器科、眼科、神経科、内分泌科などの医師 とナース、心理・理学療法士、ケースワーカーなどの医療従事者は もとより、家族と患者が一体となったチームワークが要請され、そ の成否は予後と密接な関係にあります。