2. 治療法:
これまでさまざまな水頭症の治療方法が、歴史的に考案されてき ました。
[非手術療法]
1)マンニトール、グリセオール、尿素、イソソルバイドなどの浸 透圧利尿剤を用いると、脳の細胞外液が血液中に移動して脳の容積 が減少し、頭蓋内の圧(脳圧)を減少させることができます。マン ニトール、グリセオール、尿素などは静脈内注射で血管内に入れな ければなりませんが、イソソルバイドは経口的に飲むことで類似の 効果をもたらします。しかし、これらはもちろん一時的な治療であ り、永続的な水頭症そのものの治療とはいえません。
2)アセタゾールアミドという薬剤は、脳室内の脈絡叢から産生さ れる髄液量を減少させる働きがあり、人間でも確認されています。
したがって髄液そのものの産生を抑制することでの水頭症治療の可 能性がありますが、その抑制の程度が弱かったり、体内の電解質異 常などを起こしやすいため、長期間使用しての永続的効果について は疑問です。
[手術療法]
たとえば脳腫瘍などに伴う水頭症のように、一部の非交通性水頭 症では、髄液の循環を閉塞する原因を除去することで水頭症の治療 が可能な場合もあります。
しかし交通性、非交通性を問わず最も一般的な治療は、シリコン 管に圧制御と逆流防止のための弁構造を持ったバルブを繋ぎ、過剰 な髄液を頭蓋外に持続的に誘導する短絡手術(シャント手術)で
す。主に脳室―腹腔短絡術(Ventriculo-peritoneal shunt; V-P シャ ント)・脳室―心房短絡術(Ventriculo-atrial shunt; V-A シャント)・
腰椎くも膜下腔―腹腔短絡術(Lumbo-peritoneal shunt; L-P シャン ト)が、行われています。ただし L-P シャントは交通性水頭症にの み適応があり、非交通性水頭症には用いられません。脳が下方へ変 位して、脳ヘルニアという、時に致死的な合併症を起こす危険があ るためです。
非交通性水頭症の診断が明らかならば、短絡管を用いない治療法 として、脳室内に誘導した内視鏡を用いて第三脳室の底面に穿孔す る、第三脳室底開窓術(IIIrd ventriculostomy)も最近では良く行われ る方法です。第三脳室の底面の壁は通常でも薄く、脳室が外側のく も膜下腔と最も近接する部位です。水頭症で拡大した第三脳室で は、この部分がさらに薄い膜様になり、向こう側が透見できるほど になり、比較的簡単に穿孔して、脳室と脳底部の脳槽(くも膜下腔)
との交通をつけることができます。特殊な場合として、未熟児の脳 室内に出血した後に発生する水頭症(未熟児出血後水頭症)では、
体重が 2500g 前後に達するまでは、短絡手術の合併症が多いため、
腰椎穿刺やリザーバーからの経皮的髄液排除で脳室拡大をコント ロールします。この操作のみで、約 30% の患者はその後の短絡手 術が不要になることが知られています。
[治療に伴うリスク]
短絡術は手術手技としては、きわめて安全な手術ということができ ますが、その後の合併症として以下のようなものが知られていま す。
a
短絡管に由来する合併症:短絡管の閉塞・感染・断裂・成長に伴う短縮など
s
短絡術の術式に起因する合併症:鼠径ヘルニア・腹水・腸穿孔・心内膜炎・シャント腎炎など
d
過剰な髄液排除による合併症:硬膜下血腫・隔離性水頭症・ス リット脳室など。閉塞を代表とするこれらの合併症により、1 年で手術を受けた人 の 40%、2 年を経ると 50%、10 年後までには 85% のシャントが機 能不全に陥ると考えられます。短絡管の感染はほぼ5 〜8%前後に 起きます。起因菌は 40% が staphylococcus epidermidis(表皮ブド ウ球菌)、20% が staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)で、最 近は MRSA による感染も増加しており、治療が困難な場合が少な くありません。これら合併症は時に重篤な障害を残すことから、短 絡術の適応は慎重に判断する必要があるのです。
内視鏡による第三脳室底開窓術が合併症を引き起こす割合は全体 の 5 〜 20% とされ、頭痛や発熱など軽度なものの他に、開窓部の 出血、脳底動脈など血管の損傷、視床下部損傷、脳神経麻痺といっ た重篤なものもあります。内視鏡による水頭症治療の有効性はほぼ 70 〜 80% 近くに認められますが、3 才未満の症例では 50% に満た ないことも多く、症例の選択が重要です。これは、小児ではまだく も膜下腔の発達が未熟で、長く非交通性水頭症の状態が続いて髄液 の流れが途絶えると、くも膜下腔が十分に機能しなくなってしまう からと、考えられます。
3. 水頭症治療のゴール
水頭症治療のゴールは、脳室内に髄液が貯留することで亢進して いた頭蓋内圧が治療により低下して、脳組織への圧迫が除かれ、知
能・運動など脳機能の健全な発達が得られることにあります。治療 にシャントを用いている場合には、シャントが適切に機能し続けて いることが必要です。したがって、治療後は、定期的にこうした点 をチェックするために、検診や画像診断を必要とします。
検診で確認することは、小児の場合、正常な神経系統の発達が年 齢相応に認められるかどうか、てんかん発作が起きることはない か、そしてシャントが適切に働いているか、カテーテルの長さは成 長により短くなっていないか、などの点です。水頭症と関連して、
ホルモン分泌異常から全水頭症患児の 10 〜 20 % に思春期早発症 が現れるという報告もあり、こうした点も検診で明らかにしてゆき ます。治療後間もない時期には創部の状態を確認する意味もあり、
一カ月前後で、その後は三カ月おきくらいに診察すれば十分です。
画像の確認は成長発達期にある小児では、1年に一回くらいで十分 ですが、症状に変化がなくとも、必ず調子の良い時の画像を撮って おくことが重要です。頭痛や嘔吐などのシャント機能不全を疑う症 状の時に画像を撮っても、比較する画像が無いと、所見を正しく判 定できないことがあるからです。腹腔へのシャント手術を受けてい る場合には、時々は腹部のX線写真を撮って、腹腔内のカテーテル の長さを確認しておくことも重要です。いつの間にか腹腔に入れた カテーテルが皮下まで抜けていて、シャントが効かなくなって手術 をした、ということが無いように注意します。腹腔内にどれくらい の長さのカテーテルが入っているかを主治医に聞いておくと、成長 による逸脱、短縮までの期間をある程度予測することが可能です。
通常は身長の伸びの約半分が上半身の伸びと考え、その分が腹腔か らカテーテルが抜けてゆく長さと考えます。