2. 水力発電所における重大トラブルの概要
2.1. 全般的なトラブルの状況
2.1.1. 電気学会技術報告の設備障害調査
水力発電所の水車と発電機の故障については,電気学会技術報告第 1144号「水力発電所の設 備障害に関する調査研究」[2]がある。この調査では国内の9電力会社(沖縄電力を除く)と電源 開発㈱が保有する水力発電所(発電機 1,833 台)で発生した障害(自動停止した障害と早急な処 置を必要と判断した事例)について機器別にブレークダウンした数字(2003 年度と 2004 年度の
1,691件)があり,障害を機器別に分類した分布図を図2.2に示す。但し,この統計には土木設備
や開閉機器・変圧器などの障害は含まれていないことに留意する必要がある。
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図2. 2 水力発電機器の設備障害の分布([2]に基づき作成)
この図から,明らかに障害の多い部位は水車とその補機類(入口弁,給水装置,排水装置,調 速装置,圧油装置)であることが読み取れる。
また同じ調査に示された1995年から2004年までの16,501件のデータに基づき,図2.3に発電 所のタイプ別に主機(図は発電機の数とした)1 台あたり,どの部位で何件の障害が 1 年間に発 生したかを示す。例えば,揚水発電所の水車の障害発生確率は 0.33/台・年であるが,これは揚 水発電所のポンプ水車が平均して3年に一度くらいの頻度で障害を経験していることを示す。
図2. 3 主機1台あたりの障害発生確率([2]に基づき作成)
この電気学会の障害調査で収集された障害は,日常的に水車や発電機およびその周辺機器で発 生した軽微なものが大半を占めている。その傾向としては以下が挙げられる。
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全般的には揚水発電所の障害が多く,流れ込み式の発電所は障害が一番少ない。発生確率の合 計は,流れ込み式が0.65,調整池式1.04,貯水池式1.14,揚水式1.91と,揚水はほかの形式に比 べて2から3倍の障害の発生確率を持つ。揚水発電所は機器構成が他の発電形式に比べ複雑で,
しかも頻繁な起動停止があることが影響していると考える。一方,水車・発電機まわりの障害だ けではあるが,軽微なものを入れても発電機1台あたりで考えると年に1,2回程度と非常にその 発生確率は小さい。これは,我が国の水力発電所が全般的に非常に高いレベルで保全ができてい る証左と考える。
図2.2より,水車本体,入口弁,給水装置,調速機,圧油装置などの水車関連機器の故障が全 体の過半数を占めていることが明らかである。一番多いのは給水装置の障害(18%)で,これは 給水ストレーナや配管にゴミや異物が詰まるものが典型である。次に調速機の障害が多いが,こ ちらはレギュレータの電源回路や制御基板の故障とアクチュエータ部の固着やかじりが多い。圧 油装置も含めると24%に達し,給水装置と並んで障害が多い。水車本体の障害は全体の15%を占 めるが,その内訳はガイドベーン操作機構(44%),ガイドベーン本体(12%),水車軸受(8%),
主軸封水装置(8%)の順である。ガイドベーン操作機構の故障は圧倒的に弱点ピンの折損とその 検出部の故障が占めている。
表2.1に水車およびその周辺装置において日常的に多発しやすい軽微な故障の様相を参考文献 [2]や著者の経験に基づいて示す。総じて,水車関連の設備障害の原因としては,ゴミの流入や異 物の噛み込みなど自然現象や外的な影響に係るものが多く,固着,緩み,摩耗,調整の狂い,疲 労などの劣化現象が続く。
表2.1 水車およびその周辺機器の故障様相
部位 故障様相 原因
水車本体 ガイドベーン,ランナ,ケーシング 内のゴミ詰まり
土砂や流木の流入 操作機構部での噛み込み ガイドベーン弱点ピンの折損 異物の噛み込み
疲労破壊
弱点ピン検出装置の不具合 検出リレーの経年劣化 水車軸受の油面異常 冷却管の損傷
油面計の故障 水車軸受の温度異常 冷却水配管の詰り
温度リレーの異常 主軸封水装置の不具合 配管やストレーナの詰り
入口弁 主弁の不具合 異物の噛み込み
配圧弁の固着 保守不全・経年劣化 近接SWの不具合 位置ずれ,経年劣化 バイパス弁の閉塞, 異物の混入,噛み込み バイパス弁用近接SWの不具合 位置ずれ,経年劣化
調速機 制御基板の不具合 経年劣化
配圧弁の固着・詰まり 保守不全・経年劣化
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速度検出器の異常 検出部,基板,ケーブルの異常 GV開度検出リミットSWの異常 経年劣化
コンバータの異常 固着,異物の混入 圧油装置 弁類の固着・詰まり 保守不全・経年劣化
圧力リレー・油面計の不具合 保守不全・経年劣化
漏油の発生 配管の損傷,パッキンの劣化 安全弁の誤動作と油圧低下 経年劣化
給水装置 ストレーナの閉塞 ゴミや土砂の流入 配管・弁類の閉塞および損傷(摩耗,
キャビテーション壊食,腐食)
ゴミの流入と経年劣化
フローリレーの不具合 接点不良,経年劣化 給水ポンプの停止 所内停電,ゴミ詰まり 排水装置 水位検出器の不具合 経年劣化
注)GV:ガイドベーン, SW:スイッチ
発電機の障害については,表2.2にその一般的な傾向を参考文献 [2]や著者の経験に基づいて 示す。発電機も水車同様に配管,弁,クーラの詰まりや潤滑油系統でフローリレーの故障が多い。
発電機本体では,固定子コイルの測温素子の故障,軸受油面計の故障や漏油が多い。ブレーキや 液体抵抗器などではリミットスイッチの狂い,励磁装置やポンプ始動装置では制御基板や電源装 置の故障も多い。
表2.2 発電機およびその周辺機器の故障様相
部位 故障様相 原因
発電機本体 固定子コイルの温度上昇 測温素子の異常,誤動作 案内軸受,スラスト軸受の温度上昇 軸受クーラの詰り,配管の詰り 案内軸受,スラスト軸受の油面異常 油面計の故障
冷却管からの漏水,配管や油槽からの漏油 発電機クーラの異常 クーラ配管の詰り
ピンホールによる漏水 ブラシ周りの絶縁低下 カーボン粉による汚損 潤滑油系統 フローリレーの不具合 接点不良
冷却水の減少 配管の詰り
ブレーキ装置 動作不良 リミットSWの不良 作動部の固着 ソレノイドの異常 漏気,配管の不良
界磁回路 界磁遮断器の不動作 補助接点不良,端子の緩み 操作機構の異常
AVRの異常 制御基板,電源部の異常
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初期励磁装置の異常 コンタクタの動作不良 ポンプ始動装置 液体抵抗器の異常 リミットSWの故障
制御装置の異常 基板の異常,ヒューズ断 注)AVR:自動電圧調整装置
本調査報告には2003年度と2004年度の2年間について,機器別に停止時間の長さ毎に5つの カテゴリーに区分した障害発生件数が示されている。表 2.3 に,故障復旧時間の各カテゴリー別 の障害件数,その発生確率を示す。さらに故障復旧時間の各カテゴリーに対して障害 1件ごとの 平均的な復旧時間を想定して,各カテゴリーが全体に対してどの程度を占めているかを推定した。
また各カテゴリーの障害発生件数とそのカテゴリーの停止時間が全体に占める割合を図 2.4 に示 す。
表2.3 水力発電所の停止時間の内訳(参考文献 [2]に基づき作成)
図2. 4 水車・発電機の障害件数と累計停止時間
3時間以 内
3時間超1 日以内
1日超1週 間以内
1週間超
1月以内 1ヶ月超 合計
水車 199 38 10 5 2 254
入口弁 70 7 5 1 83
発電機 100 10 9 16 7 142
始動装置 22 1 1 24
給水装置 279 22 3 1 305
排水装置 46 2 48
圧油装置 94 24 1 1 120
潤滑油装置 19 4 1 1 25
自動運転装置 124 20 8 3 155
調速装置 150 77 42 7 1 277
水位調整装置 70 21 4 1 96
励磁装置 86 34 14 3 137
合計 1259 258 100 34 15 1666 構成比率(%) 75.6 15.5 6.0 2.0 0.9 100.0 発生確率
(件/台・年) 0.343 0.070 0.027 0.009 0.004 0.454 想定停止時間/件 1.5時間 12時間 3.5日間 15日間 2ヶ月間
停止時間合計(hours) 1889 3096 8400 12240 22320 47945 構成比率(%) 3.9 6.5 17.5 25.5 46.6 100 累積比率(%) 3.9 10.4 27.9 53.4 100.0
故 障 発 生 件 数
停 止 時 間
28 表2.3および図2.4より,以下の傾向が窺える。
全体の障害件数の圧倒的多数は3時間以内の短時間の障害である。
しかし,停止時間の70%は発生件数のわずか3%を占める「1週間以上の障害」による。
「1週間を超え1ヶ月以内の障害」の発生確率は0.009件/台・年なので,ほぼ100年に1 回の事象と言える。「1 ヶ月を超える障害」の発生確率は,0.004 件/台・年で 250 年に1 回の稀少頻度事故となる。しかし,このような稀な障害が停止時間の70%を占めている。
このように,稀少頻度の事故が停止時間全体に占める比率は高いが,この2003~2004年度の2 年間に1ヶ月以上の復旧期間を要した全15件(水車2件,発電機7件,圧油装置1件,潤滑油装 置1件,自動制御装置3件,調速機1件)のうち,保守の不備など純粋に機械故障によるものは 水車軸受損傷(水車)の1件とスラスト軸受損傷(発電機)の1件だけで,残りの13件は全て水 害に関連するものであった。