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3. 重大トラブル回避策の抽出

3.5. 第 3 章のまとめ

本章では,水力発電所における水害,火災,水車と発電機の重大トラブルについて,一般的な 傾向,典型的な重大トラブル事例の様相と得るべき教訓,そうした事例から抽出した原因,損傷 部位,トラブルのシナリオ,さらにその回避策について考察した。以下に得られた主要な事項を 記載する。

(1) 水害とその回避について

(a) 我が国の水力発電所における水害は,近年,非常に大規模かつ深刻な様相を示している。

これは,強雨の発生確率が増加しており,設計洪水流量を超えるような洪水に見舞われている ことからも明らかである。

(b) 建設時の排水設備能力では不十分となりつつある。先ずは,発電所に侵入する水量を減 らす方策が優先されるが,抜本的に排水能力を見直す必要があるように考える。

(c) 発電所の長期停止は,取水口や放水口の土砂堆積や浮遊ゴミによるところが大きい。洪 水時の発電運転を見直すべきと考える。

(d) 段波,天然ダム,土砂崩壊と洪水時に水力発電所は非常に危険な現場となる。ダム操作 や機器点検に赴く保守員の安全をどのように確保するか,再考すべきと考える。

(e) 大雨は気象情報などを活用することで,ある程度の事前対処が可能な場合もある。タイ ムラインの考え方の導入が有効と思う。ハザードマップの活用も求められる。

(f) 以上の検討に基づいて図3.10に発電所の水害および水没についてそのシナリオと回避策 をダイアグラムとして体系化した。

(2) 火災とその回避について

(a) 水力発電所の火災は稀ではあるが,一旦発生すると容易に密閉空間となって避難が困難 になるし,また大量の黒煙を上げている火災現場に入って消火活動を行うことは現実的ではな い。このため,火災が起きると想像以上に損害が大きくなりやすい。

(b) 低圧動力ケーブルは経年劣化により過熱が原因で火災を起こすことがある。過熱は,絶 縁体のトラッキング現象,接続部の接触抵抗の増大,素線の断線あるいは端子部の緩みなどで 起きやすい。この場合,事故電流が小さかったりアークが間歇的だったりして配線用遮断器の 保護が効かないことが多い。ケーブル火災はケーブル立坑,ケーブル処理室などケーブルが密 集したところが危険である。また動力ケーブルと制御・通信ケーブルが混在していたり,多段 のケーブルトレイが配置されたりした場所も危ない。ケーブルの定期点検を行い,劣化したケ ーブルは引き直し,不要なケーブルは撤去することが求められる。またケーブルを伝って火災 は延焼するので,壁の貫通部は防火材で塞ぐ必要がある。

(c) 高圧キュービクルの電気事故,特に遮断器の事故は火災を起こしやすい。遮断器の定期 点検は確実に行う必要がある。古い遮断器は真空遮断器などの信頼性の高い製品に更新したい。

保護継電器の動作を確実にすること,後備保護の動作を確実にすることも重要である。

(d) 変圧器や OF ケーブルなどの油入機器の火災は油霧爆発を引き起こすことがあり,非常 に危険である。タンク強度の確認,避雷器の適切な配置,防爆壁の設置,自動消火器の設置な どが求められる。また油中ガス分析や絶縁油の性状分析により劣化傾向の把握が必要となる。

OF ケーブルの火災はケーブル端末部あるいは中間接続部が大半である。変圧器と同様に定期 的に経年劣化をチェックするとともに,経年品のOFケーブルは適当な時期にXLPEケーブル への更新が求められる。特に地下発電所に設置される油入機器には十分な対策が必要である。

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(e) 発電所内で溶接作業を行う場合などは付近に可燃物を置かないように留意する。また消 火器を手元に置くのは必須事項である。

(f) 避難経路の確保が絶対に必要である。誘導灯,非常灯,火災報知器などの設備面の充実 が求められる。近年は発電所の無人化が進んでいるので,地元消防との連携も重要である。

(g) 以上の検討に基づいて図3.13に発電所の火災についてそのシナリオと回避策をダイアグ ラムとして体系化した。

(3) 水車の重大トラブルとその回避について

(a) 水車やポンプ水車の重大トラブルの多くはランナとその付属品で起きている。水車のラ ンナクラックは大半が疲労き裂であり,その原因はランナの流体振動である。時には共振現象 が発生して非常に短期間にクラックが進展することがあるので,注意が必要である。またカル マン渦によるクラックも多い。原因究明の上,必要な対策(給気,翼端の形状変更,ランナの 補強,運転範囲の制約など)をとる。

(b) 複数のガイドベーンが連鎖的に閉鎖するガイドベーンカスケード損傷は,ランナ周りの 水流がアンバランスとなってランナを搖動させ,ランナ羽根やガイドベーンの破損を生じるの で非常に危険である。弱点ピンの疲労,接続ボルトの緩みや破断などが原因となりやすいので,

当該部位の点検や更新が求められる。ガイドベーンの動きを制約するストッパーや制動装置の 付加が望まれる。

(c) ランナの付属品,例えばランナシール,ランナコーン,ランナライナなどが脱落すると,

ランナと静止部の間に挟まれて損傷を引き起こすことがある。オーバーホール時などにこうし た部位はボルトの緩みや溶接部にクラックがないことを確認する。

(d) 土砂摩耗が酷いと数年でランナやガイドベーンは摩耗する。土砂が多い河川では計画段 階から土砂摩耗対策を十分検討して水車設計に反映する必要がある。コーティングや CFD の 適応などが有望であるが,まだ開発途上である。

(e) 非常に稀な事例ではあるが,上カバー,ケーシング,鉄管などが破裂した事例がある。

吸出し管内の水柱分離後の再結合に伴う異常水圧,異物のランナ噛み込みによるガイドベーン の瞬間的な閉鎖,入口弁シールの自励振動などが原因となっているので注意したい。

(f) ポンプ水車では,ランナ羽根入口部のランナクラックが問題になりやすい。ポンプ水車 の場合は応力レベルが高いことから,補修はかなり難しい。先ず,どのような振動や応力が発 生してクラックが発生したのか原因究明が求められる。その上で適切な対策となるが,ポンプ 水車の場合は給気などをしても効果が薄い。このため,定期的にランナを点検しクラックが小 さいうちに補修する,ランナを更新する,あるいは運転範囲の見直しなどが求められる。

(g) ポンプ水車では不安定現象が大きな問題になりやすい。S 字特性が強いと系統並列が困 難になったり,負荷遮断時に異常水圧が発生したりする。他にも,吸出し管内の渦芯の挙動な どでパワースウィングを起こしたり,最高揚程付近で流量変化が大きくなったりすることがあ る。原因の究明と模型試験で不安定現象が発生しないことを検証することが必要となる。

(h) ポンプ水車のランナ付属品やランナの周辺に配置される部材は大きな振動に晒されるの で,十分な強度が求められる。特にボルト締結部は緩みが発生しやすく,溶接接合部は疲労き 裂が発生しやすいので,定期点検が重要となる。

(i) 以上の検討に基づいて図3.16と図3.17に水車とポンプ水車の重大トラブルについてその シナリオと回避策をダイアグラムとして体系化した。

129 (4) 発電機の重大トラブルとその回避について

(a) 一般水力発電所における発電機の重大トラブルとしては,発電機火災が一番大きな問題 である。原因は多岐にわたるが,固定子巻線の劣化,保護継電器や並列遮断器の故障が大きな 要因となる。このため,定期的な絶縁性能試験や部分放電試験による劣化傾向管理,経年劣化 した固定子の更新,保護継電器や遮断器の信頼性維持が重要となる。

(b) 揚水発電所に使われる発電電動機は高速大容量機が多いので,より重大なトラブルに見 舞われやすい。また一般水力の発電機と異なり,回転子の重大トラブルが多い。経年劣化した 回転子磁極基部にクラックが発生し,大きな問題となっている。このため,オーバーホール時 にこの部位の点検を行う必要がある。新設の揚水発電所において,回転子コイルが切断したり 捻転したりして大きな事故を起こしている。案内軸受の損傷も軸系の振れ回りを起こしたりし て非常に危険である。さらに,回転子に取り付けた部品の脱落も大きな損傷を発生することが ある。こうしたトラブルは設計,製造,据付に起因することが多く,慎重な対応が求められる。

(c) 以上の検討に基づいて図3.23と図3.24に発電機と発電電動機の重大トラブルについてそ のシナリオと回避策をダイアグラムとして体系化した。

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