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発電電動機の回転子コイル押えの脱落

4. 重大トラブル回避策の検証

4.2. 水車・発電機の重大トラブル

4.2.5. 発電電動機の回転子コイル押えの脱落

(1) 固定子の損傷 [6][7]

2009年5月1日09:17に3号機が非常停止した。直ちに発電電動機の内部を調査した結果,

回転子の磁極間に設けられていたコイル押えが1個脱落していることが判明した。また,回転子 と固定子間のギャップに回転子コイル押えが挟まってできたと考えられる傷が,固定子の表面 360度全周にわたって発見された(図4.53,図4.54を参照)。

図4. 53 固定子の摺動傷と鉄心の破損の酷い部位

図4. 54 回転子コイル押えの脱落状況

Damaged wedge

Normal wedge

Damaged wedge of pole

Rubbed

Recovered failed pole wedge

172

固定子の損傷部を詳細に調査した結果,コイル押えを固定していた鋼製ボルトなどが固定子 鉄心と激しく接触して部分的にかなり酷く損傷させたこと(図4.53右図参照),固定子と回転子 の間に挟まったコイル押え(アルミニウム製)が摩耗して鉄心積層板間にその磨耗粉が入って短 絡状態になったこと(図4.53左図を参照),その磨耗粉を完全に除去するには鉄心の分解しか方 策がないこと,などが判明した。結局,固定子鉄心を完全に分解して,損傷した鉄心積層板(約 2万枚)を全て取替え,さらに全コイルの更新を行うこととした。

(2) 損傷部の調査と事故原因の推定

回転子のコイル押えの略図を図4.55に示す。このコイル押えは回転子磁極間に位置し,回転 子コイルとコイル押えの間に絶縁板(図4.55 ④Wedge guide参照)が挿入されている。3号機 と同形機である4号機を緊急調査したところ,図4.56左図に示すようにこの絶縁板の飛び出し が発見され,絶縁板を取り出して調べた結果,図4.56右図に示すようにL字形の短辺部分が欠 落しているのが判明した。

図4. 55 回転子コイル押えの構造

事故後の一連の調査から下記の事実が判明した。

(a) 3号機の健全な回転子コイル押えのボトムナット(図4.55①)やトップナット(同図⑧)

を調査した結果,多数の緩みが見つかった。また,トップナットの回り止め(同図⑨)が変形 していた。

1 2 3

5 6 7 8 9

Bottom nut Spacer support Bottom washer Wedge guide Wedge of pole Support bar Keeper wedge Top nut Top washer Legend

1 3

6 7

9

2 8

5

4 4

The “L” shaped wedge guide was broken

Contact surface with rotor coil Protrusion of

long side of L-shaped wedge guide

Missed narrow side of L-shaped wedge guide

図4. 56 4号機の絶縁板の飛び出し(左図)と破損部位の状況(右図)

173

(b) 3号機の回転子磁極を全てはずして調査したところ,Tヘッドの周辺に隙間が生じており,

その固定に挿入するコッターの緩みおよび隙間調整用シムの破断・変形,回転子コイル絶縁紙 の飛び出しなどが発見され,起動停止のたびに磁極が動いていると推定された。

(c) 4号機の緊急点検の結果,コイル押えと磁極の間に挿入されていた絶縁板(Wedge guide:

L字形のグラスファイバー製の積層板,短辺で磁極に引っかかる構造で図4.55④を参照)の短 辺部分が破損・欠落して長辺部分が固定子側に飛び出していた(図4.56参照)。

特に,4 号機の絶縁板の飛び出しの発見は,このトラブルの原因の推定において決定的な証 拠となったが,他にも色々な要因が複合したと考えられた。図 4.57 にこのトラブルに当たって 原因解析を行った際に著者が作成したフォールトツリーを示すが,概ね,以下の損傷プロセスに よると考えた。なお,ピンク色に塗った部分が実機の観察・測定から得た事実で,これに基づい て青色の推論を行った。

(a) 回転子磁極の基部,T ヘッドを固定するコッターやシムに,挿入後の振動や磁極に作用 する外力でなじみが生じ,磁極基部に微小な隙間が生じた。

(b) 起動停止のたびに回転子磁極には遠心力による半径方向と慣性力による接線方向の力が 作用するので基部が緩んだ磁極は微小ながらも動き,この結果,コイル押えに外力が直接,作 用するようになった。

(c) コイル押えのサポートバー(図 4.55⑥)を回転子リムに固定するボトムナット(図 4.55

①)は締め付け管理が十分でなかったことから,かなり初期の段階から緩んでいた可能性があ る。コイル押えに外力が作用するとボトムナットの緩みからサポートバーが回り始め,その結 果,コイル押え頂部のキーパーウェッジ(図4.55⑦)やトップワッシャー(図4.55⑨)も一緒 に回った。このためトップナット(図4.55⑧)も緩み,最終的にコイル押え全体が緩んだ状態 になった。

(d) コイル押えが緩んでしまうと,コイル押えと磁極の間に挿入された絶縁板(FRP 製,図 4.55④)を押さえつける力がなくなり,直接,起動停止時や負荷遮断時の遠心力が作用するよ うになった。この絶縁板はFRP薄片を積層して接着した構造のため,積層面に平行したせん断 力に対しては強度的に弱い構造であった。また,短辺と長辺の角部には応力集中が発生したこ とも考えられる。

(e) 起動停止に伴う遠心力の大きさは,絶縁板のL字部を損傷するのに十分な大きさがあり,

これを破壊した可能性がある。また,延性的に破壊せずとも,低サイクル疲労で破壊された可 能性がある。

(f) 引っ掛かりを失った絶縁板は飛び出し,固定子と接触して激しい振動が起きた。トップ ナット(図4.55の⑧)が最初に緩んで脱落し,引き続きコイル押え本体が脱落して固定子を損 傷した。

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図4. 57 回転子コイル押え脱落のフォールトツリー図

Fault Analysis

Notes:

(Condition 1) (Condition 2)

Support bar must have been easily rotated under

the external force There is no rigid point

for keeping the support bar from rotation

Stator core &

coil damage

The pole wedge was trapped in the GM air gap and ground the stator

Top nut was loosen and removed from the support bar

Top nut was not welded as designed

Many bottom nuts were found

as loosen when the torques were

measured Considerable external force must have been repeatedly applied to the support bar

Rotor pole must have been moved at

start/stop Many gaps were

found at the T-tail portions

of rotor poles

Condition

Conclusion or assumption

As-found facts General knowledge

No effective mean for keeping the top nut from

rotation and moving

Claw of top nut must have been bent and lose

its function

Keeper wedge and top washer (claw) must have been rotated against the top nut under the considerable force Many keeper wedges

were found as rotated in the counter-clockwise direction together with loosened claws of top

washer

Fracture mechanism of wedge guide High vibration must have

been generated at the support bar and top nut

Wedge guide must have been touched with the stator due to

the speed rise at the incident

L-shaped corner of wedge guide must have been broken before the incident and then the wedge guide must have

gradually protruded by the centrifugal force

A protruded wedge guide was found at Unit 4 with a broken

L-shaped corner About 3000 cycles of the stress

having 1.3 MPa must have applied to the Wedge Guide

Two test pieces of the wedge guide had been broken under the forces of;

Used test piece: 6.8kN Un-used test piece: 3.6kN Aluminum debris together with

dents were found at the edge of rotor pole , which was caused by

the hitting with pole wedge

No rigid support from rotor coil and pole wedge is estimated after the looseness of

top nut

The fatigue strength of wedge guide at the breakdown (3000 cycles) are estimated between 0.8

MPa and 3.0 MPa The broken L-shaped corner may be affected by stress concentration

The scattered wedge guide of Unit 3 might have the similar

breakdown at the corner Bottom nut

must lose its function

Scattering of the pole wedge together with its accessories The pole wedge was found

between the GM air gap at the lower portion of the stator

The centrifugal forces were applied;

Start-stops: 3.0 kN Load-shut down: 5.5 kN

Fracture Low-cycle

fatigue fracture Large force was directly

applied at the load shutdown

175 (3) 対策案の検討

4号機の絶縁板の飛び出しを見つけた後に,破損したオリジナルの絶縁板の強度を試験した。

3号機の残品と予備品の各1個を使って測定した結果,L字短辺は6.8kNから3.6kN(せん断応 力τでは,わずか3.0MPaと1.6MPa)のせん断力で破損した(図4.58参照)。ここで,経年品の ほうが未使用の保管品より高い強度を示した。保管状態が影響した可能性があるものの個体によ ってかなり大きなバラつきがあることが判った。グラスファイバー(FRP)の積層構造のため,

接着力に個体差があると考えた。

図4. 58 絶縁板の強度試験

また,一般のグラスファイバーの強度が数百 MPaなのに対して,数 MPaと小さな応力で破 損したのは,グラスファイバーの積層方向に平行に力が作用して,簡単に剥離したことによる。

一方,この絶縁板に作用する遠心力Frは,

𝐹𝑟 = 𝑊 × 𝑟 × 𝜔2= 1[kg] × 3.0[m] × (2𝜋 ×300 60)

2

= 2.958 [kN]

と,計算でき,さらに負荷遮断時の速度上昇(137%)時には,5.55kNに達する。このため,

オリジナルの絶縁板の短辺は,作用する遠心力に対して十分な耐力を有していないことになる。

特に,コイル押えが緩んだ後には,こうした遠心力が直接,絶縁板に作用することから,損傷の 可能性は高まる。また,仮に延性的に破断しなくとも,こうした遠心力が繰り返し作用すれば,

疲労き裂の発生は避けられず,低サイクル疲労(約3000回の起動停止を経験)で破壊に至った と考えた。このため,絶縁板の新製にあたっては,短辺部分は長辺の一端を繊維に沿って折り曲 げる構造として,L字の角に荷重が作用しても割れたり大きく変形したりしない構造とした(図 4.59参照)。また,コイル押えと絶縁板が「ほぞ」で組み合わさるように工夫して,絶縁板が飛 び出さない構造とした。

この改良した絶縁板の強度を図4.58と同様の方法で計測した結果,油圧ジャッキの最大圧に

相当する12.5kNの荷重でも壊れないことが証明された。また,FRPの疲労については日本機械

学会編 機械工学便覧にあるグラフ [20]から,5年の運転に相当する起動停止3000サイクルの 繰り返し荷重で初期強度の50%,25年の運転に相当する15000 サイクルの繰り返し荷重で初期 強度の33%程度と疲労強度を見積もったが,初期強度が12.5kN以上であれば,いずれのケース でも通常の3kN程度の作用荷重に対して耐えると判断した。

Broken test of “L”

shapes wedge guide

176

図4. 59 改良した絶縁板とコイル押え

もう一つの問題は,トップナットが緩んでしまったことだが,これについてはトップナット を直接,サポートバーに溶接固定することにした。サポートバーがクロムモリブデン鋼なので溶 接が難しいとの考えもあったが,溶接棒にインコネルを採用して支障なく実施できた(図 4.60 参照)。

回転子磁極基部の緩みについては,上述の絶縁板やナットの対策を行えば引き続き使用でき ると考え,オリジナルの構造のままとした。回転子磁極の改良となると,その改修や停止に伴う コストが非常に大きいこともある。替りに,オーバーホール時の点検を強化することにした。

図4. 60 サポートバーとトップナットの溶接回り止め

(4) 本事例による検証

本事例を通じて以下の回避策の検証ができた。

(a) コイル押えは回転子のコイル飛び出しを防止する小さな部品であるが,高速で回ってい ることから,その脱落は思いもよらない大きなトラブルとなった。この3号機の復旧作業には 10か月近くを要し,そのコストも相当な額となった(図3.24 [Detachment of rotor accessories]

の危険性)。

(b) コイル押えが脱落した直接の原因は,コイルとこの押えの間に挟まれた絶縁板(Wedge

guide)の破損とコイル押えのトップナットが外れたことによると結論付けられた。絶縁板の破

Top nuts Support Bar Welding