九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
水力発電所の信頼性向上のための重大トラブルの体 系的な解析
安田, 正史
http://hdl.handle.net/2324/1807024
出版情報:Kyushu University, 2016, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
1
水力発電所の信頼性向上のための 重大トラブルの体系的な解析
安田 正史
2
i
目次
1. 概要 ... 1
1.1. 水力発電所の形式と構成要素... 1
1.1.1. 水力発電所の運用方法の分類 ... 1
1.1.2. 水力発電所の構成要素 ... 2
1.2. 水力発電所の役割 ... 5
1.2.1. クリーンエネルギーの供給... 5
1.2.2. ピーク電源としての役割 ... 6
1.2.3. アンシラリーサービスの供給 ... 8
1.3. 水力発電所の保守 ... 14
1.3.1. 保全方式の種別 ... 14
1.3.2. 水力発電所の保全活動 ... 15
1.3.3. 海外の水力発電所の保全活動 ... 19
1.4. 本論文の目的と構成 ... 21
2. 水力発電所における重大トラブルの概要 ... 23
2.1. 全般的なトラブルの状況 ... 23
2.1.1. 電気学会技術報告の設備障害調査 ... 23
2.1.2. 電気保安統計の分析 ... 28
2.1.3. 電力会社の故障統計の分析... 29
2.1.4. 重大トラブル回避の重要性... 32
2.2. 水力発電所における故障停止の影響 ... 33
2.2.1. 発電所形式毎の計画外停止の影響 ... 33
2.2.2. 重大トラブルの損失の試算例 ... 33
2.3. 重大トラブル事例の収集 ... 36
2.3.1. 重大トラブルのイメージ ... 36
2.3.2. 重大トラブルの事例収集 ... 38
2.3.3. 重大トラブルの一般的な傾向 ... 47
2.4. 第2章のまとめ ... 51
3. 重大トラブル回避策の抽出 ... 58
3.1. 発電所の水害 ... 58
3.1.1. 我が国における水害の傾向... 58
3.1.2. 最近の水害事例について ... 62
3.1.3. 水害のシナリオとその回避策 ... 67
3.2. 発電所の火災 ... 74
3.2.1. 火災の一般的な傾向 ... 74
3.2.2. 最近の火災事例について ... 75
ii
3.2.3. 火災のシナリオとその回避策 ... 80
3.3. 水車の重大トラブル ... 89
3.3.1. 水車の重大トラブルの一般的な傾向 ... 89
3.3.2. 水車の重大トラブル事例について ... 91
3.3.3. 水車の重大トラブルのシナリオとその回避策 ... 98
3.4. 発電機の重大トラブル ... 111
3.4.1. 発電機の重大トラブルの一般的な傾向 ... 111
3.4.2. 発電機の重大トラブル事例について ... 113
3.4.3. 発電機の重大トラブルのシナリオとその回避策 ... 118
3.5. 第3章のまとめ ... 127
4. 重大トラブル回避策の検証 ... 133
4.1. 検証すべき事項 ... 133
4.2. 水車・発電機の重大トラブル... 136
4.2.1. 水車・発電機の振動 ... 136
4.2.2. 案内軸受の損傷 ... 145
4.2.3. 発電電動機スパイダーのクラック ... 148
4.2.4. ランナクラックの発生 ... 155
4.2.5. 発電電動機の回転子コイル押えの脱落 ... 171
4.3. 水没事故 ... 179
4.4. 火災事故 ... 190
4.4.1. 制御棟ケーブル通廊の火災... 190
4.4.2. 屋外開閉機器の火災 ... 192
4.5. 第4章のまとめ ... 195
5. 重大トラブル回避策の具体化 ... 200
5.1. 時系列的な対応 ... 200
5.1.1. 計画段階における対応 ... 200
5.1.2. 設計段階における対応 ... 201
5.1.3. 施工段階における対応 ... 207
5.1.4. 保守段階における対応 ... 208
5.2. 重大トラブルの共通要因 ... 219
5.2.1. 疲労き裂 ... 219
5.2.2. ボルトの緩みと折損 ... 221
5.2.3. 絶縁物の過熱とヒートサイクル ... 222
5.3. 導入が期待される新技術について ... 224
5.3.1. モニタリング装置 ... 224
5.3.2. 監視カメラ ... 226
5.3.3. ピーニング技術 ... 227
5.3.4. その他 ... 228
iii
5.4. 第5章のまとめ ... 229
6. 総括 ... 231
6.1. 本論文のまとめ ... 231
6.2. 今後の展開 ... 235
謝辞 ... 237
iv
1
1.
概要近年,水力発電所において重大なトラブルが国内外で多数発生している[1]。こうしたトラブル が起きると単に経済的・人的な損失に止まらず,流域住民からの抗議,マスメディアの報道など 社会的にも厳しく糾弾され,企業イメージの低下も大きい。時には当該企業の存続にも影響しか ねない時代である。水力発電の分野では,従来,こうしたトラブルは関係者だけで把握され,あ まり公にされてこなかったし,稀に公にされても単一の事例を述べたものが大半であった。電気 学会などが中心になって水力発電所の障害調査を行い報告書[2]がまとめられているが,その大半 は軽微な事象を扱ったものばかりで,重大な事象に対してはあまり関心が向けられていない。
著者はかつてフィリピンにおいて揚水発電所や一般水力発電所を運転・保守して,多くの深刻 なトラブルを経験し,こうした重大トラブルを回避する重要性を痛感した。それは,IPP(独立発 電会社)のような小規模な発電会社では1,2件の重大トラブルが経営上,致命的になりかねない ことによる。すなわち,1 件の重大トラブルはその停止期間の長さにおいて数百件の軽微なトラ ブルをはるかに凌ぎ,営業損失と復旧費用は相当な額にのぼるからである。このため,今まであ まり考慮されてこなかった水力発電所における稀少頻度の重大トラブルとは何なのか,まず過去 のトラブル事例を収集して概要を明らかにすることを企図したが,やはり学術的に取り組む必要 性と成果の発表による知識の共有化ならびに普遍化が必要と考え,本研究に着手した。
本章においては,本研究を理解する上で最小限の予備的知識を整理することを目的に,水力発 電所の形式と構成要素,水力発電所が電力系統に果たしている役割,水力発電所の一般的な保守 管理について簡単に述べる。また,最後に本論文の目的と構成を示す。
1.1. 水力発電所の形式と構成要素
水力発電は高所にある水を低所に導き,水の持つ位置エネルギーを利用して水力タービン(水 車)を回して発電を行うものである。高所に水を貯めたり取水したりするためダム(あるいは堰)
を築造し,そこから導水路や鉄管で発電所まで水を引く。水力タービンで水力エネルギーは動力 に変換され,発電機を駆動して電力を発生する。一方,エネルギーを失った水は基本的に元の河 川に戻される。
1.1.1. 水力発電所の運用方法の分類
水力発電所をその運用方法により分類すると,以下の4種になる。
(a) 自流式(流れ込み式)(Run-of-the-river type power generation)
河川流量を調整せず自然流量のまま発電する方式である。特別の場合以外は出力調整を行わ ず,豊水期には余剰水が生じ,渇水期には出力が減少する。大きなダムを必要とせず建設が比 較的容易であるので,水力開発の初期段階においてはこの方式が多かった。
(b) 調整池式発電(Pondage type power generation)
ダム上流または水路の中間などに調整池を設け,負荷変化に応じて1日または1週間程度の 出力調整を行う方式である。 この発電形式では,ピーク負荷需要に応じた発電運転が可能と なり,また周波数調整や電圧調整などのアンシラリーサービス1 (Ancillary services)を提供で
1 電力系統のセキュリティーを維持するため,周波数調整,瞬動予備力,電圧調整,系統復旧などのサービスを総称したもの。
1.2.3項に後述する。
2 きる。
(c) 貯水池式発電(Reservoir type power generation)
河川の水を貯水池に貯え,年間あるいは季節といった長期間の負荷変動や河川水量の変化に 応じて出力調整を行ないながら発電する方式である。 調整池式発電所より大きな貯水容量を 活かして,より長時間のピーク発電やミドル対応も可能となる。河川の最上流部に大きな貯水 池を設けて下流の発電所群と一貫運用するケースもある。
(d) 揚水式発電(Pumped-storage power generation)
深夜などの軽負荷時に火力発電所や原子力発電所で発電した電力を利用して下池から上池 に揚水し,昼間のピーク負荷時にその水を利用して発電する方式である。河川からの自然流量 による発電を行わないものを純揚水式(Pure pumped-storage power generation)といい,河川の 自然流量による発電と揚水による発電の両方を行うものを混合揚水式(Mixed pumped-storage
power generation)という。 揚水式発電は,基本的にエネルギーを生み出すものではなく,他
の電源からの電気エネルギーを位置エネルギーの形で一時的に貯蔵しピーク発電や周波数調 整などを行う。
1.1.2. 水力発電所の構成要素
(1) 土木設備の構成
水力発電所は図 1.1 に示すように,その設備構成から水路式(調整池を持つ水路式を含む), ダム式,ダム水路式に大別できる。表1.1に主な土木設備の機能を示す。
図1. 1 水力発電所の設備構成 [3]
放水口
(a) 水路式
(b) 調整池を持つ水路式
沈 砂 池 沈 砂 池
上 水 槽
上 水 槽
サ ー ジ タ ン ク 導 水 路( 圧 力 水 路
)
(c) ダム式
(d) ダム水路式
余水路
サージタンク
3
表1. 1 水力発電所の土木設備の概要
設備名称 設備の機能
ダム(取水ダム) 河川の水を取水したり,貯水したりする。洪水時に安全に放流するゲートを設備する。
取水口 安定した取水を可能とする。流木やごみの流入防止のためスクリーンや除塵機を設置 し,取水を停止する取水口ゲート,取水量を調整する制水ゲート,土砂を沈殿させる 沈砂池などを設備する。
導水路 落差を得るために,取水した水をこの導水路を通じて発電所に送水する。導水路が無 圧水路(開渠やトンネル)の場合,その末端に上水槽を設けて鉄管と接続する。導水 路が圧力トンネルとなる場合は,末端にサージタンクを設ける。ダム式の場合,導水 路やサージタンクはない。
水圧管路 導水路で十分な落差を得られる地点に達した後,発電所まで一気に水を流下させるの に用いる。通常,鉄管とすることから,水圧鉄管とも呼ぶ。ダム式の場合,この水圧 管路だけで直接,取水口から水車まで送水する。
発電所 水車や発電機などの発電機器を設置する。
放水路 発電所と放水口の間をつなぐ水路である。放水路が非常に長くなる場合は水車の出口 付近に放水庭やサージタンクを設けることがある。
放水口 発電所で発電に利用した水を安全に河川に戻す設備である。放水口には,放水路の点 検のために放水口ゲートを設ける。
(2) 発電機器の構成
水力発電所内には水車や発電機など多くの発電機器やその関連機器が設置される。その概要 を図1.2および表1.2に示す。
図1. 2 水力発電所内の主要な設備
入口弁
給水ポンプ
排水ピット 排水ポンプ
吸出し管 ランナ ガイドベーン
調速機 圧油装置 監視制御
装置 励磁装置
クレーン
所内回路機器とモータ コントロールセンタ
主回路 開閉装置
回転子
固定子 上部案内軸受
下部案内軸受
スラスト軸受 水車軸受 主軸封水装置 主要
変圧器 屋外
開閉装置
ケーシング ステーベーン
サーボモータ
4
表1. 2 水力発電所内の主な機器の概要
設備名称 設備の機能
水車 鉄管から水車に流入する水の持つパワーを機械的なパワーに変換する。
機械的パワーを発生するランナ,水をランナに送り込むケーシング・ステーベー ン・ガイドベーン,ランナを出た水を放水口に流下させる吸出し管,水車の回転 部と静止部の間の漏水を少なくする主軸封水装置,水車の回転中心を維持する水 車軸受,発電機に機械的パワーを伝達する主軸などがある。ガイドベーンは水を ランナ内に効率良く流し込む機能とその開度を変えて流量を調節し水車出力を変 更する機能を持つ。水車の形式としてはフランシス水車が代表的だが,落差によ ってカプラン水車,バルブ水車,ペルトン水車などが採用される。また,水車を 停止した時に水を完全に止める入口弁を設けることがある。
発電機 水車から主軸を通じて伝達された機械的パワーにより回転子を回転させ,この回 転磁束と固定子巻線間の電磁誘導現象により電気的パワーを発生する(発電)。回 転子の回転中心を維持する案内軸受,回転子や水車の回転部質量およびランナで 発生する水スラスト荷重を支持するスラスト軸受,回転子の励磁を行う励磁装置 などがある。
調速機と圧油装置 調速機はガイドベーン開度を制御して,水車の回転速度や出力を調節する。調速 機はその制御部でガイドベーンの開閉信号を作り,この信号に従って機械部の配 圧弁を動かす。配圧弁の動きに従って,ガイドベーンを駆動するサーボモータへ の圧油油量が制御されるので,サーボモータのストロークが調節される。圧油装 置でこのサーボモータを駆動する圧油を作る。
給水装置 発電機の固定子巻線や各種軸受は熱を発生するので冷却する必要がある。このた め給水装置で冷却水を供給する。
排水装置 発電所の最下層部に排水ピットを設けて,発電所や水車などからの漏水を集めて,
安全に発電所の外に排水する。
監視制御装置 シーケンサあるいはPLC(Programmable Logic Controller)と呼ばれる装置で発電 機器のシーケンス制御を行うとともに,運転状態をモニターする。また,保護リ レー装置で水車や発電機等の事故時でも安全な停止を可能とする。
モータコントロール センタ
給水装置,圧油装置,排水装置などのモータの起動・停止を制御する。監視制御 装置からの運転指令を受け取ってスイッチング操作を行う。
主回路開閉装置 発電機で発生した電力を主要変圧器で昇圧して送電線に送るが,発電機と主要変 圧器の間に設置して,発電機と系統との接続や切り離し(並解列),電圧・電流の 計測,電圧サージからの保護などを行う。
主要変圧器 発電機の電圧を送電電圧まで高める。
所内回路機器 水車・発電機の補機や発電所付帯設備に電力を供給する。
屋外開閉設備 主要変圧器と送電線の間に設けて,回路の入り切り,電圧電流の計測,雷サージ からの保護などを行う。
組立用クレーン 水車や発電機の組立や分解に使う。
5
1.2. 水力発電所の役割
水力発電は,1910年代から1960年代初期まで「水主火従」と呼ばれるように我が国の電力生 産の主力であった。その意味では,圧倒的に電気エネルギーの生産を担っていた。しかし,60年 代以降の高度経済成長に伴う電力需要の増大に伴い,電気エネルギー生産の主役は火力発電に移 行した。
現在の水力発電の役割は,クリーンで貴重な国産エネルギーの生産もさることながら,調整電 源の位置付けがより重要となってきている。貯水池や調整池に位置エネルギーとして水を貯える ことによりピーク負荷時の供給力を提供する,出力を増減して周波数調整をする,急速な起動を 行って予備力(1.2.3項を参照)を提供するなどである。さらに,電圧(無効電力)の調整や系統 安定性の維持あるいはブラックスタート2などに水力発電は好適であり,これらのアンシラリーサ ービスの供給に欠かせない電源となっている。こうした水力発電所が保有する機能と,今後期待 される役割について以下に概要を述べる。
1.2.1. クリーンエネルギーの供給
現在,我が国の水力発電所の発電電力量は年間800億から900億kWhに達しており,クリー ンで再生可能な電気エネルギーの主要な生産を担っている。
水力発電は,「水の大循環」を巧妙に利用した発電システムである。この「水の大循環」とは,
図 1.3 に示すように,海洋に蓄えられた海水が太陽からの熱エネルギーで蒸発し,雲となって大 気中に蓄えられ,それが山腹にぶつかって降雨(降雪)となり,川を流下して再度,海に戻ると いうもので,地球の壮大な自然の営みである。
高所に降った雨や雪の一部はそのまま蒸発するが,多くは地下に浸透した後,再度地表に湧き 出したり,あるいはそのまま地表を流下したりして川を形成する。非常に広範囲の降水が地形に 従って自然に集約されることから,川の流れをダムなどで堰き止めれば,大量の水を貯水できる。
ここから水を取り出し(取水),さらに低所に設置した水車にこの水を導いてやれば,機械的エネ ルギーに変換し,発電機で電気的エネルギーに変換して発電することができる。
図1. 3 水の大循環(参考文献 [4]をもとに作成)
2 系統全体が停電した時,自立的に発電機を起動させ,系統復旧操作をおこなうこと。詳細は1.2.3項に記載する。
6
このように水力発電は他の再生可能エネルギー,すなわち太陽光発電,風力発電,地熱発電な どと比べると以下のような際立った特徴がある。
自然の地形に従って,川に降水が集中することでエネルギーが集約される。
川を堰き止めることで,大量の水を貯水できる。つまりエネルギーの貯蔵ができる。また 普通の鋼製タンクなどと異なり,ダムは地形を巧みに利用して,その構造物の大きさに比 してはるかに大量の水を貯められる。
貯蔵したエネルギーを適宜取り出すことにより,出力を容易に制御できる。
水は密度が大きいので,機械的エネルギーへの変換装置が非常にコンパクトにでき,また その変換効率も非常に高い。水は常温に保たれることから熱力学による効率の制約も受け ない。
また水力発電自体は水を消費しない。単に水の持つエネルギーを利用するだけである。元々,
川が流れていれば,川底との摩擦損失で失われるエネルギーを巧妙に電気的エネルギーに変えた だけであり,上記の特徴を考え合わせると水力発電は再生可能エネルギーの優等生と言える。
1.2.2. ピーク電源としての役割
1時間あたりの電力消費量を1年365日,8760時間にわたって大きい順番に並べれば,大きな ピークが発生するのは非常に短時間だけに過ぎないことが容易に想像できる。しかし,電気の特 性として常にこの需要に見合った発電を行う必要はあり(足りなくなれば周波数の低下そして最 悪の場合,停電となりかねない),短時間の運転とわかっていてもピーク電源を用意する必要があ る。
特に高度成長時代においては,全体の電力量(kWhベース)の伸びよりも瞬間的に必要となる ピーク電力(kW ベース)の伸びのほうが高く,このピークに対応できる電源の確保が常に問題 となった。当時は夏場に甲子園で高校野球が始まるとテレビの視聴率が上昇し電力需要が急増し た。その後,家庭や事務所における空調機器の普及がピーク需要をさらに高めた。気温が1 度上 昇するだけで大型火力発電所 1基分程度の需要変動は簡単に生じるので,系統運用者は翌日の天 気予報を参考に発電計画を作成し,発電所の現場では故障など起こさないように細心の注意を払 って運転している。その点,大きな貯水池や調整池を有する大容量の水力発電所は即応性がある のでピーク対応電源としてはうってつけであり,現在もその用途に活用されている。
しかし,大容量の水力発電地点は昭和 30 年代にその開発がほぼ終わり,新たなピーク対応電 源が必要とされた。このピーク需要に適した電源としては,フレキシブルな運転特性もさること ながら,一番求められるのはその建設費の安さである。なぜなら,ピーク需要は非常に短時間し か発生しないことから,それに特化した電源の年間設備利用率は極めて低くなることによる。設 備費用が高いとその少ない発生電力量では単価が非常に高くなり,資金回収が困難となる。この ため,可能な限り初期投資が小さい電源が選ばれ,老朽化した石油火力をこの用途に振り向けた り,簡単に設置可能なガス火力(ガスタービン発電を含む)を新設したりすることが一般的であ る。しかし,高度成長時代においては,そうした設備だけでは十分な電源容量を確保できなかっ たこと,我が国はガスパイプラインが未発達だったこと,火力発電所はその維持経費(労務費用,
修繕費など)が大きいこと,また信頼性の上でも本当に必要とされるピーク時に確実に運転がで
7
きるかとの不安が残ることなどにより,別の方策が求められた。この解決策として,我が国では 揚水発電所が選択された。当時は原子力発電所が相次いで建設され,夜間の低廉な電力を昼間に シフトすることで比較的に安価なピーク発電が可能とされ,さらには揚水発電所の信頼性が非常 に高いことから,ピーク対応の火力発電に比べても経済性に優れると考えられた。また,かつて は揚水発電所向きの良好な地点が多くあり,建設費も比較的に安かったことから,ピーク電源と して十分成立した。ただ,実際には,揚水発電所といえどもそれ単独で経済性が成立するのは非 常に困難で,その原価は売電価格を大きく上回るのが実態である。図1.4に簡単なkWhあたりの 電源別発電コストと設備利用率の関係を示すが,設備利用率が10%未満では揚水発電所,10~30%
あたりはコンバインド・サイクル発電所,30~60%までは石炭火力,それ以上は原子力が一番安 価と試算できる。また設備利用率が20%未満ではどの発電方式でも発電コストが30円を上回り,
採算が取れるレベルではないことが判る。結局,停電によって生じる社会的な影響や損失が非常 に大きいことから,経済的には成立しないピーク電源を用意する必要があり,揚水発電がこの用 途に向けて建設されてきた。
図1. 4 設備利用率と発電コストの関係(参考文献 [5]を見直し)
ただ,近年は,かつてほどにはピーク需要の伸びはなく,また火力発電所も比較的に容易に起 動停止や出力調整ができるようになっている。一方,揚水発電所の新規建設は良好な地点の枯渇 や環境問題の高まり,そして建設工事費の高騰などにより難しくなっている。しかし,ピーク電 源の必要性は今後も引き続きあるし,今まで建設した揚水発電所のストックは世界最大級で,そ の有効活用が求められることに変わりはない。昭和30年代に建設された大規模一般水力や40年 代から50年代の揚水発電所などは今から見れば非常に安い建設費で造られており,現在もその原 価は比較的に安いレベルにある。今後,電力の自由化などでピーク時の電気料金は高くなること も予想されることから,これらの水力発電所は安価なピーク電源として欠かせない存在と言える。
8
1.2.3. アンシラリーサービスの供給
(1) アンシラリーサービスとは
電力は他の一般的な商品と違って在庫で需給を調整できない。このため,常に電力の生産は 需要に合わせて同時同量とする必要がある。これができないと,周波数が規定値(50Hz ないし 60Hz)から逸脱して,工場の電動モータの回転が不安定になって製品の品質を低下させたり,
火力発電所の蒸気タービンの動翼振動や発電機の軸ねじれといった問題を起こしたりする。また,
火力発電所などの大きな電源が故障などにより系統から脱落すると,系統に大きな擾乱(じょう らん)が生じる。電力系統は全ての発電機や需要家側の機器類が同期されて運転していることか ら,この擾乱の程度によっては系統全体が不安定化することがある。さらには電圧の維持も非常 に重要で,これもある規定値以内に制御しないと需要家設備に悪影響を与えるし,最悪の場合は 系統の不安定化を招く。
このように,電力系統を安定的に維持し,なおかつ高品質の電気を需要家に供給するために は,単に電気エネルギーを発生させるだけでは不十分で,常に周波数や電圧を規定の範囲内に納 めるとともに,大きな系統の擾乱に対してはそのバックアップの提供や積極的にその収斂を図る 必要がある。こうした,電力系統のセキュリティー,すなわち安定性や信頼性を維持する機能を 総括してアンシラリーサービスと呼んでいる。
従来の垂直統合形(発電・送電・配電・小売りを一括して行う)の電力会社では,アンシラ リーサービスの供給は電気の品質保持として当然のことと見做され,特にこれについては「値付 け」をせず,電力会社の内部で処理されてきた。しかし,電力の自由化や発送電分離などで垂直 統合形の電力会社が機能別に解体された欧米などでは,誰がこのアンシラリーサービスを担うの か問題となった。
このアンシラリーサービスの内容については各電力市場の設計によって定義が一様ではない が,概ね表1.3に示すものが一般的である。また,これらのアンシラリーサービスのうち,どの サービスを電力市場で取引するのか,誰が供給する義務を負うか,またその課金をどうするかな どは,それぞれの市場設計によりかなり異なるが,アンシラリーサービスの必要性を認めて,そ れに相応の対価を払う方向性は拡大しつつある。
表1. 3 アンシラリーサービス [6]
Regulation 数十秒から分単位の負荷変動に応じた周波数調整
Load following Regulationより長周期の負荷変動に対応
Energy imbalance ある需給点における計画値と実測値の差分を補償するサービス
Spinning reserve 瞬動予備力:運転指令から数分以内に出力可能な容量を提供
Operating reserve 運転予備力:運転指令を受けてから10分程度以内で出力可能な
容量を提供
Black-start capability 系統が停電した時に,発電機を起動して系統を復旧させる機能
Reactive supply and voltage control
無効電力供給による送電系統の電圧調整
Network stability services 系統の安定性を向上させる電力系統安定化装置(PSS)3や制動 抵抗の設置によるサービス
3 電力系統安定化装置(PSS:Power system stabilizer)とは発電機の励磁制御を高速化するとともにダンピング特性を持たせて 電力系統の安定度を高める制御装置である。
9 (2) 周波数調整
アンシラリーサービスの中で最も重要なものの一つは,周波数調整である。この変動が大き いと需要家側の機器が正常に動作せず様々な不都合が生じるばかりか,電力系統の安定性の維持 にも重大な支障を生じかねないのは前述の通りである。
系統周波数は供給(発電)と需要(負荷)のアンバランスに伴い時々刻々と変化する。膨大 な数になる負荷を直接制御することは非常に難しいことから,発電所側で出力を調整して周波数 を一定(概ね±0.2~0.3Hz程度の変動範囲内を目標としている)に維持している。
一般に負荷変動は図1.5に示すように変動周期が数分以下のサイクリック成分,数分から10 数分程度のフリンジ成分,そして10数分以上のサステンド成分を持つ。このため,発電側で負 荷変動の各周期成分に対して図1.6に示すような出力制御を行って対応している。
図1. 5 負荷変動の周期成分 [6] 図1. 6 制御分担概念図 [6]
すなわち,数秒程度までのサイクリック成分については系統の負荷特性で吸収し,数秒以上 数分程度の負荷変動はガバナフリー運転(調速機運転)が対応し,周期が10数分までのフリン ジ成分に対してはガバナフリー運転とLFC4運転が対応している。10数分以上のサステンド成分 については負荷変動の予測が可能なことから,EDC5運転あるいはDSS6運転によって対応してい る。ここでガバナフリー運転は大半の水力発電所・火力発電所において行っており,LFC 運転 は大容量水力発電所・揚水発電所・火力発電所などで行い,EDCやDSS運転は火力発電所が主 な対象になる。以下にガバナフリー運転とLFC運転について簡単に記述 [7]する。
(a) ガバナフリー運転
ガバナフリー運転は,主に周波数の微少な揺動や突発的な大変動(例えば大規模電源の脱 落や系統分離)など非常に短周期の周波数変動(サイクリック成分)を対象にした調整であ り,個々の発電機器に設置されている調速機の速度調定率に従って自律的に行う。
(b) LFC運転
中央給電指令所において,変動周期が数分~10数分程度の周波数フリンジ成分を検出して,
4 Load Frequency Control: 負荷周波数制御,我が国では自動周波数制御(AFC:Automatic Frequency Control)とも呼ばれている が,出典 [6]に従いLFCとする。
5 Economic load Dispatching Control: 経済負荷配分制御, 電力系統運用上, 経済的な発電機の出力配分を行うこと。
6 Daily Start and Stop: 深夜停止起動, 電力需要などとの関係から,夜間に停止し早朝に起動する発電所の運用形態。日間起動停
止とも言う。
10
その変化量を抑制するのに必要とされる出力調整量を算出し,その値を複数の発電所に分担 調整させるものがLFC運転である。個々の発電所の出力は,LFC運転で指令された負荷制御 信号と自端で検出した周波数変動によるガバナフリーの制御信号の両方に従って調整される。
(3) 予備力の提供 [7]
瞬時性の負荷変動や電源脱落事故など極めて短時間内に生じる需給アンバランスに対しては,
運転中の発電機のガバナフリー余力に頼ることになる。この即応的な供給量を瞬動予備力と言う が,概ね系統容量の3%程度を確保する必要があるとされている。なお,この瞬動予備力は電源 脱落と常時の短周期負荷変動の両者に対応することを想定している。
この瞬動予備力よりも長い周期を持つ負荷変動,例えば天候急変による需要の急増や緊急作 業などで電源を短時間に停止または出力制限する必要に迫られた時に対応する予備力を運転予 備力と言う。一般的に当日の最大需要に対して少なくとも 3~5%または最大電源ユニット相当 量の運転予備力の確保が必要とされている。前述のLFC運転中の発電機の余力はこの運転予備 力としてカウントされるが,10 分程度以内で起動して負荷を取れる水力機も運転予備力として カウントできる。図1.7にその概念7を示す。
図1. 7 瞬動予備力と運転予備力 [6]
(4) 電圧調整機能 [7]
系統の電圧は需要の変化や系統事故などにより変動することから適正な範囲内8とすること が求められる。
系統の電圧の維持ができないと電圧不安定現象が起き,最悪の場合,系統の電圧崩壊という 事態になり,広範な地域の停電に波及することもある。また,そこまでいかなくとも電圧が5%
程度低下すると,多くの業種において悪影響が発生することが知られている。ちなみに周波数変 動と異なり電圧変動はローカルな現象であることに留意すべきである。
電圧を制御するとは無効電力を制御することと同義であるが,そのために変圧器のタップに よる電圧調整や調相設備の活用などと並んで発電機による無効電力制御も非常に重要となる。発 電機の自動電圧調整器(AVR:Automatic Voltage Regulator)により励磁電流を制御することで無 効電力の調整が行われる。通常はこのAVRを使って発電機端子電圧を許容値内に維持するよう
7 図中の待機予備力とは起動から全負荷をとるまで数時間程度を要する供給力を言う。
8 例えばスポットネットワーク配電線や特別高圧電線路と連系する場合は系統の電圧を概ね±1~2%以内に維持することが求め られる。低圧の場合は電気事業法施行規則に定められた通りである。
瞬動予備力発動期
11
に発電機の無効電力を制御するが,AQR9運転やAPFR10運転とする場合もある。
(5) 電力系統の安定性の維持 [7]
電力系統の安定性を分類すると,系統に擾乱が発生した時に並列運転する同期発電機間の位 相差(電圧および電流の両方)がある範囲から逸脱するか否かを見る「同期安定性」,電源脱落 や系統分離により需給の不平衡が発生した後の周波数の安定・不安定に関わる「周波数安定性」, 系統内の擾乱に伴って電圧の異常な変動の発生に関わる「電圧安定性」の三つがある。いずれの 安定性を確保する上でも,大容量の水力機や揚水機は非常に頼りになる存在である。さらに以下 に述べるように積極的に安定性を向上させる機能を持たせることで,電力系統の安定性の維持に 寄与している。
(a) 系統の同期安定性の維持には電力の動揺情報を的確に検出して発電機の励磁制御を高速 に行うことが有効である。この実現に寄与しているのが「超速応励磁方式+電力系統安定化装 置(PSS)」で,大容量の水力機や揚水機などはサイリスタ直接励磁を採用して超速応励磁を実 現し,併せてPSSを設置して同期安定性の維持に寄与している。
(b) 冷房需要など定電力に近い電圧特性を持つ負荷の増加や大規模電源の偏在に伴う長距離 送電などにより,電圧安定性の維持は厳しくなる傾向にある。このため,基幹系統に接続され る大容量の揚水機などには PSVR11(送電電圧制御励磁装置)を設置して,系統電圧が低下し ても発電所の主要変圧器高圧側の送電電圧を一定に保つように高速励磁制御を行って電圧安 定性を維持している。
(6) 揚水発電による調整電源の確保
需要が小さい深夜帯などにベース負荷電源(原子力発電所や大容量石炭火力発電所のように 一定負荷運転をもっぱら行う電源)の比率が高まると,ベース電源だけで需要と釣り合ってしま い周波数調整などを行う火力発電所を運転する余地がなくなり,系統が不安定化する。また,近 年の再生可能エネルギー,特に太陽光発電の爆発的な増加を受けて,「火力発電の下げ代不足」
という問題がある。これは,需要が減少する昼休みに,南中で太陽光発電の出力が最大になり,
調整電源である火力発電所の出力を絞ってもその最低出力に達してしまい,安定的に火力発電所 を運転維持できないことを指す。こうした南中時や深夜帯の調整電源不足に対して,揚水発電所 の揚水運転により需要を増大させ,火力発電所の下げ代の確保や運転継続を可能とすることで電 力系統の安定性を保つと同時に,ベース電源や太陽光発電などの運転抑制を防いでいる。現状で は,揚水発電所だけが提供できる機能である。
(7) ブラックスタート運転
系統の大規模な停電時に,発電所を自立的に起動してその発電機を使って停止した送電線を 活かす運転をブラックスタートと呼ぶ。水力発電所や揚水発電所は火力発電所に比べて所内の補
9 自動無効電力調整運転:発電機の無効電力を自動的に調整する運転
10 自動力率調整運転:発電機の力率を自動的に調整する運転
11 送電線送り出し母線電圧と基準電圧との偏差に応じて発電機の励磁電流を制御し,送電線送り出し母線電圧を基準値に維持 する装置
12
機類がはるかに簡素で,ディーゼル発電機などを運転して得た比較的に小さなパワーを使って,
短時間に発電機を起動し,電力系統の復旧を行うことができる。また水力発電所のブラックスタ ート運転で火力発電所は所内電源を確保することができ,火力機の起動後にその大きなパワーを 活かして系統全体の復旧を順次進めていくことができる。
(8) アンシラリーサービス供給における水力発電所の優位性
水力機(基本的にピーク発電を行わない流れ込み式の水力発電所は除く)は,火力機に比べ て以下のような特長を有する。
(a) 起動停止時間が火力機に比べて非常に短時間であるため,頻繁な起動停止により臨機応 変に系統側の運転要請に応えることができる。
(b) 同上の理由により,停止中であっても運転予備力として機能できる。
(c) 水力機は出力の増減を非常に短時間でできる。このため,急激な起動に引き続いて急峻 な出力増大により電源の脱落時の系統動揺を鎮め,また頻繁な出力変化により短周期の周波数 変動を抑制できる。
(d) 水車発電機はその構造から鉄機械であり同期リアクタンスが火力のタービン発電機に比 べて小さい。このため,大きな系統擾乱が生じても最後まで電源として機能することが多い。
また無効電力制御においても火力機より制御範囲が広く,吸出し管の水面押し下げによる調相 運転により積極的に電圧の制御を行うことができる。
(e) 水力発電所は地域的に広範に分布しており,大停電時でもローカル系統を単独系として 維持できる。またローカル系統の常時の電圧維持においても非常に適している。
(f) 系統が大規模停電となった場合に,小さな所内電源を確保するだけでブラックスタート 運転を行うことができる。
さらに揚水発電所は,以下の機能を持つ。
(a) 揚水機は電力会社が唯一自由に制御できる負荷であり,これを運転して調整電源の下げ 代確保や運転の継続を可能とできる。
(b) 需給がタイトで大型電源の脱落があると系統の擾乱が大きくなることが予想される場合,
揚水運転を行って大型電源の脱落時に揚水機を緊急遮断して動揺を抑える運転が行える。
(c) 揚水機は,吸出し管内の水面を押下げランナを空転させて,待機運転することができる。
この待機運転から発電あるいは揚水への移行は非常に短時間で行うことができる。揚水機の運 転モードの移行に要する時間を図1.8に例示する。
13
図1. 8 揚水機の運転モードの変更 [7]
表 1.4 に水力機と火力機のアンシラリーサービスに関わる特性の比較を示す。いずれの特性 においても,水力機,特に揚水機はアンシラリーサービスの提供に好適であることがわかる。
表1. 4 各種調整電源の特性 [7]
※ 上記数値は一般的な値。プラント諸条件により値は異なる。
※ Pは現在出力,Pmaxは最大出力,Pminは最低出力(可変速機の揚水運転時ではそれぞれ最大入力と最低入 力)
※ 水力機の調整範囲・速度・起動時間は貯水池水位,調圧水槽のサージング,下流水位制約などの条件によ って地点毎に大きく異なる。
※ 揚水時のLFC調整幅は可変速機のそれを記載した。(定速機では揚水時のLFC運転は一般的にできない。)
※ 火力機の起動時間はHot StartとCold Startで大きく異なる。前者は火力ユニットの停止後,機器(特に蒸気 タービン)の温度が常温よりもかなり高い状態で行う起動を指す。後者は機器(特に蒸気タービン)の温 度が常温に近い状態で行う起動である。なお,この中間状態からの起動をWarm Startと呼ぶ。
※ ACCとはAdvanced Combined Cycleを示す。
火力機 水力機
一般水力
(LFC)機 揚水機
L F C 運 転
発 電 時
調整幅
増:P→Pmax 減:P→Pmin ΔP≒±5% Pmax
増:P→Pmax
減:P→Pmin 増:P→Pmax 減:P→Pmin
最低出力
石炭焚き: Pmin≒25
~30% Pmax
油・ガス焚き: Pmin
≒20~30%Pmax CC/ACC: Pmin≒
50%Pmax程度だが,
20%台もある。
Pmin≒20~
40% Pmax
定速機Pmin≒40~
50% Pmax 可変速・デリア機 Pmin≒20~40%
Pmax
調整速度
循環ボイラ:2~3 % Pmax/分
貫流ボイラ& C/C:4
~5% Pmax/分
30~100%
Pmax/分 30~100% Pmax/分
揚 水 時
調整幅 ― ―
増:P→Pmax 減:P→Pmin Pmin≒50~70%
Pmax
調整速度 ― ― 30~100% Pmax/分 起
動 時 間
発電時 HOT/
(COLD)
石炭:3h /(10~12)h C/C:2~3h/(6~12)h
ACC:1~1.5h/(3~4)h 5~10 分 定速機4~10 分 可変速機3~6分
揚水時 ― ― 定速機7~10 分
可変速機7~8分 発電運転
発電調相
(発電待機)
揚水運転
揚水調相
(揚水待機)
停止 3~4分
4~5分 2~4分
4~6分
2~3分 4~10分
6~10分 5~6分
7~10分
2~4分 1~2分
5~6分
14
1.3. 水力発電所の保守
本節では,水力発電所における保全活動(保守)の概要を述べる。本研究の主たる目的が重大 トラブルの体系的な解析を通じてその回避策の提案であることから,その前段としての保全活動 の概略を述べるものである。水力発電所の保全活動は歴史的には,壊れたら直すというものから,
定期的にチェックして壊れそうなものを壊れる前に取り換える,さらに重要な部位を診断してそ の健全性をチェックするなどと変化してきた。また,近年はコンピュータによる保全活動の統合 化,壊れた場合の影響度(リスク)の大小に応じた対応の区分,AI技術やビッグデータを活用し た異常診断などに脚光が集まっている。一方で,近年における保守費用の低減(コストダウン)
に対する経営からの要求は強くなる傾向にあり,機器を延命化しつつ点検周期を長くしたり補修 作業を必要最低限としたりする方向にある。
1.3.1. 保全方式の種別
保守するとは機器や設備の機能をいかに健全な状態に保全するかと同義であり,この設備保全 をいかに行うかについては,いくつかの考え方(=戦略)が一般化されており,これを図 1.9 に 示す。これらの区分はあくまでも一般的な概念で,必ずしも水力発電所を意図したものではない が,当然,水力発電所にも適用できるものである。
図1. 9 設備保全方式の分類(参考文献 [8]向けに著者作成)
設備保全方式を大別すると,事後保全(BM)と予防保全(PM)の二つが挙げられる。ここで,
事後保全とは基本的に「壊れるまで使う」もので,プラント全体の運転に直ちに影響しないよう なマイナーな機器や停止しても会社経営に大きなダメージが生じない設備などに多く用いられる 方式である。一方,予防保全は,「設備が壊れる前に修理あるいは取り換える」ことで故障を未然 に回避しようとするもので,その設備の停止が会社の経営に大きな影響を及ぼす場合などでは一 般的な方式である。この予防保全については,時間基準保全と呼ぶ TBM,状態基準保全と呼ぶ CBMそして信頼性中心保全のRCMなどの各種方式が提唱されている。
時間基準保全は,水力発電所では最も一般的な手法として採用されてきたもので,ある時間的 なインターバルを決めて,巡視,普通点検,分解点検を行うものである。
状態基準保全では,この点検周期をあらかじめ決めず,機器の状態を判断して適宜行うもので ある。機器の状態を様々な方法,すなわち人間の知覚,計器の指示,非破壊検査,常時・随時監 視モニターなどを通じて把握し,その結果に基づいて必要な保全作業を行う。
信頼性中心保全とは,機器の機能,ありえる故障モードや原因,損傷した場合の影響,検知方
保全 (Maintenance)
事後保全(Breakdown Maintenance: BM)
予防保全(Preventive Maintenance: PM)
時間基準保全(Time Based Maintenance: TBM)
状態基準保全(Condition Based Maintenance: CBM) 信頼性中心保全(Reliability- Centered Maintenance: RCM)
15
法などを分析して,信頼性を損なう可能性の大きい故障モードと管理すべき部位を定めて故障を 未然に防止しようとするものである。近年は,その発展形として,リスク基準保全(RBM)と言 ってリスクを破損の起こりやすさと被害の大きさの積と定義して,このリスク評価(安全性と経 済性)によってリスクの高い部位から効率的に保全作業を行う方式も多用されつつある。
さらには,従来のPMのように故障の兆候を見つけて対処するかわりに,故障の根本原因を究 明してこれを「事前に除去する」プロアクティブ保全(Proactive maintenance: PRM)も提唱され ている。
ただ,上記の保全方式は,表1.5に示すようにそれぞれ一長一短があり,多くの場合,どれか を選ぶと言うより,それぞれの良い点を当該設備に合わせて組み合わせて用いることが一般的で ある。
表1. 5 各種保全方式の得失 (参考文献 [8]向けに著者作成)
長所 短所
BM 故障が発生するまで,保全コストは基本的に 発生しない。
損傷が生じた後に補修するのでその費 用や停止コストが高くつく。
マイナーな部品の損傷でも重大な結果 を招きやすい。
TBM 保全の予算や人員の確保が計画的にできる。 残存寿命が残っている部品まで交換し てしまう。
交換した部品に初期故障が起きやすい。
CBM 状態を正確に把握できれば,保全コストを低 下できる。
状態を正確に把握するのが難しい。
モニタリング装置や非破壊検査のコス トが大きい。
RCM 関連付けや相関性が正確に把握できれば,保 全コストを低下して信頼性を向上できる。
非常に膨大な量の部品や事象を関連付 ける必要があり,そのコストが高い。
一方,最近,CMMS(Computer based maintenance system)と呼ばれるツールが設備産業におけ る保守管理に多用されてある。このツールは,ワークオーダ(Work order)と呼ぶ作業伝票の発行 を起点に,作業に必要とする資機材の調達,人員計画,予備品の在庫管理,標準作業仕様や工程 表の作成,検収報告書,次回作業の計画などを自動化するものである。こうした自動化ツールと 連動した保全管理システムの構築が水力発電所の設備管理に我が国でも適用されつつあるが,ま だ評価が定まるには至っていない。また,最近はAI技術やビッグデータの活用も大きな話題とな っている。従来は,温度や振動などのデータを大量に取得しても十分解析することができず,結 果的に損傷が発生した後の原因究明に利用する程度であった。しかし近年のAI技術の進歩は,膨 大なデータから保全に有意な情報を早期に抽出できる可能性を示しており,今後の適用が期待さ れている。
1.3.2. 水力発電所の保全活動
現状の水力発電所の保全活動においては,従来型のTBMにCBMの要素を付け加えたものが 大勢である。また,小水力発電所などでは故障しても系統への影響は小さいことから,BM の要 素も考慮している例が多い。表 1.6 に一般的な巡視,普通(定期)点検,分解点検の周期と対象 項目を水車と発電機について整理する。
16
表1. 6 TBMにおける保全活動(参考文献 [8]向けに著者作成)
保全 方式
点検周期 点検内容
巡視 1~2回/月 漏水,漏油,異音,異常振動,計器のチェック,補機の常用-予 備切換,軽微な手入れ,清掃
普通 点検
抜水なし:
1回/1~3年
外観の検査
開度・出力試験,振動測定,継電器試験
発電機・励磁装置の点検(巻線の変色・汚れ,端子の変色・緩み,
絶縁抵抗測定,ブラシの摩耗測定,クーラの汚れのチェック)
潤滑油の濾過 抜水点検:
1回/3~6年 初回点検:運転開始 から2年以内に1回
水車内部の点検:ランナ,GV(ガイドベーン),SV(ステーベー ン),ケーシング,ドラフトなどの状態
ランナギャップ,GVギャップ,侵食・壊食量などの測定 入口弁のギャップ,漏水量の測定
分解 点検
1回/12~18年 あ るいは適宜
主な点検項目は基本的に普通(定期)点検と同じであるが,機器 を分解して機器の状態を確認し,必要に応じて補修,交換する。
水車:ランナ,ライナ類,GV 本体・ブッシュ,GV 操作機構,
GVサーボモータ,主軸封水装置,主軸,水車軸受,基礎ボルト など
発電機:固定子コイルのウェッジ,固定子コイル,固定子鉄心通 風ダクト,回転子コイル,回転子コイル渡り線・リード部,回転 子スパイダー・磁極基部,軸受ブラケット,案内軸受,スラスト 軸受,基礎ボルト,ブラシレス励磁機,コレクタリング・ブラシ ホルダー
補機類:電動モータ,ポンプインペラ,弁類,負荷開閉器 消耗品などを交換する。(パッキン類,油脂・潤滑油類など)
調整や測定を行う。(ランナギャップ,GVギャップ,軸受ギャッ プ,軸振れ・振動測定,侵食・壊食量,各種計器・継電器,総合 試験)
性能,信頼性,環境対応を向上させる。
水車:ランナ更新,GVブッシュのオイレス化,可動羽根水車ラ ンナハブのオイレス化,電動サーボや水潤滑軸受の採用 発電機:固定子更新,ブラシレス化,樹脂スラスト軸受
CBM として,実施される測定項目の一例を表 1.7 に示す。但し,適用にあたっては個別に決 定されることから,ここに挙げたものが全て実施されるものではない。またこうした測定は,多 くの場合,適当な時間をおいて実施し,その傾向管理から劣化の進行を予測している。
また,RCM の一環として,水力発電所における重要設備,例えばダムや鉄管などを対象にリ スク評価を行って中長期の保全計画に反映するような取り組みも開始されている。
以上に一般産業界における一般的な設備保全方式とそれに対応する水力発電所における保全 の概要を述べたが,一層の低コスト化と信頼性の確保に向けて多くの取り組みが行われている。
また,最近の設備保全は,アセットマネジメントとして会社の経営管理の一環としてトータルに 取り組むことが一般化しており,TPM(Total productive maintenance)活動のような現場の品質向
上活動やERP(Enterprise resource planning: 企業資源計画システム)と連動させることもある。