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水害のシナリオとその回避策

3. 重大トラブル回避策の抽出

3.1. 発電所の水害

3.1.3. 水害のシナリオとその回避策

以上の事例等に基づいて,水力発電所が洪水被害を受けるシナリオを以下に作成する。先ず,

どのような原因で水害が起こり,発電所のどの部分がウィークポイントとなり,どのような被害 が発生するかを考察する。

(1) 水害の原因 (a) 自然災害

圧倒的に多くの水害は,自然災害に基づく。大雨で河川流量が増大し,発電所の敷地より水 位が高くなって発電所内が冠水する事例が多い。防水壁をめぐらして洪水対策をしても,それ 以上に河川水位が高まって浸水することも多い(3.1.2項(2),(3)参照)。また,土砂崩壊と 連動する事例も多い(表2.12 No.1,No.5,No.8,No.9,No.11参照)。すなわち,発電所下流 で天然ダムが形成され,これによって異常な水位上昇を起こして水没するものである。稀に段 波を発生させたり(3.1.2項(4)参照),土石流が直接,発電所や水路あるいは屋外開閉所など を襲ったりすることもある(表2.12 No.7,No.8,No.9参照)。

自然災害も大雨洪水に留まらず,地震で地盤が大きく緩んだり(表2.12 No.7,No.8参照),

火山で大規模な泥流が発生したりすると複合災害となって事態は一層深刻化しやすい。

(b) 人為的要因

自然災害以外にも各種の機器トラブルや人為的要因で発電所の水没事故は起きることがあ る。配管,弁類,水車部品の損傷で大量の水が噴出し排水が追い付かなくなる事例(3.1.2項(5)

および表2.12 No.10参照),排水ポンプが電源の喪失や水没に伴って故障したりその制御装置

が壊れて動かなくなったりした事例(表2.12 No.4参照),排水路がゴミや土砂などで閉塞し て排水できなくなったり溢れて発電所内に流入したりした事例,サージタンクの水位変動が過 大となって浸水した事例(表2.12 No.12参照 )などがある。

(c) 複合的な要因

大雨で送電線や配電線が被害を受けて発電所内の電源がなくなり排水機能を失うとか,放水 位が高くなって主軸封水部とかペルトン水車のハウジングから水が漏れ出すようなことがあ る。大雨で発電所周囲の地下水位が高まると建屋のき裂などから水が噴出することがある。こ の水が電源キュービクルなどにかかると電気事故を起こし,最悪の場合は,排水機能の喪失に つながる。地下発電所の入口の排水側溝が大雨で押し流された木の葉や土砂で埋まり,入口周 りの水が地下発電所に流れ込んで所内変圧器を損傷させた事例もある。

(2) 水の侵入経路

屋外開閉所から発電所内にはケーブル開口部を通じて浸水しやすい(3.1.2項(1)参照)。こ の他に発電所入口扉周りや組立室搬入シャッターなども水の侵入を許しやすい(3.1.2項(3)参 照)。発電所の換気口,各種給排気口,窓などは,その位置が低かったり簡単に流下物で損傷し たりすると水の侵入口になる。鉄管路やダムの下流面に降った雨が発電所周辺に集まってしまう ような構造的に問題の多い発電所も時折見受けられる。一旦,発電所に侵入した水は,最下層部 に向けてあらゆる通路や隙間から流れることから(図 3.7 参照),その途中に課電したままの高 電圧機器があると,非常に危険である(図3.8参照)。

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図3.7 階段を流れる水 図3.8 発電機母線から落ちる水

放水口や河川の水位が高まると発電所周囲の側溝や排水管から逆流することがある。トイレ なども逆流しやすい。高低差を利用した自然排水による場合なども排水地点の水位が発電所より も高くなって同様の現象が起きる。発電所の周囲にめぐらした排水路(側溝)が閉塞して発電所 の周りを水浸しにすることもある。特に近くに沢などがあると,洪水時の流下物や土砂で流れが 変わってその水が発電所側に流れ込んだり,下りこう配のアクセス道路などが川になったりして 発電所に水が集まることもある。

機械の損傷については,鉄管に接続している大口径の配管や弁が損傷すると大量の水が高圧 で流れ込むことになる。通常,水力発電所では配管にピンホールが開く程度で大きく破断するよ うなことは稀であるが,全くない訳でもない。口径が250mmもある入口弁のバイパス弁が腐食 で破断した事故(図3.9参照)を著者は経験している。水車周りでは,上カバーや下カバーに接 続された大口径の配管や弁が損傷して水を噴出することがある。主軸封水装置の故障なども異常 出水を招くことがある。揚水発電所は特に吸出し管の水圧が高く,また吸出し管の水面押し下げ のために給気や排気を行う大口径の配管や弁類が多く,これらの中には直接,排水ピットにつな がるものもあるので危険である。

図3.9 大口径バルブの損傷事例

69 (3) 水害による被害の様相

水力発電所の大きな水害の様相としては以下がある。

(a) 発電所の水没

発電所内が水没すると,その程度にもよるが,水車軸受や発電機の軸受から大量の潤滑油が 漏れ出し,さらに塵埃や発電機ブラシ粉と混じって,発電所内の機器類を汚損する(表 2.12 No.4,詳細は4.3節に後述)。

発電機や電気品(モータ,変圧器,開閉装置)がこうした汚れた水に浸かると,吸湿と汚損 により絶縁不良となり,洗浄・乾燥して絶縁性能を回復できるまで使用ができない。また,毛 細管現象で,劣化した発電機コイルのひび割れや動力ケーブルの端末部隙間などにこうした汚 損物質は簡単に入り込み,その除去は非常に難しい。

機械類は,基本的には洗浄すれば再利用できるが,軸受などは一度,分解点検しなければ再 使用できない。また,機械類は長期間水没すると発錆してしまい,手入れが必要となる。

制御装置は,その多くがコンピュータベースのICチップを多用した基板になっており,カ ーボン粉や油が混じった汚損水に浸かるとその洗浄や補修は非常に難しい。専門の業者に任せ て洗浄・再利用することもあるが,古い基板などでは補修部品が手に入らないケースも多く,

新規に制御装置全体を更新することが多い。各種の保護継電器やセンサ類も同様な対処となる。

制御・動力ケーブルは,毛細管現象で絶縁層と導体間に水が入り込み吸湿する。特に古いケ ーブルなどは再使用が難しく,新規に引き直すことになるが,ケーブル工事は作業量が多く復 旧の遅れにつながりやすい。

(b) 屋外開閉所の被害

洪水で屋外開閉所の敷地高さより水位が上昇して開閉装置,変圧器,鉄鋼構造物などが半水 没したり,流下物で損傷を受けたりする。通常,開閉機器類は架台の上に設置されているので 水洗い程度で多くは対処できるが,流木などが衝突した場合(3.1.2項(3)参照)は被害が大 きくなる。

土石流などが直接襲った場合は,開閉所が壊滅的な被害を受けることがある(表2.12 No.8, No.9参照)。

(c) 放水口,取水口,水路内の土砂堆積

多量の土砂や流下物が取水口,放水口,各種水路を閉塞することがある。特に洪水時でも発 電運転を行った場合,より多くの堆積物が水路の中まで流れ込んで,その除去を難しくするこ とがある。ゲートの下に土砂や流木が堆積すると,ゲートが完全に閉まらないので水路内や水 車周りの復旧工事の妨げとなる(3.1.2項(1)参照)。

(d) 二次被害の発生

洪水被害を受けた時に発電機を運転していると,電気回路の短絡・地絡事故で発電機,主回 路機器,主要変圧器などが損傷することがある。最悪の場合,火災に発展することもある(3.1.2 項(2)参照)。また,水路が大きく損傷すると,異物が水車内に流入して損傷させることもあ る。さらには水路から水が溢れ出て,土砂崩れを起こしたりして付近の民家などに被害を与え ることもありえる。

70 (4) 水害のシナリオと回避策

以上の原因や結果を踏まえて,水力発電所が大きな水害に至るシナリオと回避策を図3.10に ダイアグラムとして示す。この図では,黄色で示した部分が原因,青色が作用される部位,肌色 は二次的な原因,そして茶色が結果を示す。以下に,この図に沿って水害に至る経路とその回避 策を説明する。

(a) 大雨の襲来は天気予報などを通じてある程度,事前に予測可能なことから,タイムライ

ン(Time Line)の活用が望まれる(対策①)。タイムラインとは,「いつ」,「誰が」,「何をする

のか」をあらかじめ時系列で整理した防災行動計画のことである。タイムラインの詳細は参考 資料[12]などに詳しい。

(b) 大雨が降ると,河川水位の上昇をもたらし,発電所周囲が冠水すると屋外開閉所や玄関 などから水が発電所内に侵入する。この結果,発電所が冠水する。これを防ぐには,発電所周 辺に防水壁を築くとともに(対策②),水の侵入経路に恒久的な防水工事(ケーブル穴の閉塞 など)・設備(入口などに遮水ゲート)を施したり臨時に土嚢を積んだりして浸水量を低減す ること(対策③)が有効である。また,発電所の建設中などでは十分な排水設備が設置されず,

開口部も多いことからちょっとした大雨でも冠水事故を起こしやすい。仮設備といえども,十 分な排水能力(対策④)を確保したり,部分的な冠水にも安全な高所に電源設備を設置したり する工夫が求められる。

(c) 急峻な地形に建設された水力発電所では大雨に伴って斜面崩壊が起きやすい。特に地震 で地盤が緩んだり噴火に伴う火山灰の堆積があったりすると,さらにその危険は増す。大規模 な地滑りが発生すると,河道を天然ダムが塞いで水位を急上昇させ発電所の周囲が水没して,

発電所内も冠水する。また,天然ダムでできた貯水池に土石流が流入すると段波が発生するこ とがある。こうした状況においては,発電所設備の被害もさることながら関係者の生命の安全 を確保することが優先されるべきである(対策⑤)。平素からハザードマップ(対策⑤)などを 研究して危険個所を事前に予想して,大雨の状況下における行動基準を策定することが有効で ある。また,監視カメラの設置,ゲートの遠方操作などにより,職員が現地に赴かずに所要の 巡視・点検やゲート操作を行う工夫も求められる。将来的にはドローンを活用して,事前に安 全性を確認したり,上空から目視点検したりするのも有効であろう。

(d) 大雨では,発電所周辺の排水路とか近傍の沢などが流下物で埋まって閉塞したり,流れ が変わったりすることがある。平素から排水路などの清掃(対策⑥)が望まれる。下り勾配の アクセス道路などは洪水時に川になりやすいケースもあり,発電所の手前で安全に流下させる 工夫が求められる。

(e) 洪水時に発電運転を続けると取水口,導水路,水車内部,放水口などに大量の流下物や 土砂がたまりやすい。特に取水口ゲートや放水口ゲートの下に堆積すると,ゲートを閉めるこ とができず,洪水後の水路内の堆積物の除去作業や水車内の清掃作業が非常に難しくなる。ま た,大量の浮遊ゴミが取水口周辺を覆い尽くして発電運転を不能とする。このため,一定レベ ル以上の出水があったときは,発電運転を止めてゲートを降ろし,洪水が引くのを待つ(対策

⑦)ほうが復旧を早めると考える。

(f) 水車,入口弁,鉄管などに接続される高圧配管やバルブが破損すると大量の出水を起こ すことがある。特に揚水発電所は高落差の地点が多いので危険度が高い。定期的に配管やバル