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我が国における水害の傾向

3. 重大トラブル回避策の抽出

3.1. 発電所の水害

3.1.1. 我が国における水害の傾向

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図3.2 日降雨量の極値の更新状況 [2]

平成19年に(財)河川環境管理財団と(社)電力土木技術協会より「異常気象に対する水力 発電の運用管理に関する調査」[3]が行われており,国内の水力発電所における自然災害(台風,

豪雨,豪雪等)に係る施設被害やダム・貯水池の運用管理が調査されている。この調査報告結果 に基づいて,図3.3に発電所規模の区分と洪水被害の件数の関係を示し,図3.4に流域面積毎の区 分と被害件数の関係を示す。図中の棒グラフは区分ごとの被害件数(総数96件)を示す一方,折 れ線グラフは当該区分に合致する水力発電所の総数(純揚水発電所23か所は除いたが,混合揚水 発電所は含めた)で被害件数を割ったものである。図 3.3 によると中規模から比較的大きな規模 の発電所が洪水の被害を受けやすいこと,また図 3.4 からは大きな流域面積を持つ河川に立地す る発電所が被害を受けやすいことが判る。これは比較的に小規模な発電所は流域面積の小さな河 川(本流の支川や上流域)に設置されており,仮に豪雨になっても比較的に洪水流量が小さいた め被害を免れている一方,中規模以上の水力発電所は流域面積の大きな河川の中流域に設置され るため洪水被害に遭いやすいと考える。流域面積の大きな中・大出力の水力発電所ではより洪水 被害のリスクが高まると言える。この事実は,大きな設備だから洪水の影響は受けにくいとの一 般的な現場感覚はあまりあてにならないことを意味している。

図3.3 発電所規模別の洪水被害 [3] 図3.4 流域面積別の洪水被害 [3]

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我が国の多くの発電所は200 年確率洪水14と言って既存の水文データ15から200 年に一度の洪 水を想定して,この洪水流量を土木構造物の設計基準としている。しかし,同報告 [3]によれば,

図3.5に示すように既に多くの水力発電所において,設計洪水流量16を上回る洪水に見舞われてい る。もちろん,ダムなどの土木設備は十分な安全率を持って設計されていることから,実際の洪 水量が設計値を上回ったからと言って直ちにその機能が失われるものではないが,何らかの被害 が発生するリスクは確実に高くなっていると言える。かつては設計洪水流量を超えるような大洪 水はほとんど起きないと考えられてきたが,近年はそうした考えは必ずしも当てはまらないと言 える。

図3.5 設計洪水流量と既往最大流量の関係 [3]

こうした比較的に大きな河川で大きな洪水被害が生じているのは,表3.1に示す水力発電所群 の被害状況からも明らかである。この表から,水系の一貫開発17で建設された水力発電所群が同時 に被害を受けている状況がわかる。

14 確率洪水(Probability flood discharge)とは,ある規模の洪水の発生率を過去の記録から確率計算によって求め たもの。200年確率洪水とは200年に1回起きえる大洪水を指す。(土木用語大辞典より)

15 水文学(Hydrology)とは,地球上の水の循環を扱う学問で,土木工学の分野では雨水の流出過程を解明し,河川 管理や水資源計画の基礎とする。水文観測としては河川の水位・流量や雨量観測等があり,それから得られたデ ータ(Hydrological data)を用いて水力発電所の計画を行う。(同上)

16 設計洪水流量(Design flood discharge)とはダム計画においてダムの保安上対象とする洪水の流量。①確率的に 200年に1回起こると推定される確率洪水流量,②観測あるいは洪水痕跡等から推定される既往最大洪水流量,③ 気象水象条件の類似する近傍流域または気象の観測結果から推定される最大洪水流量のうち,いずれか大きい流 量としている。(同上)

17 水系の一貫開発とは,当該河川の最上流部に比較的に大きな貯水池や調整池を設け,そこで制御した河川流量 を効率的に発電に利用するため,下流に階段状に水力発電所群を開発することを指す。

設計洪水流量を 上回る洪水

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表3.1 我が国における水系レベルの大規模洪水被害事例 発生年月

洪水河川

水力発電所 概要

20117 只見川(福島)

阿賀野川(新 潟県)

滝発電所(92MW)およびその下 流発電所群(1287MW)

新潟・福島豪雨で計画洪水量を上回る洪水が発生 した結果,滝発電所をはじめとする多くの水力発 電所において浸水被害や土砂の堆積などが広範 に生じた。

20059 耳川(宮崎県)

上椎葉(93MW),塚原(63MW),

山須原(41MW),西郷(27MW)

など7発電所

台風 14 号に伴う豪雨で多大な被害を受けた。4 発電所で浸水被害が起きた上に,他の3発電所も 放水路に土砂が堆積するなど運転不能となった。

200410 神通川(富山 県)

新猪谷(35.4MW),庵谷(50MW),

猪 谷 (22.9MW), 長 棟 川 第 二

(1.3MW)の4発電所

台風23号で4発電所が浸水被害を受けた。新猪 谷と長棟川第二は発電機まで冠水した。

20009 矢作川(岐阜 県)

上村(9.8MW),島(1.6MW),下 村(4.7MW),川下(0.38MW),阿 摺(4.8MW)

東海豪雨で矢作川水系の水力発電所が大きな被 害を受けた。下村,川下,阿摺では建屋が浸水し て水車・発電機・配電盤に冠水被害が生じた。他 の発電所でも堰堤の損壊,取水口機器の損傷,

導・放水路内への土砂堆積などが生じた。純揚水 の奥矢作第二発電所(780MW)ではドラフト内 に土砂が流入して運転ができなくなった。

19957 黒部川(富山 県)

新黒部川第二(74.2MW),黒部川 第二(72MW)など7発電所

集中豪雨で3発電所が浸水被害を受けた他,多く の発電所の放水路や沈砂池に土砂が堆積して運 転不能となった。

19839 木曽川(愛知 県)

新大井(32MW),大井(48MW),

笠置(41.7MW),兼山(39MW)

など8発電所

台風10号と秋雨前線により,広範な被害が発生 した。左記の4発電所は発電機が完全に水没した。

一方,発電所は自然災害だけで水没する訳ではなく,機械の故障や配管・弁類の損傷など様々 な原因で冠水事故を起こしている。また,自然災害と人為的なミスが重畳して冠水することも多 い。表3.2に水没事故の要因となる項目を示す。

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表3.2 自然災害以外の冠水事故の要因