2. 水力発電所における重大トラブルの概要
2.3. 重大トラブル事例の収集
2.3.2. 重大トラブルの事例収集
水力発電所における重大トラブル事例は表2.9で被害レベルがレベル1以上と定義したので,
これに合致しそうなトラブル事例を各種文献などから収集した。表2.10から表2.16に収集した事 例の概要とその出典を明示する。なお,前提として過去40年程度までとした。また,本論文の主 旨とは異なるが,水力発電所の重大トラブルの全体像を示すため,土木設備のトラブルについて も示した。なお,一部のトラブル事例については著者が経験した海外コンサルタント業務や各種 のクローズドな席を通じて入手したものがあり,その出典などは明示できないものがあるが,そ の内容から本論文に含めることとした。また発電所名については,公表された出典に明示された ものに限り,その名前を記載した。
表2.10 水力発電所の重大トラブル事例(ダム事故)
発生年月日 事故の様相と原因 被害レベル 出典
1. 2008年5月12日 中国,Zipingpuダムのク ラック発生
汶川地震(四川大地震)でダム本体(コンクリ ート表面遮水式ロックフィルダム)が沈下し て,上流面のコンクリート遮水壁に多数のクラ ックや剥落が発生した。但し,ダムの安定性や 機能は保持された。
レベル2(推定) [8]
2. 2005年12月14日 米国,Taum Sauk揚水発 電所(350MW)上池ダ ムの崩壊
上池の過剰揚水により,ダム(ロックフィルダ ム)が崩壊した。ダムの天端上に高さ3mの胸 壁が築かれ,上端から溢れた水が胸壁基礎を洗 掘して倒壊させ,大量の水がダム表面を流れて 崩壊させた。水位計の不適切な設置方法,堤体 の不同沈下,無理な貯水池運用などが原因。
レベル4 復旧費用450M$
その他200M$
停止1,560MW・年 [9]
3. 2004年10月23日 日本,信濃川発電所
(449MW)の調整池ダ ムの損傷
中越地震で三つの調整池の堤体(アースフィル ダム)にクラックや法面のすべりが発生した。
レベル3
復旧費用230億円
停止610MW・年
[10]
4. 2002年4月21日 米国,Swift No.2 発電所
(70MW)上水槽ダムの 決壊
貯水池底部にシンクホールや溶岩空洞があり,
長年の間に水道(みずみち)が生成され上水槽 ダム(アースフィルダム)を決壊させた。ダム 下流に位置する発電所も大きく破壊された。
レベル3
復旧費用100M$
停止:290MW・年 [11]
5. 1999年9月21日 台湾,Shih-Kangダムの 損傷
上流のMa-an発電所の逆調整池並びに下流へ
の水供給を目的に建設されたダムであるが,当 日発生した集集地震でダム直下の活断層が動 いて,地表に達し,断層の両側で隆起の大きさ が著しく異なったため,ダムが分断された。地 震で損傷した重力式ダムとしては世界唯一の 事例。
レベル3 (推定) [12]
6. 1995年7月17日 米国,Folsomダムでの ゲート損傷事故
洪水吐ゲート(テンタ式)1門が開操作中に破 損し,満水の貯水池から約5億m3の水が下流 に流れた。幸い人的な被害はなかった。
レベル2 復旧費用20M$
[13]
7. 1977年1月21日 ブラジルEuclides Da CunhaダムとArmando Salles de Oliveiraダムの 決壊
水力発電のために建設した2つのアースフィル ダムが大洪水(10,000年確率)で水が溢れて決 壊した。Euclidesダム(1960年に完成,94.8MW)
が最初に決壊し,13Mm3の水が下流のArmando ダム(発電所28MW)を襲った。洪水ゲートの 操作に問題があった。幸い人的な被害はなかっ た。
レベル2~3 (推
定)
[14]
8. 1976年6月5日 米国,Tetonダムの崩壊
発電,灌漑などを目的に建設していたダム(ア ースフィルダム)が湛水後,水漏れを起こして,
崩壊した。ダムは放棄された。死者14名を数 えた。
レベル5
訴訟費用:400M$
その他の復興費 用:15億$
[15]
39
表2.11 水力発電所の重大トラブル事例(水路・ゲート事故)
発生年月日 事故様相 被害レベル 出典
1. 2016年4月16日 日本,黒川第一発電所
(42.2MW)の上水槽の 損壊
熊本地震の本震で土砂崩れが起き,黒川第一発 電所の上水槽および近傍の水路が大きく損傷
し10,000m3の水が流出した。因果関係は現在調
査中ながら,崩落個所の下流の集落で土石流に より2名が死亡した。
レベル2~3(推定) [16]
2. 2016年1月25日 日本,新石見小水力発電 所(90kW)の水路の閉 塞
導水路(開渠)が雪で閉塞し溢れた水が土砂崩 れを起こし,下流の民家を襲って住民3人が死 傷した(1名死亡)。
小水力なので,判 定不能。
[17]
3. 2015年4月25日 ネパール,Upper Bhotekoshi発電所
(45MW)の鉄管損傷
ネパール地震により岩なだれが発生して,鉄管 が破裂し,発電所が水没した。2016年7月,復 旧完了前に洪水で再度,放水口ゲートの損傷と 発電所の水没被害を蒙った。
レベル2
停止:50MW・年 以上
[18]
4. 2014年9月3日 日本,手取川第一発電所
(250MW)底部取水用 ゲートの損傷
底部取水用ゲートのバランスウェートがワイ ヤの切断により脱落した。
レベル2
停止:40MW・年 [19]
[20]
5. 2012年12月12日 カナダ,Montrose Creek 発電所(88MW)の鉄管 路の損傷
2010年に完成した同発電所において,斜面崩壊 で岩が鉄管を直撃して穴が開き,これにより鉄 管が300mほど圧壊した。
レベル2
停止:73MW・年 [21]
6. 2012年6月
米国,Horse Mesa揚水発 電所(119MW)の取水 口損傷
4号機(99.8MW揚水機)の取水口のコンクリ ート製ピアが損傷した。破損個所の撤去および 鋼製ピアの新製に2013年8月まで掛かった。
レベル2
停止120MW・年
[22]
7. 2012年1月19日 フランス,水力発電所の 鉄管破裂
2射ペルトン水車(12MW)の球形弁下流シー ル部において漏水から自励振動を起こし,鉄管 が破裂した。
レベル2(推定) [23]
8. 2010年12月 パナマ,Esti発電所
(122MW)の導水路損 傷
導水路(水圧管も兼ねた圧力トンネル:直径9m x4.7km)が複数個所において崩落した。火山 性凝灰岩のもろい地質,水圧鉄管の省略,発電 所手前の上り勾配,ライニングの不足など設計 に問題があった。復旧には93M$と19ヶ月を要 した。
レベル2 復旧費用93M$
停止190MW・年
[24]
9. 2009年8月17日 英国,Glendoe発電所
(100MW)の導水路損 傷
導水路の一部が700~800m崩落した。地質が悪 かったにもかかわらず,トンネルを素掘りの設 計とした。
レベル2
停止290MW・年
[25]
10. 2008年10月11日 インド,揚水発電所
(900MW)の鉄管分岐 部損傷
鉄管Y分岐部のスチフナー(補強材)が脱落し て,ランナを損傷させた。溶接の施工ミスと考 えられる。
レベル2(推定) [26]
11. 2008年5月12日 中国,Shapai発電所
(35MW)の地震被害
汶川地震(四川大地震)で落石が鉄管露出部を 直撃し,水が噴出し,直下流の発電所が損傷す るとともに落石で屋根が崩落した。
レベル1~2(推定) [8]
12. 2000年12月12日 スイス,Bieudron発電所
(1200MW)の鉄管破裂
鉄管が破裂して,土砂崩れを起こし,民間人3 名が死亡。原因は鉄管溶接の施工不良(高張力 鋼溶接時の水素による「遅れ割れ」)
レベル5 復旧費用360M$
停止10,950MW・
年
[27]
13. 1990年7月16日 フィリピン,Ambkulao
(75MW)/Binga
(100MW)発電所の水 路損傷
地震で取水口や導水路が広範に損傷を受けた。
1999年には廃止されたが,その後,民営化によ り復旧された。
レベル4 復旧費用280M$
停止3,900MW・年 [28]
40
表2.12 水力発電所の重大トラブル事例(水害・水没事故)
発生年月日 事故様相 被害レベル 出典
1. 2011年9月4日 日本,長殿発電所
(15.3MW)の段波によ る被害
紀伊半島十津川上流の長殿発電所は,台風12 号の豪雨に伴って発電所の上下流で複数の土 砂崩壊が生じ,これに伴う段波(津波)により 完全に破壊された。2015年8月に破壊された発 電所の除却工事が完了した。本格的な復旧工事 を現在,進めている。
レベル2(推定)
停止:100MW・年
(推定)
[29]
2. 2011年7月29日 日本,滝発電所(92MW)
の水害
新潟・福島豪雨で只見川および下流の阿賀野川 の水力発電所群が多大な被害を受けた。滝発電 所では大量の土砂が放水口を閉塞し,復旧に3 年を要した。
レベル2
停止:280MW・年 [26]
3. 2011年7月29日 日本,只見水系発電所群
(1287MW)の水害
新潟・福島豪雨で只見川および下流の阿賀野川 の水力発電所群(17発電所)が大きな被害ある いは影響を受けて長期停止した。特に上田発電 所(63.9MW)と本名発電所(78MW)は被害 が大きく,復旧に4年近くを要した。
レベル4
復旧費用:185億円 以上
停止:1360MW・
年(17発電所)
[30]
4. 2008年11月16日 フィリピン,Kalayaan 揚水発電所Stage 1
(360MW)の水没事故
発電所の停電事故中に給水ストレーナ排砂弁3
個から約1000m3の水が発電所に流れ込んだ。
停電復旧時に排水ポンプが1台故障して,排水 能力が低下し,結局,発電所が完全に水没した。
復旧に1年を要した。
レベル3 復旧費用:20M$
停止:360MW・年 [31]
5. 2005年9月6日 日本,耳川水系発電所群 の水害
台風14号で耳川水系の4発電所が水没した。
上椎葉発電所(93MW)では,発電所下流の土 石流で河川水位が上昇し,屋外変電設備や発電 所内の機器が被害を受け,主要変圧器が焼損し た。
レベル2
停止:240MW・年
(4発電所)
[32]
6. 2005年9月5日 インド,Nathpa Jhakri発 電所(1500MW)の水没 事故
4号機水車ラビリンスシール部の配管が破裂し て水が噴出し,地下発電所の最下層2階分を水 没させた。
レベル1~2(推 定)
[33]
7. 2005年6月28日 インド,揚水発電所
(270MW)の土石流被 害
発電所の建設中に,豪雨により下池上流部で山 崩れが発生し,その土石流が工事中の放水路ト ンネルを経て地下発電所に達した。放水路内で 作業員15名が死亡し,発電所内は土砂で埋ま った。このため,工事は約3年遅延した。
レベル3
停止:700MW・年
(運転開始前)
[26]
8. 2004年7月2日 台湾,Chinshan発電所
(360MW)の土石流被 害
下記のKukuan発電所と同様の被害が上流の
Chinshan(青山)発電所でも2004年7月2日の 敏督利台風で起き,復旧に11年を要した。
レベル4
停止:4,000MW・
年
[34]
[35]
9. 2001年7月30日 台湾,Kukuan発電所
(180MW)の土石流被 害
1999年の集集地震で地盤が緩んだ大甲水系で は,2001年の桃芝台風の来襲で,山崩れが多発 した。流出した土砂で河床上昇が起き,Kukuan 発電所放水路が閉塞して地下発電所が水没し た。また,土砂崩れで屋外開閉所やアクセス道 路なども被害を受け,復旧には7年を要した。
レベル4
停止:1,140MW・
年
[34]
10. 2000年12月15日 タイ,揚水発電所
(500MW)の水没
1号放水路バイパスゲートを開いて水路の初充 水を行ったところ,ゲート制御の不具合から急 激な水位上昇を起こした。この結果,ドラフト ゲートが損傷して発電所が半水没した。
レベル1(推定) [26]
11. 1995年7月11日 日本,黒部川水系発電所 群の水害
集中豪雨で新黒部川第二発電所(74.2MW)と 黒部川第二発電所(72MW)が水没した。発電 所下流で土石流が発生し河床上昇(約10m)を 起こし,放水位が上昇して発電所に逆流したも のである。復旧には約1年を要した。
レベル3
復旧費用:236億円 間接被害:136億円 停止:130MW・年
(2発電所)
[36]