3. 重大トラブル回避策の抽出
3.4. 発電機の重大トラブル
3.4.2. 発電機の重大トラブル事例について
比較的に詳細が判明している発電機および発電電動機の典型的な重大トラブルをいくつか,以 下に示す。なお,一般水力発電所の発電機については事例が非常に少ないことから,CIGREの発 電機火災に関する調査を示す。
(1) CIGREの発電機火災の調査結果[47]
(a) 発電機火災について
一般水力の発電機で一番重大トラブルと言えるのは,発電機火災と考える。著者は,発電機 トラブルを数多く収集したが,短絡や地絡で発電機故障が起きても火災に発展しなければ比較 的に短期間に復旧している事例ばかりである。このことは,一般水力の発電機に関して発電機 火災以外に重大トラブルはないとするものではないが,火災以外の事例があっても後述の発電 電動機の重大トラブルとあまり変わらないものと考える。
この発電機火災であるが,我が国における事例は近年ほとんど報告されていない。国内では,
発電機の絶縁性能は定期的に検査されており,そもそも電気事故が少ないと考える。また,諸 外国のように極端に古い発電機をそのまま使い続けることは稀で,経年劣化が顕著であれば概 ね適当な時期に固定子コイルは更新されている。一方,回転子コイルは,低電圧なのであまり 劣化は顕著でなく,それが火災の原因となることは元々,少ない。さらには,保護継電器や遮 断器などによる発電機保護が健全に維持されており,火災事故に至る前に適切に発電機が電源 から切り離されていると考える。こうしたことから,国内では発電機火災は半ば忘れられた感 もあるが,諸外国においては今でも時折,問題となっている。
諸外国の発電機火災の事例がどのようなものか,CIGRE が行った発電機火災に関するアン ケートが非常に有益となる。この調査は,本来,発電機の消火装置に関するものであるが,そ
114
の中の設問に過去20年間における発電機火災事故の有無を尋ねた項目があり,世界の20の電 気事業者から64件の事例が報告されている。その原因別に区分したものを図3.20に示すが,
明らかに固定子巻線の電気故障が原因となって火災に発展したものが多い。ただ,回転子巻線 や軸受あるいは並列遮断器の故障などが原因になったものも意外に多い。
図3.20 発電機火災の原因別分布
すなわち;
① 「固定子巻線の電気故障」としては,相間短絡や地絡が多いが,この他に巻線間の接続 導体あるいはハンダあげによるコイル導体接続部のトラブルが3件挙げられている。
② 「回転子の巻線故障」でも磁極間の接続導体の焼損が2件ある。
③ 「励磁機の故障」に関する1事例では,リード線が脱落して固定子巻線エンド部を損傷 し火災に至ったとしている。
④ 「軸受の故障」を原因とする1事例では,軸受冷却装置から冷却水が漏れて固定子巻線 の相間短絡を起こしたものがある。
⑤ 「その他の機械故障」に,作業員が鋼材を発電機内に置き忘れ,これが固定子の電気事 故を起こしたとの事例がある。
⑥ 「その他」に分類された事例として,回転子磁極絶縁材が破損したもの,リハビリした 潤滑油装置のボルトが試運転ではずれて発電機内に落下して電気事故を起こしたもの,
回転子と固定子の接触で加熱・火災を起こしたもの,開閉器の故障から回転子に循環電 流が流れ加熱してファイバーグラス製の風道カバーに引火して火災になったものがある。
⑦ 発電機の被害範囲は回答のあった28件中,27件までは風道内に限定されていたが,1件 は建屋火災に発展している。また1件では死者が報告されている。被害の詳細が判る23 件中17件までは固定子巻線の損傷に止まったが,2件は固定子・回転子双方に及んだ。
⑧ 自動消火装置を設備している19件中,5件では消火装置が適切に動作しなかった。
⑨ ニュージーランドのある事業者は過去20年間に4件の発電機火災を経験したが,4件と も固定子巻線の焼損に止まった。1件は下部巻線エンドの1/3周,1件は上部巻線エン ドの半周分,他の2件は端子リード部と上部巻線エンドの1/3周としている。
⑩ カナダの事業者が発電所名を挙げて過去の火災事例を記しているが,それによると一つ
115
の発電所で複数回の火災を経験した例が挙げられている。
(b) 得られた教訓
CIGRE の調査結果に従えば,発電機火災は決して珍しいものではなく,また火災の原因も
非常に多岐にわたっている。このため,特定の原因に対する予防も重要であるが,やはり保護 の徹底,定期的な発電機絶縁性能の点検などが地道であるが重要と言える。また,揚水機と異 なって,一般水力における発電機火災はその多くが経年劣化に関係している(図3.19参照)。 特に,古いコイル絶縁方式(アスファルトコンパウンドなど)に火災が多い。こうした古い絶 縁方式は,少ないながら国内でも存在するので,そのリスクを認識する必要がある。
(2) Rodund II発電所の火災[50]
(a) トラブルの状況
2009年7月3日朝にオーストリアのRodund II揚水発電所で火災が発生した。この発電所は
単機出力276MWの主機1台からなる発電所であり,1976年から運転している。この火災で作
業員2名が軽傷を負った。爆発と猛烈な煙が発生し,地下9階での消火作業はアクセスの問題 もあってかなり困難を伴ったようであるが昼前には鎮火できた。
事故の詳細は不明であるが,落雷で発電機がトリップした時に回転子磁極が脱落し,激しく 発電機を損傷し軸受から漏れた油に引火(落雷から 16 秒後)し爆発炎上した模様である。主 軸が曲がりポンプ水車も損傷し,脱落した回転子磁極にはクラックの発生が認められたとのこ とである。復旧工事は2011年12月まで要した。
この事故を受けて,欧米の揚水発電所で類似のクラックが磁極基部に相次いで見つかり,大 きな問題となった。これには,米国のHelms揚水発電所とRaccoon Mountain揚水発電所のよう な大容量の発電所が含まれる[50][51][52]。特にRaccoon Mountainの場合はその補修にかなりの 日数が見込まれる事態となり,とりあえず1台のみ復旧して,残りの3台は後回しにした。な お,近年,欧米の各メーカから磁極基部の疲労解析結果が相次いで発表[53][54][55]されており,
この問題に対する関心の高さがうかがわれる。疲労き裂の原因としては,起動停止に伴う低サ イクル疲労に加え,Tヘッドや受け側になるリムの溝の角が鋭角で応力集中を起こしたことが 指摘されている。このため補修においては応力集中を避ける形状に変更している。トラブルの 背景には,30年程度の運転による経年劣化に加え,最近の電力自由化に伴う頻繁な起動・停止 が影響しているようだ。
(b) 得られた教訓
この重大トラブルの教訓としては,以下が挙げられる。
① 揚水発電所の発電電動機回転子磁極の基部,すなわちTヘッド(あるいはダブテール)
およびその受け手のリム(図 3.21 参照)には起動停止時に大きな変動応力が発生し,
長年の運転で低サイクル疲労き裂32が発生することがある。適当な曲げ半径が設けられな いことによる応力集中の影響もある。
32 低サイクル疲労は,一般に104オーダー以下の繰り返し数で破壊する疲労現象で,構造物の部材が降伏点を超 えるような応力やひずみを繰り返し受ける場合に起こるものである(機械工学便覧)。ただ,水力発電分野では,
105オーダーの繰り返し数で塑性域まで達しない応力で発生する疲労現象も一般的に低サイクル疲労と呼んでい る。
116
② 一旦,疲労き裂が発生すると進行して,場合によっては磁極基部が破断して,磁極が脱 落し,発電電動機を大きく損傷させることがある。
③ 平素,このような磁極基部を詳細に点検することは難しいため,オーバーホールなどで 非破壊検査を含めた点検が必要である。
図3.21 回転子磁極取り付け部の模式図
(高速機にはTヘッド,中低速機にはダブテールが多い)
(3) 中国恵州揚水発電所の発電機損傷 [56]
(a) トラブルの状況
2008年10月10日12:46,広州の恵州揚水発電所(総出力2,400MW)1号機の有水試験中 に重大事故が発生した。当日は朝9 時から発電電動機の100%負荷試験を行っていたが,軸電 流リレーが作動して非常停止した。この時,金属が激しくぶつかる大音響を発し,火球が数秒 間水車ピットを満たした。
事故直後の点検の結果,No.10磁極の下部横向きコイルが破断してその角が切断されて転が っていた。コレクタリングより回転子コイルに至る引き出し線や磁極間の接続片およびダンパ ー巻線の接続片などの多くが変形・破断した。固定子鉄心には異物による強烈な摩擦の跡があ り,銅塊が鉄心にめり込んでいた。また固定子巻線は地絡した。固定子コイルの多くも異物と の衝突を受け焼損したり破損したりした。上部案内軸受の下部はばらばらになって発電機内の 風仕切り板の上に落ち,下部案内軸受も全壊し,油槽,メタル,メタル支持部,冷却器などが 水車ピット内に散乱した。
事故原因は,No.10磁極のコイル絶縁板が壊れコイルが大きく変形し,トリップ2秒前に当 該磁極は二点以上の多点で接地事故を起した。この接地で軸電流が急増して非常停止した。一 つの磁極が接地したので軸系には大きな不平衡力が働き,負荷遮断に伴う速度上昇と軸受ギャ ップの増大それに回転子リムの変形が相俟って,軸系は一次臨界速度に達し磁極のコイルが飛 び出して固定子を損傷するとともに,振れ回った軸は上部・下部案内軸受を破壊して,下部軸 受油槽の油に引火,爆発した。
(b) 得られた教訓
この重大トラブルの教訓としては,以下が挙げられる。
① 磁極のコイル絶縁板が設計で求めたような強度を持っておらず,大きな圧縮力が加わっ て損傷した。この結果,コイルが許容限度を超えて変形した。(設計の不具合)
② 回転子リムとスパイダーの嵌め合いが作業の管理不足から所定の緊縮力を保持しておら ず,加速時にリムの変形を起した。(据付作業の不具合)
③ 案内軸受のギャップ調整が不十分で,しかも調整用ウェッジの品質不良(表面加工が一
T-te-ru
磁極 回転子 巻線
Tヘッド 回転子リム ダブテール