3. 重大トラブル回避策の抽出
3.4. 発電機の重大トラブル
3.4.3. 発電機の重大トラブルのシナリオとその回避策
以上の事例等に基づいて,発電機および発電電動機の重大トラブルが発生するシナリオを以下 に作成する。先ず,どのような原因で重大トラブルが起こり,発電機のどの部分がウィークポイ ントとなり,どのような被害が発生するかを考察する。
(1) 重大トラブルの発生部位とその原因 (a) 固定子巻線
固定子巻線を構成するコイルは,その絶縁物やコイル押え(ウェッジ)の経年劣化に伴いス ロット内で振動にさらされ,その絶縁層が摩耗する。また,起動停止に伴うヒートサイクルに よりコイル導体は伸縮し,絶縁層と導体間にずれや隙間が生じ絶縁体に微小な亀裂が発生する。
こうなると部分放電がコイル周りで発生するようになり,劣化が促進される。コイルがブラシ の摩耗粉(カーボン)や軸受からの油霧そして湿分で汚損されると,こうした劣化プロセスは
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加速される。最終的にコイルは所定の絶縁性能を失って短絡や地絡事故に至るが,通常は保護 継電器で短時間に系統と切り離されることから,コイルの損傷は限定的である。ただ,稀に保 護が不十分な場合や絶縁方式が古く燃えやすい材料(アスファルトコンパウンドなど)を使っ ている場合,あるいは非常に潤滑油やほこりなどで汚損されている場合は,発電機火災に至る ことがある。固定子コイル辺の接続にはかつてハンダが用いられたが,この部分が過熱を起こ すと溶断してアークを発生し火災に至ることがある。断線は検出が難しいので火災が起きた後 に保護継電器が動作することになりかねない。
(b) 固定子鉄心
固定子鉄心は,起動停止に伴うヒートサイクルや電磁力が作用すると半径方向や円周方向に 変位が生じ,鉄心締め付け構造や固定子枠の基礎構造が不適切だったりすると座屈(バックリ ング)を起こすことがある。特に大型機では鉄心の熱伸びが大きく,半径方向外側に広がろう とする動きを固定子枠が拘束したり,熱伸びを吸収するように固定子枠の基礎部がスライドで きる構造としても,そのスライド量が不均一になったりするとバックリングを起こすことがあ る[50]。
バックリングまでには至らずとも,変形により鉄心の真円度を保てないと回転子と固定子間 のギャップが不均一になり磁気的なアンバランスが発生して,鉄心は繰り返し応力を受け,損 傷したり変形したりする。こうした不均一な電磁力は鉄心の積層板を締め付けるボルトを緩め ることもあり,そうなると電磁振動を起こす。この振動は固定子を構成する薄板積層板間の絶 縁層を損傷させて循環電流が流れるようになり,その部分の鉄心が過熱しさらに損傷域を増大 させることになる。最終的には鉄心の過熱から,固定子コイルの過熱,さらには電気事故とな りやすい。
大型発電機では鉄心を分割して製造し,現地で組み立てるものがあるが,この方式の鉄心は その接合面のボルトが緩んで,鉄心同士が擦れ合い絶縁シートを損傷し,循環電流が生じて過 熱するケースが知られている。特に接合面に固定子コイルを配置すると,その絶縁層が摩耗し て電気事故になる。
電磁振動やヒートサイクルなどから鉄心の締め付けボルトや鉄心固定用の爪が折れたりす ることがある。こうした部材が固定子と回転子の間に挟まると,固定子を大きく損傷すること がある。場合によっては火災の原因になる。
鉄心の絶縁が大きく損傷すると,その補修は非常に厄介である。損傷範囲が小さければ,積 層板の間をこじ開けて絶縁材を挿入する簡易補修も可能であるが,広範に損傷すると,鉄心を 分解して損傷した積層板を取り換えることとなる。当然,その前に固定子コイルの分解も必要 で,多くの場合,コイルは撤去した時点で変形などにより再利用ができず,廃棄するしかない。
結局,固定子をそっくり新しくしたほうが経済的と言うこともある。
(c) 回転子
水車発電機の回転子は火力機に比べれば低速であるが,直径が大きくなるので相当な遠心力 が発生する。この遠心力が回転子磁極に作用すると磁極の基部に大きな応力を発生させる。ま た,磁極基部やコイルの設計によっては,接線方向に働く力が発生することもある。長年,こ うした力を受けると磁極基部(Tヘッドやダブテール)およびその受け手になる回転子リムの 溝部に疲労き裂が発生・進展し,最悪の場合,磁極の脱落とそれに伴う二次損傷が起きる(3.4.2
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項(2)参照)。磁極基部の形状によっては応力集中を起こしたり,磁極を固定するウェッジが 損傷して磁極がぐらついたりすると,こうした疲労が非常に促進されやすい。特に高速大容量 の発電電動機の場合,そのリスクが高い。
回転子コイルはエッジワイズ巻きと呼ぶ平角銅線を絶縁したものを使うが,起動停止のヒー トサイクルで導体は軸および幅方向に熱伸縮を繰り返し,絶縁材の摩耗,はみ出し,変形を起 こすことがある。絶縁材が大きく変形するとコイルも変形して,最悪の場合はコイルの飛び出 しを起こす。その場合,固定子と激しく接触して発電機が大きく損傷することがある(3.4.2 項(3)参照)。
回転子の磁極間の接続片(回転子巻線とダンパー巻線の両方がある)が疲労や過熱で脱落し,
回転子と固定子の間に挟まって後者を損傷することもある。また,界磁回路の一部が地絡した りすると,特定の磁極が励磁されなくなり,回転子の振れ回りを起こすことがある(3.4.2項(3) 参照)。界磁のリード部(コレクタリングから磁極までの配線)も遠心力などで破断して,固 定子を損傷することがある。回転子の底部に設けられるブレーキリングは,大型機では分割構 造とすることが多いが,その一部が脱落したり,取り付けボルトが脱落したりして発電機の損 傷を起こすことがある。
回転子のスパイダー(スポークともいう)には主軸あるいは回転子リムから大きなトルクが 伝達される。形状急変部などで応力集中を起こすと疲労き裂を発生することがある(表 2.15
No.13 参照,4.2.3 項に後述)。特に回転子の固有振動数と主軸から伝達される加振周波数が近
いと共振現象を起こして比較的に短期間で疲労が進む。
(d) 軸受
スラスト軸受は,油切れ(長期間の停止で油膜が失われ起動時に金属接触),メタルパッド の変形(熱変形の不均一),異物(金属粉や水)の混入,表面の異常(フレティング・コロー ジョンやキャビテーション)などで正常な潤滑ができずに損傷することがある。バビットメタ ルが溶融してしまい,工場に持ち込んで鋳込み直すこともある。
案内軸受のトラブルはさらに重大な結果を招くことがある。案内軸受のギャップが規定の値 を大きく超過すると,軸系の固有振動数が低下して危険速度が低下する。最悪の場合は軸系の 異常な振れ回りを起こして,回転子が固定子と接触して損傷させることがある。また,軸受に 過大な力が作用して,軸受支持ボルトが損傷し振れ回りを起こした事例(表 2.15 No.11)も ある。
(2) 発電機の重大トラブルのシナリオと回避策
以上の原因や結果を踏まえて,一般水力発電所における発電機の重大トラブル,特に発電機 火災に至るシナリオとその回避策を図3.23にダイアグラムとして示す。
(a) 固定子コイルは,絶縁体が経年とともに枯れて,ウェッジが緩むとコイルの振動が大き くなり,絶縁体の摩耗が進む。このため,固定子コイルの設計においては,材料の選定,コイ ル絶縁の製作方法,緩みにくいコイル構造およびウェッジが求められる(対策①)。また,オ ーバーホール時などにコイルやウェッジの緩み点検が必要となる(対策①)。
(b) コイルの汚損は絶縁性能と冷却性能の低下をもたらす。このため,油霧の低減,カーボ ンダストの捕集,オーバーホール時の固定子鉄心の清掃(特に通風ダクト部)が求められる(対
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策②)。また,コイルの劣化は温度が高いと進みやすいので,コイル温度を適切に保つため,
発電機クーラの清掃などは適宜に行う。逆洗装置33などを設けて定期的に汚れを落とすのも効 果的である。
(c) 固定子コアの積層板の絶縁は振動やヒートサイクルによる変位で劣化する。絶縁性能が 低下すると循環電流が流れ,鉄心は過熱し,さらに絶縁の劣化が加速するとともに振動も増大 し,最終的にコイルを劣化させる。このため,鉄心劣化の兆候(変色,パウダーの生成など)
を早期に発見する必要がある(対策③)。分割式の鉄心は鉄心合わせ目が振動等でこすれて絶 縁性能を失い過熱することがある。このため,定期点検などで合わせ目部分の過熱,変色,絶 縁紙の状態などを点検すべきである(対策③)。鉄心の状態診断用に,鉄心に磁界を生じさせ 渦電流の発生を検知して鉄心の健全性を測定する機械(商品名:EL CID[57])も有効である(対 策④)。
(d) 長年にわたって使用している巻線については定期的にその絶縁性能を確認する必要があ る。固定子巻線の絶縁性能試験としては,絶縁抵抗,成極指数34,誘電正接35(tanδ),交流電 流試験36などが一般的に行われる。また部分放電測定も一般的な方法である。測定値の結果や 傾向があまり良くない場合は,経年数,事故歴,絶縁材料の性質(可燃性)なども考慮して,
エポキシレジンコイルを使って固定子巻線を更新する。(対策⑤)。
(e) 大型機の固定子鉄心は起動停止に伴う熱伸びで半径方向外側に大きく広がろうとする。
この動きを拘束すると,鉄心に波打ち変形(バックリング)が生じることがある。適切な固定 子鉄心枠の設計37と波打ち変形が生じていないか定期的に点検する必要がある(対策⑥)。 (f) 固定子や回転子の付属品にヒートサイクルや振動が作用して,過熱・溶断,ボルトの緩 み,疲労などにより,付属品が脱落し回転子や固定子を損傷することがある。このため,こう した部品の取り付けにあたっては品質管理を徹底する(対策⑦)とともに,定期点検やオーバ ーホールにおいて,脆弱部位の点検を行い異常のないことを確認する(対策⑧)。固定子並列 回路の接続片が溶断したりすると残った回路が過負荷になって固定子巻線が過熱して危険と なる。温度保護リレーの適切な配置が求められる(対策⑨)。また,こうした付属部品が脱落 した場合でも,大きな電気・機械事故に発展する前に部品の脱落を早期に検出できれば被害を 限定できる可能性がある。一つの対策としては振動や騒音の異常を検出する方法がある(対策
⑩)。
(g) 作業等で発電機内に持ち込んだ道具類を置き忘れたりすると,大きなトラブルとなりや すい。機内の後片づけと清掃(対策⑪),試験運転時に低速で回して異音がないことの確認な どが求められる(対策⑫)。
(h) 同期装置のトラブルが発電機の重大トラブルに発展することがある。特に,系統との並 列時に非同期投入を起こすと非常に大きな事故電流が固定子に流れ,回転子にも大きなトルク
33 発電機クーラの冷却水の流れを通常の方向と逆にすることで,配管内の汚れを落とす装置。
34 絶縁抵抗の1分値と10分値の比から,吸湿の度合いを判定する。
35 コイルは誘電体なので交流電圧を印加すると誘電損が発生する。コイルが汚損や劣化するとこの誘電損が増大 するので,劣化判定の指標となる。
36 固定子巻線に交流電圧を印加して,電圧‐電流特性を測定して異常のないことを確認する。
37 具体的には固定子枠の膨張(半径方向)を固定子ベース部でスライドさせる方式,鉄心と固定子枠の接合部(キ ー溝)に遊びを設ける方式,あるいは固定子枠の半径方向から少し接線方向に偏心させた支持物で基礎と接続す る方式(Oblique type)などがある。