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4. 重大トラブル回避策の検証

4.3. 水没事故

(1) 水没事故の発生とその対応 [21]

(a) 送電線事故と発電所の停電

2008年11月16日11:55,カラヤン-マラヤ2号送電線で1線地絡事故(架空地線断線)

が発生した。送電線保護リレーが動作し,当該送電線に関係する遮断器87KN4および87KN124 がトリップした。出力173MWで発電運転中であった2号機は,送電線事故と同時に主要変圧 器保護継電器が動作して非常停止した(保護継電器の誤動作)。同時に所内変圧器ST3 の過電 流保護継電器が動作して,この変圧器と開閉所母線を結ぶ遮断器86KN8と86KN124がトリッ プした。このためカラヤンの開閉所Y母線につながるすべての送電線や発電機が停止した。当 日は,Y母線につながっていた所内変圧器ST2だけで発電所内の全てに電力を供給していたこ とから,Y母線の停電により,カラヤン発電所構内は完全に停電となった。所内全停電の結果,

発電所建屋内の排水ポンプが停止して排水ピット水位が急上昇し始めた。図4.61に当日の開閉 所遮断器の状況を停電の前後について示す。

図4. 61 カラヤン開閉所の遮断器の状況

(b) 所内復電と水没事故の発生

発電所構内の全停電を受けて,当直員や居合わせた保守担当者は直ちに停電の復旧作業に着 手した。カラヤン発電所には所内全停電時の補機電源確保のために小水力発電装置(ミニハイ ドロ:1MW)が設置されているが,同年9月に起きたミニハイドロ用水圧鉄管のベローズ破断

Before the Incident

230 kV BUS Y

KALAYAAN SWITCHYARD

81KN124 81KN8

81KN4

U1 MT1 MAKBAN

A

82KN124 82KN8

82KN4

U3 MT3 CALAUAN

B

U2 MT2 GUMACA

L1 C

ST1 D GUMACA

L2

83KN124 83KN8

83KN4 84KN124 84KN8

84KN4

U4 MT4 EHV

E

85KN124 85KN8

85KN4

ST2 F

86KN124 86KN8

86KN4 ST3 G L2

MALAYA L1

62.5 MVA

CALIRAYA

H G F E D C B A

230 kV BUS X

87KN124 87KN8

87KN4 88KN4

 U2 was operated as turbine at 173 MW.

 Gumaca L2 was jumpered off at #45 tower.

 ST1 was shutdown due to the repair of tap changer.

After the Incident

230 kV BUS Y

KALAYAAN SWITCHYARD

81KN124 81KN8

81KN4

U1 MT1 MAKBAN

A

82KN124 82KN8

82KN4

U3 MT3 CALAUAN

B

U2 MT2 GUMACA

L1 C

ST1 D GUMACA

L2

83KN124 83KN8

83KN4 84KN124 84KN8

84KN4

U4 MT4 EHV

E

85KN124 85KN8

85KN4

ST2 F

86KN124 86KN8

86KN4 ST3 G L2MALAYA

L1

62.5 MVA

CALIRAYA

H G F E D C B A

230 kV BUS X

87KN124 87KN8

87KN4 88KN4

 Malaya L2 tripped due to the line-to-ground fault.

 U2 tripped due to the activation of transformer protection relay.

 86KN8 and 86KN124 tripped due to the activation of ST3 overcurrent relay.

 ST2 lost the power source, and it resulted in blackout at Kalayaan.

180

事故の復旧作業のために給水元バルブが閉じられており,これを使用して電源復旧する試みは 失敗した。次に,ディーゼル発電機(520kVA)を始動させたが,負荷接続中にトリップし,そ の後再度始動を試みたがバッテリーの電圧低下のため始動不能となった。13:40に送電会社が 管理するベイDの遮断器84KN124および84KN4を入り操作して健全なX母線からY母線を 充電し,ST2を復旧して全停電を終了させた。所内の電源が回復した後,直ちに所内を巡視し

たが,Stage 1発電所(1,2号機を収納)は既に給水ポンプ室まで冠水しており(図4.62参照),

Stage 2発電所(3,4号機を収納)も排水ポンプ室まで冠水していた。電力の回復を受けて排

水ポンプが運転を再開し,Stage 2発電所の水位は正常に復したが,Stage 1発電所は水位が下 がらず,さらに同日19:00頃から水位の上昇が始まり,2日後の11月18日朝には発電電動機 の上まで完全に水没した(図4.63参照)。

この間,Stage 1発電所ではダイバーによる主給水装置の元弁の閉鎖や入口弁シールの閉鎖

作業が試みられた。また,近隣の発電所や公的機関から排水ポンプを借りて,昼夜を分かたず 排水作業に努めたが,水位の上昇を抑えることはできなかった。

(c) 排水作業

11月18日以降,ようやく排水作業を本格化することができ,急ピッチに水位を下げること ができるようになった。しかし,発電所建屋内には大量の潤滑油が浮遊しており(図4.63のこ げ茶色の水面を参照),これを先に処理しないと発電機の汚損をさらに酷くする上に,発電所 外に油流出を起こしかねないと考えた。このため,組立室レベルで水位を保持して,約1週間 24時間体制の人海戦術で油の回収を実施した(図4.64参照)。ドラム缶で作った即席の油水分 離装置を用いて回収した油交じりの水はドラム缶300本に達した。12月4日に漸くすべての排 水作業を完了して,発電所最下部を点検した結果,主給水ストレーナ(冷却水のゴミを除去す る装置)に付属した電動排砂弁3個(図4.65参照)が開状態で吸出し管から排水ピットに水を 放出していることが発見された。その他に出水した可能性のある水車主軸封水装置などを点検 したが異常はなかった。

図4. 63 EL.‐8.6mまで冠水

(2008/11/18, 09:00)

図4. 62 主給水ポンプ室の冠水

(2008/11/16, 15:05)

181

図4. 64 排水ポンプの設置作業(2008/11/17)と油回収作業(2008/11/21)

図4. 65 主給水ストレーナの電動排砂弁

(2) 原因調査

漏水箇所が排砂弁 3個と特定できたことから,本当にここからだけなのか,あるいは他にも 漏水個所があったのか,発電所内の水位上昇を計算した。当初,全く計算が実際の水位と合わず 悩まされたが,これは水位記録が大幅に間違っていたことによる。やはり,非常に混乱した状況 だったことから正確な記録が取られていなかった。この問題は,当時デジタルカメラで写した写 真から正確な水位と時間を読み取ることで解決した。

水位上昇のシミュレーションは,至ってシンプルなもので,排砂弁からの流入量(Qvalve)と 排水ポンプからの吐出量(Qpump )の差と発電所のフロア断面積(Si)から水位の変化(dh/dt) を式(4.8)に基づいて計算した。排砂弁からの流入量は式(4.9)に示すように有効落差(Hvalve) と弁の開口面積(A)と係数(k),排水ポンプの吐出量は式(4.10)に示すようにポンプ揚程(Hpump),

ポンプ出力(P)および効率(η)から計算した(記号の関係は図4.66を参照)。実際の計算はkηの値を適当に調整して,さらにポンプの運転や停止のタイミングや台数なども仮定して,水 位の実測値と合致するように計算した。もちろん,kηの値として不合理でない範囲内で調整 したものである。この計算で得た水位変動を図4.67に示すが,概ね実際の水位を模擬できた。

𝑑ℎ/𝑑𝑡 =𝑄𝑣𝑎𝑙𝑣𝑒−𝑄S 𝑝𝑢𝑚𝑝

i (4.8)

𝑄𝑣𝑎𝑙𝑣𝑒= 𝑘A√2𝑔𝐻𝑣𝑎𝑙𝑣𝑒 (4.9)

𝑄𝑝𝑢𝑚𝑝=(𝑔𝐻𝜂𝑃

𝑝𝑢𝑚𝑝 (4.10)

M

P

CWS Strainer

Water Supply Pump

Drainage Pit

CWS Drain Valve

G/M Coolers

Draft Tube

182

図4. 66 水位計算の説明図

図4. 67 水没時の水位シミュレーション結果

図4.67に示すように,写真から得た時間と水位の関係(図中,緑色の )を精度良くシミュ レーションでき,わずか口径3インチの電動排砂弁3個からの漏水だけで発電所が水没したこと が立証された。水没事故は概ね以下の過程で生じた。

(a) 送電線事故の前に1号機用排砂弁2個と2号機用排砂弁1個が偶々,開状態となってい た。停電の発生に伴い,これらの電動弁は開状態のままとなって,停電が復旧するまでに約

1000m3の水を発電所内に流入させた。

(b) 発電所の停電が復旧した時点でStage 1発電所内の水位は,主給水ポンプ室(図4.67右

図のCWS floor)の床面より高くなっていた。排砂弁はすべて水中にあったため,電気が通じ

M Submerged Water Level

Reservoir Water Level

P

Pump Discharge level

Hvalve

Hpump

S1 S2

P

M

Qpump

Qvalve

0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0 14.0 16.0 18.0 20.0

-40 -35 -30 -25 -20 -15 -10 -5 0 5 10

12:00 18:00 0:00 6:00 12:00 18:00

Inflow& Outflow (m3/min)

Nov. 16 Nov.17 Time (hh:mm)

Water Level in Powerhouse (EL.m)

Actual WL Simulated WL Inflow (valve discharge) Outflow (pump discharge)

Maximum flood level E.L. -8.6m

Turbine Center E.L. -25.0m CWS floor E.L. -29.0m Max. W.level E.L. 3.24m Min. W.level E.L. -0.36m

183 た時に短絡して,開状態のままになった。

(c) Stage 1発電所の3台の排水ポンプは,停電の復旧により正常に運転を始めたが,1台が

すぐに故障して止まった。これは排水ポンプのポンプとモータ間のシールが水位上昇に伴う外 圧の影響によりその機能が維持できず,短絡に至ったと推定された。

(d) 3 個の排砂弁からの流入量と残った 2 台の排水ポンプの流出量は前者が若干大きく,こ のため水位は少しずつ上昇した。18:00過ぎに1台の排水ポンプが短絡事故を起こし,19:00 過ぎにはもう1台も停止して,完全に発電所の排水能力は失われ,翌々日の朝に外部の仮設排 水ポンプが本格的に始動するまで水位は上昇した。

次にどのような要因で,水没に至ったのか,関連する項目を全て洗い出して,その相関を調 べた。この結果を図 4.68に示す。事故の要因を,発電所の全停電が起きる前の段階,発電所が 停電していた段階,そして停電が解消した段階の三つに分けて分析した。この結果は以下の通り となる。

図4. 68 水没事故の要因分析

(a) 停電以前の段階

カラヤン揚水発電所の所内変圧器は3台(ST1, ST2, ST3)あるが,ST1が同年3月に故 障して使用不能であった。ST3は,ポンプ始動装置(1,2号機のポニーモータと全台用の静止 型始動装置)専用に使っており,結局,Y母線につながったST2のみが所内電力を供給してい た。また,ミニハイドロは同年9月に水圧鉄管の伸縮部が破断して,やはり使用不能であった。

このため,所内電源の確保において非常に脆弱な状態にあった。また,1号機は給水ストレー ナの排砂弁を2個同時に開けるように設定していた。通常は1個を開け,もう1個は予備とし ているが,この水没事故の直前まで行っていた1号機のオーバーホール作業で,ストレーナの 詰りが多いとして 2 個の弁を開けるように設定しなおしていた。ただ,こうした変更は CBK 内部の承認なしに行われていた。

Pre-incident During Blackout After retrieval of Power

Continuous leakage from

three drain valves

Loss of drainage capability Water seepage

and short-circuit of motor Use of three

CWS strainers in Stage 1 power

station

Short-circuit of power/control circuits of drain

valves

Transmission line fault Failure of

mini-hydro

Mal-activation of protection relay

of ST3 caused Bus Y into no

power

Power supply to deeply-submerged pumps and

valves

Flood

Inflow of 1000m3 during Blackout

Station transformer No.2 supplied all power from Bus Y Failure of station transformer No.1

Blackout Delayed power

supply by various troubles Continuous

water leakage from three drain

valves

Continuous blackout for 107

min.

Failed startup of diesel generator

Delayed reset of relay

No immediate check of drainage pit

No mean for stopping the water inflow from

draft tube