2. 水力発電所における重大トラブルの概要
2.1. 全般的なトラブルの状況
2.1.3. 電力会社の故障統計の分析
表2.5に国内の電力会社が保有する一般水力発電所52箇所(主機85台)における2004年から 2015年までの12年間中に発生した計画外停止12を伴うトラブル1,062件の設備別内訳を示す。こ の表から明らかな通り,一般水力発電所においては土木設備,水車,給水装置,発電機,監視制 御装置などのトラブルがどれも 100件以上となっており,トラブルが発生しやすい部位であるこ とが判る。トラブルの発生確率は1.041/年・台で前出の電気学会調査報告書の値0.461/年・台
(2003・2004年度に発生した自動停止したものと早急な処置を必要としたもの)と比べると2倍 強であるが,これは土木設備や主回路機器,所内回路機器等も含めた値なので,ほぼ同等と考え る。ただ,「1週間超1月以内」の障害については,発生確率が電気学会の調査に比べてかなり高
12 発電所の停止には,定期点検やオーバーホールのようにあらかじめ計画して停止するケースと故障や事故に伴 って突発的に停止するケースがあり,後者を計画外停止と呼ぶ。
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くなっているが,これは復旧が長期化しやすい土木設備のトラブルを含めたためと考える。
電気学会の調査結果の分析でも触れたが,表2.5でも非常に少数のシビアなトラブルが停止時 間の大半を占めている。1週間以上の停止時間となったトラブルの件数は44件で全体の 4%程度 であるが,停止時間は全体の80%を占めている。特に1ヶ月を超えるような停止を伴ったトラブ ルはわずか12件であるが,それでも停止時間の全体の65%を占めている。
表2.5 一般水力の設備別トラブルの内訳
表2.6に,1週間を超えた44件のトラブルについて,原因別の内訳を示す。前出の保安統計と 同様に自然災害(大半は洪水)と機器故障(発電機や水車,主回路機器,土木設備の経年劣化)
が多い。自然災害の被害は主に土木設備,すなわち取水口設備や導水路,そして放水口が流下物
(流木,岩石,土砂等)で閉塞する事例が圧倒的に多い。これはこの電力会社の一般水力発電所 の規模が比較的に大きく,流れ込み式発電所が少ないため,単純な発電所や屋外開閉所の水没は 稀なことによる。経年劣化に伴う機器の故障については原因が多岐にわたっているが,典型的な ものとしては取水ゲートのカウンターウェイトの脱落,バルブ水車ランナハブからの漏油,軸受 油槽の混水,遮断器の操作機構の故障,ケーブル火災などがある。
表2.6 一般水力発電所の原因別トラブルの内訳(%) 3時間以
内
3時間超1 日以内
1日超1週 間以内
1週間超
1月以内 1ヶ月超 合計
土木設備 68 79 50 11 4 212
水車 71 59 20 8 3 161
入口弁 18 10 3 1 0 32
給水装置 57 61 17 3 1 139
調速機・圧油装置 19 43 18 1 0 81
発電機 47 35 15 2 2 101
主回路機器 19 30 12 2 2 65
監視制御装置 69 58 20 0 0 147
所内回路機器 13 11 2 3 0 29
その他 67 20 7 1 0 95
合計 448 406 164 32 12 1062 構成比率(%) 42.2 38.2 15.4 3.0 1.1 100.0 発生確率
(件/台・年) 0.439 0.398 0.161 0.031 0.012 1.041 停止時間合計
(hours) 589.7 3565.0 8946.7 11489.3 44742.8 69333.5 構成比率(%) 0.9 5.1 12.9 16.6 64.5 100 累積比率(%) 0.9 6.0 18.9 35.5 100.0
故 障 発 生 件 数
停 止 時 間
設計・製作 の瑕疵
保守の瑕疵
(経年劣化) 自然災害 計
土木設備 0.0 9.1 29.5 38.6
水車 2.3 22.7 6.8 31.8
発電機 2.3 6.8 0.0 9.1
主回路機器 2.3 6.8 0.0 9.1
所内回路機器 0.0 4.5 2.3 6.8
監視制御装置 0.0 2.3 0.0 2.3
ポンプ始動装置 - - - 0.0
その他 0.0 0.0 2.3 2.3
計 6.8 52.3 40.9 100.0
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次に,表2.7に7揚水発電所(主機24台)における2004年から2015年までの12年間中に発 生したトラブル250件の設備別内訳を示す。この表から明らかな通り,揚水発電所においてはポ ンプ水車,発電電動機,監視制御装置,ポンプ始動装置,その他などで多くのトラブルが発生し ている。トラブルの発生確率は0.868/年・台で表2.5の一般水力発電所よりも低い結果となった。
主に土木設備のトラブルが少ないことがこの結果をもたらしたと考える。また非常に少数のシビ アなトラブルが停止時間の大半を占めていることは一般水力と同じである。1 週間以上の停止時 間となったトラブルの件数は13件で全体の4%強であるが,停止時間は全体の80%を占めている。
これは一般水力のそれとほとんど変わらない。1 ヶ月を超えるような停止を伴ったトラブルはわ ずか4件であるが,それだけで全停止時間の半分を占めている。
表2.7 揚水発電所の設備別トラブルの内訳
表2.8に1週間以上の停止となった揚水発電所におけるトラブルの内訳を示す。揚水発電所に おいては発電電動機やポンプ水車の機器故障が大半を占めており,自然災害は非常に少ない。揚 水発電所,特に河川流量を発電に利用しない純揚水発電所は比較的に小規模な河川にかなり大規 模な土木設備を建設することから洪水被害のリスクは小さい。一方,機器構成や運転手順が複雑 なことや起動停止が頻繁なことから機器故障が多いと考える。特徴的なのは発電電動機のトラブ ルが多いことである。固定子コアの緩みによるコイルの地絡,励磁回路の損傷,非同期投入13など が典型的な事例となる。ポンプ始動装置の液体抵抗器も劣化損傷しやすい部位である。
13 非同期投入とは発電機を系統に並列するときに,発電機と系統間の周波数や電圧位相を規定の範囲内に一致さ せないまま並列を行うことで,非常に大きな電流が発電機に流れ込み機器を損傷させることがある。同期装置の 故障やヒューマンエラーが原因となる。
3時間以 内
3時間超1 日以内
1日超1週 間以内
1週間超
1月以内 1ヶ月超 合計
土木設備 7 1 1 0 0 9
ポンプ水車 7 20 4 0 0 31
入口弁 4 3 2 1 0 10
給水装置 7 4 0 1 0 12
調速機・圧油装置 2 9 2 0 0 13
発電電動機 20 17 4 4 3 48
主回路機器 5 10 2 2 0 19
監視制御装置 17 26 5 1 0 49
所内回路機器 1 0 1 0 0 2
ポンプ始動装置 3 19 6 0 1 29
その他 21 7 0 0 0 28
合計 94 116 27 9 4 250
構成比率(%) 37.6 46.4 10.8 3.6 1.6 100.0 発生確率
(件/台・年) 0.326 0.403 0.094 0.031 0.014 0.868 停止時間合計
(hours) 119.4 1060.4 1308.7 3583.1 6283.3 12355.0 構成比率(%) 1.0 8.6 10.6 29.0 50.9 100.0 累積比率(%) 1.0 9.5 20.1 49.1 100.0
停 止 時 間 故 障 発 生 件 数
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表2.8 揚水発電所の原因別トラブルの内訳(%)
表2.5および表2.7に示したように停止時間が「1週間超1月以内」のトラブルの発生確率は 0.03件/年・台,「1ヶ月超」のトラブルの発生確率は0.01件/年・台程度である。発電機1台当 たりで考えると,30年に1度とか100年に1度のトラブルとなる。