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水車の重大トラブルのシナリオとその回避策

3. 重大トラブル回避策の抽出

3.3. 水車の重大トラブル

3.3.3. 水車の重大トラブルのシナリオとその回避策

以上の事例等に基づいて,水車およびポンプ水車の重大トラブルが発生するシナリオを以下に 作成する。先ず,どのような原因で重大トラブルが起こり,水車のどの部分がウィークポイント となり,どのような被害が発生するかを考察する。

(1) 重大トラブルの発生部位とその原因 (a) ランナクラック

ランナは高速で水中を回転し,非常に大きな静的,動的な応力を受ける。このため,ランナ 羽根に作用する応力レベルやその繰り返し数が材料の疲労強度を上回ると疲労き裂が生じ,そ の進展によっては安定な運転の継続ができなくなる。現在のように流れ解析や FEM 解析が進 展しても,水中におけるランナや軸系の振動・応力レベルを正確に予測することは非常に難し いとされている。

中・低落差向けのフランシス水車では水車出口のランナ羽根とクラウンあるいはバンドとの 接続部位が最も高い応力を受けることから,ほとんどこの部位でクラックが発生する(3.3.2 項(1)を参照)。水車の振動現象は変動応力の発生と密接に関係するとされている。このため,

ランナやその周囲における水の流れ,特に渦の生成とそれに伴う圧力脈動の発生など,流体振 動が注目される。一般的にフランシス水車の場合,吸出し管内の渦芯が圧力脈動の主たる要因 となる。最高効率点における流量に対して0~40%流量,いわゆるDeep (Very) low loadにおい ては吸出し管内にランダムかつ非常に多数の小さな渦が生成される。このため,吸出し管には ランダムな水圧脈動が発生する。この時の周波数は単位回転速度(1/sec)の1~20倍くらいに 分布する。これが設計流量の60%位になると,吸出し管内の渦芯は発達して周期的に振れ回る ようになる。この時の脈動の周波数は単位回転速度の0.3前後(0.2~0.4)となる。80%流量以 上になると,吸出し管内の渦芯は収まっていき,設計値の 100%流量ではほとんど脈動は消滅

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する[29]。さらに流量を増大させると,吸出し管内ではランナの回転方向とは逆方向に回る渦 芯が発生し,脈動も大きくなるが流量の小さいときに比べて一般的にその値は小さい。これは,

渦芯が吸出し管の中心部に固定され振れ回りが小さいため,吸出し管壁面に及ぼす圧力変動は 小さいことによる。

以上は吸出し管に発生する水圧脈動が主たる振動および応力の発生源とするものであるが,

実際には水圧脈動の大きさと変動応力間ではあまり一致しないことが多い。ランナに作用する 疲労ダメージと水圧脈動の関係の一例を示した参考資料[30]では,ダメージは起動停止時や

Deep low load(20%出力時)が非常に大きく,水圧脈動が大きな60%出力ではあまり大きくな

いとしている。また,同様の結果は参考文献[31]にも示されており,最高効率での運転による 損傷度を1とした場合に比べ,20%負荷近辺では損傷度が106のオーダーにもなるとしている。

無負荷運転あるいは非常に低い低負荷では水車効率は非常に低いが,決して無視できない流量 がランナ内に流れる。この水流が持つエネルギーの多くはランナ内での逆流(Partial pumping) や翼間あるいはランナ出口での非定常な渦となってランナ内で費消されるが,そうした非定常 な流れはランナ羽根に大きな変動応力を生じることになり [32],吸出し管内の渦芯の振れ回り よりもランナ羽根の疲労き裂に直接的な影響を及ぼすと考えられる。

ランナの疲労については,羽根出口端におけるカルマン渦(ランナ羽根後端からの流れの剥 離に伴う渦列)による高サイクル疲労も問題になりやすい。周波数が可聴域に達するほど高く,

非常に短時間でクラック損傷(3.3.2項(2)を参照)に至ることがある。

こうした大きな振動が水車に単純に作用するケースに加え,共振現象の問題がある。吸出し 管内の渦芯による空洞は気体を含むことから圧縮性を持ち,それ自体が固有振動数を持つ。こ のため,加振源の周波数とこの空洞などの振動体の固有振動数が合致すると,共振現象が発生 し,これは大きな圧力変動を水車全体に引き起こす。ケーシング側に伝搬した圧力変動で落差 が変動し出力変動(パワースウィング,表2.14 No.19参照)を起こしたり,建屋や鉄管の固 有振動数と共振して大きな振動変位を起こしたりして安定的な運転が出来なくなることがあ る。ランナの体格が大きく相対的に剛性が低下しやすい大型水車においては,起動時や停止時 に「ランナ」,「水の付加質量」,「主軸」,「発電機」の各要素が連成振動(共振)を起こして,

数十回の起動停止でランナクラックが発生した事例(3.3.2項 (1)参照)が報告されている。近 年は大型の水車でもかつてのようにベース対応でなく負荷調整用に使うケースが増えており,

頻繁な起動停止,急激な負荷変動,長時間の低負荷運転などからランナの寿命を縮めていると 指摘されている。また,落差,負荷(出力),放水口水位が大きく変動する場合には,共振現象 などにより振動が急増する運転点が現れることがある。

フランシス形ポンプ水車の場合,水車運転時にランナ入口のバンドあるいはクラウンとの接 続部位が最も応力が高くなることから,この部位でクラックが発生しやすい。これは低比速度 フランシス水車ではRSIによる応力が無視できないことや高落差化に伴って加振力が大きくな ることに負う。また,ランナ形状が非常に扁平なことから多次の円盤振動モードを持ち,それ に対応する複数の固有振動数がランナに存在する。水中でのランナ固有振動数は大きく気中に 比べ低減し,その低減率も振動モード次数で異なるため,ランナと流体振動が共振を起こして 非常に短時間で疲労き裂が発生することがある[33][34]。こうしたことは,初期の高落差ポンプ 水車において鋳造欠陥の問題もあって重大トラブルとなった(表2.14 No.21参照)。その後,

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共振を避けるランナ形状のチューニングや鋳造の品質管理技術の向上により,概ね解決できた。

しかし,高落差機では起動停止や部分負荷運転時に発生するランダムな振動でも落差が高いた めその加振エネルギーは大きく,これがクラックの原因となることもある(表2.14 No.7参照,

4.2.4項に後述)。

フランシス水車以外では,ペルトン水車はバケットの付け根に交番荷重(ノズルからの流水 が断続的に作用する)が加わることから,この部分にクラックが発生しやすい。海外の文献な どを見ると,バケットが根元から千切れて周囲のハウジング(横軸ペルトン水車なので露出し ている)を突き破ったような写真も見受ける。また振動面では非常に有利な可動羽根水車でも,

鋳造欠陥などが起点になって起動停止に伴う低サイクル疲労によるクラック(表 2.14 No.5 参照)あるいは吸出し管内のサージ(水柱分離)で初期き裂が発生しその後の運転でクラック になった事例[35]がある。

クラックの原因としては,現地での溶接補修の品質管理が悪く溶接欠陥や HAZ(Heat

Affected Zone)部における母材の変性の問題もある(3.3.2項 (3)を参照)。特に,一時,盛ん

に作られた SCS1 製30ランナは,溶接や熱処理の熱影響を受けると結晶粒界にクロムと炭素が 結合しクロム欠乏層を作り,粒界腐食によるき裂が生じやすい。高い変動応力が作用する部位 に現地でキャビテーション補修を行う場合,注意する必要がある。

著者が知る限り,ランナクラックが進展して致命的な大事故,例えばランナが真二つになっ たような事例はない。稀に,ランナ羽根が大きく欠損したり(表 2.14 No.5),バンド部が大 きく裂けたりした事例(表 2.14 No.21)はあるが,一般的には運転を開始した後の初回のラ ンナ点検でクラックの発生が見つけられ,比較的に早い段階で補修されている。逆に言えば,

初回のランナ点検の最大の目的は,クラックの発生を見逃さないためとも言える。

クラックが見つかった場合,当然,その対策や補修を行う必要がある。クラックの原因があ る程度はっきりしている場合,例えばカルマン渦による場合などはドラフト周りの鳴音を測定 すれば原因が判るので,ランナ出口後端を面取りすれば,多くの場合,解決できている。また,

吸出し管内の渦芯の振れ回りに伴う低周波脈動,特にパワースウィングなどが起きた場合は,

吸出し管内に給気したりフィンを取り付けたりして様子を見る。クラック補修も,低落差のラ ンナであれば溶接補修で比較的に容易に直すことができる。海外の発電所などでは数年に1回,

クラックが再発しそのたびに溶接補修で済ましている事例も多い。ただ,頻繁にクラックが発 生して繰り返し補修したようなランナは,構造的に脆弱になっており,別の原因で大きな力を 受けたりしてランナが大きく壊れた事例(3.3.2項(5)参照)がある。

高落差のポンプ水車の場合は変動応力のレベルが大きく,また押し込み水圧が高いため給気 なども効果が薄く大きな問題になりやすい。補修も高応力部のため,普通のキャビテーション 補修のようにはいかず,専門的な知見の下に実施しないと簡単にクラックが再発する。仮にラ ンナを補修できても,抜本的な原因の除去にはランナの更新くらいしか術がない。それが難し い場合は運転禁止帯を設けて,変動応力の大きな領域では運転しないことにするが,それは揚 水発電所の機能を一部制限することになり,大きな問題となりやすい。

30 SCS1(JIS G5121)はマルテンサイト系のステンレス鋳鋼材で,ASTMではCA15に相当する鋼。焼入れ硬化性

のあるステンレスで,耐キャビテーション特性に優れることから,かつては水車ランナに多用された。現在は,

より溶接性に優れるSCS6(ASTM CA6NM)がランナ材の主流になっている。