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火災のシナリオとその回避策

3. 重大トラブル回避策の抽出

3.2. 発電所の火災

3.2.3. 火災のシナリオとその回避策

以上の事例等に基づいて,水力発電所において火災が発生するシナリオを以下に作成する。先 ず,どのような原因で火災が起こり,発電所のどの部分がウィークポイントとなり,どのような 被害が発生するかを考察する。

(1) 火災の原因 (a) ケーブル火災

ケーブル火災はその大半が経年劣化した低圧動力ケーブルで発生している(表2.13 No.1, No.3,No.5,No.9 参照)。低圧動力ケーブルが劣化して発火する原因としては,短絡,地絡,

23 架橋ポリエチレン電力ケーブル:絶縁体に架橋反応により立体網目状構造としたポリエチレンを用いたもので,

絶縁油を用いないことから,OFケーブルに比べて火災のリスクが大幅に低減できる。

24 ケーブルの長さ寸法は,電流の通電・停止に伴う温度変化により膨張収縮を繰り返すが,この変位を吸収・緩 和するためケーブルを蛇行させて布設する。

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過熱がある。一般的に低圧動力ケーブルに用いる CV ケーブル(600V 架橋ポリエチレン絶縁 ビニルシースケーブル: XLPEケーブルと同義)は,比較的に難燃性なことから短絡や地絡など の電気事故により仮に発火しても事故電流が短時間に遮断されれば自己消火して火災になる ことは非常に稀と考えられる。しかし,CV ケーブルが採用される前の時代に建設された水力 発電所では,耐火性能の低いBNケーブル(ブチルゴム絶縁クロロプレンシースケーブル)や EV ケーブル(ポリエチレン絶縁ビニルシースケーブル)などがそのまま使用されているケー スが多い。ケーブルの寿命は一般的に20年から30年と言われるが,実際には50年を超えて 使用されることも古い発電所ではしばしば見られる。

低圧動力ケーブルそのものが電気火災を起こすメカニズムとしては,ケーブルが接続してい る低圧回路で電気事故が起き遮断できずに大電流が流れ続けたケース,ケーブルの絶縁体に異 物(例えば構造物のアングル材)が当たって外傷を生じ導体が露出して短絡・地絡するケース,

長年の過熱でシースおよび絶縁体が炭化し最終的に短絡や地絡に至るケースなどがある。特に,

経年ケーブルの発火は過熱が多く,この原因としては,a. ケーブル端子部が緩んで不完全接触 となりケーブル端子部の温度が上昇するもの,b. 経年劣化で絶縁体にクラックが生じて導体が 露出し,そこに湿気や埃が溜まって漏電し,その後トラッキング劣化25 が進み導体の周囲が炭 化するもの,c. 2本のケーブルを手より接続するなどして接触抵抗により発熱するもの,d. 重 いものが載ったり外力が作用したりして素線切れを起こし半断線の状態になって抵抗が増大 し過熱するものなどがある。

ケーブルの電気事故時の保護が適切にできないと火災のリスクは格段に高まる。動力ケーブ ルは通常,短絡に対しては配線用遮断器あるいはヒューズにより過電流保護を行っているが,

事故電流が小さかったりアークが間歇的に発生したりした場合は配線用遮断器の保護が効か ない場合がある。地絡保護については,三相3線式の非接地方式の場合は地絡電流が非常に小 さく,また地絡保護も一般に設けられないことが多く,損傷が進んで短絡や過熱を起こすまで 異常を検知しにくい。一方,中性点を設けた三相4線式の場合は地絡電流が大きいので適切な 地絡保護があれば検出・遮断できるが,保護が不完全な場合,大きな地絡電流が流れて火災に 至ることがある。

また,ケーブル一本だけの発火なら事故電流の遮断で自己消火する一方,発火点の近くに多 数のケーブルがあると延焼するリスクが高まる。特にケーブルトレイを垂直方向に何段も重ね たり,ケーブル立坑内のように多数のケーブルが垂直方向に布設されたりした場合(表 2.13

No. 3, No.9参照)は発火した時の炎が他のケーブルに延焼しやすい。また監視制御室の階下

に設けたケーブル処理室などは非常に多くのケーブルが集まり,こうした場所でケーブル火災 が起きると非常に延焼しやすい(表2.13 No.1, No. 5参照)。ケーブルの集中の他に,一つの ケーブルトレイ上に動力ケーブルだけでなく,難燃性に劣りしかも保護のない制御・通信ケー ブルが混在して布設された場合,火災の延焼リスクが一層高まる。また制御盤内の配線も延焼 しやすい。制御用と動力用ではケーブルトレイを別にするか仕切り板を設置する,盤内の立ち

25 トラッキング現象は,家庭の電気器具プラグやコンセントの隙間に埃や水分が作用して漏れ電流が流れ,プラ グの絶縁体表面の炭化→電流の増加→微小アークの発生→炭化の増大というサイクルにより,最終的にプラグ端 子間が短絡して発火する現象を主に言う。この現象では,断続的に小さなアーク放電が起きて絶縁物の炭化を起 こし,この炭化がさらに大きなアーク放電を起こすことになる。

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上げ部は不燃性の材料で延焼防止対策を行うことが望まれる。

そのほかのケースとしては,キュービクル火災などがケーブルに延焼して大きな火災になる ことがある。キュービクルの上方にケーブルトレイが多段に積まれていたりすると延焼しやす い。

古い発電所では,既に使われていないケーブルが放置されていたり,課電されたままになっ ていたりすることがある。こうしたケーブルは事故の元なので撤去すべきである。

(b) キュービクル火災

発電所内の電気品(遮断器,断路器,変圧器など)は安全面から鋼板製金属箱すなわちキュ ービクル内に収納している。こうしたキュービクル内の機器が故障すると稀ではあるが火災に なることがある。多くのキュービクル火災は,所内回路あるいは発電機主回路で起きている(表

2.13 No.7,No.14,No.16,No.21参照)。こうした高圧キュービクルでは回路の短絡や地絡時

に非常に大きな電流が流れる。迅速に遮断できれば,まず火災に至ることはないが,遮断に失 敗すると電流アークが事故点で持続し,高温のイオン化した金属蒸気雲が発生して付近にある ケーブルなどを燃焼させキュービクル火災となる。また,遮断器本体が遮断に失敗して火災を 起こすこともある(表2.13 No.14,No. 21参照)。こうした場合,後備保護26が迅速に機能し ないと思わぬ大事故に発展しかねない。

遮断器の遮断失敗や本体の損傷は,遮断器の操作回路の不具合(ボルトの緩みや脱落),シ ーケンスの不具合(例えばトリップ信号端子の緩み),トリップコイルの不良や焼損,遮断部 の不具合(接触子の不良,導体と遮断部の接触不良: 表 2.13 No.21 参照)などが原因となり やすい。営業運転前の試験時とか営業運転からまだ間もない期間では,制御回路の不具合によ る事故も多い。ケーブルの誤接続,保護継電器の整定ミス,保護区間の盲点の見落とし,所内 電源自動復旧制御におけるバックアップ回路の誤投入,計器用変成器の機器や特性の不良など で大きな事故を起こしやすい。

遮断器以外の損傷でも,避雷器(表2.13 No.7参照),小形変圧器,計器用変成器,高圧ヒ ューズ,サージアブソーバ(コンデンサ)などが過熱したり,短絡したりすると火災のリスク が高まる。特に絶縁油を用いた電気機械は後述のように油霧火災のリスクがある。また,建設 期間中などで十分な保護が確立しないまま試験のために通電した時,結線ミスなどが見逃され ると非常に重大な事故になることがある(表2.13 No. 16参照)。

キュービクル火災では隣接するキュービクルの内部配線や外部のケーブルに延焼して発電 所火災に発展することがある。このため,高圧キュービクルの直上に多段のケーブルトレイを 配置するのは,危険と言える。できれば,ケーブルトレンチをキュービクルの直下に設けてそ こから立ち上げることが望ましい。また,キュービクルの天板に穴を開けてケーブルをここか ら引き込むのは,建屋天井からの漏水や結露水がケーブルを伝ってキュービクル内に侵入して 電気事故を起こすことから避けたい。

26 電気回路の主保護とは,発電機とか主要変圧器とか保護対象とする区間を限定して,その区間内部の事故だけ を弁別し高速に事故除去するものである。これに対して,後備保護は,主保護不動作や遮断器不良など,何らか の原因で事故が継続する場合に備え,最終的に事故除去する補完保護である。(電気工学ハンドブック第7 pp.927)

83 (c) 変圧器火災

変圧器や OF ケーブルの端子箱など絶縁油をタンク内に封入した電気機器に内部故障が起 きると,事故電流のアークにより絶縁油が熱分解して大量の可燃性ガスを発生する。タンク内 の圧力が上昇すると,内部圧力によりタンクは爆発することがある。この爆発でタンクのつな ぎ目(フランジ)などが開口すると高温の可燃性ガスが内部の絶縁油と一緒に噴出する。この 高温ガスと油霧(Oil mist)の混合物が周囲の空気と適当な比率で混合して点火すると,油霧爆

発(Oil-mist explosion)が発生する。この二次爆発は最初の分解ガスの噴出による一次爆発に

比べてはるかに大きなエネルギーを持つことから,大きな被害を生じやすい。

変圧器の内部故障としては,コイル絶縁やブッシング(碍管)の欠陥,外部からの雷サージ によるコイルの相間短絡や地絡があげられる。ただ,アーク電流の大きさによっては開口した りしなかったりするし,仮に開口しても二次爆発まで至らないこともある(表2.13 No.12参 照)。一般には直接接地系の変圧器において,高圧巻線の線路端子付近で地絡故障が起きた場 合,電位差が大きいことから地絡電流も大きく,アークのエネルギーも大きいことからタンク の破裂の可能性が一番高い(変電所等における防火対策指針:JEAG 5002-2014 [18] )。タンク の強度不足が重畳すると,さらに危険となる。また変圧器の火災は,高圧側ブッシングの損傷 が原因になることが多い(表2.13 No.6,No. 8,No.10参照)。一番,高い電圧が掛っている 部分なので,この部位が損傷すると致命的な結果になりやすい。我が国の変圧器事故の状況は 参考文献[18]の付録に示されているが,変圧器火災に至った事例4件中3件がブッシングの損 傷による。なお,我が国の場合,地震によるブッシングの損傷が多いが,国内の変電所で1970 年に発生した変圧器火災では,ブッシングの損傷が原因となっている。この事例では,① 輸 送中あるは据付中のミスから高圧側ブッシング内面に微小なき裂を生じさせた,② 風雨に晒 された結果,き裂がブッシング表面まで進展し,絶縁油が流出する一方,内部に水が浸入した,

③ ブッシング内部で沿面放電が起き,内圧が上昇してブッシングが破裂した,④ その中心 導体が変圧器のコイル引出し部に激突して地絡を発生させ,変圧器火災となったというもので あった。また参考文献[19]によれば,こうしたブッシングが原因と考えられる変圧器火災は米

国の735kV変圧器における18件の火災中13件を占めるとの報告もある。

さらに,発電機が高圧同期方式(送電線電圧で系統と並列および解列するもの)の場合,変 圧器の電気事故で並列遮断器を開操作しても発電機を切り離すことができない。この場合,発 電機は界磁遮断器を開としても自己励磁により電力をある程度,発生し続ける。このため,ど うしても事故電流の遮断が遅れて事故の損傷が拡大しやすい。高圧同期方式は,低い発電機電 圧でも大きな事故電流を遮断できる大容量発電機遮断器が実用化される前までは大型の発電 機にはごく一般的な方式であったことから,現在も多くの大水力発電所や揚水発電所に残って いる。こうした発電所には地下式の発電所も多いので,特に気を付ける必要がある。

(d) OFケーブル火災

OFケーブルも絶縁油を用いることから火災のリスクは高い。このOFケーブルはかつて超 高圧電力ケーブルとして多用されたが,現在はXLPEケーブルを専ら使うことから,OFケー ブルの大半は古い発電所に残っている経年品となり,さらにそのリスクは高い。OF ケーブル の火災はそのほとんどが,端末部や中間接続部などの弱点部位(表2.13 No.15,No.18,No.19,

No.22 参照)で起きている。