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4. 重大トラブル回避策の検証

4.2. 水車・発電機の重大トラブル

4.2.4. ランナクラックの発生

(1) クラックの発見とその補修 [9]

2008年2月,3号機ポンプ水車ランナのNo.2羽根において長さ150mm,深さ5mmのクラッ クが見つかった。CBK は直ちにキャビテーション壊食の溶接補修方法に従って補修したが,同 年6月同じ個所に長さ213mm,深さ23mmのクラックが再度見つかった。クラックの発生個所 は,水車入口部の羽根とバンドを溶接接続した部分の近傍で,羽根の負圧面のほうが圧力面より クラックが進展していた。1号機および4号機も同一設計のランナを有することから緊急点検し た結果,同様のクラックが1号機に2か所,4号機に1か所(図4.29参照)見つかった。ただ,

1号機のランナはガイドベーン枚数が24枚と3,4号機の20枚と異なる影響もあったようで,

一つはバンド側,もう一つはクラウンとの接合部位に発生していた。また,1号機のクラックは ランナ羽根方向ではなく,バンドおよびクラウンの方向に進展していた。4号機は3号機と同様 に羽根の入口から奥に向かって一直線に進展していた。

図4. 29 4号機のランナクラック(左図は圧力面,右図は負圧面の状況)

補修は,国内重電メーカの協力を得て,CA6NM 材のランナと同等の強度特性が期待できる マルテンサイト系のER410NiMo溶接棒を使って実施した。この溶接棒は,後熱処理を必要とす るが,高応力となるランナの入口部の補修に適することから選定した。

1 号機はクラックがバンドやクラウンに進展しており,吊り出して補修するしかなかった。

ちょうどオーバーホールを予定していたので,組立室に運び出して溶接補修を行った(図 4.30 参照)。一方,3,4号機は実際の補修工事開始までその準備等から時間が掛るため,応急処置と してφ40mmのストップホールを加工して,2か月近く運転した(図4.31参照)。また,補修溶 接もランナの原位置で行った。

クラックの補修を終えて,原因調査を本格化した。最初にクラック部位から試料を採取して

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破面を観察したが,クラック始端部については既に磨耗しており,初期クラックの発生について 原因究明に繋がる結果は得られなかった。このため図4.32に示すフォールト・ツリー(簡易版)

を状況証拠や観察結果に基づいて検討した結果,疲労き裂が最有力との結論を得た。

図4. 32 フォールトツリーによる原因推定 [6]

Resonance

OR

Fatigue cracks

High dynamic stress

AND

Micro defect for generating incipient crack

Big vibration

Thin blade thickness

Fast propagation of cracks Low minimum

output High stress

concentration Runner having 7- blades has low possibility of resonance.

Three years had been passed from the commissioning.

No record of any abnormal incident.

No. 3 runner has a crack again 5 months later from the repair.

Minimum output was near the no-load . Blade

thickness of No.3 runner is a half of No.2 unit.

Low Possibility HighPossibility Existing of large

casting/welding defects or high remaining stress or any abnormal damage.

AND Generation

of cracks

Welding of runner vanes with band /crown Indications less than 1/16 inch are ignored.

図4. 31 4号機のストップホール

図4. 30 1号機の溶接補修

157 疲労き裂と推定した理由は;

(a) ガイドベーンとランナベーンの動静翼干渉による共振現象は,7枚羽根ランナと20枚の ガイドベーンの組み合わせではあまり前例がなく考えにくい。また製造時に大きな欠陥が見過 ごされた,応力除去の失敗で高い残留応力が発生した,あるいは一過性の衝撃を受けたなどの 可能性も,製造・保守記録から低いものと判断された。実際には,ランナは脱落した給水口ス クリーンや外部からの異物(トラックのタイヤホイールなど)と衝突して多数の傷があったが,

へこみ傷なのでクラックの原因とは考えにくかった。

(b) クラック発生部位は,ランナ製造時に羽根をバンドやクラウンに溶接で接合した部位で ありクラックの起点と成りうる溶接欠陥が多数存在すると考えられた。工場におけるランナの 製品検査でも微小な欠陥の検知は非常に難しいことから,規格で定められたサイズ以下の欠陥 は許容せざるを得ない。

(c) 高い平均応力と変動応力がクラック発生部位に発生していたことは明らかである。これ は,2009年2月,3号機ランナにおいて2か所のクラックが新たに見つかり,特にその一つは 前年9月の本格的なクラック補修部のごく近傍に再発したもので,わずか5か月しかもたなか

った。4.2.1項に述べたように,当時は無負荷付近まで日常的に運転しており水車軸受の軸振れ

の最大値は300μmに達していたこと,1,3,4号機のランナ羽根入口部の厚みは29mmしかな く,クラックが発生していない2号機の55mmに比べ半分しかないことなどから応力レベルが 高いと推測された。なお,機器製作者が提出したランナの FEM 計算結果でも,水車入口負圧 面の羽根バンド部でフォン・ミーゼス応力が100MPaと高応力部になることが確認された。

(2) 変動応力測定の実施

クラックの発生原因は状況から疲労き裂であることに疑いの余地はなかったが,その対策と なるとほとんどなく,ランナの更新あるいは最低出力の引き上げによるRough operating zoneの 回避しか考えられなかった。ランナの更新となると,5年程度しか使用していない高価なランナ を1,3,4号機用に3個も新しくする上に,その製作期間も数年に及ぶことから非常に難しいと 考えた。このため,最低出力を大きくしてランナに作用する変動応力を小さくしてクラックの再 発を防止することを企図した。

しかし,最低出力の増大は周波数調整幅の縮小を意味し,受電会社(フィリピン電力公社:

NPC)の了解事項で,その実現には非常に困難な交渉が予想され,最悪の場合には訴訟まで覚悟 する必要があった。このため,定量的な疲労き裂の原因分析が不可欠との結論に至った。また,

最低出力の引き上げを交渉するにしても目標の数値が不明では交渉にならないと考えられた。

こうしたことから,実機の変動応力測定を行うことを決断したが,国内で今まで事例の多い 主軸内に配線してFM電波でデータ伝送する方式は,主軸に貫通穴がないため不可能であること が判明した。このため,図 4.33 に示すように,ポンプ水車ランナコーンの下部に防水容器を取 り付け,その中にデジタル記録計(共和電業:ユニバーサル・レコーダEDX-100A)を密封して,

ランナと一緒に回転しながらデータを取得する方式とした。測定装置の製作には日本の重電メー カの協力を得て行い,さらにメーカOBのコンサルタントに専門的な指導を仰いだ。今まで国内 では前例のない方式なので,工場で回転試験などを行って測定装置の健全性を確認した。

現地においては,4 枚のひずみゲージをランナ羽根の水車入口バンド付近に貼り付け,流水 で剥がれ落ちないように厳重にコーティングを行った。またゲージからの配線も羽根表面に凹凸 を溶射により作って,その上に配線した後,コーティングで保護した。測定開始の前日にすべて

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の準備を完了し,24時間タイマーをセットした後に封印した。2010年9月27日に3号機を使っ て実働変動応力測定を実施した。

(a) Data recorder without container

(b) Locations of strain gauges and recorder

(c) Strain gauges on runner vane

図4. 33 ランナ羽根実働変動応力の測定装置 [6]

(3) 変動応力範囲の測定結果

図4.34に変動応力範囲の測定結果を示す。無負荷から85MW付近までの変動応力が計測でき たが,30~60MW の範囲にピークが発生しており,これは今まで電源開発㈱の揚水発電所で計 測した他の事例とは異なる結果であった。すなわち,沼原発電所の測定結果などでは無負荷領域 が一番応力レベルは高く,その後は負荷の増大とともに応力は減衰していたが,カラヤンでは 50MW付近にピークが発生していた。

図4. 34 変動応力測定結果(赤は応力,青は発電機出力) [9]

図4.35,4.36,4.37,4.38に出力10MW,30MW,50MW,80MW時の測定データを示す。80MW 時のデータを見ると,吸出し管内の渦芯による低周波成分が現れているが,それ以下の出力では,

いずれも非常にランダムな波形となっている。また共振現象は見られない。周波数のピークは,

動静翼干渉に伴う100Hz (=ガイドベーン羽根枚数(20枚)x基本回転周波数(5Hz))が卓越 している。但し,サイドオピニオンとして,単に動静翼干渉による圧力変動だけではなく,羽根 入口における水流の剥離による乱流渦が生成して大きな圧力変動を起こしているのではないか

Lead wire

Strain gauge

Data recorder Container Runner

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との見解を得た。ガイドベーン出口流れ流速の不均一(ガイドベーン後流では流速小)によりラ ンナ羽根がガイドベーン後流を通過するたびに,流れの相対流入角が変動し,これが流れの剥離 を生じているとのことである。一般的に動静翼干渉は,ガイドベーンの後端がランナ羽根入口に 近づく大出力時のほうが大きくなるが [10],カラヤンの場合は低出力側に大きな変動応力が発 生している。このため,低出力時に大きな 100Hz の加振周波数が観測されたことは流れの剥離 の影響が大きい証左とも思えた。

図4. 35 出力10MWにおける測定データ

図4. 36 出力30MWにおける測定データ

図4. 37 出力50MWにおける測定データ