3. 重大トラブル回避策の抽出
3.2. 発電所の火災
3.2.2. 最近の火災事例について
(1) 米国 Watts Bar 発電所におけるケーブル火災 [13]
(a) 被災の状況
2002 年 9 月 27 日 08:15 に米国テネシー州の Watts Bar 発電所で火災が起きた(表 2.13 No.9)。この発電所は 1939 年から 42 年にかけてテネシー川流域公社(TVA) によりテネシ ー川に建設された水力発電所で,主機5 台,総出力は175MW である。
火災はダム堤内の発電所から右岸に位置する制御所につながるケーブル立坑内で発火し,そ れが他のケーブルに延焼し,さらに立坑上部からケーブル処理室,そして監視制御室に広がっ たものであった。
火災調査の結果,ケーブル立坑内の480V動力ケーブル(ブチルゴム絶縁)2本が火元であ ることが判明した。これらのケーブルは点検用の鋼製グレーチング足場に直接,接触するよう な配置になっており,長年のケーブルの伸縮や振動等の繰り返しによりグレーチングとこすれ て絶縁層が損傷し導体が露出してグレーチングに1線地絡し出火したと判明した。このケーブ ル立坑内はダム内の発電所から制御所建屋に向かって常時,微風が吹いており,これによりさ らに火勢が強まり一気に燃え広がった。
火災が起きた時,制御室には 5 名の所員がいたが,煙に気付いて逃げるのが精一杯で通報 が遅れ,2 人は煙を吸って病院に搬送された。また発電所内には複数の保守員が火災の影響で 停電し真っ暗になった現場に取り残されたが,偶々作業長が懐中電灯を持っていたことから無 事に避難できた。近くの地元消防隊や隣接する TVA の二つの原子力発電所から消防隊が駆け
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つけた。火勢が強く消火はなかなか進展しなかったが,出火から5時間後に漸く鎮火した。
復旧には US36.3M$を要した。また発電所は制御装置が焼損したため運転ができなくなり,
運転停止に伴う逸失利益が1 日あたり10万ドル(1MW・年では0.2M$に相当)に達したとの ことである。
(b) 得られた教訓
この災害で明らかになった主な事項は以下となる。
① ケーブル立坑内はケーブルが密集しており,炎は上に向かうので他のケーブルに延焼 しやすい。また,こうした立坑内の火災では煙突効果により新鮮な空気が大量に供給 されることから非常に火勢が強くなる。
② ケーブル立坑の上に覆いかぶさるように制御棟があるため,熱が室内に籠って非常に 高温(600℃以上)になり,制御棟内の全てのものを燃やし尽くした。
③ 古い発電所であったことから NFPA(米国消防協会)が定めた規程[14]に準拠してお らず,防火対策や避難設備が不十分なことが判明した。具体的には,非常用照明の不 備,ケーブル立坑内の火災報知器の不備,制御室と発電所間の連絡手段が火災で容易 に遮断されたことなどである。
④ 運転開始から長期間,ケーブルを更新しておらず,その点検もされていなかった。ま た布設方法もグレーチングと接触した状態が放置されていた。
⑤ 制御室内の職員が火災に気が付いた時には既に室内に煙が侵入した後で,非常に危険 な状況だった。また発電所内の職員もあわや,逃げ道を失うところであった。
⑥ 地元消防隊とTVA 消防隊による消火活動がなされたが,相互の連絡手段がなく連携 が不十分であった。
TVA はこの火災の後,全ての水力発電所についてNFPA 規程に合致しているかを調査する とともに平素から地元消防隊と協力体制を築くように改めた。特に定期的に地元消防隊員を発 電所に迎えて内部の配置を覚えてもらう,共同の消火訓練を行う,共用の携帯無線装置を装備 するなどである。
(2) 米国 Thermalito揚水発電所 制御室のケーブル火災 [15]
(a) 被災の状況
2012年11月22日06:50,米国カリフォルニア州のThermalito揚水発電所(114MW,1968 年運転開始,California Department of Water Resources (DWR)の所有)の制御室下階から出火 した(表2.13 No.5)。火災による煙は非常に酷く,同日13:00には地元消防士による消火活動 もストップしたほどであった。結局,下火になったのは翌日で,最終的に鎮火するには更に1 日掛かった。この発電所は半地下の5 階建であるが,地下2階の制御室(EL.149f Floor)と その下階(EL.136f Floor)が炎と煙で酷く損傷した。制御盤やケーブル,それに天井のコン クリートも鉄筋がむき出しになった。また,水車や発電機も煙と煤で汚損された。
原因は,制御室内に設置していた制御盤と125V DC電源間を結ぶ直流動力ケーブル(導体 断面積 14mm2 相当)が階下のケーブル処理室から制御室に立ち上がる部分で発火したと推定 された。この部分の損傷の程度が一番酷いことに負う。
被害は広範に及び,煤や煙の清掃費用だけで 90M$,機器の更新などを含めると最大
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135M$が見込まれており,最終的な復旧は 2018 年に完了する見込みとのことである。ケーブ
ル火災の怖さを端的に示した事例と言える。
(b) 得られた教訓
この災害で明らかになった主な事項は以下となる。
① ケーブル処理室から監視制御室に立ち上がるような箇所はケーブルが密集しており,
火災のリスクが高い。
② ケーブルの火災シミュレーション実験で短絡事故と直流アーク事故21を模擬したが,
発火しても配線用遮断器(MCCB: Molded case circuit breaker)が開放されると火災は 持続しなかった。結局,直流アーク事故が根本的な原因(Root cause)と目されたが,
非常に火勢が強く証拠となるものを全て燃やしてしまったことから最終的な原因の 特定には至らなかった。
③ 火災を増大させた原因としては,劣化したケーブルの存在,ケーブルトレイ内に電圧 が異なるケーブルが混在した点,ケーブルトレイ内に大量のケーブルを布設した点,
フロア間の延焼防止がなかった点,消火装置が壊れて機能しなかったこと,図面類な ど大量の可燃物が発火点の近くにあったことなどが問題とされた。
④ 延焼防止対策の必要性,火災や煙の遠隔モニターの必要性,消火装置の定期的な点検,
劣化ケーブルの更新,一つのケーブルトレイ内に各種ケーブルを混在させないこと,
可燃物を付近に置かないこと,火災報知器の改善,低圧動力ケーブル(AC/DC)の保 守方法の改善(サーモグラフィなどによる温度監視を含む)などが,教訓としてあげ られた。
参考資料[16]によると,ケーブル火災は大量の煙と煤を発生し,ゆっくり延焼するとしてい る。特にケーブル立坑や4段も5段も重ねたケーブルトレイ,制御ケーブルと動力ケーブルの 混在,一つのケーブルトレイに多くのケーブルを重ねて布設する方式などが危険を増大させる としている。著者もフィリピンの揚水発電所において制御棟の地下ケーブル通廊においてケー ブル火災を経験したが,この原因は空調用の電源ケーブルが加熱発火したものであった(4.4節 に後述)。この時,ケーブルトレイ内には非常に多くの制御用電線や通信線が乱雑に通線されて おり,その多くは全く使用されていなかった。このThermalito発電所の火災と類似していると 感じられた。
(3) 米国 Detroit 発電所 13.8kV 所内回路でのキュービクル火災 [17]
(a) 被災の状況
2007 年6 月18 日00:35,米国オレゴン州Salem の南東40 マイルに位置するUS Army Corps of Engineers (陸軍工兵隊)が保有するDetroit 水力発電所(2 x 50MVA)の13.8kV 所内回路 において電気火災が発生した(表2.13 No.7)。事故は隣接のBig Cliff 発電所(Detroit発電所 の下流2.8 マイルに位置する発電所)との13.8kV連系線(Detroit 発電所の所内回路に接続)
の碍子が壊れて起きた地絡故障が発端であった。この地絡事故の約90 分後にDetroit 発電所の
21 DC series arcing fault:導体中の接触不良などで高抵抗が生じ加熱により素線が溶断し,内部アークが発生して
最終的に発火する事象と同文献にある。
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当直員は13.8kV連系線を再充電したが,接地事故は継続していたため13.8kV 回路の健全相電
圧が上昇し,サージアレスタから出火した。この2 度目の地絡事故に対して13.8kV回路の地 絡保護リレー は正常に作動したが,当直員が遮断器を手動操作の状態にしていたためトリッ プせず,サージアレスタに接続している母線を通じて周辺の遮断器(2 台)や限流リアクトル なども損傷させた。結局,屋外開閉所の後備保護継電器(この場合は過電流保護リレー)が動 作して連系線をトリップさせるまで事故電流は継続した。
火災の原因としては以下の事項があげられた。①2004 年に更新したサージアレスタが所定 の定格電圧12.7kVではなく,定格電圧10.2kVのものが納入されていた。②運転員が永久地絡 した回路を十分,確認せずに再充電した。③1号変圧器の保護継電器は固定子更新に併せた変 圧器作業でロックされていた。④屋外開閉所のパイロットワイヤ方式による保護継電器に建設 当初から欠陥があった。⑤限流リアクトルが地絡電流を制限し屋外開閉所の後備保護継電器の 動作に時間が掛かった。
復旧工事は,火災で発生した多量の煙や煤で発電所内が汚損されたため,この清掃や発電機 の固定子コイルの更新工事も含めて25M$に昇った。工事は 1 号機が 2008 年4 月,2 号機は 2009 年3 月に完了した。
(b) 得られた教訓
この災害で明らかになった主な事項は以下となる。
① サージアレスタの定格電圧が仕様と異なっていた。納品チェックや受領試験のやり方 や体制に不備があった。
② 当直員は最初の地絡事故の発生にも拘らず,その被害を十分確認せずに当該回路を再 充電した。また,そのために遮断器を手動操作して事故の拡大を招いた。
③ 屋外開閉所の保護継電器に問題があったにも拘らず,是正されてこなかった。古いシ ステムでも不具合があった場合は見直しが求められる。
④ 2004年に更新した所内開閉機器についての運転や保守に対する訓練が不十分でマニ ュアルも更新前の機器のものしかなかった。
⑤ 電気図面類が実際のそれと異なっていた。このため,当直員が保護継電器を誤って停 止させた。常に最新の図面を準備する必要がある。
⑥ 図面,鍵,特殊ツールなどに容易にアクセスできる必要がある。この火災では配電盤 室にこうした重要なものが集まっており,火災直後にアクセスができなくなった。
⑦ 火災直後に現場に行くことは,一酸化炭素や煙に含まれた有害物質の問題に対する専 門知識がないと非常に危険である。火災直後の検証作業(有毒ガスや煙の重金属を防 ぐため防護マスクを装着)における行動基準を準備しておく必要がある。
⑧ 火災の後に水車が漏水で回転していることが判ったが,圧油がないので停止できなか った。可搬式のディーゼル発電機により電源を確保して停止したが2日間近く回り続 けた。また排水ピットも満杯になっていたので,同様に電源を確保して対処した。
⑨ 発電所からの避難行動を向上させる必要がある。
⑩ 取水口ゲートが完全に閉まらない事態に至ったことから定期的な点検が必要である。