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発電電動機スパイダーのクラック

4. 重大トラブル回避策の検証

4.2. 水車・発電機の重大トラブル

4.2.3. 発電電動機スパイダーのクラック

(1) クラックの発見と初期対応 [6] [7]

2006年5月11日,3号発電電動機回転子のスパイダーにおいて,8本のアーム全てにクラッ クが見つかった。4号機も同じ構造であるため緊急調査をしたところ,図4.21に示すように全周 にわたってクラックが進展していた。

このスパイダーは図4.22に示すように上下2枚の水平部材(内側リングと外側リングを8本 のアームで接続した二重リング)を縦ブレースで一体化する構造であるが,クラックは下部の水 平部材のアームが内側リングと突合せ溶接された角部において始まっており,4号機は全周にわ

149

たっており,3号機は縦ブレースを少し超えたあたりで止まっていた。また一部の縦ブレースに もクラックが進展(最大長さ 350mm)していた。スパイダーは上部円盤と縦ブレースが概ね健 全なことから,直ちに構造的に不安定になることはないと考えられたが,早急な補修が必要とさ れた。

図4. 21 4号機回転子スパイダーのクラック

図4. 22 回転子スパイダーの構造

補修は,同年5月から8月にかけて,現地においてクラックの除去と再溶接そしてスティフ ナーと呼ぶ補強部材(図4.22 緑色の部材を参照)を追加して実施した。原因調査も並行して機 器製作者が行ったが,明らかに責任回避を意図した不満の残る内容であった。すなわち,①実機 の変動応力測定を実施したが,何のデータも開示してこなかった,②クラックのサンプルを送っ たにも拘らず,その所見が全く示されなかった,③前年とその年の初めに発生した2回の非同期 投入事故40に伴う過大な電磁トルクで塑性的に初期クラックが生じ,これは FEM 計算で立証で

40 同期装置の回路設定と母線電圧の信号ケーブルの接触不良により,系統並列前に同期条件が不成立にもかかわ Cracks

Crack propagation

After repair Stiffener

150 きると言うものであった。

これに従えば,非同期投入事故を回避できれば二度とクラックは発生しないことになる。

(2) 変動応力の実測

非同期投入事故時のカラヤン発電所相手端における事故電流の測定記録を入手し,それを解 析した結果,初期クラックを生じるような過大な事故電流は 4 号機に流れておらず,さらに 3 号機はそのような事故を経験していないので,一過性の現象でクラック生成の原因を説明するの は困難と考えた。また,クラック進展部位のサンプルには明らかにビーチマークが付いており,

初期クラックの成因は不明ながら(クラック始端部は磨滅していた),少なくともスパイダーの 下部円盤に360°進展するようなクラックは疲労き裂でしか説明できないと判断した。

こうしたことから,機器製作者の原因追究は十分でないと判断した。また,その補修工事に ついても,クラックの再発がないと確信できる対策になっているのか判断が付きかねた。このた め,独自に変動応力を測定して,納得のいく原因追究を行うしかないと結論づけた。

変動応力の測定は,こうした経験のあるところに委託するしかないので,当該の発電電動機 の機器製作者とは縁のない日本の重電メーカに委託することとした。但し,あくまでも変動応力 の測定のみの委託で,その結果の評価等は別途CBKが行うものとして契約した。

測定は,発電電動機の回転子スパイダーのクラック発生部位に近い位置にひずみゲージを張 り付け(図4.23参照),発電電動機上部に設置した送受信機でFM電波によりデータ伝送を行っ て計測した。この時は,既に補修作業は完了した後なので,補強用のスティフナーの角部で計測 した。このため,クラック進展時の状況とは異なる条件で計測するしかなかった。

図4.23の測定位置④における測定結果の一例を図4.24に示すが,8,20,32,50MWのいず れの出力においても12.5Hzの周期的な変動が発生している。また,吸出し管内の振れ回りに起 因すると思われる 1Hz 以下の変動も見られる。図 4.25 に出力を横軸とした変動応力範囲(p-p 値)の測定結果を示す。明らかに発電機出力 30MW付近に変動応力範囲 34MPa(p-p 値)のピ ークをもつ特徴的な変動応力が観測された。また,発電電動機の回転系のFEM計算を機器製作 者が行った結果,ねじれの固有振動数が12.5Hzとなり,前述の周期的な変動応力の変化と一致 することが判明した。すなわち,発電電動機のスパイダーを含む回転系が12.5Hzで共振を起こ しているとの結論を得た。

図4. 23 変動応力の測定位置

らず,並列遮断器が「入」になり,発電機が非同期投入された。この結果,発電機に過大なトルクが発生すると ともに並列遮断器が破損した(表2.16 No.3参照)

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図4. 24 変動応力の測定結果(発電機出力=8,20,32,50MW)

図4. 25 変動応力の測定結果(出力‐変動応力)

(3) 変動応力測定結果の評価 [6]

実測した変動応力範囲と運転経歴を使って累積疲労損傷度を求め,疲労き裂が発生するか否 かを判断した。

累積疲労損傷度Ddは以下の式で表せる。

𝐷𝑑 = ∑𝑛𝑁𝑖

𝑖 (4.1)

ここで,ni はある変動応力範囲Δσi が何回材料に作用したかを表すサイクル数である。Niは,

その変動応力範囲 Δσi で疲労き裂を発生するサイクル数で,S-N 線図から得られる。図4.26に 例示したS-N線図に基づいてこの累積疲労損傷度の考えを示す。ある応力変動範囲Δσ1=50MPa が実際の運転でn1 =8 x 105回,材料に作用したとする。一方,このS-N線図ではΔσ1=50MPa に対応するN1は1.4 x 106となるので,累積疲労損傷度は,(8 x 105)÷(1.4 x 106)=0.57と計算 できる。また,Δσ1=50MPaに加えて,Δσ2=30MPaが3x107回作用した場合,対応するN2は6 x 107なので,累積疲労損傷度は,{(8 x 105)÷(1.4 x 106)}+{(3 x 107)÷(6 x 107)}=0.57 + 0.5=1.07 となる。ここで累積疲労損傷度が1.0を超えると言うことは,疲労き裂が発生することを意味す る。なお,Δσ3=15MPaの変動応力範囲が1 x 108回作用しても,このN3は無限大なのでΔσ3

1 sec.

1 sec.

1 sec.

1 sec.

出力=8MW

出力=50MW 出力=20MW

出力=32MW

152

15MPaの疲労損傷度は0となり,疲労には影響しないことになる。

図4. 26 S-N線図と累積疲労損傷度

実際の累積疲労損傷度の検討は以下とした。

(a) 初期クラック発生の原因追究には,S-N線図としてEurocode 3(EN 1993-1-9) [2]の「カ テゴリー50」を採用した。Eurocode 3を採用したのは,機器製作者がこれに従って本件の報告 書を作成したのに対応したものである。「カテゴリー50」の選定は,疲労き裂が発生した部位 が応力緩和部を設けずほぼ直角に溶接されていた実機の形状を反映したものである。応力緩和 として適切なRを持つ通常の「突合せ溶接」であればもっと高いカテゴリーが適用できるが,

R のない実機の形状から「付属品やスティフナーの溶接」である当該カテゴリーを適用した。

また,クラックが発生した部材の厚みが40mmであったことから,規格に従ってS-Nカーブの 補正をした。

(b) 図4.24に示した実測データは,クラック補修工事でスティフナーを取り付けた後で最も 応力が高くなりそうな位置で測定したものである。このため,当初のクラック発生位置よりか なり外側に寄っており,応力変動範囲は小さな値が計測されたと考えられた。このため,回転 子磁極からの半径比1.3を応力変動範囲に乗じて補正した。すなわち,実測データの34MPaは

44.2MPaと評価した。

(c) 変動応力範囲を20MPaから45MPaまで2.5MPaピッチの11区間に分けて,No-load, 8MW,

20MW, 32MW, 50MW, 64.5MW,77.5MWの各出力における実測データ(図4.24参照)

から1分間に発生したそれぞれの応力変動範囲を持つ波形を数えた。例えば,32MWの出力に

おいて41.25MPaから43.75MPaにある波形が1分間に10個発生していたなら,42.5MPaの変

動応力の繰り返し数を10(cycle/min)と数えた。20MPa以下の値は,疲労限度以下として無視 した。

(d) クラックが発見されるまでの,運転記録に基づいてどの運転出力で何時間運転したかを 調べた。

(e) 補修後の溶接部位については,スティフナーの追加により十分な応力緩和が確保された

ことからEurocode 3の「カテゴリー90」のS-Nカーブを適用して,疲労き裂の発生を評価する

こととした。

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図 4.27左図に補修工事の実施前における 1 分間の各変動応力範囲の発生数 (cycle/min)を グラフ化して示す。出力32MWにおいて一番大きな変動応力が一番数多く出現しているが,出 力20MWおよび50MWでも大きな変動応力が発生していることが判る。

この 1 分値の出現回数に各出力の運転時間を乗じてトータルのサイクル数を求め,式(4.1) を用いて累積疲労損傷度を計算した結果,Dd=3.86を得た。この値は,1.0より十分大きいこと から,疲労き裂の発生が裏付けられた。各出力別の損傷度を表4.4,また各応力変動範囲とその サイクル数をS-N線図上にプロットした結果を図4.27右図に示す。

図4. 27 各変動応力範囲の出現回数(左図)とS-N線図上の応力変動範囲毎の損傷度(右図) [6]

表4. 4 各出力別運転時間と損傷度(4号機)

出力(MW) 運転時間 損傷度 起動 起動回数850回

起動時間 43h

0.02

8MW 37h 0.01

20MW 680h 0.68

32MW 955h 1.63

50MW 1222h 1.24

64.5MW 1148h 0.22

77.5MW 1381h 0.06

77.5MW超~185MW 発電1965h 0

全揚水運転時間 揚水4930h 0

同様の計算を,補修工事を終えた発電電動機についても行った。図4.28左図に1分間の変動 応力範囲の出現回数を示す。こちらは,実測データをそのまま使えるので,最大値は35MPaと

して,2.5MPaピッチに区分した。また,今後の20年間の使用でもクラックが発生しないことを

確認するため,総運転時間は20年間とし,それを各変動応力範囲に割り振った。図4.28右図に 運転時間を乗じた各変動応力範囲のサイクル数をS-Nカーブ(Eurocode 3カテゴリー90)上にプ ロットした結果を示す。