3. 重大トラブル回避策の抽出
3.3. 水車の重大トラブル
3.3.2. 水車の重大トラブル事例について
比較的に詳細が判明している水車およびポンプ水車の典型的な重大トラブルをいくつか,以下 に示す。
(1) 中国 Xiao Lang Di 発電所のランナクラック[21]
(a) トラブルの状況
2000年6月3日にXiao Lang Di(小浪底)発電所の初号機である6号機(フランシス水車,
単機出力330MW ,有効落差68~141m,回転速度107.14min-1)の1000時間運転点検を行っ
たところ,13枚のランナ羽根全てに長さ約300mmのクラックが発見された(表2.14 No.13)。 クラックはランナクラウンに近い羽根出口に発生しており,破断面にはビーチ模様が見られ,
非常に短時間に疲労破壊が進んだことが明らかであった。このため,現地においてランナの実 働応力測定をしたところ,停止から回転開始直後の数秒間,非常に大きな変動応力がランナに 発生しており,50回程度の起動でクラックが発生することが判明した。また,停止の時にも非 常に大きな騒音が発生しており,その関連が疑われた。その後,5号機について点検したとこ ろ,13枚中6枚の羽根がわずか20回の起動で損傷した。こうしたことから,2001年5月に3 号機を使ってさらに詳細な応力測定を行った。解析と実測から,この大きな変動応力は,「ラ ンナ-周辺の水-軸-発電機」の回転体が固有振動数 12.7Hz で共振した結果,生じているこ とが判明した。すなわち,この回転体の軸方向とねじれ方向の固有振動数がほぼ一致しており 回転体が停止から回転に移るときに連成振動(Coupled oscillation)を起こしていることが判明 した。共振は,①ランナ羽根における水流剥離等でランナに軸方向の水スラストが発生,②主 軸を通じてスラスト軸受に軸方向スラストが伝達,③回り始めの大きなすべり摩擦で軸方向ス ラストはねじれ方向の力を発生,④ねじれ力は主軸を通じてランナに作用するとランナにおけ る軸方向のスラスト力をさらに励振,と言う正のフィードバックが生じ,激しい共振が発生し た。スラスト軸受はPTFE製の樹脂軸受でオイルリフターが設置されておらず,回転速度があ る程度上昇して油膜厚さが形成され,すべり摩擦が十分小さくなるまでこの共振が続いた。
対策としては,軸方向とねじれ方向の固有振動数を離して共振させないよう水車の起動前に 上カバーとランナの間(最終的には下カバーからも)に給気した。その結果,起動時の大きな 変動応力の発生は劇的に改善できた。
一方,応力測定の結果,水車の停止時にも非常に大きな変動応力が作用しており,この応力 だけでも 20 回程度の停止でクラックを発生させることが判明した。ガイドベーンが閉まった
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後 , ラ ン ナ 内 の 水 が ポ ン プ 作 用 に よ り か き 回 さ れ , ラ ン ナ 羽 根 出 口 で 流 体 弾 性 共 振
(Hydro-elastic resonance)により励振されたカルマン渦が発生して,大きな変動応力が羽根に
誘起されていたことが判明した。さらにハーフロード運転中にクラウンとの付け根近傍でカル マン渦の作用で5 次(212Hz)の曲げモードが励起されており,クラックの進展を促進してい たことが判明した。カルマン渦対策としては,羽根出口形状を斜めに面取りしてカルマン渦が 発生しにくいものと改め,励振対策として三角形の補強板をクラウンと接するランナ羽根の付 け根に取り付けた。
このXiao Lang Di発電所に加えて,パキスタンの水力発電所でも起動時の大きな変動応力に
よるクラックの発生 [22]が報告されている。こちらも,単機出力 295MW,落差が69mのフラ ンシス水車5台を擁す大水力発電所であるが,5台中の3台において営業運転の開始から700
~1500時間と言う短期間にクラックが発生した。羽根のクラックはランナ出口のバンドと羽根 が接続する付近に多く発生したが,いくつかはランナ羽根とクラウンの接続部にも発生した。
長さは55mm程度であった。ランナは13Cr4Niステンレス鋳鋼の部材を溶接して製作した。全 てのクラックは溶接欠陥を起点とした疲労き裂であり,変動応力の実測を行った結果,起動・
停止時に共振現象により大きな変動応力が発生していることが判明した。カルマン渦は発生し ていなかったが,羽根の後端を面取りした結果,応力レベルが少し減少したとしている。対策 としては,起動・停止時におけるガイドベーンの開閉モードを見直して大きな変動応力にさら される時間を短縮するとともに,羽根とバンドおよびクラウンとの溶接部の検査と溶接のやり 直し,そして表面研磨による欠陥の除去を行った。
(b) 得られた教訓
上記の二つのトラブルで明らかになった主な事項は以下となる。
① 水車起動時の水スラストが軸ねじれの力に変換され,さらに共振現象を起こした特異 な事例であるが,わずか数十回の起動でクラックが全ての羽根に発生したのであるか ら,非常に大きな変動応力が作用したことになる。論文中のひずみ値測定オシロを見 ると,起動時で最大+250μm/mから-1600μm/m,約7秒間振れている。一方停止時
は,+1300μm/mから-1300μm/mで約150秒振れている。ランナ材料(SUS)の縦弾
性係数(ヤング率)を200GPaとすると起動時で+50MPa~-320MPa,停止時±260MPa となり,いずれも通常では考えられない応力レベルであり,このような共振現象が非 常に危険であることが判る。パキスタンの事例は,共振現象の詳細が不明であるが,
やはり起動停止時に相当大きな変動応力が発生したことをうかがわせる。
② 二つの発電所の水車は,いずれも世界的に一流とみなされる同一メーカの製品である が,カルマン渦が発生していたり,羽根の強度が不十分だったりと首を傾げたくなる 点がいくつかある。やはり,近年の効率重視,特に入札時,水車効率のほんのわずか な差を過大に評価する傾向が強いことから,機械強度的に無理な設計をしたことが疑 われる。これは,発注者の責任も少なからずあると思われる。
③ ただ,このメーカはこうした失敗をきちんと公表しており,その態度は評価に値する。
93 (2) イランKarun III発電所のランナクラック[23]
(a) トラブルの状況
イランのKarun III発電所は200MWのフランシス水車8台を擁し,2005年3月に初号機が
運転を開始した。運転から1年後の2006年以降,2号機や4号機においてランナクラックが羽 根出口のクラウン側,バンド側およびその中間などに見つかった(表2.14 No.10)。調査した
結果,①140MW から 200MW の出力においてカルマン渦による特徴的な鳴音が観測された。
周波数は435Hzから455Hz付近に集中し,特に出力が160MWから190MWの間が酷い,②ラ
ンナ羽根の水中における固有振動数をFEMで計算した結果,羽根の出口端(Trailing edge)が
413Hzから433Hzの固有振動数(10次の振動モード)を持つことが判った。以上の点からカル
マン渦による加振周波数と羽根の固有振動数が共振して,過大な変動応力を羽根面に発生した と結論付けられた。対策は,羽根出口端の翼厚を当初の11mmから7mmに減少させて固有振 動数を下げるとともに面取りしてカルマン渦の加振周波数を上げて共振を避けた。
(b) 得られた教訓
上記のトラブルで明らかになった主な事項は以下となる。
① 最近の水車でもカルマン渦で羽根が損傷することがある。
② カルマン渦による加振周波数は,この事例のように400Hzとかもっと高い可聴域の周 波数となり,かなり短時間でクラックを発生させる。羽根出口端の固有振動数とカル マン渦による加振周波数が近いと,流速が変わって加振周波数が離れても共振が続く ロックイン現象が起きて,短時間にクラックが進展する。
③ カルマン渦対策は羽根出口後端の面取りが一般的である。
(3) 国内揚水発電所のランナクラック (a) トラブルの状況
2007年5月29日,国内の揚水発電所においてランナ(単機出力308MW)の内部点検を行 ったところ,2枚の羽根の水車入口バンド部付近にクラックが発見された(表2.14 No.9)。一 つのクラックは圧力面側羽根先端(バンド側より 40mm 離れた位置)より 200mm,負圧面側 羽根先端より 90mm 進展しており先端口開き 0.4mm,もう一つのクラックはバンド側より 30mm離れた圧力面側羽根先端より120mm,負圧面側羽根先端より65mm進展して先端口開き
は0.2mmであった。すなわち,羽根入口から奥にクラックが進展しており,圧力面から負圧面
に向かって破面は貫通していた。羽根から採取した試料を分析した結果,①クラックの起点は キャビテーション壊食部と考えられる,②疲労に伴うストライエーションのピッチは0.19μm,
③破面や起点部には特に溶接欠陥や母材欠陥は認められない,④表面硬度は溶接補修部で
HB313~365,補修部以外でHB237~257等が判明した。また,前年(2006年5月)のランナ
点検では,羽根6枚全数についてクラック等の異常はなかった。
調査の結果,クラックの原因は,①2002年4月にランナと同一材質の5Ni13Cr材(マルテ ンサイト系)を使って水車入口キャビテーション壊食部を溶接補修したが,後熱処理をバーナ で行なったため当該部の硬度と残留応力が著しく増大した(HB350と200MPaに達していたと 推定),②キャビテーション壊食の進行にともない硬度が高く延性が低下した部分が表層に現 れた,③キャビテーション壊食で鋭い切り欠き状の割れが発生,これが起点となってクラック