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長期−共和分検定を用いて−

第 3 章 金融システムショックと内生的貨幣供給理論 39

4.4 貨幣需要関数の推定

4.4.1 長期−共和分検定を用いて−

本節では、貨幣とGDP間の長期均衡関係について分析する。一般に、複数のマクロデータを比較・観察すると 長期的に均せば似通った動きがみられる場合が多いが、ここでは、こうした複数の非定常な経済変数間の線形結 合が定常過程になるといった関係を共和分関係としてモデル化する。なお、本章で使用する変数一覧は表4.1にま とめてある。

7ピグー効果(Pigou effect)、パティンキンの実質残高効果(real balance effect)が該当するであろう。

表 4.1: 使用データ一覧

変数 単位 出所

M2+CD平均残高、季節調整値 10億円 日本銀行「金融経済統計月報、同年報」

実質国内総生産、季節調整値 10億円、95年基準 内閣府「国民経済計算年報」

法人企業・個人ストック 億円 日本銀行「資金循環勘定」

コールレート、有担翌日もの 年利% 日本銀行「金融経済統計月報、同年報」

GDPデフレータ 95年=100 日本銀行「金融経済統計月報、同年報」

資金繰り判断DI 日本銀行「企業短期経済観測調査」

借入金利水準判断DI 日本銀行「企業短期経済観測調査」

以下では、mtは実質貨幣量(M2+CD[季節調整値]をGDPデフレーター[季節調整値]で実質化)、ytは実質

GDP[季節調整値]、wtは実質金融資産(法・個人金融資産残高8をGDPデフレーターで実質化)として、この3変

数をベースに金融システムショック期を通じて、各変数の長期均衡関係にあったのかどうかを分析する。モデルは 従来より使用される貨幣需要関数の形式を与える。すなわち以下の式に定式化する。なお、etは独立同一正規分 布に従う誤差項である。

lnmt=α0+α1lnyt+α2lnwt+et et∼i.i.d.(0, σ2) (4.1) なお、ここでは長期均衡関係として貨幣数量説に基づいた貨幣需要関数を仮定している。貨幣の代替資産とし て、債券、株式といった金融資産だけではなく通常の物的財や物的資産も考慮している。貨幣自体の収益率をim、 債券および株式の収益率をib、ieとすれば、貨幣需要はimの増加関数、ibおよびieの減少関数であることが予 想できる。そのうえで、各資産収益率が実質貨幣需要に影響を与えるのは各資産の収益率と貨幣自体の収益率と の差、つまり貨幣保有の機会費用を通してであると考えられる。このことは貨幣需要要因としてie−im、ib−im

と書き換えられることを意味する。ところで、各資産の収益率と貨幣の収益率は一般に同方向に変化すると考え られるから、その差は収益率の変化に比べてわずかなものになるであろう。従って、長期貨幣需要は各資産の収益 率の変化に対して非感応的と考えられる9。よって、ここでは金利変数の導入を行わないことにする。

単位根検定

推計の前提として、実質貨幣量、実質GDP、実質金融資産に対し定常・非定常の検定を行い、その水準(対数 値)が非定常過程で、1階差が定常過程であることを単位根検定(Unit Root Test)により確認する。単位根の検 定方法や統計量については多くの提案がなされている。ここでは代表的な方法として、Augmented Dickey-Fuller test(ADF test)、Phillips-Perron test(PP test)、Kwiatkowski, Phillips, Schmidt, and Shin test(KPSS test)の 3通りを試し、総合的に判断した10。結果は表4.2に示されている。表中の統計量はADF、PP testにはτ値を、

8法人・個人の現預金CD計、信託、投資信託、保険、有価証券、CP、企業間信用対外信用を合算して作成している。

9得田(1999)[123]による機会費用、各種利子率を含めた推計でも同様の結果が認められる。

10ADF testでは誤差項が無相関であるという仮定の他に、独立かつ同一の分布をするという強い仮定が設けられる。これに対し

Phillips-Perron(1988)[75]PP testは、誤差項の時間tへの依存性(非独自性)や分散の不均一性(heteroscedasticity)を認めるより一般的な仮

定の下で、モデルをノンパラメトリックに検定することができる。一方、Kwiatkowski, Phillips, Schmidt, and Shin(KPSS, 1992)[51]

KPSS testにはLM統計量を示している。ラグの次数に関し、ADF testはシュワルツ情報量基準(SBIC)に基づ き決定した(Max=11)。PP testとKPSS testはNewey-West(1994)[65]の分散共分散行列の次数選択基準量をも とに算出した。

 検定結果により各変数の原数値はいずれも非定常過程との結果を得た(rcall, op, op0については後出)。一方、

各変数の1階差については非定常過程であるとの帰無仮説を有意に棄却することができた。また、今回用いるデー タを用いての統一的な分析ではないが11、得田(1999)[123]による分析でのADFテストの結果も同様である。し たがって、本論文では貨幣、GDP、金融資産のすべての変数に対し1階差が定常過程である、つまりI(1)として 分析を進めることにする12

KPSS testは、定常根を帰無仮説に、単位根を対立仮説に逆転したKPSS検定を提案している。単位根検定手法は他にもRothenberg, and

Stock Point Optimal (ERS) TestNg and Perron (NP) Test等多種考案されてきたが、いずれもそれぞれに長所短所を有し、決定的な

検定力を欠いているので、本論文では林(2001)[140]が提唱しているように複数の検定法を併用している。

11採用データの期間、季節調整系列の影響で若干のずれが存在するためである。

12IIntegrated processの頭文字で原系列が0,1,2次の和分過程を含む場合にそれぞれ、I(0),(1),(2),と表記する。以下、これに従う。

表4.2: Unit Root Test Results

Variable ADF test

A. In levels B. In first differences

Intercept Trend and Intercept Intercept Trend and Intercept

τ-Stat. lag τ-Stat. lag τ-Stat. lag τ-Stat. lag

y -2.333 0 -0.635 0 -3.348 2 ** -8.664 0 ***

m -1.722 2 -2.706 4 -4.243 1 *** -4.451 1 ***

w -1.984 4 -2.357 4 -2.811 3 * -3.130 3 **

rcall -2.377 1 -2.621 1 -12.682 0 *** -12.781 0 ***

op -1.191 1 -5.376 0 *** -12.714 0 *** -12.650 0 ***

op0 -0.418 1 -3.570 1 ** -5.997 0 *** -5.969 0 ***

Variable PP test

A. In levels B. In first differences

Intercept Trend and Intercept Intercept Trend and Intercept

τ-Stat. 次数 τ-Stat. 次数 τ-Stat. 次数 τ-Stat. 次数

y -1.941 5 -0.884 5 -8.726 6 *** -8.871 5 ***

m -1.242 5 -1.297 5 -5.765 1 *** -5.946 0 ***

w -3.685 50 *** -1.075 41 -9.660 69 *** -13.714 42 ***

rcall -2.727 4 * -3.583 5 ** -12.439 4 *** -12.540 4 ***

op -0.816 8 -5.391 2 *** -16.769 9 *** -16.627 9 ***

op0 -0.440 2 -2.725 3 -6.083 2 *** -6.055 2 ***

Variable KPSS test

A. In levels B. In first differences

Intercept Trend and Intercept Intercept Trend and Intercept

LM-Stat. 次数 LM-Stat. 次数 LM-Stat. 次数 LM-Stat. 次数

y 1.259 7 *** 0.307 7 *** 0.394 6 * 0.101 5

m 1.280 7 *** 0.246 7 *** 0.224 6 0.121 5 *

w 1.253 7 *** 0.279 7 *** 0.307 48 0.243 46 ***

rcall 1.119 7 *** 0.072 7 0.200 3 0.077 3

op 1.289 7 *** 0.121 5 * 0.053 11 0.054 11

op0 1.236 7 *** 0.142 6 *** 0.038 2 0.037 2

yは実質GDP対数値、mは実質貨幣対数値、wは実質資産対数値、rcallは実質利子率、opは貨幣保有機会費用、op0はその加重平 均を表す。

ADF testDickey and Fuller(1987)[20]に、PP testPhillips-Perron(1988)[75]に、KPSS testKwiatkowski, Phillips, Schmidt, and Shin(KPSS, 1992)[51]に基づく単位根検定を示す。

ADF testPP testの帰無仮説は「単位根を持つ」、KPSS testのそれは「定常である=単位根を持たない」である。

表中の統計量はADF、PP testはτ値を、KPSS testLM統計量を示している。

ラグの次数に関し、ADF testはシュワルツ情報量基準(SBIC)に基づき決定した(Max=11)。PP testKPSS testNewey-West

(1994)[65]の分散共分散行列の次数選択基準量をもとに算出した。

*,**,***は帰無仮説がそれぞれ10%,5%,1%有意水準で棄却されることを示す。

共和分検定

Engle-Granger(1987)[26]により提案された共和分の検定方法(Engle-Granger test)は、共和分している可能性

のあるn個の変数(x1, x2,· · ·, xn)について、

x1t=α0+

n i=2

αixit+µt (4.2)

を推定し、ここから得られたµˆtを用いた推定式、

∆ˆµt= (γ1)ˆµt1+

p j=1

δj∆ˆµtj+νtt: disturbance term) (4.3) におけるγについて,γ= 1であるとする帰無仮説を検定する。(4.2)は共和分回帰と呼ばれ、すなわち、これは ˆ

µtの単位根検定に他ならない。検定にあたっては、前出(4.1)のように定式化した。また(4.3)のラグ数pの選択

が問題となるが、ここではシュワルツ情報量基準(SBIC)を考慮して設定した。

 回帰からの残差eˆtI(0)である場合には、その式は 実質貨幣量と実質GDP、実質金融資産の共和分関係(長 期均衡関係)を示したことになる( ˆetがゼロの時、実質貨幣量は長期均衡値にある)。

 被説明変数および説明変数の和分の次数は単位根検定により、3変数ともI(1)である可能性が高い。そこで、

(4.1)の残差を用いて共和分しているかどうかのADFテストを定数項・トレンドなしのモデルで行った。臨界点

はDavidson and MacKinnon (1993,p.722,table 20.2)[18]を参照した。結果は表4.3のとおりである。

 サンプル期間の初期は全て1980年第1四半期である。サンプル期間が97年第3四半期まででは統計検定量 が-2.569で5%有意水準を満たし、lnmt、lnyt、lnwtのパラメータで共和分の関係があるといえる。従って、こ の貨幣需要関数は長期的な関係式として意味のある式であることがわかる。

 さらに1期ずつサンプル期間を追加してみた。するとサンプル期間が99年第1四半期から有意水準が10%に低 下し、99年第3四半期に至っては長期均衡関係ではないという帰無仮説が棄却できなくなってしまった。すなわ ち99年までのサンプルでは共和分しているとはいいにくい。したがって、この貨幣需要関数の長期的な関係式と しての妥当性は相当低いものとなったと考えられる。ただし、サンプルを順次追加していき、2000年までを加え ると再び共和分の関係にあることが強くなってきた。この傾向は全サンプルの2004年まで維持された。

表 4.3: Cointegration Test Results System: (ly lm lw, no trend)

sample ADF lag

80-97q3 -2.569 0 **

80-98q3 -2.357 0 **

80-98q4 -2.280 0 **

80-99q1 -1.812 0 * 80-99q2 -1.750 0 * 80-99q3 -1.590 0 80-99q4 -1.776 0 * 80-00q1 -2.817 0 ***

80-01q1 -2.885 0 ***

80-02q1 -2.344 0 **

80-03q1 -2.415 0 **

80-04q2 -2.687 0 ***

ADFDickey and Fuller(1987)[20]に基づくAugmented Dickey-Fullerテスト を利用しての共和分検定である。

最適ラグ数はシュワルツ情報量基準(SBIC)に基づき決定した。

臨界値はDavidson and MacKinnon (1993,p.722,table 20.2)[18]を参照。

*,**,***は帰無仮説がそれぞれ10%,5%,1%有意水準で棄却されることを示す。

推計期間に金融システムショックをサンプルとして含まない80/1Q〜97/3Qにした場合と、同ショックが加わっ た期間を含む80/1Q〜99/3Qの場合では、長期均衡関係に関する共和分の存在可能性が大きく揺らぐことがわかっ

た(共和分無しという帰無仮説が棄却できなくなっていった)。こうした事実は木村・藤田(1999)[112]と一致する

ものであり、金融システムショックが、貨幣と実体経済の関係を大きく不安定化させたことがわかる。ただし、こ のような不安定期は長続きせず、2000年に入る頃には再び長期的安定を取り戻すことが示された。

 貨幣と実体経済の関係に、本論文で想定しているような金融システムショックが大きな変動要因となっているか

どうかは不確実であるが、1990年代末に長期均衡関係が大きく毀損されたのは確かなようだ。こうした点を踏ま えると、金融システムショックの影響を勘案して、過去においてみられた貨幣と実体経済の関係を基に、マネーの 持つ意味や金融の量的な再評価を行うことに一定の価値が生起されるのではないだろうか。

 例えば、97/3Qまでで推計した長期均衡関係から算出されるマネーギャップ(実績値−推計値)をみると(図4.2)、

98、99年中は大幅にプラス、つまり、貨幣が均衡状態に比べ大幅に過剰となっており、それをそのまま読み取れ

ば、金融は量的にみて過去に例をみないほどの緩和状態にあったことになる。しかし、金融システムショックが発 生した98年以降のデータを含めると、そもそも貨幣とGDPの長期均衡関係は崩壊してしまっているので、過去 においてみられた長期均衡関係をもとに貨幣需要関数のパラメータをそのまま評価することは適切ではない。

図4.2: 金融システムショック未調整のマネーギャップ

-.04 .00 .04 .08 .12 .16 .20

80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 00 02