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金融システムショックを考慮した場合の貨幣需要関数の推定

第 3 章 金融システムショックと内生的貨幣供給理論 39

4.6 金融システムショックを考慮した場合の貨幣需要関数の推定

前節で推計した金融不安の代理変数を貨幣の予備的需要の代理変数とみなし、再度、共和分検定による長期均 衡関係有無の検証、および短期貨幣需要関数の推定を行う。

4.6.1 長期均衡関係−共和分検定を用いて−

モデルは(4.1)をベースに、前節で推計した他の変数同様、TARCHによって推計した金融不安変数σ2t

DVt(Distortional Variable)に置き換え、対数化して加えるものである。すなわち、以下の式に修正したものと

なる。

lnmt=α0+α2lnyt+α3lnwt+α4lnDVt+et (4.11)

表 4.5: Cointegration Test Results System: (ly lm lw ldv, no trend)

sample ADF lag

80-97q3 -3.392 0 ***

80-98q3 -2.685 0 ***

80-98q4 -2.514 0 **

80-99q1 -1.897 0 * 80-99q2 -3.097 0 ***

80-99q3 -3.157 0 ***

80-99q4 -3.161 0 ***

80-00q1 -3.155 0 ***

80-01q1 -3.212 0 ***

80-02q1 -2.608 0 ***

80-03q1 -2.609 0 ***

80-04q2 -2.877 0 ***

ADFDickey and Fuller(1987)[20]に基づくAugmented Dickey-Fullerテスト を利用しての共和分検定である。

最適ラグ数はシュワルツ情報量基準(SBIC)に基づき決定した。

臨界値はDavidson and MacKinnon (1993,p.722,table 20.2)[18]を参照。

*,**,***は帰無仮説がそれぞれ10%,5%,1%有意水準で棄却されることを示す。

共和分検定の結果は表4.5のとおりである。表4.3と同じように97/3Qから順次サンプル期間を延長していき、

共和分の関係が99年にかけて崩れるかどうかをみた。結果、サンプル期間80-99Q1に有意水準が10%に一時的 に落ち込むが、それ以外はほとんどがlnmt、lnyt、lnwtのパラメータにより1%有意水準で共和分関係にある可 能性が支持された。ゆえに、金融システムショックを考慮した場合、全サンプル期間中において長期安定的関係が 維持され得たという可能性が強くなってきた。このように、4.4.1節の結果と異なり、貨幣とGDPの長期均衡関 係がかなり安定化したのは、DVtとそのパラメータによって金融不安の影響を適切に調整することができたため と考えられる。

 図4.2に相当するマネーギャップ(実績値−推計値、(4.11)を推定した残差)を再計算してみると図4.5のよう になる。比較すると明らかに1990年代末以降のマネーギャップのボリュームが縮小しているのが伺える。これは 当該期間に金融が過度に緩和状態であったという4.4.1節の主張を覆すものである。ただし、そうは言っても振れ はまだ緩和方向に向いていることが示されているので、安定的であったとまでは言えない。

図4.5: 金融システムショック調整後のマネーギャップ変化 [実線:調整済み、破線:未調整]

-.04 .00 .04 .08 .12 .16 .20

80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 00 02

4.6.2 短期分析− Error Correcton Model を用いて−

さらに4.4.2節同様ECMを用いて金融システムショックを考慮した場合の短期貨幣需要関数を推定してみる。

∆ lnmt=β0+β1ECTt1+β2∆ lnmt1+β3∆ lnyt+β4∆ lnwt+β5∆Rt+β6∆ lnDVt+µt (4.12)

 ここでもサンプル期間を3つに分けて推計を試みている。ECTtは、金融不安を調整したマネーギャップ、すな

わち(4.11)で推計した残差である。推定方法はOLSを採用している。結果は表4.6で表される。

 各サンプルセットにおける推計とも、表4.4と比べ、金融不安項DVtが加わったこともあり、決定係数からみ て若干の改善が見られた。その追加した金融不安項DVtはほとんどの推計でマイナスの有意性が認められた。し かし、3つに分けた利子率要因や実質資産要因および誤差修正項が期待されたように有意に効いていないことは表 4.4と同じ結果であった。

 こうした観点から、全般的にこれら短期モデルが貨幣総量の変動を十分説明しているかというとそうではなく、

サンプル数が増えるに従い、さらにパフォーマンスが悪化しているようであるという傾向は修正できなかった。モ デルの定式化や、利子率要因や金融資産の集計法に再考の余地が残った。

従来のモデルにおいて、貨幣総量とマクロ経済指標の関係を約20年超の長期的視点から概観すると、1997年ま では貨幣総量の変動はGDP、金融資産の変動と比較的良く対応している。こうした貨幣総量と実体経済との間の 長期にわたる比較的安定した関係は、共和分分析という計量分析手法によっても確認され、両者の間に長期均衡 関係が存在することが認められた。しかし、計測期間を延ばし、金融システムショックがあったと考えられる期間 を含めると、特に長期均衡関係が認められにくいものとなってしまった。このため、従来は無視しても差し支え ないとされた金融不安要因を考慮してモデルを再構築する必要が出てきた。

 本章ではこのことは、TARCHモデルによって推計した金融不安項DVtを含めること、すなわち予備的需要を 従来の貨幣需要関数に比べ、より明確に考慮することを意味する。その結果、長期的関係は全サンプル期間を通 じパフォーマンスの改善が見出された。一方、長期均衡関係をもとに、短期的な変動要因等を織り込んだ貨幣需 要関数を推計した結果、金融不安項を含めたモデルでもパラメータの値を含めパフォーマンスの改善がなされた とは言いにくいものとなった。

表4.6:ErrorCorrectionModelsIncrudedDVterm Sample:1980Q1-1997Q3Sample:1980Q1-1999Q3Sample:1980Q1-2004Q2 DependentVariable:D(LM)DependentVariable:D(LM)DependentVariable:D(LM) VariableCoeff.t-stat.Prob.VariableCoeff.t-stat.Prob.VariableCoeff.t-stat.Prob. ECM-10.1182.0550.044ECM-10.0531.0520.297ECM-1-0.028-0.6300.530 D(LM(-1))0.6166.5270.000D(LM(-1))0.5765.9980.000D(LM(-1))0.4645.0950.000 利子率D(LY)0.1561.2850.204D(LY)0.0720.6910.492D(LY)0.0200.2110.834 RCALLD(LW)0.0010.0320.975D(LW)-0.003-0.1040.917D(LW)0.0010.0520.959 D(RCALL)0.0065.4190.000D(RCALL)0.0065.7530.000D(RCALL)0.0066.2510.000 DV-0.002-1.5120.136DV-0.002-1.7220.089DV-0.002-1.7430.085 R20.558D.W.1.845R20.520D.W.1.786R20.487D.W.1.705 AIC-6.988F-stat.15.290AIC-6.994F-stat.14.745AIC-7.088F-stat.16.033 SBIC-6.762Prob(F)0.000SBIC-6.781Prob(F)0.000SBIC-6.901Prob(F)0.000 DependentVariable:D(LM)DependentVariable:D(LM)DependentVariable:D(LM) VariableCoeff.t-stat.Prob.VariableCoeff.t-stat.Prob.VariableCoeff.t-stat.Prob. ECM-10.0640.9470.347ECM-10.0010.0180.986ECM-1-0.083-1.6370.105 D(LM(-1))0.4894.5090.000D(LM(-1))0.4494.0800.000D(LM(-1))0.3163.0860.003 利子率D(LY)0.3052.2060.031D(LY)0.1801.4970.139D(LY)0.0990.9130.364 OPD(LW)0.0250.7540.454D(LW)0.0220.6770.500D(LW)0.0280.9720.334 D(OP)0.0111.9780.052D(OP)0.0122.2260.029D(OP)0.0122.3280.022 DV-0.003-2.2080.031DV-0.003-2.4350.018DV-0.003-2.4790.015 R20.387D.W.2.176R20.340D.W.2.122R20.304D.W.2.040 AIC-6.662F-stat.8.152AIC-6.675F-stat.7.536AIC-6.783F-stat.7.923 SBIC-6.435Prob(F)0.000SBIC-6.462Prob(F)0.000SBIC-6.596Prob(F)0.000 DependentVariable:D(LM)DependentVariable:D(LM)DependentVariable:D(LM) VariableCoeff.t-stat.Prob.VariableCoeff.t-stat.Prob.VariableCoeff.t-stat.Prob. ECM-10.0841.2500.216ECM-10.0080.1320.895ECM-1-0.072-1.4120.162 D(LM(-1))0.5044.4140.000D(LM(-1))0.4603.9140.000D(LM(-1))0.3232.9900.004 利子率D(LY)0.3312.3830.020D(LY)0.1981.6400.106D(LY)0.1221.1130.269 OP’D(LW)0.0100.3190.751D(LW)0.0070.2260.822D(LW)0.0160.5470.586 D(OP’)-0.004-0.2350.815D(OP’)-0.009-0.4770.635D(OP’)-0.005-0.2760.784 DV-0.003-1.9040.062DV-0.003-2.0670.043DV-0.003-2.0380.045 R20.368D.W.2.285R20.306D.W.2.204R20.264D.W.2.089 AIC-6.693F-stat.7.304AIC-6.689F-stat.6.363AIC-6.790F-stat.6.498 SBIC-6.461Prob(F)0.000SBIC-6.471Prob(F)0.000SBIC-6.599Prob(F)0.000 LMは実質貨幣対数値、LMは実質GDP対数値、LWは実質資産対数値、RCALLは実質利子率、OPは貨幣保有機会費用、OP’はその加重平均、(-1)1期前を表す R2は修正済決定係数、AICおよびSBICは赤池、シュワルツ情報基準量、D.W.はダービン・ワトソン比、F-stat.およびProb(F)F統計量とそのp値を示す