第 3 章 金融システムショックと内生的貨幣供給理論 39
4.7 まとめ
が示された。すなわち、こうした貨幣総量と実体経済との間の長期均衡関係が存在することが認められた。一方、
上記長期均衡関係をもとに誤差修正モデル(Error Correction Model)を用い短期的な変動要因を織り込んだ貨幣 需要関数を推計したが、パラメータの値を含め十分なパフォーマンスが得られたとは言い難い結果だった。すなわ ち、貨幣需要関数が表す貨幣総量とGDPや資産要因等の短期的変動メカニズムは、計測期間中についていえば、
不安定なものであったと考えられる。
少なくとも長期的な貨幣需要関数の安定性が認められることは、貨幣総量を見据えた金融政策運営には依然妥 当性があることを示唆する。ただ中央銀行が日々の機動的政策運営を企図するうえで、今回の短期需要関数のよ うな適合度では中間目標あるいは情報変数として参考にできようもなく、その意味では安定した貨幣需要関数を 基本とするマネタリーベースアプローチの適用は困難であろう。
短期的にみて安定的な貨幣需要関数が示せなかったということは、逆に貨幣需要の不安定性が示せたことにな る。金融システムの絶えざる変容により貨幣と実体経済の関係を示すパラメータが変動しているからと捉えるこ ともできるのである。これは長期均衡関係をパラメータが固定的なものとして捉えている共和分分析の限界とも いえる。そのことはストラクチュアリスト・ビューの妥当性が逆に含意されているとも考えられよう。本章では金 融システムショックの影響を金融不安度の代理変数抽出をもって検討してきたのだが、バンキングセクターによる ALM行使、さらには金融イノベーションといった現象を貨幣総量の面から捉える何らかの実証分析上の工夫がさ らに必要である。
不確実性下の金融政策運営は現在注目を集めている分野である。本論文はそもそも貨幣需要関数が不安定化し た原因を現代資本主義経済の本質的帰結から生じる金融システムショックのような新要因の出現に求めた。しか し、そうした新要因はある程度時間が経ちデータが蓄積して初めて把握できるものであり、政策当事者の立場か らは政策のアクションを起こす時点では即時には知り得ない。また、事後的に安定的な関数が発見し得たとして も、それが単純に事前のマネー重視の立場につながるかという疑問である。結局1990年代において政策当局は、
不安定な貨幣需要関数に直面し、そうした不確実性のもとで政策を実行せざるをえなかったことを明らかにした。
本章での推計をふまえ、更なる研究の方向性としては以下のようなものが挙げられる。
1. 金融の自由化・規制緩和によりマネーが従来に比べ捉えにくくなっている。本章で長期貨幣需要を推計 したが十分頑健な内容であったとは考えにくい。ここでは貨幣総量をM2+CDでとらえているが、貨幣の 定義は金融システムの進化、変容とともに時代に応じて変化・多様化されてきて、その変化に統計的なマ ネーの範囲の修正が追いつかなく、それが欧米でいうところの Missing Money に結びついていると考え られる。仮に金融の自由化・規制緩和の流れが落ち着くとすれば、理論と実体経済との動きのギャップも解 消されよう。そこで、金融の自由化・規制緩和の影響がどこで落ち着いたかを歴史的概観によるチェックで 特定し、さらに金融資産の中身もその 貨幣らしさ に応じてウェイトを付加すべきだとするBelongia and
Binner(2000)[7]の主張が重要となってくる。つまり、いわゆる Divisia Monetary Aggregates を導出し、
それを本論文で用いたM2+CDに代替させる。そうした作業が求められるのではないか。
2. 金融システムショックの推計に関して、企業部門の心理的データをDIによって抽出してきた。こうした 心理データには消費者に属する消費者心理調査22および消費動向調査23のデータが存在する。これら企業・
消費者両者のデータをどう組み合わせて定量化に結びつけるかに関しては今後の研究課題としたい。
22日本リサーチ総合研究所http://www.research-soken.or.jp/により作成されている時系列データ。中でも、 生活不安度 の利用可能性 が期待される。しかし、データの構成項目の変化や長期時系列ではない等、統計上の問題をクリアしなければならない困難が存在している。
なお、得田(2003a,b)[89][128]では消費者の生活不安度を取り込んだ分析を行っている。
23内閣府により作成されている時系列データである。このデータも統計基準が変更されているうえ発表系列が季節調整されていて長期時系 列の作成が困難となっている。