第 7 章 マクロ経済変数のショック波及分析 150
7.5 まとめ
7.4.3 実物、貨幣要因の相対的重要性―予測誤差の分散分解―
次に、7.3.3節と同じように各要因の相対的重要性を予測誤差分散の説明力という観点から検証していく。結果 は図7.7に示される。金融不安の代理変数DVtを未導入の場合(表7.4)との比較は次の通りとなった。
まず、インパルス応答関数と同様に金融不安の代理変数DVt項導入の影響は限定的なものであった。DVt項未 導入の73年〜85年では、GDPの変動は約40%貨幣の変動で説明が可能であり、その変動は短期的なものであっ たことから、貨幣は外生的であり短期的に非中立であることを示す結果となった。しかし、DVt項導入での73年
〜85年では、GDPの変動は約7%程度しか貨幣の変動で説明がつかず、貨幣が外生的であるとはいいにくい結果 となった。また、DVt項未導入の73年〜85年では貨幣の変動は約15%GDPの変動で説明が可能であり、弱い貨 幣の内生性を示していた。しかし、DVt項導入での73年〜85年では、約40%とより強く貨幣の内生性を示す結 果となった。以下はDVt項導入・未導入共通の85年〜04年で示された結果を示す。
まずGDPの変動で評価することにする。GDPの変動は貨幣の変動で説明できることから、貨幣の外生性が示 されたものと考えることができる。しかもその影響が10四半期以上の長期にわたって持続しているため、貨幣の 長期非中立性が示されたものと考えることもできる。第2に、貨幣の変動で評価すると貨幣の変動はGDPの変動 で説明がつかないので、貨幣の内生性が示されたとはいえないことがわかる。
図7.7: Variance Decomposition (DV項含む)
トロールすることにより最終目標である実体経済にアクセスしていくという金融政策の3段階伝達プロセスの観 点からすると、本章での分析では中間目標から最終目標の領域をカバーしたことになろう。すなわち、本章にお いて考慮したような貨幣あるいは実物ショックが生じた場合に、貨幣総量や最終目標としてのGDPがどう影響す るか、あるいは政策当局アクション政策手段による2変数への影響とはいかなるものかを検討してきた。
金融不安度の代理変数導入による影響は73年〜85年に表われ、反応関数の変動が平準化されたことである。し かし総じて影響が小さかったことから、金融不安度を適切にモデルに取り込んで金融システムショックを表すこと ができたかどうかは疑問が残る結果となった。本章の実証分析は、金融システムの変容を考慮してサンプル期間 を2分した分析であった。インパルス応答による分析では、73年〜85年は貨幣・実物両ショックに対して総じて 反応が小さかった。他方、85年〜04年は大きかったことから期間区分を行った意義は大きいと言え、金融システ ムの変容を適切に考慮することができたものと考えられる。これは逆に金融システムの変容を示す1つの証左で あると捉えることもできる。
そのインパルス応答関数および予測誤差の分散分解の両実証分析は、貨幣の外生的な面と内生的な面の両方を 示した。しかも85年〜04年での期間分析については貨幣の長期非中立性を導くことができた。これら結果から貨 幣の特性として、貨幣の緩やかな内生性および貨幣の長期非中立性が存在することを示せた。さらに期間区分によ る分析から金融環境の変化そして金融政策の非対称性が示されたものと考えることができる。すなわち第3章で 論じてきたストラクチュアリスト・ビューの妥当性が立証されたものと捉えることができるのである。なお、誘 導形VARモデルから構造形VARモデルへの回復には識別条件が必要なため、本章では同時点係数行列に制約を 課す短期制約と、長期累積応答行列に制約を課す長期中立制約の2つを試みた。結果、インパルス応答と経済理 論との合致性から短期制約モデルがやや優れていた。
前述3段階プロセスのうち全プロセスを考慮した分析として次のようなものがある。経済企画庁(2000)[115]は 同時点構造がより複雑な4変数あるいは5変数モデルを用い、本章で用いた同時点制約や長期中立制約、あるい はブロック再帰制約を利用した推計を行っている。しかし、想定した係数の符号が一致しなかったり、金融政策の 引き締め的ショックが物価水準の持続的上昇をもたらす現象、いわゆる 物価パズル(Price Puzzle) が生じたり と、ロバストで良好な結果が得られているとはいいにくい。また、Christiano, Eichenbaum and Evans(1999)[14]
はブロック再帰的構造を仮定し、金融政策のショックと他の金融変数のショックを識別している。こうしたモデル は金融政策変数を明示的に考慮し、3段階伝達プロセスの全領域をカバーしているため解釈も複雑なものとなって いるが、本章での構造VARモデルは、第1段階を捨象し中間目標である貨幣と最終目標であるGDPに特化した ことによる簡略化自体が利点となっている。
一方、本章で行った実証分析はバンキングセクターを明示的に考慮してこなかったため、貨幣のショックが内生 的要因により生じた予備的需要によるものなのか、あるいは金融政策による外生的なものなのかはっきりとした 判断はできなかった。この点については、次章でベースマネーおよび銀行貸出といったデータを加えたモデルを 採用することで補っていく。加えて、本章で経済環境を2期間に分けて考えていたのを、次章ではスムーズに環
境が遷移するモデルを扱うことで、より現実を映すモデルを提示する。