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第 6 章 内生的貨幣供給理論をふまえた貨幣総量再評価 132

6.3 実証モデル

6.3.4 シミュレーション

金融政策の効果を2004年第3四半期から2006年第4四半期までの短期的視点から考察する。外生変数をxa,tid,t、kt、N BRtとし、以下のシナリオを用意した。

ベースライン:現状維持のケース xa,t=xa,t1、id,t =id,t1、kt=kt1、N BRt=N BRt1

シナリオ1:金融緩和(a)のケース xa,t=xa,t1、id,t =id,t1、kt=kt1、N BRt:トレンドに沿って 上昇

シナリオ2:金融緩和(b)のケース xa,t=xa,t1、id,t=id,t1、kt:さらに低下、N BRt:トレンドに沿っ て上昇

シナリオ3:金融引締めのケース xa,t:低下、id,t:引き上げ、kt=kt1、N BRt:減少

シナリオ4:企業家のマインド改善のケース xa,t:上昇、id,t=id,t1、kt=kt1、N BRt=N BRt1

1番目のケースはベースラインと位置づけ、予測期間中の各外生変数を直前値で固定させている。具体的には業 況予測値D.I.を直前値のx= 4で、公定歩合はid,t= 0.1、準備率はkt= 1.3、非借入準備はN BRt= 13.8924に 固定させている13。シナリオ1は金融緩和のケース(a)でベースラインと比べると、非借入準備N BRtをトレン ドに沿って増加させた場合を考えている点が特徴である。図6.2から、実績値からは非借入準備の対数値がラフに 見てトレンドを伴っているのがうかがえる。したがってこのビヘイビアをシンプルに表現するために、N BRtが タイムトレンド及び4期の自己相関構造を持っていると仮定した。回帰させた結果、次の推計式を得た。

図 6.2: 非借入準備(N BRt)とトレンド

N BRt= 10.027 + 0.040(@T REN D) + [AR(1) = 1.079, AR(2) =0.906, AR(3) = 0.405, AR(4) =0.249]

(6.35) この式から2006年第4四半期までの外生値を与えトレンドに沿って増加させた場合を考えた。他の外生変数は ベースラインと同じである。このケースをシナリオ1とした。シナリオ2はシナリオ1の非借入準備のビヘイビ

13変数には対数値を使っているので、元に戻すと108兆円に相当する。

アに加え、さらに預金準備率ktを現行の半分、0.65%に引き下げた金融緩和のケース(b)を考えている。シナリ オ3は金融引締めのケースで、企業家の心理が冷え込んだことに対して、xa,tをサンプル中ミニマムの値46(94 年第1四半期)で固定し、公定歩合idは改定前の0.25に引き上げた。準備率は変化なく、非借入準備を10%削減 させた場合(10.8兆円の減少)を考えている。シナリオ4は企業家のマインド改善のケースで、xa,tをサンプル中 マキシマムの値54(89年第3、第4半期)で固定した。何らかの外生ショックにより企業家のマインドが好転する 場合を想定しており、意図せざる政府支出増大、法人税減税、外国の輸入需要増大なども含まれる。他の変数は ベースラインと同じである。各シミュレーションとベースラインとの比較は図6.3から図6.6に、要約は表6.3に 示される。

図6.3: ベースラインと金融緩和(a)[シナリオ1]

-1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0

2004Q3 2005Q1 2005Q3 2006Q1 2006Q3 i_call

0.9 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7

2004Q3 2005Q1 2005Q3 2006Q1 2006Q3 i_L

5.0 5.5 6.0 6.5 7.0 7.5 8.0

2004Q3 2005Q1 2005Q3 2006Q1 2006Q3 BR

4.578 4.579 4.580 4.581 4.582 4.583 4.584

2004Q3 2005Q1 2005Q3 2006Q1 2006Q3 p

13.44 13.45 13.46 13.47 13.48 13.49 13.50

2004Q3 2005Q1 2005Q3 2006Q1 2006Q3 m

4.7896 4.7897 4.7898 4.7899 4.7900 4.7901 4.7902

2004Q3 2005Q1 2005Q3 2006Q1 2006Q3 x

13.252 13.256 13.260 13.264 13.268 13.272 13.276 13.280 13.284 13.288

2004Q3 2005Q1 2005Q3 2006Q1 2006Q3

Baseline Scenario 1 y

本論文は貨幣総量に関しての考察を主としているので、その他内生変数の反応に関しては、ベースラインとの 乖離として以下の簡単な記述にとどめておく。

インターバンク金利であるコールレートはどのシナリオをとっても下限0%に張り付いている。一方、貸出 金利は金融緩和に対し2年間で0.675%ポイント低下、引締めに対し0.123%ポイント上昇、マインド改善に

対し0.002%ポイント上昇と、妥当な動きを示している。

借入準備に関して、非借入準備のトレンドに沿っての拡大は、(6.35)に従って、金融緩和策として2年で約 76兆円増加していくと仮定した。その動きに対して、借入準備はベースラインとの比で2549億円のマイナ

図6.4: ベースラインと金融緩和(b)[シナリオ2]

-1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0

2004Q3 2005Q1 2005Q3 2006Q1 2006Q3 i_call

0.9 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7

2004Q3 2005Q1 2005Q3 2006Q1 2006Q3 i_L

5.0 5.5 6.0 6.5 7.0 7.5 8.0

2004Q3 2005Q1 2005Q3 2006Q1 2006Q3 BR

4.578 4.579 4.580 4.581 4.582 4.583 4.584

2004Q3 2005Q1 2005Q3 2006Q1 2006Q3 p

13.38 13.40 13.42 13.44 13.46 13.48 13.50

2004Q3 2005Q1 2005Q3 2006Q1 2006Q3 m

4.7896 4.7897 4.7898 4.7899 4.7900 4.7901 4.7902

2004Q3 2005Q1 2005Q3 2006Q1 2006Q3 x

13.252 13.256 13.260 13.264 13.268 13.272 13.276 13.280 13.284 13.288

2004Q3 2005Q1 2005Q3 2006Q1 2006Q3

Baseline Scenario 2 y

図 6.5: ベースラインと金融引締め[シナリオ3]

.00 .04 .08 .12 .16 .20

2004Q3 2005Q1 2005Q3 2006Q1 2006Q3 i_call

1.60 1.64 1.68 1.72 1.76 1.80 1.84

2004Q3 2005Q1 2005Q3 2006Q1 2006Q3 i_L

7.5 7.6 7.7 7.8 7.9 8.0 8.1

2004Q3 2005Q1 2005Q3 2006Q1 2006Q3 BR

4.578 4.579 4.580 4.581 4.582 4.583 4.584

2004Q3 2005Q1 2005Q3 2006Q1 2006Q3 p

13.36 13.38 13.40 13.42 13.44 13.46 13.48 13.50

2004Q3 2005Q1 2005Q3 2006Q1 2006Q3 m

4.7890 4.7892 4.7894 4.7896 4.7898 4.7900 4.7902

2004Q3 2005Q1 2005Q3 2006Q1 2006Q3 x

13.20 13.21 13.22 13.23 13.24 13.25 13.26 13.27 13.28 13.29

2004Q3 2005Q1 2005Q3 2006Q1 2006Q3

Baseline Scenario 3 y

図6.6: ベースラインと企業家心理改善[シナリオ4]

-1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0

2004Q3 2005Q1 2005Q3 2006Q1 2006Q3 i_call

1.6115 1.6120 1.6125 1.6130 1.6135 1.6140 1.6145 1.6150

2004Q3 2005Q1 2005Q3 2006Q1 2006Q3 i_L

7.4 7.6 7.8 8.0 8.2 8.4 8.6 8.8

2004Q3 2005Q1 2005Q3 2006Q1 2006Q3 BR

4.574 4.576 4.578 4.580 4.582 4.584

2004Q3 2005Q1 2005Q3 2006Q1 2006Q3 p

13.44 13.48 13.52 13.56 13.60 13.64

2004Q3 2005Q1 2005Q3 2006Q1 2006Q3 m

4.7896 4.7897 4.7898 4.7899 4.7900 4.7901 4.7902 4.7903

2004Q3 2005Q1 2005Q3 2006Q1 2006Q3 x

13.24 13.26 13.28 13.30 13.32 13.34 13.36

2004Q3 2005Q1 2005Q3 2006Q1 2006Q3

baseline Scenario 4 y

スとなり、(6.10)の符号条件が該当する結果となった。非借入準備の10%削減(10.8兆円の削減)に対して は、引締め当初は1206億円のプラスであったが、2年でその関係は逆転し、結局611億円のマイナスとなっ た。どちらの場合でも、非借入準備と借入準備でボリュームに差があるため、カウンターアクションが発生 してもベースマネーの政策当局のコントローラビリティはかなり高いといえる。ただし、金融緩和の効果が 実質GDPに明確に及ぼされないことから、インターバンク市場の資金がその他のオープン市場へ流れにく くなっていることがうかがえる。また、マインド改善に対しては2766億円の増加となった。

実質実効為替レートは金融緩和に対し0.002円の円安、金融引締めに対し0.039円の円高と通常考えられる 反応を示しながらも、非常に小幅な変動にとどまった。また、マインド改善に対しては0.039円の円安と通 常考えられる反応を示した14。ファイナルテストでのフィットの悪さ、海外要因を一定と仮定した本モデル の限界を示していると思われる。

実質GDPには金融緩和政策がほとんど効かず、2年間で2.160兆円の増大効果しかない。一方引締め策に はセンシティブに反応し、41.963兆円の減少効果が表れるという非対称性を示した。実質GDPを上昇させ るには、企業家心理の改善が最も大きく影響し44.312兆円の増大を示した。

金融緩和が物価下落に与える効果は非常に小さく、ベースラインとほぼ同じとなった。逆に引締めでは上昇

14対数値を戻し、ベースラインの値との比較で計算している。以下GDP、借入準備、貨幣総量、物価指数とも同じ

圧力がかかるという、いわゆる 物価パズル が発生している15。金融緩和策に対しては0.016ポイントの 低下、引締め策に対しては0.451ポイントの上昇、マインド改善に対しては0.438ポイントの低下を示す。

表6.3: シミュレーション要約表

現状維持 金融緩和(a) 金融緩和(b) 金融引締め マインド改善 変数 ベースライン シナリオ1 シナリオ2 シナリオ3 シナリオ4 実質実効為替レート 120.294 120.296 120.296 120.254 120.332

(0.002) (0.002) (-0.039) (0.039)

実質GDP(10億) 587,464 589,624 589,624 545,501 631,776

(2,160) (2,160) (-41,963) (44,312)

消費者物価指数 97.399 97.383 97.383 97.850 96.961

(-0.016) (-0.016) (0.451) (-0.438)

貸出約定平均金利(%) 1.613 0.938 0.938 1.736 1.615

(-0.675) (-0.675) (0.123) (0.002)

借入準備(億) 2,796 247 247 2,184 5,561

(-2,549) (-2,549) (-611) (2,766)

貨幣総量(M2+CD)(10億) 723,988 728,367 692,283 642,036 814,582

(4,379) (-31,705) (-81,952) (90,594)

2006年第4四半期での値を示す。

( )はベースラインとの乖離幅を示す。