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短期− Error Correcton Model を用いて−

第 3 章 金融システムショックと内生的貨幣供給理論 39

4.4 貨幣需要関数の推定

4.4.2 短期− Error Correcton Model を用いて−

どうかは不確実であるが、1990年代末に長期均衡関係が大きく毀損されたのは確かなようだ。こうした点を踏ま えると、金融システムショックの影響を勘案して、過去においてみられた貨幣と実体経済の関係を基に、マネーの 持つ意味や金融の量的な再評価を行うことに一定の価値が生起されるのではないだろうか。

 例えば、97/3Qまでで推計した長期均衡関係から算出されるマネーギャップ(実績値−推計値)をみると(図4.2)、

98、99年中は大幅にプラス、つまり、貨幣が均衡状態に比べ大幅に過剰となっており、それをそのまま読み取れ

ば、金融は量的にみて過去に例をみないほどの緩和状態にあったことになる。しかし、金融システムショックが発 生した98年以降のデータを含めると、そもそも貨幣とGDPの長期均衡関係は崩壊してしまっているので、過去 においてみられた長期均衡関係をもとに貨幣需要関数のパラメータをそのまま評価することは適切ではない。

図4.2: 金融システムショック未調整のマネーギャップ

-.04 .00 .04 .08 .12 .16 .20

80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 00 02

を説明変数とする貨幣需要関数の形で表現される。ここでは、既に前節で少なくとも1997年まではGDP、金融 資産の間の長期均衡関係が確認されていることから、こうした長期均衡関係の存在と整合的な関数を用いること とする。具体的にそれは、Error Correction Model(以下ECMと略す)型貨幣需要関数と呼ばれる関数型である13

。以下、本節では、短期貨幣需要関数を表すと考えられるECM型貨幣需要関数を計測し、そのパフォーマンスを チェックする。関数のモデルは以下で特定化する。

∆ lnmt=β0+β1ECTt1+β2∆ lnmt1+β3∆ lnyt+β4∆ lnwt+β5∆Rt+µt (4.4)  ECM型貨幣需要関数の計測にあたっては、被説明変数を実質貨幣総量の前期比(厳密には対数前期差、以下同 様、但し利子率に関しては原計数の前期差も併せて使用)とし、説明変数としては前節で用いた実質GDP、実質 金融資産、および利子率を含めた。さらに、貨幣保有主体は、長期均衡からの乖離があれば、その乖離の一定割 合を当期に修正するように行動するという考え方に基づく誤差修正項ECTt14

と、短期的な調整ラグの存在に対 応した実質貨幣総量の自己ラグ項を組み入れている。なお、ここでは利子率として、コールレート、貨幣保有の機

会費用(ライバルレート[広義金融資産のレート]−M2+CDのレート)15、および機会費用の逓減ウェイト加重平

16 を考えた。推計方法はOLS、推計期間は共和分関係が認められた1997年までと、長期的均衡関係が崩れた 1999年まで、そして2004年までと3つに分けることにする。結果は表4.4で表される。

 利子率要因として実質利子率と貨幣保有の機会費用を用いた推計に関しては3つのサンプルセットとも全て有 意となったが、機会費用の加重平均は有意とはならなかった。ただし、符号条件が全てプラスになってしまった。

一方、実質資産項は全て有意に至らなかった。さらに、誤差修正項は97年までのサンプルセットで実質利子率の 場合を除き、全て有意ではなかった。また、この唯一有意となった推計でも符号条件がプラスであり、そのまま 受け止めれば前期のマネーギャップを加速させるような経済システムであることになる。貨幣総量変動に占める GDP変動の寄与は、実質利子率よりも機会費用のほうが若干大きいことがわかる。反対に実質利子率での推計で は前期の貨幣総量の変動が大きく効いていることがわかる。決定係数による判断では実質利子率での推計が支持 されるといえるだろうが最大でも0.6に満たなく必ずしもいいパフォーマンスではない。全般的にこれらモデルが 貨幣総量の変動を十分説明しているかというとそうではなく、サンプル数が増えるに従い、さらにパフォーマンス が悪化しているようである。モデルの定式化が不十分であったり、利子率要因や金融資産の集計法に改善の余地が あるのかもしれないが、以降では貨幣総量に大きな影響を与え、実体経済との関係をシフトさせる新たな要因と しての金融システムショックに注目していく。

13日本のデータを用いたECMの詳細については、吉田(1989)[149]、蓑谷(1997a)[143]、蓑谷(1997b)[144]を参照。

14この方法は、まず長期均衡式におけるパラメータを推定し、この結果を利用してECMError Collection Termを計算したうえで最 終的にECMを計測する方法(Engle-Granger Two-Step Method)である。

15ここで、○ライバルレート<公社債現先3ヶ月もの、定額貯金3年もの、貸付信託5年もの、金銭信託5年もの、事業債最長期ものの平 均>、○M2+CDのレート<普通預金、貯蓄預金、定期預金1年もの、CDの平均>とおくものとする。

16機会費用をOPtとおくとその逓減ウェィト加重平均OP0t

OP0t= (6/21)OPt−1+ (5/21)OPt−2+ (4/21)OPt−3+ (3/21)OPt−4+ (2/21)OPt−5+ (1/21)OPt−6

6期前までとする。こうした処理は「M2+CDと経済活動の関係について」『日本銀行月報』19976月号の図表5(注)に準ずる。

 ここで、金融システムショックによって、なぜ貨幣と実体経済の長期均衡関係がシフトするのかを考える。前述 のように、金融システムショックの実物経済に対する影響を、市中銀行の流動性選好増大が企業の投資行動の変化 を促し、貨幣保有動機が予備的動機へ移行することにより所得とのリンクが毀損するというシーケンスの急激な 生起であると捉えるならば、1997年末に発生した北海道拓殖銀行や山一證券の経営破綻を発端とする金融不安は、

企業の資金制約に関する不確実性を拡大させ、設備投資にマイナスのインパクトを与えた一方で、将来の不確実 性に備えた貨幣需要、所謂予備的需要(precautionary demand)を増大させたものと考えられる。このため、金融 不安による不確実性の増大は、実体経済の活動を低迷させる一方で、貨幣の需要を増加させるだろう。伝統的な 貨幣と所得の長期関係式では、この予備的需要を無視する、あるいは一定と見なしてきたのだが、1997年末に起 きた金融不安のインパクトの大きさを考えると、そうした定式化は適切とは言えないであろう。よって、次節以降 ではそうしたショックを定量化したうえで新たな貨幣需要関数の一要因として加え、パフォーマンスの変化をみて いくことにする。

表4.4:ErrorCorrectionModels Sample:1980Q1-1997Q3Sample:1980Q1-1999Q3Sample:1980Q1-2004Q2 DependentVariable:D(LM)DependentVariable:D(LM)DependentVariable:D(LM) VariableCoeff.t-stat.Prob.VariableCoeff.t-stat.Prob.VariableCoeff.t-stat.Prob. ECM-10.1282.2150.030ECM-10.0561.1120.270ECM-1-0.025-0.5690.571 D(LM(-1))0.6226.5410.000D(LM(-1))0.5815.9620.000D(LM(-1))0.4705.1100.000 利子率D(LY)0.1711.4040.165D(LY)0.0850.8080.422D(LY)0.0300.3210.749 RCALLD(LW)0.0090.3300.743D(LW)0.0060.2210.826D(LW)0.0090.3480.729 D(RCALL)0.0075.6660.000D(RCALL)0.0076.0120.000D(RCALL)0.0076.4980.000 R20.549D.W.1.800R20.507D.W.1.738R20.475D.W.1.664 AIC-6.981F-stat.17.533AIC-6.979F-stat.16.640AIC-7.075F-stat.18.219 SBIC-6.787Prob(F)0.000SBIC-6.796Prob(F)0.000SBIC-6.915Prob(F)0.000 DependentVariable:D(LM)DependentVariable:D(LM)DependentVariable:D(LM) VariableCoeff.t-stat.Prob.VariableCoeff.t-stat.Prob.VariableCoeff.t-stat.Prob. ECM-10.0791.1430.257ECM-10.0040.0710.943ECM-1-0.082-1.5830.117 D(LM(-1))0.4944.4210.000D(LM(-1))0.4473.9310.000D(LM(-1))0.3173.0070.003 利子率D(LY)0.3452.4360.018D(LY)0.2111.6990.094D(LY)0.1211.0940.277 OPD(LW)0.0401.2080.232D(LW)0.0381.1580.251D(LW)0.0421.4160.160 D(OP)0.0101.7200.090D(OP)0.0111.9640.053D(OP)0.0112.0740.041 R20.349D.W.2.149R20.295D.W.2.106R20.264D.W.2.014 AIC-6.615F-stat.8.298AIC-6.620F-stat.7.347AIC-6.737F-stat.7.831 SBIC-6.421Prob(F)0.000SBIC-6.437Prob(F)0.000SBIC-6.577Prob(F)0.000 DependentVariable:D(LM)DependentVariable:D(LM)DependentVariable:D(LM) VariableCoeff.t-stat.Prob.VariableCoeff.t-stat.Prob.VariableCoeff.t-stat.Prob. ECM-10.0891.2860.203ECM-10.0050.0900.929ECM-1-0.075-1.4480.151 D(LM(-1))0.5134.4010.000D(LM(-1))0.4663.8700.000D(LM(-1))0.3302.9970.004 利子率D(LY)0.3532.4940.015D(LY)0.2151.7350.087D(LY)0.1321.1890.238 OP’D(LW)0.0230.7200.474D(LW)0.0210.6490.519D(LW)0.0280.9440.348 D(OP’)-0.003-0.1420.888D(OP’)-0.007-0.3750.709D(OP’)-0.003-0.1580.875 R20.340D.W.2.286R20.273D.W.2.220R20.237D.W.2.091 AIC-6.664F-stat.7.703AIC-6.654F-stat.6.470AIC-6.764F-stat.6.723 SBIC-6.465Prob(F)0.000SBIC-6.467Prob(F)0.000SBIC-6.601Prob(F)0.000 LMは実質貨幣対数値、LMは実質GDP対数値、LWは実質資産対数値、RCALLは実質利子率、OPは貨幣保有機会費用、OP’はその加重平均、(-1)1期前を表す R2は修正済決定係数、AICおよびSBICは赤池、シュワルツ情報基準量、D.W.はダービン・ワトソン比、F-stat.およびProb(F)F統計量とそのp値を示す