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ストラクチュアリストとアコモデーショニストの論争

第 3 章 金融システムショックと内生的貨幣供給理論 39

3.4 ストラクチュアリストとアコモデーショニストの論争

そもそもアコモデーショニストの議論は、貨幣は外生的であるというオーソドックス・ビューに対してのアン チテーゼ として組まれた。彼らが当初、過度に厳密な内生的貨幣供給理論を展開しようとしたため、内的批判と してのストラクチュアリスト台頭を誘発させたと考えられる。そのストラクチュアリストによる批判に応える形 で1980年代後半から1990年代を通じてアコモデーショニスト・ビューはさらに洗練されてきた。以下では前節 までで別個に述べてきた2派の視座を、議論の争点となった5つのトピックから再整理していくことにする。

3.4.1 市中銀行の完全受動性

アコモデーショニストに対しては市中銀行のベースマネーに対する完全受動性を想定し、市中銀行は自行のバ ランスシートポジション(流動性比率)に無関心であるという批判がある。そして市中銀行がバランスシートに注 意を払うとすると、おのずと右上がりの貸出供給曲線が導出できるとストラクチュアリストは考える。一方、ア

31行動経済学のパースペクティブについては第2章注10で述べたとおりである。

コモデーショニストは以下のように反論している。市中銀行は企業の資金需要を満たすにあたり起点としての役 割を果たす。クレジットライン内での信用供与に関しては、貸出供給曲線が依然としてホリゾンタルである。市中 銀行は当然信用供与を制約する場合があり、貸出量に対しては大きな裁量権を持っていると考える。つまり、信 用付与に制約を置いているのであって、貸出ファンドの枯渇に対し制約を置いているわけではない。信用供与の 裁可を司るのは、借手の信用力に対する市中銀行の評価である。この解釈がかなりの期間ストラクチュアリスト に認知されず、無視され続けてきた。このことは、アコモデーショニストは市中銀行がしばしば信用を制約する ことを了承しているが、貨幣供給曲線の形状には影響を与えないと主張している。すなわち、貸出需要の増大に 伴って利子率が必然的に上昇する妥当性はないと考えているのである。

 結局これは non-price mechanism (Rochon(1999)[78]p.172)であり、貸出需要増加に対して利子率を増加させ る根拠とはならない。貸出金利は個々の貸出要件に基づいて決定されるものであり、マクロ経済状況全般と関連 付けられるものではない。すなわちストラクチュアリストの考えにはマクロとミクロの議論の混同があるとアコ モデーショニストは批判している。ストラクチュアリスト・ビューがよりマクロ的視点に立脚しているのに対し、

アコモデーショニスト・ビューが個別のしかもクレジットラインまで借りこんでいない優良貸出先を想定してい ることより生じる視点の差異が存在する。この差異が貸出供給曲線の傾きに現れるのものと考えられる。

3.4.2 外生的利子率のレベル

中央銀行によって設定される短期市場金利は外生的であるにもかかわらず、そのレベルをどう設定するかにつ いての議論が何もないとのアコモデーショニストへの批判がある。アコモデーショニストのEichner(1987)[25]は こうした批判に応え、利子率は政治的に決定される配分的変数(distributional valiable)であると考えている。ま

たMoore(1988)[60]によると、利子率水準は非市場的現象によって決定されるものであるとし、例として経済成長

率、インフレ率、失業水準の目標値とのギャップに依存する反応関数であるとする32。前述したストラクチュアリ ストの双方向性のように、市中銀行の意思が反映していることを前提とすれば反応関数の存在自体は問題がない。

すなわち、中央銀行はマクロ経済の目標群の追求のため、利子率を循環促進的(procyclically)に変化させている のである。よって、短期市場金利について説明を欠いているというストラクチュアリストの批判は妥当性がない ことになる。

3.4.3 マークアップによる銀行貸出利子率の設定

ストラクチュアリストであるPalley(1994)[70]によるアコモデーショニスト批判の一つは、彼らが貸出利率の設 定の際コンスタントマークアップを想定しているというものである。その批判に対して、アコモデーショニスト は景気循環を通じてマークアップ率が一定であるということを必ずしも意味するものではなく、マークアップ率

32さらに、金融政策手段、利子率変化による経済主体の感応度、市場の開放度、資本移動性、外貨準備・外国為替レート変動の許容性、国 内および外国のインフレ率、政府が経済を制御しようとする意思の程度、国家間の政策協調性にも依存するとしている。

の変化は信用需要増大の結果でも経済活動活発化の結果でもないと反論している。アコモデーショニストである

Eichner(1987)[25]によれば、マークアップ率はリスクプレミアムの増加関数であり、市中銀行の流動性選好の増

加関数といいかえることができるという。そのリスクプレミアムは借手のタイプ、担保の質、貸出期間の3要因 により決定されると考えている。ただし当該企業のクレジットライン内では貸出供給曲線は依然としてホリゾン タルなのであるとともに、リスクプレミアムを貸出利子水準に帰する理由がなくシフト要因であると捉えている。

よってマークアップ率は可変であり、上記パリーによる批判は該当しないとしている。このことは、マークアップ 率は短期的に外生的だが中長期では市中銀行の流動性選好による内生的変数であることを含意するものである。

3.4.4 ALM 活用の妥当性

バンキングシステムにおけるALM活用の妥当性は、中央銀行の準備金需要に対して完全受動性を想定している アコモデーショニストとは本来相容れないものである。また、市中銀行はいつでも必要準備をALMの実践を通じ て確保することができるというムーアの議論はALMに関する誤った議論である。すなわち、量的制約を本来受け ないアコモデーショニストの見解では、ALMの実践を促進するようなインセンティブが生じないとストラクチュ アリストは批判する。

 それに対してアコモデーショニストは、所与の預金量に対して超過分と判断する準備を保有する場合に、その 保有には一種の税と捉えられる機会費用が発生すると考えている。このコストを回避するよう市中銀行はALMを 活用する。また、個別銀行は預金で賄いきれない資金不足が生じる場合、貸出需要に応じるために短期金融市場 で譲渡性預金発行といったALMを行使するであろう。しかし、中央銀行がフルアコモデーションのスタンスを とる限り総準備の供給が保証されるので、銀行システム全体としては、流動性の調節のためにALMを行う必然 性はないのである。従って、バンキングセクターにとって総準備に何らかの数量制約が存在しているか、あるい はそうした制約が生じると予想する場合に、市中銀行がALMを行うインセンティブは生じると結論づけている。

ゆえに、アコモデーショニスト、ストラクチュアリストとも市中銀行がALMを活用する点では一致している。

3.4.5 貨幣流通速度

アコモデーショニストは貨幣の流通速度を一定とみなしているという批判33に関しても、アコモデーショニス トは反論している。この批判は、企業の投資を前提とした貨幣需要に、完全受動的に市中銀行が応じて貨幣を供 給する限り、投資の結果得られた所得はその貨幣供給額に比例すると想定することを根拠とする。しかしこれは アコモデーショニストの議論を極めて単純化した場合の結論といえよう。彼らはそもそも流通速度を一定とみな すこと自体が誤った理解に基づくものであるとする。バンキングセクターが貸出を拡張するためにALMを活用 するとする。相対的に低い必要準備率が課せられているより流動性が低い預金に銀行の負債構造をシフトさせよ

33例えばHewitson(1995)[38]p.293参照。

うとすると、利子率の上昇を免れ得ない。その結果、流通速度は変化することになるであろう。さらに、利子率 の変化が貨幣を活動勘定(active acount)から不活動勘定(inactive acount)に移行させたとしても流通速度は変化 する。Moore(1994)[62]は、流通速度は事後的な変数であり予測は不可能であると主張している。つまり、アコモ デーショニストは流通速度を固定的だとは見なさず、生産や所得が決定されてから定まる内生的・事後的に決定さ れる変数であると考えている。さらに、彼らは流通速度に影響を与える要因として金融イノベーション、顧客の 金融機関離れ、代替貨幣の発達等を考えている。

アコモデーショニストとストラクチュアリストの差異はおおまかに表3.2にまとめられる。上記の議論を通じ てわかることは、アコモデーショニストは市中銀行の限定的アコモデーションを許容し、利子率の純然たる外生 性を主張するものではなく、マークアップ率および流通速度は可変であり、ALMを承認しているということであ る。これらの事実は、アコモデーショニストとストラクチュアリストの実質的差異はほとんどないことを意味す る。結局これら批判は、ストラクチュアリストの理解不足あるいはアコモデーショニストの説明不足によるもの なのかもしれないが、ストラクチュアリストの批判を受けることにより、アコモデーショニストが自己の視座をさ らに洗練させていったと考えるべきなのであろう。従ってアコモデーショニストの視座はある意味ストラクチュア リストの視座でのウェイトを偏らせた特殊な例として位置づけることが可能となり、議論を収束させることは可 能であるといえる。

 このように記述的なレベルでは、両理論の構造解析が進んでいる。しかしながら現時点では上記の特徴全てを 兼ね備えた理論モデルを構築するのは難しい。以下では、不完全ながらPalley(1996)[71]を基礎にオーソドックス 貨幣乗数モデル、アコモデーショニスト・モデル、ストラクチュアリスト・モデルを比較静学が可能な形で描写す ることにより、競合する各モデルの差異を明確にしていく。

表3.2: 内生的貨幣供給理論2派の比較

アコモデーショニスト ストラクチュアリスト

バンキングセクターの描写度 低い 高い

ALMによる金融構造変化 小さい 大きい

金融不安の可能性 ナシ アリ

貨幣総量の内生性 高い 低い

利子率の外生性 高い 低い

流動性選好の重視度 低い 高い

視点 ミクロ寄り マクロ寄り

経済環境 静態的 動態的

比較をより明確にするためアコモデーショニストについては論争初期(1980年代)の特性を示して いる。