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第 5 章 内生的貨幣供給仮説の因果性テスト 112

5.2 理論的背景:再述

験的に安定的であるし、貨幣総量のコントロールも可能であると考えている2。それに対して内生的貨幣供給論者 は以下に示す2つの視座がある3

1) アコモデーショニスト・ビュー

3.2節で考察してきたようにアコモデーショニスト・ビューでは、貨幣供給は貨幣需要の変化によって誘発される と考えていて、次のような特徴を持つ。なお、因果性を強調させるために、以下のアコモデーショニスト・ビュー はフル・アコモデーションのケース(参照:69ページ、Case1)を考えることにする。

中央銀行は市場からの需要に応じる形で準備や貨幣を受動的に供給する。

中央銀行からの能動的アクションは、短期市場金利を通じて短期流動性のコストを設定することである。

市中銀行は短期市場金利に一定のマークアップを付した貸出利子率で、企業からの銀行貸出需要を満たすよ う完全にアコモデートな形で貸出を行う。つまり、貸出供給曲線は基本的にホリゾンタルである。

 これら特徴は、貨幣供給量が貸出需要によって完全に内生化されることを意味する。貸出された資金は複式簿 記の原理により預金を生み、また信用力のある借手によって貸出量が決定づけられる。価格(利子率)設定者、数 量受容者である中央銀行が市場短期利子率を決定し、それを基準に市中銀行が貸出利子率を設定する。各変数の 因果関係は以下のように捉えることができる。

Bank loan → Base money、Bank loan → Money supply

 また、所得の変化に応じ借入需要を決定するとともに、新規貸出を通じて創出された預金が総需要の増加をファ イナンスするために使われるので、以下の双方向性(bidirectional causality)が存在するとしている。

Money income ⇔ Money supply

2) ストラクチュアリスト・ビュー

3.3節で考察してきたようにストラクチュアリスト・ビューの特徴は以下の通りである。なお、ストラクチュア リスト・ビューには市中銀行による利潤最大化行動が金融イノベーションを引き起こすインセンティブを増加さ

2M.フリードマンを主とするマネタリストの考え方が該当する。のちに、貨幣乗数を可変的であるとするアプローチも出てきたが、その 変化が短期における貨幣総量の変動を引き起こす支配的な原因であるとしても、中長期では貨幣乗数の変化に起因する影響は次第に低下して いく、と彼らは考えており、その限りでは、中長期的に貨幣総量は外生的だとしている。

3内生的貨幣供給論者には他にHowells(1995,1997)[39][40]に代表される流動性選好観(Liquidity preference view)を支持するものもい る。その考えによると、債券市場での利子率の変化や企業が直接金融市場から調達する資金量は流動性選好をふまえた銀行や家計との相互関 係の中で論じられなければならないし、その際には、直接金融市場と銀行の間接金融市場とのフィードバックも考慮すべきであるというもの である。しかし、渡辺(1998)[152]はストラクチュアリスト・ビューの範囲を広げて、内生的貨幣供給の流動性選好アプローチとして把握し ている。そもそも流動性選好の考えを論題に載せてきたのはストラクチュアリストのPalley(1991)[69]である。流動性選好を考慮しているス トラクチュアリストとの差異が曖昧で因果性も他の2派と識別が困難なため、本論文では流動性選好観をストラクチュアリスト・ビューが内 包するものだとして分析を行う。

せていくという含意もあるが、本章で行う因果性分析ではそこまで対象とするものではない。

アコモデーショニスト・ビューでは、貸出供給は貸出需要に完全受動的で、貸出供給関数が利子率に完全弾 力的である。それに対し、ストラクチュアリストはその不完全性を主張し、貸出供給関数は正のスロープを 持つと考えている。これは、貸出増に伴うリスクの逓増、あるいは貸出単位あたりコストの逓増を考えた上 での銀行の利潤最大化行動の帰結である。

中央銀行は市中銀行の準備需要を十分にアコモデートするものではなく、必要に応じて利子率以外の心理的・

非金銭的コスト(frown cost)をかけてくる。

アコモデーショニスト・ビューでは中央銀行のとりうる政策アクションは利子率コントロールのみであった。

しかし、ストラクチュアリスト・ビューでは部分同調的な調整により利子率による調整と同時に、リザーブ (量)コントローラビリティの余地があるとし、量と利子率2つの政策オプションを持つと考えている。

中央銀行が市中銀行の資金需要に対し必ずしもアコモデートな反応を示さないとすれば、市中銀行にとって、

総準備のアベイラビリティーに対して何らかの制約が働くことを意味する。ゆえに市中銀行はALM4を積極 的に活用することになる。

 このようにストラクチュアリスト・ビューは、貨幣総量が主に企業の銀行貸出需要により決定される点でアコ モデーショニスト・ビューと同調する一方、市中銀行のALMによるポートフォリオ選択の影響を重視し、中央銀 行のコントローラビリティに幅が出ることでは異なる。これら特徴から因果関係はオーソドックス・ビューとア コモデーショニスト・ビューのミックスされたフィードバック関係が重視される。中央銀行が準備やオペを通じて のコントローラビリティを保持するため、貸出需要が増大した際の市中銀行のALM活用は、結果として貨幣乗数 の増加をもたらすことになる。そこで、

Bank loan ⇔ Base money、Bank loan ⇔ Money multiplier といった因果関係が導かれる。所得とマネーに関してはアコモデーショニストと同様に、

Money income ⇔ Money supply の双方向的因果関係を認める。

上記のように内生的貨幣供給学派は大まかに2派に分けられる。以下の実証分析ではオーソドックス・ビュー、

アコモデーショニスト・ビュー、ストラクチュアリスト・ビューを因果性検定により識別し、どの視座が妥当なの かを検討していく。

4貸出需要の増加に対して、銀行が最も安価なファンドの調達源泉を探求する行動を意味する。(3.31)〜(3.37)参照。