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第一章 形容動詞に関する研究の概観

1.6 連体形「な」と「の」

1.6.1 統語的特徴による比較

A. 実体性体言+ノ B. ①情態性体言+ノ

②情態性体言+{ナ/ノ} ③情態性体言+ナ

(鈴木 1986:500-501)

つまり、連体修飾で「な」が現れるということが、情態性体言であることの十分条件と いうことになる。一方、実体性体言は「な」が現れることが許されないので、連体修飾に

「の」を用いるということは実体性体言であることの必要条件になると解釈される。しか し、両者の区分は容易ではない。このことについて、鈴木(1986)は、実体性体言と情態性 体言との区分は明確でなく、連続的なものであると指摘している。

また、羅(2004)は、連体修飾構造における連体形「な」と「の」の区分から、形容動詞 カテゴリーと名詞カテゴリーにおけるその曖昧性について、図 1.5 のように示している。

[図 1.5:連体形から見る形容動詞カテゴリーと名詞カテゴリー(羅 2004:72)]

図 1.5 から形容動詞の連体修飾語には連体形「な」が適用できることが分かる。それに 対して、名詞の連体修飾語には連体形「の」が用いられる。このことから、名詞のカテゴ リーに近づくに従い、形容動詞の連体修飾における連体形「な」と「の」の選択にも曖昧 性が強くなることが予想される。

楊(2010)は、『岩波国語辞典』を用いて、連体形「な」と「の」の使用にゆれが見られ た形容動詞を抽出した上で、それらの語を国立国語研究所の KOTONOHA「現代日本語書き言 葉均衡コーパス」で検索し、「な・の」の併用を当該語彙の品詞性、語源との関係などの面 から総合的に分析した。その結果、「な」の使用率が 90%以上のものは「な類」、10%以下の ものは「の類」、その間にあるものは「な・の類」として分類された。

田野村(2002)は、形容動詞の連体形「な」と「の」の選択は「一見単純そうであるが、

種々の要因の絡んだやっかいな問題である」(田野村 2002:207)と述べている。また、田

な な/の の

野村(2002)は連体形「な」と「の」の選択に関与する要因として、次の 3 つを挙げた。

第 1 に、「な∕の」の選択には、形容動詞そのものの種類や性質によって決まると いう側面がある。

第 2 に、 形容動詞連体形が現れる文脈に選択が依存しているという面もある。

第 3 に、「な∕の」の選択には時代差、文体差、個人差などの要素も関わっている。

田野村(2002:207-208)

原田(2001)によると、「~の」による名詞修飾は、本来は、前項の語彙が後項の語彙と どのように関係していくかを示す広範な関係提示を表す機能があるが、漢語語幹の「~の」

の意味・用法はそれとは異なっているという。漢語系形容動詞の「~の」の用法は、「が」

「を」などの格助詞が付く用法を有することや歴史的に外来語として導入された時の形態 としての用法から考えても、名詞に由来するものと見られたため、漢語系形容動詞は元々、

積極的には属性を表さない名詞的な語であったことに拠ると考えられる。

沈(1983)は連体形「な」と「の」の使用について、「A+B」という連体修飾モデルの中 で、A が B の属性を説明する場合、「A な B」が多く用いられると述べている。一方、A に備 わる名詞性が強く、また、B の属性を説明していない場合、「A の B」という形式が多くの 場合使われると指摘した。そのため、連体形「な」と「の」の使用は当該語彙が形容動詞 か名詞という品詞上の判断だけでは不十分であり、修飾語が被修飾語の属性を表すか否か が判断のポイントになると述べている。

松下(1975)と奥津(1978)は「自由の女神」と「自由な女神」の区別を説明している。前 者の「自由」は名詞と連体形「の」との結合体であるため、「形容動詞性をもつ名詞」(松 下 1975:108)ということになる。「自由の女神」の意味は、「自由の象徴としての女神」(松 下 1975:108)ということになる。一方、後者の「自由」は形容動詞であり、「『自由な』は 形容動詞の連体形」であるため、「述語性」があると指摘した。また、松下は「『自由』は 形容動詞とすると、もっとも名詞性の強い部類」に(松下 1975:109)属すると主張してい る。さらに、奥津(1978:122)は同じ語彙であっても、名詞的な用法か形容動詞的な用法か を区別しながら、連体形「の」か「な」を「使い分けるものもあったし、そうでないもの もあった」と述べている。