第六章 漢語系形容動詞の習得3:そのほかの誤用要因の可能性
6.2 学習者要因と日本語指導による影響の可能性
形容動詞の習得に影響を与えるものとしては、母語転移、調査対象語彙の出現頻度のほ かにも、学習適性、学習の動機付けなど学習者に関わる要因、また、日本語教師による指 導に関わる要因が考えられる。そこで、本研究は、中国の西安外国語大学で 76 名の中国語 を母語とする日本語学習者を対象に実施した語彙調査が終了後、形容動詞の習得について、
5 段階評価の形式でアンケート調査をした(中国語バージョンは付録六を参照されたい)。
[表 6.3:形容動詞の習得及び指導に関わる 5 段階評価の内容]
表 6.3 のうち、上から 5 番目までは、形容動詞学習の難易度や日本語学習に対する興味 など、形容動詞の習得において学習者要因と見なされる質問である。一方、残りの 2 つは 段 階
問 題
① ② ③ ④ ⑤
1.アンケート調査 1 に おける格助詞との共 起による表現の正誤 を明確に判断できる か。
非 常 に 明 確 に 判 断 できる
判断でき る
ど ち ら と も 言えない
あ ま り 判 断 で きない
全く判断でき ない
2.形容動詞と名詞の品 詞性を明確に区分で きるか。
非 常 に 明 確 に 区 分 できる
区分でき る
ど ち ら と も 言えない
あ ま り 区 分 で きない
全く区分でき ない
3.アンケート調査 2 に おける連体形「な」
と「の」の使用を明 確に区分できるか。
非 常 に 明 確 に 区 分 できる
区分でき る
ど ち ら と も 言えない
あ ま り 区 分 で きない
全く区分でき ない
4.日本語の形容動詞の 習得が難しいか。
非 常 に 難 しい
やや難し い
普通 簡単 非常に簡単で ある
5.日本語の習得に興味 があるか。
非 常 に 興 味がある
興味があ る
普通 あ ま り 興 味 が ない
全く興味がな い
6.教室指導で、日本語 教師は学習者に形容 動詞と名詞の相違点 を明示したことがあ るか。
明 確 に 明 示 し た こ とがある
常に明示 している
時 々 明 示 す る
あ ま り 明 示 し て い な い
全く明示して いない
7.教室指導で、形容動 詞の文法的特徴及び 名詞との区別を明示 する必要があるか。
非 常 に 必 要がある
必要があ る
ど ち ら と も 言えない
あ ま り 必 要 が ない
全く必要がな い
形容動詞の習得における指導に関する質問である。被験者には、すべての質問に対して 5 段階中最も相応しいと思う段階を選ばせた。その結果は表 6.4 のとおりである。
[表 6.4:形容動詞の習得及び指導に関わる 5 段階評価の結果]
段 階 問 題
① ② ③ ④ ⑤
1. 格助詞との共起表 現に対する正誤判 断
2 (2.63%)
4 (5.26%)
28 (36.85%)
42 (55.26%)
0 (0.00%)
2. 形容動詞と名詞 の区分
2 (2.63%)
7 (9.21%)
24 (31.58%)
42 (55.26%)
1 (1.32%)
3.「な」と「の」
の区分
1 (1.32%)
13 (17.11%)
23 (30.25%)
39 (51.32%)
0 (0.00%) 4. 形容動詞習得の
難易度
0 (0.00%)
43 (56.58%)
23 (30.26%)
8 (10.53%)
2 (2.63%) 5. 日本語習得
への興味
24 (31.58%)
41 (53.95%)
9 (11.84%)
2 (2.63%)
0 (0.00%) 6. 日本語教師
による指導
1 (1.32%)
17 (22.37%)
12 (15.78%)
43 (56.58%)
3 (3.95%) 7. 文法指導
の必要性
17 (22.37%)
46 (60.53%)
7 (9.21%)
6 (7.89%)
0 (0.00%) (注:括弧の中の数字は当該評価を選んだ人数が調査対象者全員に占める比率である。また、各問題
に最も多く評価された段階が太線で囲まれている。影部分は分析に用いられるデータである。)
表 6.4 から、76 名の被験者による評価の比率から見ると、8 割以上(85.53%)の学習者は 日本語学習へ強く興味を持っているが、過半数(56.58%)の学習者は形容動詞と名詞の品詞 性を区分できず、形容動詞の習得を難しく感じている。具体的には、51.32%の学習者は連 体形修飾句に「な」と「の」の使用を区別できず、55.26%の学習者は格助詞との共起によ
る文法適性が明確に判断できないという結果だった。また、形容動詞と名詞の区別による 文法指導については、6 割(60.53%)の学習者は日本語教師から授業中両者の区別をはっき り指導されていないと答えた。さらに、8 割以上 (82.90%)の被験者は文法指導の必要性 があると答えた。
次に、これらの要因のうち、どれが実際の調査結果に影響を及ぼしているのかを確かめ るため、上述の 5 段階評価形式でアンケート調査に参加した 76 名の被験者が 7 つの問題に 対して、選んだ段階の番号を点数化した上で(①~⑤の段階はそれぞれ 1~5 点)、文法性判 断テストにおける各被験者から得られた点数との相関を調べた。
[表 6.5:文法性判断テストの点数と学習者要因及び指導法との相関]
テストの点数 要 因
格助詞との共起 「な」 「の」 結果
r p r p r p
学習者 要因
1.格助詞との共起 表現に対する正 誤判断
.090 .441 .144 .216 .195 .091 n.s.
2. 形動と名詞 の区分
.028 .813 .379** .001 .209 .070 「な」が有意
3.「な」と「の」
の区分
.020 .861 .345** .002 .166 .152 「な」が有意
4. 形容動詞習得 の難易度
-.158 .173 -.146 .207 -.084 .472 n.s.
5. 日本語習得 への興味
.056 .631 .157 .176 .108 .353 n.s.
指導法
6. 日本語教師に よる指導
.017 .887 .295** .010 .110 .343 「な」が有意
7. 文法指導の 必要性
.039 .740 .032 .787 .171 .140 n.s.
(注:r=相関係数;p=有意確率; **相関水準は 1%で有意)
表 6.5 において、1%有意水準で、「形容動詞と名詞の品詞性区分」、「連体形『な』と『の』
の使用上の区別」及び「日本語教師による文法指導」の 3 つの要因は連体形「な」の文法 性判断テストの成績と正の相関が見られた。それに対して、格助詞との共起適性判断テス トと連体形「の」文法性判断テストという名詞が示す文法的特徴のテストにおける成績は いずれも上述の要因と有意な相関が見られなかった。また、学習者要因と教師による文法 指導といった要因は連体形「な」の文法性判断テストの成績のみと有意な相関が見られた ことから、中国語を母語とする日本語学習者は漢語系形容動詞を習得する過程、及び、日 本語教師は形容動詞を指導する過程で、連体形「な」の使用が形容動詞の最も顕著な特徴 であることを重視しているが、品詞上、形容動詞が持つ名詞との関連性はそれほど意識さ れていないと推測される。したがって、学習者にとっては、上級になっても、形容動詞の 習得は依然として難しく感じられ、名詞との区分に関わる詳しい文法指導が求められる。