第五章 漢語系形容動詞の習得2:母語転移の可能性
5.4 日中連体修飾句の対照比較
本節では、高橋(2004)、奥野(2003)の研究をもとに、日本語と中国語の連体修飾句にお ける相違点と類似点を明確にする。以下、語順及び「の」と「的」の必要性をめぐり、日 中連体修飾句を対照分析する。
5.4.1 語順の比較
高橋(2004)は、「日本語では修飾する語句と修飾される語句の語順は常に同じで、修飾部 が被修飾部の直前」に置かれるが、「これは修飾部がどんな品詞であっても同様である」
(p.149)こと、また、「中国語の基本的な語順は SVO で日本語と異なる」が、名詞・形容詞 及び動詞の連体修飾句の語順は「日本語と同様である」(p.150)と述べている。
例 33:
日本語 中国語
通常(N)の業務 通常的业务 ・・・名詞の連体修飾句
美味しい(A)ケーキ 好吃的蛋糕 ・・・形容詞の連体修飾句
有名な(NA)お寺 有名的寺庙 ・・・形容動詞の連体修飾句
寝ている(V)赤ちゃん 正在睡觉的婴儿 ・・・動詞の連体修飾句
(下線:修飾部;矢印:被修飾部;高橋(2004:149-150)の例を参照した上で、筆者が作成したものである)
上の例から、名詞・形容詞・形容動詞・動詞の連体修飾句を見ると、日本語の連体修飾 句と中国語の連体修飾句における修飾語と被修飾語の語順は同様であることが分かる。
しかし、上記の例によると、日本語の連体修飾句では修飾語と被修飾語の間に、連体形
「の」と「な」の区分があるが、中国語の連体修飾句では連体形の区別は見られず、助詞「的」
は両方の機能を担っていると見られる。
村松(2000:32)は、「の」と「的」の必要性に関して、「形容詞と名詞、動詞と名詞を結 ぶとき、日本語では『の』は用いないが、中国語では『的』は必要である」と述べている。
また、形容動詞と名詞を結ぶとき、日本語では『の』ではなく、『な』を用いるが、中国語 では『的』を用いる」と指摘している。
5.4.2 「の」と「的」の比較
本節では、日中連体修飾句における「の」と「的」の必要性を明確にする。高橋(2004)は、
連体修飾句において、「の」を例に挙げてその必要性の有無を表 5.3 に示している。同様に、
中国語における「的」の必要性を、高橋の表を参考に筆者がまとめたものが表 5.4 である。
(○:正用;+:「の」必要;φ:「の」不要。) (○:正用;+:「の」必要;φ:「の」不要。)
[表 5.3:「の」の必要性(高橋 2004:149)] [表 5.4:「的」の必要性]
表5.3と5.4における例文(1)から(4)までは、日本語の連体修飾句では名詞の連体修飾の み、連体形「の」が必要になる。一方、中国語の連体修飾句では、日本語の形容詞、形容 動詞に相当するもの、また、動詞が名詞を修飾するときには、 通常「的」が付く。この結 果は、以下の奥野(2003:98)の「名詞修飾構造に関する対照分析表」の結果と一致してい る。
奥野(2003)は、日本語、中国語、韓国語、英語の名詞修飾構造を対照分析し、表5.5の ようにまとめている。
表5.5の「形容詞と被修飾部間の『の』に相当するものの有無」という項目には日本語の 形容詞と形容動詞の両方が含まれている。また、名詞修飾構造の修飾語と被修飾語間の「の」
に相当するものの有無に関する比較では、中国語の「的」はほかの言語より日本語の「の」
との類似点が多く見られる。奥野(2005)は中国語を母語とする日本語学習者が、母語の「的」
の干渉のため、他言語母語日本語学習者より連体修飾構造を習得する過程で、「の」の誤用 が幅広く見られたと指摘している。
「的」の有無 連体修飾構造
的
+ φ (1)名+名 罗马(的)假日 ○ (2)形+名 好喝的水 ○ (3)形動+名 安静的湖畔 ○ (4)動+名 归国的人 ○ (5)連体詞+名 那个约定 ○ (6)数詞+名 一杯水 ○ (7)副詞+名 很甜的苹果 ○ (8)人代+助詞+名 爸爸来的信 ○ 「の」の有無
連体修飾構造
の
+ φ (1)N1+N2 ローマの休日 ○
(2)IA+N おいしい水 ○ (3)NA+N 静かな湖畔 ○ (4)V+N 国へ帰る人 ○ (5)連体詞+N そんな約束 ○ (6)数詞+N 一杯のかけそば ○ (7)副詞+N たくさんのお土産 ○ (8)X+助詞+N 父からの手紙 ○
[表5.5:名詞修飾構造に関する対照分析表(奥野2003:82)] 比較項目
言語
「の」に相当
するもの 修飾部と被修飾部 の日本語との語順
比較 形容詞と被修 飾部間の「の」
に相当するも
のの有無 動詞と被修飾部 間の「の」に相 当するものの有
無 名詞と被修飾 部間の「の」に 相当するもの の有無
日本語 の × × ○ 中国語 的 同 ○ ○ △ 韓国語 의 同 × × △
英語 of/’s/with,
to, 他前置詞
異・一部同 ×(語順同) ×(語順同) ○ (語順異)
×/’s(語順同)
(注:表内の○は「の」に相当するものが必要、×は不必要、△は場合によって必要(不必要)、を示す。)