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第二章 プロトタイプ理論の研究

2.6 動的文法理論の発展

萱原(2003)は従来の動的文法理論による「基本型から派生型へ」という文法拡張の仕組 みを踏まえ、英語の諸構文を手掛かりにし、「内部的拡張から外部的拡張へ」という文法拡 張のプロセスを解明している。本節では、萱原の研究を中心に、動的文法理論の発展を見 ていく。

Kajita(1977)が提案した「基本型から派生型へ」という文法の拡張形式を踏まえ、萱原 (2003)は、構文形式の統語変化のプロセスは、「内部的拡張」と「外部的拡張」という 2 つの発達過程が担っていることを指摘した。「内部的拡張」とは「当該の構造の内部形式が どのような特徴を持った形式から発達していくかという、構造の内部自体の変化のプロセ ス」(萱原 2003:179)を示したものである。それに対して、「外部的拡張」とは、「当該の 構造が、どのような外部的統語環境のもとで生起するようになるのかという、問題の構造 と外部環境との相関関係を踏まえた変化のプロセス」(萱原 2003:179)のことである。

まず、萱原(2003:180)は動詞“call”を例にして、以下のように、構文形式の統語変化 のプロセスにおける「内部的拡張」を説明している。

例 19:

A. Before this Disappointment, Sir ROGER was what you call a fine Gentleman.

(Specator. 2:8)

(萱原 2003:180) B. It was at this extremity ― and he never resorts to the expedient until

the bidders have reached what they themselves at the time conceive to be the highest point ―

(Old and New London. I:524) (萱原 2003:180)

萱原(2003:180)は、例文 A において、「独立関係節構文内で使われる動詞は“call”を

基本として拡張し、時間の経過とともに」、例文 B のように、 “call”から“conceive”

にも「拡張していくというプロセスを見て取ることができる」と述べている。また、この ような「統語的発達過程における内部拡張プロセス」は、英語の「文名詞句、分裂文、擬 似分裂文、感嘆文、否定倒置構文」などにも見られると指摘している。

一方、萱原(2003:181)は、「代不定詞が生起する統語環境の分布」を表 2.3 のようにま とめながら、構文形式の統語変化のプロセスにおける「外部的拡張」を説明した。

[表 2.3:代不定詞が生起する統語環境の分布]

統語環境 数 割合 例 文

動詞の補部 21 56.8% She opened the window, though I had told Her not to φ. (Zwicky1982:14)

擬 似 法 助 動 詞の直後

9 24.3% I don’t dance much now, but I used to φ a lot.

(Swan1980:328)

主語の位置 4 10.8% a. % You shouldn’t play with rifles, because it’s dangerous toφ. (Zwicky1982:13)

b. * You shouldn’t play with rifles, because to φ is dangerous. (Zwicky1982:7)

間接疑問節 1 2.7% a. I want to calculate the bill, but I don’t know how toφ. (Zwicky1982:14)

b. ?/* Sally has to be told when to leave for school;

she can’t remember when to φ on her own.

(Lobeck1086:157) 形容詞

的用法

2 5.4% a. I meant to destroy it from the first, but I was afraid to φ.(Jeapersen1949:340)

b.* Sally was slow to react, though Lucy was quick toφ. (天沼 1987:77)

(萱原 2003:181-182 の内容をもとに筆者作成)

表 2.3 から、それぞれの統語環境において、「代不定詞の生起する統語環境は、8 割以上 が動詞の補部と擬似法助動詞の直後であること」(萱原 2003:181)が分かる。萱原(2003:

181)は、この現象から、「動詞の補部」及び「擬似法助動詞の直後」以外のほかの統語環境 に生起したのは代不定詞の統語変化のプロセスにおける「外部的拡張」である、と主張し た。また、この主張の妥当性を示すために、萱原はそれぞれの統語環境における「代不定 詞の生起」に対する「容認可能性」の差を比べた。

具体的には、表 2.3 の例文が示すように、すべての構文において、「動詞の補部」や「擬 似法助動詞の直後」に生起する代不定詞は容認可能である。それに対して、 「間接疑問節」、

「主語の位置」における不定詞の適用は構文によって容認度の差があるのが分かる。また、

形容詞的用法では、[be afraid toφ]は容認されるが、[be quick to φ]は容認されない ように、代不定詞の適用に対する容認度が文法的に条件付きとされる場合もある(萱原 2003:182)。

萱原は以上の分析を踏まえ、「内部的拡張においては、基本的なものほど歴史上の生起 過程が早く、外部的拡張においては、ある狭い環境から変化が生じ、より広い環境に拡張 していく」(萱原 2003:184)と指摘した。また、外部的拡張が行われた後の統語環境で形 成された構文には、当該文法項目に対する容認度が低くなる傾向が見られたとも述べてい る。

本節では、プロトタイプ理論だけでは説明できない形容動詞の典型性効果を解明するの に役立つと思われる動的文法理論を紹介した。この動的文法理論は、統語的特徴の中によ り基本的なものとそれをもとに拡張した派生的なものを認め、派生的なものは基本型を習 得した後、ある条件下で習得されるという動的な習得プロセスを想定する。梶田(1982:92) は「文法事項の配列決定のための科学的な規準の 1 つとして、動的な生成文法を採用する ことは、検討してみる価値が十分ある」と述べている。また、萱原(2003)は梶田による「基 本型から派生型へ」という文法の拡張形式を踏まえ、文法の拡張による統語環境の変化に 注目し、「内部的拡張から外部的拡張へ」という文法の拡張プロセスを示した。本研究が対 象とする形容動詞カテゴリーが示す統語的特徴の拡張が、動的文法理論を援用しながら、

どのように分析されるのかという問題は、次章で扱う。