第三章 プロトタイプ理論による形容動詞の再解釈
3.2 形容動詞カテゴリーと名詞カテゴリーの関係
加藤(2003)は、形容動詞の品詞区分については、大きく分けて以下のような 3 通りの立 場があると述べている。
① 形態的な特性に重点を置き、形容動詞を名詞と連続的なものと見(て、名詞の下 位分類として両者を分け)るという立場
② 意味的な特性を重視し、形容動詞と形容詞を連続的なものと見(て、形容詞の下 位分類として両者を分類す)る立場
③ 形容動詞を名詞とも形容動詞とも異質なものと見て区分する立場
3 番目の立場は、形容動詞を体言と別の要素と見るか、用言と見るかでまた異 なり、それぞれを 1 番目の亜属 2 番目の亜種と見てもいい。
(加藤 2003:149)
本研究は①の立場に立ち、プロトタイプ理論を用いて、形容動詞カテゴリーと名詞カテ ゴリーの関係を解明していく。なお、プロトタイプ理論はカテゴリーという概念に基づく ものであるため、形容動詞カテゴリーの典型性を考察するにあたっては、まず、形容動詞 カテゴリーと名詞カテゴリーの関係を明確にしておく必要がある。
形容動詞カテゴリーと名詞カテゴリーの関係について、上原(2003)は、以下の図 3.1 を 用い、それらの境界が明確に区切られないことを示した。
[図 3.1:名詞・形容動詞カテゴリーの継続性(上原 2003:59)]
図 3.1 を見ると、形容動詞カテゴリーにおいて典型的なもの「静か」から名詞カテゴリ ーに近くなればなるほど、語彙メンバーの形容動詞としての典型性は次第に弱まっていく と同時に、名詞的な性質を帯びてくるのが分かる。
一方、沈(1985)は、形容動詞カテゴリーにおける語彙メンバーの品詞性を図 3.2 のよう に分類している。
● ● 名 名詞 形容動 形容
詞 性的 詞性的 動詞
[図 3.2:形容動詞カテゴリーに属する語彙メンバーの品詞性 (沈 1985:33)]
沈(1983)によると、形容動詞カテゴリーに属する語彙メンバーの品詞性は均質ではなく、
語彙によって、名詞的なものと形容動詞的なものが両方存在しているという。すなわち、
形容動詞には、より形容動詞性の強い語彙とより名詞性の強い語彙があるということであ る。
色々 元気 親切 静か
名詞 <= => 形容動詞
また、桜井(1964:42)は、形容動詞カテゴリーの非均質性について、「中心に典型的存 在(和語系では『静かだ』『穏やかな』など。漢語系では『ふしぎだ』『だいじだ』など)が あって、それを囲んでさまざまの度合いの形容動詞性を持った語が存在し、結局、名詞+
なにがしの形容動詞でないものまで連続している」という。
さらに、松下(1975:102)は、「語幹に格助詞『が』や『を』がついたり、また連体修飾 語を受けたり」する形容動詞は「名詞としての性質」が備わっているため、「このような形 容動詞は名詞性を兼有する」と述べている。
形容動詞カテゴリーと名詞カテゴリーに属する語彙メンバーを、辞書に記載された品詞 分類(「形動」、「名・形動」)、また、名詞カテゴリーの場合は「具体名詞」か「抽象名詞」
かに従って類別すると、図 3.3 のようになる。
具体名詞 抽象名詞 形容動詞
名詞性強 形容動詞性強
[図 3.3:形容動詞カテゴリーと名詞カテゴリーに属する語彙メンバーの分類]
図 3.3 によると、形容動詞カテゴリーと名詞カテゴリーに属する語彙メンバーは「具体 名詞」、「抽象名詞」、「形容動詞」の 3 つのグループに分けられる。各グループには、それ ぞれの品詞名と一致しているメンバーがある。一方、「名・形動」は 3 つのグループのすべ てに存在している。この「名・形動」と記載された語は名詞と形容動詞両方の品詞性を備 えたものと思われるが、その両品詞の性質はメンバーごとに異なる。つまり、抽象名詞と 形容動詞カテゴリーの境界線(太字の点線)を中心にして、それより右側に行けば行くほど、
形容動詞性は強くなるが、逆に、名詞性は弱くなる。一方、同境界線を中心にして、それ 具体名詞 「名・形動」 抽象名詞 「名・形動」 「名・形動」 「形動」 「名・形動」 「形動」
本・机 馬鹿・阿呆 永遠・
未知・
唯一
平和・安全 健康・不幸 元気
同様・無数 対等・微妙
有力・
急激・
懸命
大胆・奇妙 円滑・豊富
奇麗・
活発
より左側に行けば行くほど、名詞性は強くなるが、形容動詞性は弱くなるように見える。
また、上の図の抽象名詞カテゴリーと形容動詞カテゴリーの境界線は便宜上太い点線で示 したが、抽象名詞と形容動詞カテゴリーの区別自体は意味的にも統語的にも明確ではない ため、「名・形動」の品詞性の転換は一気に起こるわけではなく、抽象名詞カテゴリーから 形容動詞カテゴリーへ徐々に変わっていくものと思われる。