第2章 各国(地域)の電波防護規制の状況
2.4 欧州中部
2.4.2 オーストリア共和国
2.4.2 オーストリア共和国
(1)電波防護規制の経緯(規制の根拠を含む)
オーストリアでは、電磁界から人を防護する特定の法律は定められていない。電気通信 法(2003年)219 は、電気通信および無線通信のシステムの建設および運営に関する法的 な枠組みを規定しているが、具体的なばく露制限値は示されていない。
EU理事会勧告1999/519/ECによる電磁界の公衆ばく露防護への対応に関しては、オース トリア規格協会 220 がガイドライン草案を 2004 年 2 月に作成し、その後、職業ばく露の
EU指令 2004/40/ECを考慮し国内全域で適用される公衆ばく露および職業ばく露の下記準
規格 221 が同協会から2006年2月1日に制定され同日発効となった。
・準規格ÖVE/ÖNORM222 E 8850(2006-02-01):「周波数範囲0~300 GHzの電 界・磁界・電磁界-人体ばく露制限」223
準規格として制定された理由は、電気工業専門分野における開発がまだ流動的であり、
更なる実際的経験を重ねることが要求されるためとしている。
規格(準規格も含む)は法的強制力を持たない、いわゆる自主規格であるが、専門家(携 帯電話通信事業者、技術関係者または監督行政担当官など)が行政手続上でその規格を使 用し、また公式の通達文書により規格が強制化されることはあり得る。実際にこれまで、
労働者の強制保険を扱う総合傷害保険会社(AUVA)224 および労働安全局では、作業場所 における電磁界放射のレベルについて、以前の下記準規格と照合し確認していた。また、
オーストリアで電磁界等の測定機関として認定された、オーストリア技術研究所(AIT)225 のサイバースドルフ(Seibersdorf)研究部門が測定を行い適合性を確認する際にも使用さ れていた。
2006年成立のこの新しい準規格以前は、オーストリア規格協会の定めた下記2つの準規 格が、法的効力のない自主規格として使われていた。複雑であるが、規格番号 SF1119、
SF1120は制定年の順序にはなっていない。
219 Telekommunikationsgesetz BGB1 I Nr.70/2003
220 Österreiches Normungsinstitut
221 Vornorm (= Preliminary standard)
222 ÖVE: Österreichischer Verband für Elektrotechnik オーストリア電気技術協会 ÖNORM: Österreichische Norm オーストリア工業規格
223 ÖVE/ÖNORM E 8850: Elektrische, magnetische und elektromagnetische Felder im Frequenzbereich von 0 kHz bis 300 GHz - Beschränkung der Exposition von Personen.
224 AUVA: Allgemeine Unfallversicherungsanstalt
225 AIT: The Austrian Institute of Technology 2009年6月に旧名称Austrian Research Centers (ARC)から社名変更。
2.4.2 オーストリア共和国
・ÖNORM SF1119(1994年):周波数範囲0~30 kHz
・ÖNORM SF1120(1992年):周波数範囲30 kHz~3000 GHz(3 THz)
これら旧準規格 SF1119およびSF1120は、公衆ばく露および職業ばく露の電磁界防護の 規格であり、電界強度と磁界強度が規定されている。これらの規格が根拠としたガイドラ
インはIRPA/INIRC(ICNIRPの前身)であるが、制限値は必ずしも同じ値ではない。
また、労働者の健康保護は労働健康保護安全法によりなされている。
(2)電波防護規制の内容
(ア)比吸収率(SAR)および公衆ばく露と職業ばく露の規制
準規格ÖVE/ÖNORM E 8850は、公衆ばく露のEU理事会勧告1999/519/ECおよび職業ば
く露のEU指令 2004/40/ECに準拠し、0~300 GHz の周波数範囲における公衆ばく露と職
業ばく露が規定されている。規定された比吸収率(SAR)、接触電流および誘導電流を含 む基本制限、参考レベルを ICNIRP ガイドラインと比べると、無線周波領域の制限値は同 じであるが、その他では異なる点がある。準規格ÖVE/ÖNORM E 8850は、オーストリア 規格協会から購入できるが、その内容はウェブ等で公開されていない。
(イ)基地局の設置手続き
各地方都市が基地局設置の手続きを管理する。各州それぞれの建築景観保護法に基づく 許可が必要である。そのほか連邦法よる許可(飛行安全性、森林保護、重要文化財建造物 保護など)が必要になる場合もある。9 州各州にはそれぞれの用地取得の建築法があり、
標準的手続きとは異なる複雑な許可申請が加わる。
(3)規制制定の関連機関
連邦運輸・革新・技術省 226 は、無線設備や通信設備等の建設と運営について、許認可と 規制管理を担当する。オーストリア通信庁は周波数の割当管理を担う。
連邦農林・環境・水利省 227 の放射線防護部は、オーストリアの電磁界と健康保護に関す る全体的な規則を担当している。
連邦保健省 228 は、公衆衛生を担当し、医療機器(電子植込装置など)に及ぼす電磁界 の干渉、電磁界の医療への応用などを扱う。
連邦労働・社会政策・消費者保護省 229 は、職業ばく露を担当し、送電線の建設および運 営について許認可、規制管理を担い、さらに産業界での電磁界の応用に関する許認可を管
226 Bundesministerium für Verkehr, Innovation und Technologie.
227 Bundesministerium für Land- und Forstwirtscaft, Wmwelt und Wasserwirtscaft
228 Bundesministerium für Gesundheit
229 Bundesministerium für Arbeit, Soziales und Konsumentenschutz
2.4.2 オーストリア共和国
轄する。
オーストリア規格協会は、保健省と電力業界の要請で標準局と電気技術協会を中心に構 成されている。同協会にはオーストリア工業規格を策定するために多くの技術委員会があ る。
オーストリア技術研究所(AIT)は、大学を除くオーストリア研究機関中で最大の研究 機関で独立した株式会社であり従業員は公務員ではない。そのサイバースドルフ研究部門 は20年数年にわたりオーストリアの規格策定に携わっている。電磁界の適合性測定の認定 された機関として、装置の EMC(電磁環境両立性)、電磁界のばく露評価、無線周波ドシ メトリー(ばく露評価)、電子植込装置の感受性などの計測を扱う。
この他の認定された測定機関として、TGM電気技術電子試験所 230 は基地局周辺の電磁 界の測定を行い、オーストリア TÜVは EMC の測定のほか基地局やテレビ・ラジオ局周辺 の高周波電磁界強度の測定を担当する。
(4)地方レベルの電波防護規制
2013年のオーストリアの地域レベルにおいて、法的強制力を有する電磁界ばく露規制は 行われていないが、ばく露低減策の勧告などは地域により行われている。
オーストリアの多くの地方自治体の都市では、1 µW/m2~100 mW/m2 間にある厳しい電 力密度のばく露制限値を課すという決議が採択されてきたが、その規制はいずれも法的効 力を持つものではなかった。
ザルツブルグ市と州では、電力密度1 mW/m2を超えたら建築許可を出さないなど強制化 の決議を試みたが、建築許可過程とは無関係とされ法的効力を持つものではなかった。ザ ルツブルグ市は2005年3G設備投入に行き詰まり、市と携帯電話事業者との間で協同の「作 業手引き」が制定され解決された。その手引きに従い市内の新設 3G サイトを測定評価し た結果、ザルツブルグ市所望のばく露制限値1 mW/m2に対し、多くのサイトはこの値より 低いが、他方では非常に多くのサイトがこの値を超えることが分かった。
ザルツブルグ州では2013年9月に無線診断ガイドを発行し、日常の電磁界ばく露を各個 人が低減する方策を提示している。ばく露制限値はさまざま事例に対した数値を提示して いるが、周波数対応の制限値は提示していない。
230 TGM Versuchsanstalt für Elektrotechnik und Elektronik