沿革
大学院を設けるに当たっては、生理学の専任教授が2名必要であることを条件としたの で、本学でも1954年の半ば以降、生理学専任教授を1名増員することが問題となった。
選考の結果、当時東北大学医学部助教授であった岩間吉也を本学第2生理学教室主任教授
に任用することに決定し、1954年12月1日付けをもって発令した。一方、先任の齋藤幸 一郎教授(第1生理学教室)は、主としていわゆる植物機能の生理学を研究領域としてき たので、教育面での分担も、おのずから齋藤教授が植物性機能の生理学を、岩間教授が動 物性機能の生理学を受け持つことになった。1962年9月、岩間教授は大阪大学医学部神 経研究施設の新設の神経生理部門へ配置換えとなり、1963年4月転任した。
岩間教授の後任として、1963年11月1日、当時鹿児島大学医学部教授であった大村裕 が、第2生理学教室主任教授に配置転換された。1974年8月、大村教授は九州大学医学 部第2生理学教室教授として転任した。
大村教授の後任として、1975年1月、群馬大学医学部行動医学研究施設生理部門の山 本長三郎助教授が、第2生理学教室主任教授に就任した。1977年4月、小野武年助教授 が富山医科薬科大学医学部第2生理学教授に昇任し転出した。同年3月、大阪大学医学部 高次神経研究施設の津本忠治助手が講師として赴任し、同年4月、助教授に昇任、1983 年9月、元の大阪大学医学部高次神経研究施設の教授に昇任し、転出した。1986年5月、
同研究施設の中村彰治助手が助教授として赴任し、1993(平成5)年11月、山口大学医 学部第2生理学教室教授に昇任し、転出した。1997年3月、山本教授が停年退職し、
1998年4月より狩野方伸博士が第4代教授として着任した。
研究業績
岩間教授時代(1954〜1963年) 岩間教授は着任後、教室創設の仕事に取り掛かった。
実験設備は皆無の状態から出発しなければならなかったが、1955(昭和30)年4月ごろ までに、一応の実験が行われるまでに設備が整えられた。教室創設の仕事がようやく軌道 に乗りかけたころ、岩間教授はかねてから交渉のあった米国のペンシルバニア大学神経科 学研究所に留学し、神経解剖学、神経生理学の技術的な面で習得するところがあった。そ の後、モントリオール神経学研究所で、γ-アミノ酪酸の皮質電気活動に及ぼす影響につい て研究した。この研究はその後、大きな話題を生んだ脳の抑制物質に関する研究の先駆を なすものであった。
岩間教授時代の研究は、大脳皮質誘発性電気活動の分析、反射機序の解明などが、その 主たる興味の対象となっており、条件反射、シナプス伝達、大脳辺縁系、網様系などの総 合研究に参加した。なお浅野助教授は、イオンの膜透過と代謝の関連に興味を向け、生体 膜特に消化管粘膜の能動輸送、腺の分泌機序などの総合研究に参加した。
大村教授時代(1963〜1974年) 大村教授時代は、10年以上にわたって精力的に視床下 部食欲機序の生理学的研究が行われた。その研究成果は、次のように総括される。
複合化学受容器の性質を有する視床下部外側野(LH)ニューロンが体液中の満腹物質グ ルコース、空腹物質としてのインシュリンや遊離脂肪酸などの濃度や胃の拡張の度合など の内因性入力、さらにまた視覚、味覚及び嗅覚などの感覚系からの外因性入力を受容する。
これらを総合して、LHは動物に食行動開始の指令を出す。また満腹という状態は、視床下
部腹内側核(VMH)及びLH内ニューロンの血中成分への応答、内蔵臓器の伸展及びそれ から分泌された物質からのフィードバック入力などにより達成される。この際満腹感の発 動は、VMHによりなされると考えられる。これらが、視床下部摂食調節に関する研究によ り得られた考え方である。
写真7ー7 岩間教授時代
写真7ー8 大村教授時代
山本教授時代(1975〜1997年) 山本教授は1965(昭和40)年、英国精神病研究所の マッキルウェィン(H. McIlwain)教授の研究室にて、脳の薄切片を用いてニューロンの 電気活動の記録を行った。この時、世界で最初に脳切片標本において電気刺激による誘発 電位の記録に成功し、脳生理学の分野に先駆的業績を残した。英国より帰国後は、一貫し て脳切片標本を用いた神経生理学的研究を発展させ、現在の脳の薄切片による電気生理学 的研究の世界的隆盛を築いたパイオニアとして、認められるに至った。
山本教授時代の教室の主なテーマは、記憶の基礎過程であるシナプス伝達の可塑性に関 する研究である。記憶に関係の深い海馬という部位のシナプスには、長期増強と呼ばれる 現象があり、これによってシナプスの信号伝達の高まることが記憶形成につながると目さ れている。そこで海馬の脳切片を用いて、シナプス伝達及び長期増強の発生機構について 多くの研究を行い、その起源を定めた。
現状と将来の課題
山本教授時代の研究は、今日二つの方向に発展し継承されている。第1は神経活動に伴 う細胞内カルシウムイオン濃度の上昇を直接研究し、記憶の形成を解明しようとする流れ、
第2は神経細胞膜の微小片を採取(直視下パッチクランプ記録法)し、その生理活性を研 究する流れである。これらの最新技術を取り入れながら、シナプス伝達の可塑性のメカニ ズムを分子レベルで解明し、次に記憶との関係を求めようと努力している。
写真7ー9 山本教授時代