第 2 章 先行研究
2.3 韓国人日本語学習者に関する評価研究
本節では、韓国人日本語学習者に焦点をあてた評価研究を概観する。
韓国の高等学校での敎育過程がコミュニケーション能力向上を重視され、口頭表現能力 の重要性が強調されてきている(呉,2000)。これに加え、序章で韓国人は学習者自身の日 本語発音に関して非常に高い学習ニーズを持っていること(閔,2004)を説明した。しかし、
ソウル方言話者の韓国人日本語学習者が日本語の“end focus”、つまり“私は-”や“韓国 では-”などのように語尾を伸ばす言い方が聞き手には感情的に不快な印象を与えてしま うと述べている(李,2004;Takashi Kitano,2016等)。
趙(1991)は、日本語学習者の口頭発表に対する評価の問題点を指摘し、韓国人日本語 学習者のスピーチに対する日本語話者と非日本語話者(韓国人日本語話者)の評価の違い について研究を行なった。調査は言語的な面、内容の面、伝達の面の 3 つの評価観点より 行なわれた。言語的な面においては、発音(表記)の誤り、語彙の誤り、文法の誤りなど に対する評価項目で、内容の面においては、内容、構成、主題の明確さなどに対する評価 項目で構成された。また、伝達の面においては、態度(伝達の努力)、話の速度、声の感じ などに対する項目であった。さらに、最後には全体についての評価を理解度、容認度、不 快度の三つの基準について 7 段階尺度での評価が行なわれた。その結果、日本語話者と非 日本語話者とでは日本語話者が非日本語話者より厳しく評価していた。しかし、伝達の面 と発音の誤りにおいては、非日本語話者が日本語話者より厳しい評価をしていたという。
いくつかの項目を除いて日本語話者のほうが厳しい評価を下したことについて、教師は学 習者の誤りを訂正するなどの経験があり、誤りをきちんと指摘して直さなければならない 義務感があると考察している。
韓国人日本語学習者の発話に対する印象形成については崔(2007)が挙げられる。崔
(2007)は、日本語学習者が日本の社会で日本語母語話者と円滑なコミュニケーションを 行なうためには、日本語母語話者は日本語学習者の発話をどのように捉えているかについ ての研究が必要だと主張し、中級以上の韓国人日本語学習者 8 名の面接を材料に、日本語 母語話者 131 名の評価について調べた。調査の目的は、日本語母語話者が韓国人学習者に 対して抱く対人印象形成要因や、その要因の主要素を探り、韓国人学習者の発話に対する
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母語話者の言語・パラ言語及び非言語的特徴に関する評価が対人印象形成にどの程度影響 を与えるのかを検討することであった。
調査方法はまず、韓国人学習者 8 名のアルバイトの面接場面を設定して収録した。収録 データは40代後半の日本人男性の2名が面接官になり、5分程度の面接を行なった。これ を刺激ビデオとし、日本語母語話者 131 名によるアンケート調査を行なった。調査で用い たアンケートの評価項目は言語・パラ言語及び非言語的特徴に関する評価と対人印象に関 する評価であり、5段階の評価であった。
因子分析を用いて分析した結果、まず、日本語母語話者が韓国人学習者を評価する際の、
対人印象に関する評価においては社会的望ましさ個人的親しみやすさ活動性という 3 因子 が潜在的観点として作用していた。また、言語・パラ言語及び非言語行動に関する評価に おいては、言語としての明瞭性、相手と関わるパラ言語・非言語的特徴、相手と関わらな いパラ言語的特徴、視覚的な非言語的特徴の 4 因子が潜在的観点として働くと考えられる と述べている。
さらに、これらの結果を用いて相互的な影響を探るため重回帰分析行なった。その結果、
社会的望ましさにおいては、言語・パラ言語・非言語評価の 3 つの観点の全てが有意に寄 与しており、個人的親しみやすさの予測においては、視覚的な非言語的特徴、相手と関わ るパラ言語・非言語的特徴が有意に寄与していた。また、活動性の予測においては、視覚 的な非言語行動、相手と関わるパラ言語・非言語的特徴、言語としての明瞭性が有意に寄 与していた。これらの結果から崔(2007)は、母語話者が社会的望ましさという観点にお いて良い評価を与えると考えられるのはあいづちや間の取り方がうまく、二人の対話に協 力的である、すなわち相手とどのように接するかという相手と関わるパラ言語・非言語的 特徴を持つ学習者や、日本語の文法や撥音、アクセント等が正しく、日本語として自然で 流暢に話せるという言語としての明瞭さがある学習者、表情豊かに自分を表現し、外見等 が魅力的な(視覚的な非言語的特徴を満たした)学習者であると考察している。
また、その反対に、語尾を延ばして話をしたり、文を最後まできちんと言い切らないで 終わる言い方をする学習者、また、「まあ、えーと」等のフィラーを多用する学習者に対し ては、母語話者の社会的望ましさという点における評価はマイナス評価となると予測され ると述べている。母語話者が持つ社会的望ましさという印象はあいづちや間の取り方がう まい学習者や対話に協力的で聞き手との視線の合わせ方が適切であり、言語が丁寧な学習 者してであることがわかった。また、個人的な親しみやすさにおける評価を高くするのは、
表情が豊かで身振り手振りを使って一生懸命表現する学習者や外見が魅力的な学習者、あ いづちや間の取り方がうまく二人の対話に協力的であるという相手に関わるパラ言語・非 言語的特徴を持つ学習者であった。
最後に、活動性という観点の評価の高さにおいても外見が魅力的であり表情が豊かで、
身振り手振りを使って一生懸命に表現をするという視覚的な非言語的特徴の要因を持つ学 習者やあいづちや間の取り方がうまく、二人の対話に協力的という相手に関わるパラ言
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語・非言語的特徴を持つ学習者であったと報告している。
崔の研究は韓国人日本語学習者に限った調査ではあるが、西郡(1997)と同様に初対面 の会話であり、その結果も林(1978)のいう対人印象を形成する際の認知次元の 3 要素と 一致した。
高村(2009)は、韓国人日本語学習者の聞きにくいスピーチの特徴について、ポーズと 速さ、リズムに焦点をあて研究を行なった。まず、韓国人女性上級学習者 4 名の「外国人 による日本語弁論大会」を録音した音声資料を、日本語母語話者 5 名にが、聞きやすさの 点から 4 名に順位をつけ、もっとも聞きにくいスピーチを選定した。その際には自由にコ メントしてもらった。なお、日本語母語話者の評価では 1 位が一致しており、日本人のよ うだといったプラスのコメントだけが出た。その反面、4位であった韓国人学習者には、ア クセントとイントネーション、ポーズ、速さ、リズムについて聞きにくいや不適切、違和 感がある等のマイナスのコメントしか出なかった。さらに、ポーズと速さ、リズムの 3 点 に焦点をあて音響的分析を行なった結果、次の3点が示唆された。1)発話節末尾の母音の 引き伸ばしと、母語話者が区切らない箇所でのポーズの挿入が、ポーズの時間が長く、回 数が多すぎるという印象を与えている。2)発話速度および調音速度が速く、一つの発話節 に含まれる平均モーラ数が多いため、速すぎて聞きにくいという印象を与えている。3)促 音の持続時間長が不十分で、子音の持続時間が長すぎることが、リズムがおかしいという 評価につながっている。
これらの結果は、調査協力者と評価者が少人数ではあるが、以上のことからわかったこ とは、聞きにくいスピーチというのは日本語の拍を守らず、短かったり長かったりするた めではないかということである。このことから、韓国人学習者が日本語によるスピーチを 行なう際には、日本語の拍に注意を向けて練習をすることがもっとも重要かもしれない。
また、高村(2011)は、高村(2009)でもっとも聞きにくいスピーチとされた韓国人学 習者のスピーチのうちポーズに焦点をあて、ポーズの長さを加工したものを用いて、日本 語母語話者の評価に与える影響について分析を行なった。評価は日本語母語話者20名によ るもので、元データから加工データあるいは、加工データから元データの順に資料を聞い て行なった。その結果、文末、接続助詞、トピックマーカーの「は」、および連体修飾語の 後のポーズを調整した場合に、より高い評価が得られるようになることを示唆している。
ポーズの長さによって、母語話者の評価が異なるという結果を導いたのはとても面白い結 果だと考えるが、これらの研究は元のデータと加工データの両方を用いた研究であり、ポ ーズのみに焦点があたっているので、評価が上がったとはいえ、それが全体的なスピーチ の評価にどの程度反映されているかという考察はできないのではないかと考えられる。
以上の先行研究から、韓国人を対象とした口頭発表の評価についてはいくつかの研究が 行なわれてきており、言語表現や非言語、印象評価などさまざまな観点からの結果が見ら れるが、それぞれの要素がどのように絡み合い影響を与えているのかについてまでは研究 されていないと言える。