平成31年 2月7日提出 学位(課程博士)申請
韓国人日本語学習者の日本語による
プレゼンテーションに対する評価の観点について
-日本人日本語教師と韓国人日本語学習者の比較・対照-
人文科学研究科人間科学専攻
日本語教育学教室
全 娟姝
I
目次
第
1序章 ... 1
1.1
本研究の背景... 3
1.1.1
プレゼンテーションに関する研究 ... 3
1.1.2
評価研究 ... 4
1.1.3
言語・非言語・パラ言語研究 ... 8
1.2
本研究の目的... 10
1.3
用語の定義 ... 12
1.4
本論文の構成 ... 12
第
2章 先行研究……….14
2.1
プレゼンテーションに関する研究 ... 14
2.2
日本語学習者に関する評価研究 ... 17
2.3
韓国人日本語学習者に関する評価研究 ... 34
2.4
本研究の位置づけ ... 37
第
3章 調査概要……….40
3.1
調査協力者 ... 40
3.1.1
プレゼンター... 40
3.1.2
評価者 ... 41
3.2
データ収集方法 ... 43
3.2.1
ビデオデータ... 43
3.2.2
評価結果 ... 43
3.3
分析方法 ... 49
3.4
データの妥当性検討 ... 50
3.4.1
探索的因子分析による結果 ... 50
3.4.2
確認的因子分析による結果 ... 55
第
4章 プレゼンテーションに対する評価の違い-日本語教師と韓国人学習者-…………60
4.1
はじめに ... 60
4.2
目的 ... 61
4.3
プレゼンテーションに対する評価 ... 61
4.3.1
日本人日本語教師による評価 ... 61
4.3.2
韓国人日本語学習者による評価 ... 62
II
4.3.3
日本人日本語教師と韓国人日本語学習者の評価の違い ... 63
4.4
考察 ... 64
第
5章 言語・パラ言語および非言語的特徴に関する評価の観点………66
5.1
はじめに ... 66
5.2
目的 ... 67
5.3
質問紙 ... 67
5.4
日本人日本語教師による評価の観点 ... 69
5.4.1
項目別平均得点 ... 69
5.4.2
因子分析 ... 70
5.5
韓国人日本語学習者による評価の観点 ... 72
5.5.1
項目別平均得点 ... 72
5.5.2
因子分析 ... 74
5.6
日本人日本語教師と韓国人日本語学習者による評価の違いに関する考察 ... 76
第
6章 対人印象に関する評価の観点 ... 86
6.1
はじめに ... 86
6.2
目的 ... 87
6.3
質問項目 ... 88
6.4
日本人日本語教師による評価の観点 ... 89
6.4.1
項目別平均得点 ... 89
6.4.2
因子分析 ... 90
6.5
韓国人日本語学習者による評価の観点 ... 92
6.5.1
項目別平均得点 ... 92
6.5.2
因子分析 ... 94
6.6
日本人日本語教師と韓国人日本語学習者による評価の違いに関する考察 ... 96
第
7章 言語・パラ言語および非言語的特徴と対人印象に関する評価がプレゼンテーショ ンの評価に与える影響 ... 104
7.1
はじめに ... 104
7.2
目的 ... 105
7.3
言語・パラ言語および非言語的特徴と対人印象に関する評価の分析 ... 105
7.4
発表の良さの評価に与える影響 ... 108
7.4.1
日本人日本語教師による結果 ... 108
7.4.2
韓国人日本語学習者による結果 ... 110
7.5
興味の評価に与える影響 ... 111
III
7.5.1
日本人日本語教師による結果 ... 111
7.5.2
韓国人日本語学習者による結果 ... 113
7.6
わかりやすさの評価に与える影響 ... 114
7.6.1
日本人日本語教師による結果 ... 114
7.6.2
韓国人日本語学習者による結果 ... 116
7.7
慣れの評価に与える影響 ... 117
7.7.1
日本人日本語教師による結果 ... 117
7.7.2
韓国人日本語学習者による結果 ... 119
7.8
資料の評価に与える影響 ... 121
7.8.1
日本人日本語教師による結果 ... 121
7.8.2
韓国人日本語学習者による結果 ... 122
7.9
考察 ... 123
第
8章 言語・パラ言語および非言語的特徴の評価が対人印象評価に与える影響 ... 126
8.1
はじめに ... 126
8.2
目的 ... 127
8.3
言語・パラ言語および非言語的特徴と対人印象に関する評価 ... 127
8.3.1
言語・パラ言語および非言語的特徴に関する評価 ... 127
8.3.2
対人印象に関する評価の結果 ... 129
8.4
言語・パラ言語および非言語的特徴が対人印象評価に及ぼす影響 ... 131
8.4.1
日本人日本語教師による結果 ... 131
8.4.2
韓国人日本語学習者による結果 ... 133
8.5
考察
... 135第
9章 発音の評価がプレゼンテーション評価に及ぼす影響 ... 138
9.1
はじめに ... 138
9.2
目的 ... 138
9.3
調査の材料 ... 139
9.3.1
質問項目 ... 139
9.3.2
発音に関する評価の結果 ... 140
9.3.3
プレゼンテーションに関する評価の結果 ... 143
9.4
発音の評価がプレゼンテーションに及ぼす影響 ... 143
9.4.1
日本人日本語教師による結果 ... 144
9.4.2
韓国人日本語学習者による結果 ... 146
9.5
考察
... 149IV
第
10章 発音の評価が対人印象に及ぼす影響 ... 151
10.1
はじめに ... 151
10.2
目的 ... 151
10.3
調査の材料 ... 151
10.3.1
発音に関する質問項目 ... 151
10.3.2
対人印象に関する評価の結果 ... 152
10.4
発音の評価が対人印象に及ぼす影響 ... 154
10.4.1
日本人日本語教師による結果 ... 154
10.4.2
韓国人日本語学習者による結果 ... 156
10.5
考察
... 158第
11結章 ... 160
11.1
研究目的ごとのまとめ ... 160
11.2
本研究の総まとめ ... 167
11.3
評価の順位による一考察 ... 173
11.3.1
最高位の学習者 ... 173
11.3.2
最下位の学習者 ... 174
11.4
日本語教育への提案 ... 176
11.5
今後の課題 ... 177
参考文献 ... 179 謝辞
巻末資料
V
本論文のおおまかな流れを示すと下記のようになる
図
1本論文の構成図 第
1章 序章
1.1
本研究の背景
1.2本研究の目的
1.3.用語の定義 1.4本論文の構成
第
2章 先行研究 第
3章 調査概要
第
4章
プレゼンテーションに対 する評価の違い-日本語 教師と韓国人学習者-
第
5章
言語・パラ言語および非 言語的特徴に関する評価
の観点
第
6章
対人印象に関する評価の 観点
第
7章
第
7章 言語・パラ言語および 非言語的特徴と対人印象に関 する評価がプレゼンテーショ
ンの評価に与える影響
第
8章
言語・パラ言語および非言語的 特徴の評価が対人印象評価に
与える影響
第
11章 結章
11.1
研究目的ごとのまとめ
11.2本研究の総まとめ
11.3評価の順位による一考察
11.4
日本語教育への提案
11.5今後の課題
第
9章
発音の評価がプレゼン テーション評価に
及ぼす影響
第
10章 発音の評価が対人印象
に及ぼす影響
1
第 1 章 序章
日本の社会がグローバル化し、日本の企業や組織の中で留学生が活躍している場が増え てきた。報道などではグローバル企業の中で英語が公用語になっているところもあるなど 取り上げられているが、こうした報道は逆の観点から見れば、日本の企業・組織では日本 語が今でも中心的なコミュニケーション手段であることを示している。国際交流基金で行 なった
2015年度日本語教育機関調査の結果(国際交流基金,2017)によると、全世界の日 本語教育機関の
17.7%が韓国、15.4%がインドネシア、13.1%が中国と続くという。学習者数は、中国が
953,283、インドネシアが745,125、韓国が556,237と
3位になっているが、
韓国はインドネシアや中国に比べ人口が少ないことを考慮すると日本語を学習する人は多 いことがわかる。これらの調査結果からもわかるように、日本と韓国はもっとも近い国で あり交流も活発に行われているため、日本語教育では韓国人日本語学習者に向け多方面に 研究を行なうべきであると考える。
韓国人学習者の中には、高度な日本語を用いて企業での活動を行なう者が多くなってい るが、自分たちの発する日本語の音声・言語行動・非言語やパラ言語行動に何らかの問題 がないか、以前より意識するようになってきている(福岡,2017) 。日本語と韓国・朝鮮語 は他の言語よりも類縁性があるゆえに、商取引などプレゼンテーションを含む複雑な交渉 において、韓国人の言語特徴により、マイナスの印象を日本人が抱かないか、韓国人学習 者は気にしている。特に、学習者自身の日本語発音に関して閔(2004)は韓国人日本語学 習者が日本語音声に対し、非常に高い学習ニーズを持っていると述べている。韓国人は、
自分自身の感情を隠さず素直に表現することが特徴と言われているが、社会心理学者であ る한덕웅(筆者訳:ハントクウン、HAN DOK UNNG,2003)は、韓国人の性格について行 なった成人および大学生
853名のアンケート結果から「남에게
자기 인상을 실제와 달리 좋게 보이려는 성향(筆者訳:他人に、自分の印象を実際より、よく思われようとする性向) 」があると述べており、このことから実際韓国人は他人の評価を気にしていることにな る。
韓国人日本語学習者の発音上の特徴としてよく知られている破擦音が、うまく発音でき ないことで日本人には幼稚に聞こえたりはしないか(戸田,2008) 、語尾のモーラが長くな ってしまうことで悪い印象を与えてはいないか(李,2004;きたのたかし,2016 等)などと いった点を気にしている。このように学習者が日本語を学習する時に、自分自身が発した 日本語の発音が日本人にどのような印象を与えるかに不安を覚えていることがわかる。
しかし、対人コミュニケーションの場合では、相手をみる情報が発音のみとは限らない。
私たちは日々誰かと話す時、相手が話す声や発音、内容だけでなく、外見や声のように目 から見える姿や耳から聞こえる音等からの情報を収集した上で、総合的に相手を判断し、
評価する。
これらの評価は時間が経つことや他の要素によって変動することもある。はじめは目か
2
ら見える要素であった外見や容貌からの情報により判断をしていたことが、話し始めると 声やジェスチャー等の要素から影響を受けることもあり得る。このような対人コミュニケ ーションは、言語・非言語的チャンネルを用いて発信されまた受信される。これを大坊
(1998)では対人コミュニケーションチャンネルの分類として、送り手と受け手に分類し ている。送り手はチャンネルの特性を組み合わせてメッセージを効率よく表現する試みを 持っており、受け手は解読の感受性を発揮して送り手の意図を過不足なく理解しようとす ると述べている。従って、情報を送る側はなんらかのチャンネルを用いて表現しようとす ることになるが、これは文化背景が異なることによりズレが生じる可能性がある。
また、場面によって変わることもある。例えば授業で行なうプレゼンテーションのよう な場面での評価と、友達同士の会話などの私的な場面での評価には違いがあるだろう。近 年韓国人日本語学習者は減ったといわれているが上述のように、国際交流基金の調査の結 果から韓国人日本語学習者の数は
3位であることから、日本の大学だけではなく日本の企 業にも韓国人が多いと推測される。これは、日本人と同様な立場で仕事をしないといけな い状況におかれているとも言えるが、同様な立場とは言え日本語ネイティブでない以上、
日本語に関する負担感は多いだろう。友達と会話をする際に日本語のミスなどは話し手も 聞き手もさほど気にしないかもしれないが、授業での発表や会社でのプレゼンテーション では状況が異なってくる。
これまでの日本語教育分野では、学習者の言語運用に関する評価研究は多くなされてき た(小池,1998;渡辺,2005;野原,2008等) 。しかし、言語運用能力だけに焦点を当てた研究 だけでは、全体の評価についてみることができず、偏った評価になってしまう。よって、
設定された場面からの評価の観点を、さまざまな要素を含めた全体的な観点から研究する 必要がある。
黒野(2006)の報告によると、留学生が日本の大学生活において「授業で発表をする」
ことに、もっとも日本語力の不足や問題を感じているという。誰かの前で話すことは、母 語であっても緊張する可能性が高いことが一般的であろうが、留学生は母語でもない第二 言語で母語話者および非母語話者の前で話さなければならない。このような状況が留学生 には大きい負担になると考える。
それでは、日本語学習者が日本語によるプレゼンテーションを行なう際に、聞き手側は、
プレゼンターの外見や容貌、声のトーンや発音、ジェスチャー等の情報をどのように判断 し、総合的な評価をするだろうか。
日本語母語話者(日本語教師)および日本語母語話者(非日本語教師)が日本語非母語 話者を評価したものを比較した研究はいくつかある(西郡, 1997;石崎, 1999;河野・松崎,
1998;小池, 1998;崔,2007,2009a,2009b
等) 。しかし、韓国人母語話者や中国人母語話者
などそれ以外の属性を持つ母語話者および非母語話者同士の評価の観点についての研究は
少ない。また、印象に関する要素や発音に関する研究など一つ一つの要素について研究し
たものもあるものの、総合的な観点からの研究はみられない。
3
以上を踏まえた上で本論文では、韓国人日本語学習者に焦点を当て、韓国人日本語学習 者が日本語によるプレゼンテーションを行なう際、聞き手側の評価の観点を総合的な観点 から分析および考察する。また、聞き手側を、日本人日本語教師(以下、日本語教師)と 韓国人日本語学習者(以下、韓国人学習者)の2つのグループに分け分析する。従来の研究 は母語話者からの評価のものがほとんどであったが、近年JF日本語教育スタンダードを利 用した学習者の自己評価や学習者同士の評価にも注目されてきたことから、学習者同士の 評価という観点も入れ、日本語母語話者である日本人日本語教師の結果とも比較を行なう こととする。
以上のように本章では、研究背景を概観し、本研究の目的と意義について述べる。また、
本研究で使われる用語の定義と本論の構成について記述する。
1.1
本研究の背景
本研究では、韓国人日本語学習者が日本語によるプレゼンテーションを行なう際に、聞 き手側の評価の観点について調査し、その結果を明らかにすることが目的である。よって、
まず、以下の
1.1.1では、プレゼンテーションに対する先行研究の結果を、1.1.2 では母語 話者による評価研究の流れについて概観した上で、本研究の課題を述べることにする。
1.1.1.
プレゼンテーション研究
本節ではまず、プレゼンテーションとは何かを定義した上で、日本語教育分野に限らず プレゼンテーションに関する研究をまとめる。
柳迫(2011)は、プレゼンテーションを以下のように定義している。
プレゼンテーションとは「理解や同意を得るために特定の相手に向けてア イデアを提案する活動」であり、スピーチ等と比べ「相手意識」を持つこと が特に重要である。
(p.73)上記の柳迫の定義は本論文の主旨と合っているものであり、筆者もプレゼンテーション は相手意識が重要であると考えているため、この定義に従うこととする。
山下・中島(2009)は、現代においてプレゼンテーションをする機会が増えてきたため、
プレゼンテーション能力を育成することは重要だと主張した。そして、この根拠となるも のとして、厚生労働省が主催する
YESプログラム
1が作成したものの中で「若年者就職基礎 力の目安のひとつにコミュニケーション能力があり、その中で自己表現力の具体例として 状況にあった訴求力のあるプレゼンテーションを行うことができる」という厚生労働省
1 厚生労働省が若年者就職基礎能力支援事業として、就職基礎能力を習得するための講座や試験を新たに 設定したプログラムである。http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/03/h0313-4.html(2018年6月18日 最終閲覧)
4
(2009)の資料を挙げている。この研究は、日本人学生を対象としているが、留学生が増 える一方である日本の社会においては、日本人学生と留学生と同等な状況であると考える。
また、プレゼンテーション能力の育成に関する研究のうち情報システムの開発はなされ てきたが、プレゼンテーション時における聴衆の反応という視点が見過ごされてきたこと を指摘した。このことは、これまでの研究が、プレゼンテーションのそのものに焦点を当 てすぎて、聞き手側の観点からの研究がなされていないといえる。
日本人大学生を対象としてプレゼンテーション能力の重要性を主張し、大学生が独習で プレゼンテーション能力を身につける方法について研究を行なったものとして山下・長島
(2009,2010,2011 等)がある。これらの研究成果から、日本語学習者のプレゼンテーショ ンに対する評価には日本語教師だけではなく、聴衆全員の評価が必要であることと、プレ ゼンテーション能力を向上させるためには自分自身のプレゼンテーションを録画したもの を見ることがもっとも効果があるということがわかった。
以上をまとめると、プレゼンテーション能力の育成は日本人学生のみならず、日本語学 習者にも該当し得ると考えられるだろう。そのためには、聞き手側に焦点を当てた研究が 必要であることがわかった。
손세모돌(筆者訳:ソンセモドル、名前ローマ字表記:SON SEMODOL, 2002)は、大
学生である韓国語母語話者が行なったプレゼンテーションに対して印象評価を行ない、印 象評価に影響を与えるパラ言語特徴
2について検証した。その結果、否定的な印象を与えた のは、不明瞭な発音、小さくて平均値より低めの声、発話の速度が遅く、フィラーを頻繁 に使用するという特徴があげられたという。また、신지영(筆者訳:シンジヨン、名前ロー マ字表記:SHIN JIYONG,2008)は、大学生の韓国語母語話者が行なったプレゼンテーシ ョンに対して発音、声の大きさ、イントネーション、リズム、発話の速度、聞き取りやす さ、流暢さ、ポーズのパラ言語を中心に分析を行なった。その結果、肯定的な評価に影響 を与えたのは、正確な発音、自然なイントネーション、リズム感であったという。
以上の先行研究からわかるように、日本語学習者が日本語によるプレゼンテーションを 行なう際には、単純にプレゼンテーションの内容だけではなく、発音や声の大きさ、速度 などを考慮しなければならない負担をともなう。これらの評価研究は、日本語学習者の印 象評価にどのように影響を与えるかについてであるが、さらに研究を発展させ、考えられ る種々の要素それぞれがどのように絡み合い、また全体評価にどのように影響を与えてい るのかに関する研究が必要であろう。
1.1.2
評価研究
英語教育での評価研究を見てみると、Hadden(1991)は、アメリカの大学の
ESL授業 で撮影した中国人が英語で話す場面を
ESL教師と大学生に見せ、
24項目のアンケートを行
2 손세모돌(名前筆者任意日本語表記:ソンセモドル、名前ローマ字表記:SON SEMODOL,2002)の研 究ではこれを、声の大きさと発音、声の高低、話す速度としている。
5
なった。因子分析を行なった結果、英語教師は、理解(Comprehensibility)、社会的許容 度(Social acceptability) 、言語能力(Linguistic ability) 、性格(Personality)、ボディ・
ランゲージ(Body language)の
5つの因子が得られた。また非教師である大学生は、理解 と言語能力(Comprehensibility/Linguistic ability) 、社会的許容度(Social acceptability) 、 ボティ・ランゲージ(Body language)、性格(Personality)の
4つの因子が得られた。ま
た、
Haddenは、英語のスピーチ採点において英語教師と教師でないグループ間の採点によ
る違いを探った結果、言語能力においては言語教師が厳しい評価をするが、その他の領域 では教師か非教師かの差はなかったことを見出している。このように、学習者を評価する 際には一つの面からではなく、言語やパラ言語、非言語的特徴といったさまざまな面から 行なわれているということがわかる。また、Chalhoub-Deville(1995)も、アメリカ在住 のアラブ人教師と一般人そしてレバノン在住の一般人を対象に、在住地域によって評価が 異なるかについて研究を行なった。その結果、一般人のなかでは評価対象者と同じ地域に 住んでいる評価者のほうが、文法と発音に重点をおくということが明らかとなった。さら
に
Brown(1995)も、評価者の職業といった背景が評価の結果に与える影響について研究を行なった結果、教師という職業の評価者は他の評価者に比べ文法や単語、流暢性に厳し い評価をした。
以上の英語教育の研究からは、教師は文法や単語など言語の側面において非教師より厳 しい評価を下していることがわかる。
日本語教育でも
Okamura(1995)は,研究者側があらかじめ設定した
6つのクライテリ ア(文法、流暢さ、適切さ、語彙、理解度、発音)により、初級日本語学習者の日本語発 話を日本語教師と一般日本人とに評価させている。両者の評価を比較したところ,教師は 一般日本人よりも評価においてクリティカルな傾向があり、また、流暢さと文法が,
good leaners
を
poor learnersからもっともよく区別する要因であることを示している。
パラ言語に焦点を当て、日本人韓国語学習者のスピーチに対する印象評価を行なった 朴・坪田・壇辻(2013)は、韓国語を受講している日本人大学生
12名(男性
6名、女性
6名)のスピーチを、外国人に韓国語を教えた経験のある韓国語母語話者
15名(男性
4名、
女性
11名)に評価をしてもらった。評価は、まず、100 点満点で評価する全体的評価を行 なった後、そのように評価した理由について自由に記述してもらった。また、パラ言語の 各評価項目に対する、発音、声の大きさ、速度、イントネーション、リズム、流暢さ、ポ ーズ、聞き取りやすさの
8項目について
5点評価を求めた。さらに内容に関する項目もあ った。その結果、全体的評価の順位とパラ言語の項目評価の順位がほぼ一致していた。な お、全体的評価の結果がスピーチの内容との関係を
Spearmanの順位相関関係
3を求めた結
3 Spearmanの相関は、2つの連続変数または順位変数間の単調関係を評価する。単調関係では変数が一緒
に変化するが、一定の割合とは限らない。Spearman の相関係数は、生データではなく各変数の順位置 に基づく。
6
果、有意な相関関係はみられなかった。以上のことから、スピーチの内容よりはパラ言語 的特徴が全体的評価に影響を与えていることがわかる。また、自由記述からは、発音、聞 き取りやすさ、流暢さ、イントネーション、速度、内容、ポーズ、リズム、声の大きさの 順に言及が多く、その中で特に言及が多かったのは、発音と聞き取りやすさの項目であり、
全体の
48%も占めていたと。さらに発音に関するコメントでは、正確さを求めており、幼児のように発音しているという否定的な言及があった。
日本語教育学分野では、1990 年代後半には小林ミナを中心とした評価研究が盛んに行わ れた。同じデータを用いて、研究者らそれぞれが異なる視点から分析を行なったものであ り、一般日本人
4による評価(原田・小池・小林,1998;小池・原田・小林,1998;原田,1998) 、 日本語教師と一般日本人による評価の違い(小池,1998、河野・松崎
1998)、上級日本語学 習者による評価(小池・小林,1998) 、学習者の日本語レベルと評価(原田,2001) 、音声に 関する評価(河野・小林・小池・原田,1999) 、ジェスチャーに関する評価(柳町,1999)の
6研究がある。
原田・小池・小林(1998)による一般日本人が学習者の発話に対してどのような評価を 与えているのかを調べた調査結果では、一般の日本人は、学習者の悪かった点より良かっ た点に目を向ける傾向があることが示唆された。また、言語規則に関するコメントより、
コミュニケーションの遂行に関するコメントが多いことを指摘したと述べている。また、
小池(1998)は、日本語教師と一般日本人による評価の違いについて、一般日本人が正確 さより、非言語表現を含めたコミュニケーション能力に着目していることがわかると述べ ている。
コミュニケーション能力については、1970 年代以降、外国語教育におけるコミュニカテ ィブ・アプローチにより、注目されてきた。崔(2009)によれば、コミュニカティブ・ア プローチと同時に、わかりやすさを取り入れた評価研究が出てきたという。
わかりやすさについては、さまざまな研究が行なわれているが、柳町(1999)では、ジ ェスチャーの使用が話をわかりやすくするという結果について述べている。柳町はジェス チャーの他に、話し手としての印象や日本語力も評価の対象になるという結果が得られた という。さらに、学習者のジェスチャーが日本語力を補うものであり、日本語母語話者は ジェスチャーと言語能力を別のものとして見ていることはとても興味深い結果であると考 えられる。
以上の先行研究からは、学習者のコミュニケーション能力が評価の対象となること、そ して、わかりやすさといったコミュニケーションが注目を浴びると同時に、話し手の印象 やジェスチャーのような諸要因が作用することが明らかである。
石崎(1999)は、日本語教育に関わりのない日本語母語話者
30名が評価者となり、録画
4 「一般日本人」は日本人非日本語教師を指す。本論文とは異なる表現であるが、先行研究に従った表現 である。
7
された
6名のオーストラリア学生の初対面の会話場面を評価するという研究を行なった。
評価の方法は主観的な方法と客観的な方法で行なわれた。主観的な方法は質問紙を用いて
20項目を
5段階で答えるという方法であり、客観的な分析は、録音したデータの音声を語 彙量と音声上の誤り、音声、発話の区切り、文の長さを、日本語教育専攻の大学院生
3名 を評定の分析であった。その結果、語彙量の主観的評価は客観的評価と一致したが、語・
文法の誤りの主観的評価は客観的評価と一致しなかった。また、音声の評価については、
音の高低が強く影響しており、語彙が豊かで、音の高低が自然な場合、わかりやすいと感 じ、その反対の場合はわかりにくいと感じる結果が得られた。以上の結果から、同じ母語 話者であっても意見が一致する点も、異なる点もあるということがわかった。また、音の 高低であるアクセントがわかりやすさに影響を与えている結果が得られた。
日本語教育の研究分野に、社会心理学で行なわれている印象形成を組み入れた代表的な 研究に西郡(1997)がある。人は人を判断するとき、見た目や服装、話し方などの情報か ら総合的に判断することを印象形成という。西郡(1997)は、年上の外国人と年下の日本 人との初対面会話場面を用い、会話データを文字化したデータについて発話量や発話スタ イル、情報を要求する発話等々を数量的に求め、会話のストラテジーと相互作用の特質を 検討した。最後に因子分析を用いて、対話者が相手に対して抱く「対人印象」の主要素を 検討した結果、 「個人的親しみやすさ」と「社会的望ましさ」の
2因子を抽出している。
パーソナリティの印象形成についての研究は
Asch(1946)から始まった。Aschは形容 詞を用いてポジティブなイメージを持っている形容詞からネガティブなイメージを持って いる形容詞の順に並べたものと、ネガティブなイメージを持っている形容詞を先に並べた ものの
2種類を順に見せ、印象を尋ねた。その結果、ポジティブなイメージを持っている 形容詞を先に見せた人のほうが良い印象を与えることがわかった。しかし、Asch の研究は その実験が人為的であり、現実の対人関係とはかけ離れているという批判を受け、
Anderson(1962)の単純平均モデルが提唱された。一方、刺激人物(Stimulus Person,SP)ではな く、評価をする側に焦点が当てられた暗黙裡の人格観(Implicit Personality Theory,
Bruner & Tagiuri,1954)という概念がある。これについて西郡(1997)は以下のように
述べている。
暗黙裡の人格観とは、人々が人の性格に関して、漠然とした形で抱いてい る考え方や信念の体系をさす。人が人に対して抱く印象は、刺激人物からの 情報の総合だけではなく、認知者側が前提として持っている「多次元的な認 知空間」を想定しないと説明できず、認知者側の広い意味での知識(性・人 類・職業等に関する様々な既有知識やステレオタイプ)やパーソナリティが 強く影響を及ぼすとしている。言わば、人を見るときの眼鏡である。 (p.66)
上記で西郡も述べている個人的親しみやすさと社会的望ましさ活動性(ないしは力本性)
8
という
3つの認知次元は林(1978)のいう認知次元のうち
2つが一致しており、初対面会 話においても印象形成についての多次元的な認知構造に類似した認知次元があるといえる。
また、この研究は日本人が外国人に対して持つ印象も、日本人が日本人に対して持つ印象 も同様であることを示唆している。林(1978)は、人々が相貌特徴と性格特性の間に暗黙 のうちに仮定している関連性を明らかにすることを目的とし、90 人の漫画の登場人物を刺 激人物として用い、調査者
216名を対象に、5 点評定尺度と
7点評定尺度によって調査を 実施した。因子分析の結果、個人的親しみやすさと社会的望ましさ活動性(ないしは力本 性)という
3つの認知次元が得られ、さらに相貌尺度と性格尺度上での関連性が認められ たという。言い換えると、人の見た目や服装などがその人の評価を左右する印象を形成し ていることになる。
日本語教育では、西郡(1997)の後を継ぐ研究として崔(2007,2009,2012,2013)
などがある。韓国人学習者のみを対象として、崔(2007)は、中級以上の日本語学習者
8名の刺激ビデオを用いて、言語・パラ言語及び非言語的特徴に関する評価の項目群と、対 人印象に関する評価の項目群の合計
40項目のアンケートを日本語母語話者
131名に
5点評 定尺度での評価を行なってもらった。因子分析の結果、林(1978)の結果と同様、日本語 母語話者が韓国人学習者を評価する際の対人印象に関する評価においては、社会的望まし さ、個人的親しみやすさ、活動性という
3因子が潜在的観点として働くことがわかった。
また、「言語・パラ言語及び非言語行動に関する評価」においては、言語としての明瞭性、
相手と関わるパラ言語・非言語的特徴、相手と関わらないパラ言語的特徴、視覚的な非言 語的特徴という
4因子が潜在的観点として働くと考えられると述べている。
以上の先行研究から、日本語学習者に対する評価研究とは、一つの要素からのものでは なく、さまざまな要素からの影響を受けていることわかった。よって本研究ではこれまで 行なわれてきた言語に関する評価に加え、林、西郡、崔などが研究してきた印象形成に関 する評価の観点がそれぞれどのように影響与えるかを探る必要があると考えられる。
1.1.3
言語・パラ言語・非言語研究
大坊・奥田(1996)では、非言語的コミュニケーションを以下のように整理している。
非言語的コミュニケーションとはメッセージを送る手段として、非言語的 行動を用いて行なうコミュニケーションのことであるが、非言語的行動には どのような行動が含まれるのであろうか。さまざまな研究者(Scheflen,1968 ;
Patterson,1983)の考え方を参考にすると、以下のものが非言語的行動としてあげられよう。
(1) プロクセミックス(Proxemics:対人距離、空間関係の使用)
(2) 体の動き(傾き、向き、姿勢など)
9
(3) 表情(微笑を含む)
(4) 視線(瞳の動きも含む)
(5) 接触(触れる、抱き合う)
(6) 近言語(ピッチ、声の大きさ、テンポ、ポーズ、抑揚といった特徴を 含む、言葉そのもの以外の音声的手がかりの使用)
(7) クロネミックス(chronemics:待ち時間、経過時間<注文から配達ま での時間>、誰かと過ごした時間量といったことを含む、メッセージ システムとしての時間の使用)
(8) 嗅覚作用(他者からの臭い、匂い)
(9) 人工物(服装、ヘアスタイル、化粧、装飾品といった操作可能な特徴)
まとめると、非言語的コミュニケーションとは言葉や文字を直接的には用 いずに、表情や体の動きなどで行なうコミュニケーションのことである。す なわち、メッセージを送る手段として言語ではなく、非言語的行動を用いる ということである。もちろん、コミュニケーションである以上、こちらが送 り出した(記号化)ものを相手がそのように解読してくれる(記号解読)こ とが必要である。すなわち、ある行動が生じたときに、その行動を意味する ものが異なることが指摘されており、同じ行動が同じことを意味しない場合 があることに注意しておく必要がある。 (p.187-188)
Trager(1958)はパラ言語を、主として音声言語を構成するような、例えば話者性、声
質、発声の種類という非言語的(nonverbal) 手がかりであるとしている。また、
Trager(1964)では、声の質(voice qualities)と関係する要素である声の高低域(pitch range) 、唇の使 い方(vocal lip control) 、声門の調節(glottis control)、発音の仕方(articulation control) 、 リズムの調節(rhythm control)があると述べている。さらに、音声化(vocalizations)に 関する要素には泣き声や叫び声のようなもの(vocal characterizers) 、声の強弱のようなも の(vocal qualifiers) 、英語で「uh-uh」などの音声分離(vocal segregates)があるという。
以上のパラ言語は言葉を発する際に、相手に向け何らかのメッセージを伝えることが考え られる。
Crystal(1969)がいうparalinguistic feature
は、コミュニケーションの構成要素とし
ての音声現象(韻律的特徴を除く)に限定されている。藤崎(1993)は、音声に含まれる 情報を言語的情報・パラ言語的情報・非言語的情報の以下の
3つに大別した。
1.言語的情報(linguistic information)とは、離散的記号の集合とその結合とその結合規
則によって表現される情報であり、書き言葉によって明示的に表現されるか、文脈から一
意かつ容易に推測することが可能である。このように規定された言語情報は離散的である
10
と共に範疇的である。例えば、日本語単語のアクセント型に関する情報は、有限個のアク セ ン ト 型 の な か か ら 一 つ の 型 を 指 定 し て い る と い う 点 に お い て 離 散 的 で あ る 。
2.パラ言語的情報(paralinguistic information)とは、書き言葉に転写すると推測不可
能となる情報で言語情報を補助ないし変容するために話者が意図的に生成する情報。(中 略)発話に込められた話者の意図、態度や発話のスタイルなどが該当する。パラ言語情報 は離散的であると同時に連続的である。例えば話者の意図が推定にあるか質問にあるかは 離 散 的 な 差 異 で あ る が 、 そ れ ぞ れ の 意 図 に 強 さ に は 連 続 的 な 変 化 が 認 め ら れ る 。
3.非言語的情報(non-linguistic information)とは、話者の年齢、性別、個人性、身体な
いし感情の状態などの要因に関わる情報。これらの要因は、話者の言語的/パラ言語的内容 とは直接に関係せず、話者が意図的に制御することも一般には不可能である。(中略)パラ 言語的特徴と同じく非言語的特徴もまた離散的であると同時に連続的である。 (p.3)
以上のように、本研究ではコミュニケーションの構成要素である
4つの観点を入れた評 価研究を行なう。
1.2
本研究の目的
本研究の目的は、韓国人日本語学習者のプレゼンテーションに対する日本人日本語教師 と韓国人日本語学習者の評価の観点を明らかにすることである。
日本語学習者が母語でない第二言語もしくは外国語で発話をする際には、母語で発話を する時より緊張する可能性がある。これは「第二言語不安
5」ともいえるが、評価の基準が わかれば、このような不安が少しでも減少できると考える。Krashen(1981)は、母国語 が習得される時には言語が入力されるとすぐに言語習得装置へと伝達されるが、第二言語 を学習する時はすぐに言語習得装置へ伝達されず、途中で情意フィルター(affective filter) を経て学習するという情意フィルター仮説(affective filter hypothesis)を主張した。つまり、
外国語を学習する時には母国語を習得する時より複雑な過程が介入されるが、学習者の自 信感や学習動機、意欲、不安感、いらいら、ストレスなどのような要素は学習者に大きい 影響を与えるとも言える。
よって本研究では、発話場面の中でも、学習者がもっとも困難であるといわれることの 一つであるプレゼンテーション(黒野,2006)に焦点を当てる。プレゼンテーションの聞き 手側がさまざまな要素をどのように評価し、さらに、それぞれの要素がどのように絡み合 っているかについて分析することで、学習者の不安を軽減する方法を探ると同時に教師へ の手がかりを提供する。
本研究では、プレゼンテーションを評価する評価者を、日本人日本語教師と韓国人日本 語学習者に設定する。評価者をこれらの2つに設定する理由は、まず、日本人日本語教師は、
5 本研究では、元田(2005)の第二言語不安のうち、「間違いに対する不安」である教室内の不安を指す。
11
普段学習者を教えている側の一員として評価する者であると考えられるからである。日本 語教師は日本人に限らないが、
JSL環境ではほとんどの場合、日本人日本語教師であるため本研究では日本語教師を日本人に設定する。また、学習者同士である韓国人日本語学習者 を設定する理由は、近年、JF日本語教育スタンダード
6を利用した学習者同士の評価や自己 評価のような流れがあることや(関崎・古川・三原,2011等) 、これまでは一方的な評価を 受け入れることしかできなかった学習者の評価という情報を得て、日本語教師と比較する ためである。
以上のことから、本研究では、韓国人学習者6名が日本語で行なったプレゼンテーション 場面を録画したものを用いて、聞き手である日本語教師と韓国人学習者の評価の観点を明 らかにする。その際には、背景でまとめた先行研究をもとに4つの観点がある。「言語・パ ラ言語および非言語的特徴」に関する観点、 「対人印象」に関する観点、 「発音」に関する 観点、 「プレゼンテーション」に関してである。
まず、上記の4つの観点を合わせ、探索的研究および確認的研究を行ない、結果の信頼性 を確認した上で、それぞれの観点に分け細かく分析する。
特に、韓国人が日本語学習をする際に高いニーズをもっていながら(閔2004) 、意図して いない誤った発音によってマイナス評価をされやすい(戸田,2008;李,2004;Takashi
Kitano,2016等)
「言語・パラ言語および非言語的特徴」に関する観点のうち、 「発音」に関
する観点に焦点をあて、 「発音」に関する評価が、他の要素に与える影響も明らかにする。
具体的な研究目的は以下の
7点である。
(1)日本語教師と韓国人学習者とではプレゼンテーション評価が異なるか、また、異なる とすればどのように異なるか(第
4章) 。
(2)韓国人学習者のプレゼンテーションの言語・パラ言語および非言語的特徴に対して聞 き手側はどのような観点を持っているか、また、日本語教師と韓国人学習者の評価は 異なるか、異なるとすればどの要素が異なっているのかを明らかにする(第
5章) 。
(3)韓国人学習者がプレゼンテーションをする際に持っている聞き手側の対人印象の観点 とは何か、また、日本語教師と韓国人学習者の評価は異なるか、異なるとすればどの 要素が異なっているのかを明らかにする(第
6章) 。
(4)発音以外の言語・パラ言語および非言語的特徴および対人印象の評価が、プレゼンテ
6 JFスタンダードは、ヨーロッパの言語教育の基盤であるCEFRの考え方を基礎にして作った。CEFR とは、Common European Framework of Reference for Languages: Learning,teaching,assessmentの 略で、ヨーロッパの言語教育・学習の場で共有される枠組みである。CEFRは、2001年に発表されて以 来、ヨーロッパのみならず世界で広く着目され、各言語で実際に利用されるようになった。JFスタンダ ードも、CEFRの考え方にもとづいて開発した。JFスタンダードを用いることにより、日本語の熟達度 をCEFRに準じて知ることができる。
http://jfstandard.jp/summary/ja/render.do参照
12
ーション評価に及ぼす影響は何か(第
7章) 。
(5)言語・パラ言語および非言語的特徴が対人印象に及ぼす影響とは何か(第
8章) 。
(6)発音の評価がプレゼンテーション評価に及ぼす影響とは何か(第
9章) 。
(7)発音の評価が、対人印象評価に及ぼす影響とは何か(第
10章) 。
以上の研究目的
7点を明らかにすることから、韓国人学習者のプレゼンテーションに対 する聞き手側の評価の観点を明らかにすることができると考えられる。研究の結果から、
学習者には聞き手側がどのような評価観点を持っているかについて、教師には学習者への フィードバックについてのヒントが得られる材料となり、さらに今後のプレゼンテーショ ン教育の方向性を提示できるであろう。
1.3
用語の定義
ここでは、本論文で使うプレゼンテーションと評価の
2つの用語について定義を整理す る。まず、宇佐美(2001)は、日本語教育の立場からこれからのスピーチ研究について意 見を述べている。まず、スピーチを、 「スピーチという言語行為は、比較的公的な場におい て、複数の人間を相手に自分の考えをわかりやすく伝えるという行為である。ある程度以 上知的な生活をおこなうためには、スピーチ能力は非常に重要なものであるといってよ い。 」と定義している。宇佐美が述べているスピーチは、本論文ではプレゼンテーションに 当たる。プレゼンテーションについて柳迫(2011)は、 「プレゼンテーションとは理解や同 意を得るために特定の相手に向けてアイデアを提案する活動であり、スピーチ等と比べ相 手意識を持つことが特に重要である。 」と述べている。上記の柳迫の定義は本論文の主旨と 合っているものであり、筆者もプレゼンテーションは、相手意識が重要であると考えるた め、この定義に従うこととする。
次に、小出(2005)は評価を広い意味で捉えており、評価主体が、何らかの目的のもと に、評価対象に関する情報を収集し、何らかの基準に従ってその情報を解釈し、価値判断 をすることと述べている。宇佐美(2013)は、教育分野における評価を、教師のように権 力を持つ者が、そうでない者の能力や習得の度合いを一方的に値踏みする行為と述べてい る。さらに宇佐美は社会における相互行為としての評価研究が目指すものは、主体が持つ 内的・暗黙的な価値観に基づいて、対象についての情報を収集し、主体なりの解釈を行な った上で、価値判断を行なうまでの一連の認知プロセス、またその結果として得られる判 断としている。本論文では、評価を上記の宇佐美の定義に従い、研究を進めることとする。
なお、本論文では評価をする側がどのような観点を持っているかを探ることを目標として いるため、これを「評価の観点」とする。
1.4
本論文の構成
本論文の構成は以下のように
11章からなる。以下の章ごとの内容を簡略に説明する。
13
第
1章では、本研究の研究背景について述べた上で、研究課題を設定する。また、本研 究で使われる重要な用語について整理をする。
第 2 章では、先行研究を、プレゼンテーションに関する研究と評価に関すある研究をま とめる。評価に関する研究は、英語教育と日本語学習者全体を対象としたものおよび韓国 人日本語学習者を対象としたものを含む。また、言語・パラ言語・非言語に関する用語の 定義をまとめながら本研究を位置づける。
第
3章では、本研究での調査概要について述べた上で、調査の結果の信頼性を検討する べく、探索的因子分析および確認的因子分析を用いてはかる。
第
4章では、韓国人日本語学習者が、日本語によるプレゼンテーションを行なう際の評 価項目のうち、プレゼンテーションに焦点を当て分析を行なう。分析には、日本語教師と 韓国人学習者の
2つのグループに分けて行なう。
第
5章では、言語・パラ言語および非言語的特徴に関する評価を分析し、因子分析を用 いて評価の観点を明らかにする。
第
6章では、対人印象に関する評価を分析し、因子分析を用いて評価の観点を明らかに する。
第
7章では、第
5章および第
6章で明らかになった言語・パラ言語および非言語的特徴 に関する評価の結果と対人印象に関する評価の結果が、プレゼンテーションに対する評価 である発表の良さ、興味、わかりやすさ、慣れ、資料の
5要素にどのような影響を与える かについて分析・考察する。
第
8章では、言語・パラ言語および非言語的特徴に関する評価の結果が、対人印象に与 える影響について分析・考察する。
第
9章では、発音の評価がプレゼンテーションに対する評価である発表の良さ、興味、
わかりやすさ、慣れ、資料の要素にどのような影響を与えるかについて分析・考察する。
第
10章では、発音の評価が、対人印象に与える影響について分析・考察する。
第
11章では、本研究をまとめた上で、まとめから日本語教育への提言を行なう。また、
今後の課題について述べる。
14
第 2 章 先行研究
本章では、本論文の枠となる先行研究の内容を、日本語学習者を対象にした日本語教育 関係のものに限らず、一般にプレゼンテーションに関する研究と日本語学習者に関する評 価研究、韓国人日本語学習者に関する研究の
3つの観点からまとめる。上記の順に
2.1では プレゼンテーションに関する研究、2.2 では日本語学習者に関する評価研究、2.3 では韓国 人日本語学習者に関する研究をまとめた上で、2.4 では本論文の位置付けについて述べる。
2.1
プレゼンテーションに関する研究
本節ではまず、1.1.1 で述べたプレゼンテーションの定義と、日本語教育分野に限らずプ レゼンテーションに関する研究をまとめる。
柳迫(2011)は、プレゼンテーションを以下のように定義している。
プレゼンテーションとは「理解や同意を得るために特定の相手に向けてア イデアを提案する活動」であり、スピーチ等と比べ「相手意識」を持つこと が特に重要である。 (p.66)
上記の柳迫(2011)の定義は本論文の主旨と合っているものであり、筆者もプレゼンテ ーションは「相手意識」が重要であると考えるため、この定義に従うこととする。柳迫(2011)
は、説得力のあるプレゼンテーションを目指し指導案を出している。まず、説得力のある 内容であるためには、1)的確な教材選定、2)わかりやすい構成、3)エピソード、4)関 わりあいの表現、5)効果的資料活動の
5つが重要であると述べており、これは原稿作成時 の指導内容にあたるという。また、効果的な話し方をするためには、1)音声技術(発音・
声の大きさ) 、2)発表技術
1(抑揚・速さ・間)、3)発表技術
2(目線・表情)、4)効果的 資料提示、5)聞き手との対話が重要であり、これは発表練習時の指導内容であると述べて いる。さらに中学校での実践を通して相手を意識しながら練習をすることが重要であるこ とを検証している。
次に日本人大学生を対象としたプレゼンテーション能力の重要性を主張し、大学生が独 習でプレゼンテーション能力を身につける方法について研究を行なったものとして山下・
長島(2009,2010,2011 等)がある。
山下・中島(2009)は、現代においてプレゼンテーションをする機会が増えてきたため、
プレゼンテーション能力を育成することは重要だと主張した。この根拠となるものとして、
厚生労働省が主催する
YESプログラムが出したものの中で「若年者就職基礎力の目安のひ
とつにコミュニケーション能力があり、その中で自己表現力の具体例として「状況にあっ
た訴求力のあるプレゼンテーションを行うことができる」という厚生労働省(2009)の資
料を挙げている。また、プレゼンテーション能力の育成に関する研究のうち情報システム
15
の開発はなされてきたが、プレゼンテーション時における聴衆の反応という視点が見過ご されてきたことを指摘した。これを補うためにプレゼンテーション能力を育成するための 新システムを開発し、実際使用した時の様子等を分析している。新システムとは、一人が プレゼンテーションをする時に
2台のカメラを用い、
1台はプレゼンテーションをする人を 撮影、もう
1台は聴衆者
5名を撮影し、プレゼンテーションの後それを見ながらプレゼン テーションのスキルを身につけるものであった。
山下・中島(2009)の一連の研究の対象は日本語学習者を対象にしているわけではない が、この研究からプレゼンテーションをする際にはプレゼンテーションをする人のみなら ず聴衆者の評価が重要であるということがいえる。山下・中島(2010)は、日本人大学生 のプレゼンテーション能力を向上させるためにはプレゼンテーションの評価基準を明らか にすることが重要であると主張し、 市販されている
82冊の書籍をビジネス向け、 学会向け、
その他の
3つの観点にわけた調査からプレゼンテーションの能力を定義した。その結果、
1.情報収集・分析能力、2.リハーサル能力、3.内容検討能力、4.資料作成能力、5.話し方(発
話)能力、6.動作・態度に関する能力、7.質疑応答能力、8.ツールを使いこなす能力であっ たと述べている。これらの
8つのうち、最も言及の多かった上位
4つは、内容検討、資料 作成、話し方、態度・動作であったという。
さらに山下・中島(2010)はこれらの結果を取り入れた情報システムを
5名の評価者に 試し、安定性や操作性に関しての問題はなかったと報告している。評価者は
5名と少ない 人数ではあるが、プレゼンテーション能力を向上させるためのシステムを開発しそれを試 した点では優れていると考えられる。
日本語教育の中にも、このように日本語学習者の発表を聴衆がシステムによって簡単に 評価ができ、さらにそれを見ながら自分自身のプレゼンテーション能力を向上させること ができるようになれば、日本語教師以外の評価を取り入れることができるだろう。
山下・中島(2011)では、上記の研究成果を踏まえた上でプレゼンテーションの自主学 習をサポートする電子教材を開発した。プレゼンテーション能力を身につけるためには自 分自身の様子を見ることが重要だと述べ、実際にシステムを通して画面の左半分にはプレ ゼンテーションの映像を見せ、右半分には評価項目を設け評価者
3人からの評価を得た。
評価項目は、山下・中島(2010)でのビジネス向けの書籍
54冊と学会向けの書籍
14冊、
それ以外の書籍
14冊の
82冊を
3種に分けて分類をした上で、プレゼンテーションにおい て重要視されているとされたものをもとに作成した。山下・中島(2011)の調査は、電子 教材が実際大学生のプレゼンテーション作成に役に立つかという質問に対して、15 点満点 のうち
14点を獲得したことから、大学生が独習でプレゼンテーション作成の手法を身につ けることが期待されると述べている。
以上の山下・中島(2009,2010,2011 等)の研究成果から、日本語学習者のプレゼンテー ションに対する評価には日本語教師だけではなく、聴衆者全員の評価が必要であることと、
プレゼンテーション能力を向上させるためには自分自身のプレゼンテーションを録画した
16
ものを見ることが極めて効果があるということが考えられる。本研究の結果から良い評価 が得られた項目を分析することによってプレゼンテーションをする側に役に立つ方法を見 出すことができるのではないかと考えられる。
大学生のプレゼンテーション教育に関する研究に、村上・垣東・正木・横山(2012)が ある。村上らは、高度情報社会においてはプレゼンテーション能力が必要とされているた め、大学で行われているプレゼンテーション教育の方法を見直す必要があると主張し、大 学の受講生らのリフレクション(自己省察)に着目した。プレゼンテーション教育を、作 る主体、演じる主体、評価する主体の
3つの観点に分け、自分と他者によるプレゼンテー ションの方法を合わせ、自作自演自評価、自作自演他評価、自作他演自評価、自作他演他 評価、他作自演自評価、他作自演他評価、他作他演自評価、他作他演他評価の
8つのタイ プに分けた。さらに、この
8つのタイプを主体者として自分の能力が発揮できるタイプと 教育の持つ特徴の点から分析を行ない、これらのうち自分が作成したものを他の人に演じ てもらい、自分が評価するという「自作他演自評価」を取り上げ実際の授業での実践を行 なった。その結果、初級者である受講生全員に気づきが生じていたという。
この結果について村上らは、初級者である受講生らに役割を意識させ、他者を意識させ たことと、見直しや評価に集中させ、自らのプレゼンを客観的に見ることができたからで あると考えていると述べている。この結果はプレゼンテーション教育には他者の存在を意 識することは重要であることが示唆している。
宮本(2011)は、プレゼンテーションが就職活動においても、もっとも重要でありなが ら難易度が高いと述べ、学生のセルフモニタリングのアンケートを通し、学生の気付きか らプレゼンテーション教育の方法を提案する手がかりをつくった。
まず、宮本はセルフモニタリングを現在の自分の状態を観察、記録、管理、評価するこ とと定義し、これによって自主的な学習を促すことができると考えられるという。調査の 対象は、プレゼンテーションの講義を受講する学部
2年生の
44名で、15 回目の講義中に プレゼンテーションの授業に対する態度の変化について、学生にアンケートを行なった。
質問項目は、プレゼンテーションは得意だ、プレゼンテーションをするのが好きだ、プレ ゼンテーションはきちんと習えば誰でもできるの3 つであり、
5段階評定を行なった。 また、
これに学生が毎回提出したレポートも参考にした。
その結果、上記の
3項目全てにおいて、授業前から授業後で評定値が上がった。このこ とから宮本は、プレゼンテーションについては,どちらかというと苦手意識を持っている 学生が多い。そのため、人前で話をすることに対して、不安感や緊張感を持っていると考 えられると述べている。また、プレゼンテーションが好きではない学生や得意ではないと 考えている学生でも、授業内容によってはきちんと習えば誰でもできるという前向きな姿 勢に変化させることができることがわかると述べている。
さらに、発表ビデオを見る際には、声の大きさを指摘したり、発表態度を指摘する学生
が多かったという。このことから、母語を使ったプレゼンテーションにおいても困難を感
17
じている学生が多いが、同時に授業できちんと習えば誰でもできると考えているので、学 生の姿勢を変化させるためにも教師の役割は重要だということがわかる。
以上の先行研究を踏まえ本研究では、宮本(2011)の研究での学生同士の評価で声の大 きさや発表態度を指摘することが多かったことを、本研究の結果と比較分析をすることと する。この研究結果をもって、教師が不安要素を正しく認識し肯定的なフィードバックを することで学習者の不安解消に寄与することを目指す。
2.2
日本語学習者に関する評価研究
本節では、日本語学習者を対象とした評価研究について概観する。1990 年代後半には原 田・小池・小林(1988)を中心とした評価研究が盛んに行われた。同じデータを用いて、
研究者らそれぞれが異なる視点から分析を行なったものであり、以下の
6種類がある。
1)
一般日本人
7による評価(原田・小池・小林, 1998;小池・原田・小林,1998;原田,1998)
2)
日本語教師と一般日本人による評価の違い(小池,1998;河野・松崎,1998)
3)
上級日本語学習者による評価(小池・小林,1998)
4)
学習者の日本語レベルと評価(原田,2001)
5)
音声に関する評価(河野・小林・小池・原田,1999)
6)ジェスチャーに関する評価(柳町,1999)
以上の
6種類の先行研究について順に整理する。まず、一般日本人による評価の違いに ついて研究を行なったものをまとめる。
原田・小池・小林(1998)は、会話授業のシラバスには円滑なコミュニケーションを支 えるさまざまな要素が適切に取り込まれる必要があると主張し、シラバス構築のためには 日本語教師のみならず一般日本人の評価も重要であると述べ、一般日本人による評価研究 を行った。調査は初級学習者
6人のロールプレイを撮影したものを、音声のみ、ビデオの 順に見せ一般の日本人
2名に見て感じたことについて語ってもらった。
その結果、一般の日本人は、学習者の悪かった点より良かった点に目を向ける傾向があ ることが示唆されるという。しかし、この示唆は
6人の少ない人数での調査の結果で得ら れたコメントは
83個であり、そのうちプラス評価は
54個、マイナス評価は
29個であった という評価数に基づく推測に過ぎないため、これを一般化するためには評価者の人数が足 りないと考えられる。また、言語規則に関するコメントより、コミュニケーションの遂行 に関するコメントが多いことを指摘している。これらの結果から、シラバスを構築する際
7 「一般日本人」は日本人非日本語教師を指す。本論文とは異なる表現であるが、先行研究に従った表現 である。