第 9 章 発音の評価がプレゼンテーション評価に及ぼす影響
11.5 今後の課題
本研究を通じて、日本語母語話者である日本語教師と、韓国語母語話者である韓国人学 習者とでは評価の観点が異なることが明らかになった。これまでの評価研究でも学習者の 言語運用能力に関する評価研究は行なわれていたが、本研究では対人印象や日本語運用能 力、発表内容という観点から評価観点を分析したことが大きく異なることである。本研究 の結果は、日本語教育にも活かせられ、プレゼンテーションの教育を行なう際には、日本 語教師と指導を受ける韓国人学習者両方がお互いを理解する材料となって欲しい。
本研究では、プレゼンテーション場面に焦点を当て、「言語・パラ言語・非言語評価」、「対 人印象評価」、「プレゼンテーション評価」という 3 つの観点に分け研究を行なった。これ らのそれぞれを分析した上で、「言語・パラ言語・非言語評価」と「プレゼンテーション評 価」が「対人印象評価」に及ぼす影響についても探った。その結果、「対人印象評価」は単 独なものではなく、さまざまな要素から影響を受けるということが明らかになった。しか し、量的な研究だけでは、それが具体的には何を示すかについては示すことができなかっ た。そこで、今後は、量的研究に加え、質的研究も行ない、項目が示す具体的な要素も入 れたさらなる検討をしていきたい。
また、日本語教師および韓国人学習者が、韓国人学習者に対して抱く対人印象の形成は
【個人的親しみやすさ】、【社会的望ましさ】、【活動性】であり、林(1978)や西郡(1997)、 崔(2013)とかわりがないことが示唆された。このことから、研究の対象が異なっても、
印象を形成する際には、上記の 3 つのパーソナリティが潜在的に働くことが示唆された。
しかし、それでもなお、本研究で捉えきれていない課題が残されている。
本研究の対象であった日本語教師は、日本語教師年数や年代などが異なっていたが、異 なる属性を別に分析することはできなかった。今後、日本語教師の年代による評価観点の 違いや年代による評価観点の違い、性別による観点の違い、経歴による評価観点の違いに ついて分析、考察したい。
178
研究対象であったプレゼンター6名は、異なった内容でプレゼンテーションを行なったが、
本研究では、全体の傾向をみるため 6 名を合わせての評価観点について分析、考察を行な った。しかし、6名を全体でみるのではなく個別に見ることで、また異なる観点が見えてく ると考える。今後、プレゼンター一人に対する日本語教師の評価観点と韓国人学習者の評 価観点についても研究したい。
11 章ではプレゼンターの順位による分析、考察を行なったが、本研究では、もっともい い発表だと評価された最高位のプレゼンターと再下位のプレゼンターについて述べること しかできなかった。しかし、1位から6位までの順位別での評価観点の違いや評価内容につ いての分析もできると考える。
最後に、本研究では調査対象を、日本語教師および韓国人学習者と限定したが、日本語 教師でない日本語母語話者および韓国以外の国籍を持つ日本語学習者の評価も加え、分析 および考察を行ないたい。
179 参考文献
石崎昌子(1999)「学習者の言語行動に対する母語話者の評価」『第二言語としての日本語 の習得研究』 3号 19-35.
井上佳朗(1994)「対人印象に及ぼす背景の効果」『鹿児島大学法文学部人文学科論集』40, 1-32.
李恵蓮(2005)「日本語母語話者によるソウル方言話者の日本語発話の "end focus" に対す る評価 : 日本語教育関係者と一般の日本人を対象に」『日本學報-韓國日本學會』. 韓國 日本學會. 65輯 1卷185-202.
宇佐美洋(2001)「これからのスピーチ研究―日本語教育の立場から―」『日本語学』5 明 治書院37-47.
宇佐美洋(2008)「学習者の日本語運用に対する、日常生活の中での評価--個人の「評価観」
の問い直しのために必要なこと」『日本言語文化研究会論集』4, 日本言語文化研究会 19-30,.
宇佐美洋(2009a)「「日常生活における日本語能力の評価」を考える (特集 日本語教育の 最新トピック(1)」『日本語学』28(10)明治書院12-20.
宇佐美洋(2009b)「 「外国人が書いた日本語手紙文」に対する日本人の評価態度の多様性--質的手法によるケーススタディ(特集 言語・コミュニケーションの学習・教育と社会言 語科学--人間・文化・社会をキーワードとして)『社会言語科学』12(1)122-134.
宇佐美洋(2010)「文章の評価観点に基づく評価者グルーピングの試みー学習者が書いた日 本語手紙文を対象としてー」『日本語教育』147, 112-118.
宇佐美洋(2013)「言語運用評価プロセスの多様性と普遍性をとらえる」『国語研プロジェ クトレビュー』Vol.3 No.3, 125-132.
小川一美(2003)「二者間発話量の均衡が観察者が抱く会話者と会話に対する印象に及ぼす 効果」『実験社会心理学研究』43, 63-74.
小川芳男・林大・他編集(1995)『縮刷版 日本語教育辞典』日本語教育学会編 大修館書 店.
小河原義朗(2001)「外国人日本語学習者の日本語発音不安尺度作成の試み―タイ人大学生 の場合―」『世界の日本語教育』11, 39-53.
長田雅喜(1996)『対人関係の社会心理学』福村出版.
小塩真司(2004)『SPSSとAmosによる心理・調査データ解析―因子分析・共分散構造分 析まで―』東京図書.
呉正培(2008)「日本語学習者の日本人イメージにみられる特徴とその形成要因―韓国の大 学における学習者と非学習者の比較―」『日本語教育論集』 世界の日本語教育18, 35-55.
呉智恵(2000)「日本語 口頭 表現 能力 評価法 研究―한국 高等學校 日本語 學習者를 対象으로―」同徳女子大學校 大學院 日語日文學科 日本語敎育専攻 博士學位論文.
180
筆者日本語訳:呉智恵(2000)「日本語 口頭 表現 能力 評価法 研究―韓国 高等 學校 日本語 學習者を 対象として―」同徳女子大學校 大學院 日語日文學科 日 本語敎育専攻 博士學位論文.
河野俊之・松崎寛(1998)「一般日本人と日本語教師の音声評価の差異」『日本語教育方法 研究学誌』Vo1.5 No.2.
河野俊之・小林ミナ・小池真理・原田朋子(1999)「学習者の日本語音声はどのように評価 されるか」『日本語教育方法研究会誌』6(2)18-19.
黒野敦子(2006)「学部留学生の日本語使用の実態―質問紙調査とインタビュー調査から明 らかになったこと―」『筑波学院大学紀要』1.
小池真理(1998)「学習者の会話能力に対する評価に見られる日本語教師と一般日本人のず れ-初級学習者の到達度試験のロールプレイに対する評価-」『北海道大学留学生センタ ー紀要』2, 138-155.
小池真理・小林ミナ(1998)「上級日本語学習者は何に着目して初級学習者の日本語を評価 するか」『日本語教育方法研究会誌』5(2)28-29.
小池真理・原田朋子・小林ミナ(1998)「学習者の会話能力に対する評価に見られる日本語 教師と一般人のずれ」『日本語教育方法研究会誌』5(1)32-33.
小池真理(2000)「日本語母語話者が失礼と感じるのは学習者のどんな発話か:「依頼」の 場面における母語話者の発話と比較して」『北海道大学留学生センター紀要』4, 55-80 小出慶一(2005)「評価とは」『新版日本語教育事典』日本語教育学会編777-778大修館書
店.
小林ミナ(2000)「『何を』教えるかの再吟味へ-日本人評価研究の意義と限界-」『北海道 大学留学生センター紀要』4, 149-159.
近藤純子(2004)「日本語学習者のあらすじの談話:わかりやすさ,わかりにくさの要因に関 する調査と分析」『世界の日本語教育』日本語教育論集 14, 53-74.
全娟姝 (2012)「ハングル表記は韓国人日本語学習者の発音にどのような影響を与えるか.
―日本語破擦音/ザ//ゾ//ツ/に焦点をあてて―」桜美林大学大学院修士論文.
全娟姝(2012)「破擦音/ザ//ゾ//ツ/の発音に対する会話スタイルの影響 : 韓国人日本語 学習者を対象に」『言語教育研究』2 桜美林大学1-10.
大坊郁夫・奥田秀宇(1996)対人行動学研究シリーズ 3『親密な対人関係の科学』誠信書 房.
高村めぐみ(2009)「韓国人日本語学習者の聞きにくいスピーチの特徴についての一考察ー ポーズ、速さ、リズムを視点にー」『桜美林言語教育論叢』5, 1-16.
高村めぐみ(2011)「ポーズが日本語母語話者の評価に与える影響についての一考察」『実 験音声学・言語学研究』3, 1-11.
崔文姫(2007)「日本語学習者の発話に対する日本人の評価―韓国人日本語学習者に対する 印象とその印象に影響を及ぼす要因―」『計量国語学』26, 47-63.
181
崔文姫(2009a)「日本語学習者に対する日本語母語話者の印象形成―学習者の発話に関す る評価を基準に―」首都大学東京博士論文.
崔文姫(2009b)「好ましさ」の印象形成要因-ケーススタディを通して-日本語研究 29, 21-35.
崔文姫(2012)日本語学習者に対する日本語母語話者の評価-共分散構造分析モデルに基 づいて-人文学報 458, 23-48.
崔文姫(2013)「日本語学習者の発話に対する日本語母語話者の評価-日本語教師と非日本 語教師の因果モデルを中心に-」『国立国語研究所論集』5, -26.
趙南星(1991)「韓国人日本語学習者の口頭発表に対する日本語話者と非日本語話者の評価
―コミュニケーション上の影響を中心として―」富士ゼロックス小林節太郎記念基金 1991年度研究助成論文.
戸田貴子(2008)『日本語教育と音声』くろしお出版.
戸田貴子(2011)「音声教育と日本語能力(特集 日本語教育が育成する日本語能力とは何 か)」『早稲田日本語教育学』8(9)59-65.
豊田秀樹(2003)『共分散構造分析[疑問編]-構造方程式モデリング-』朝倉書店.
中川道子・石島沙子(1998)「会話の上達度を計る評価基準」『北海道大学留学生センター 紀要』2, 169-185.
西郡仁朗(1997)「日本人の談話行動のスクリプト・ストラテジーの研究とマルチメディア 教材の試作(科学研究費補助金(基盤研究(c)(2))研究成果報告書:平成7-8年度)」.
野原ゆかり(2009)「発話の「分かりやすさ」を判断する要因:一般日本人と母語話者日本 語教師の比較を通して」『人間文化創成科学論叢』11, 165-174.
野原ゆかり・高村めぐみ(2011)「日本語学習者の発話における非流暢性に関する一考察 : 言い直しとポーズに注目して」『人間文化創成科学論叢』13, 117-125.
野原ゆかり(2014)「接触場面における当事者評価—ロールプレイ後の母語話者の振り返り から—」『千葉大学人文社会科学研究科研究プロジェクト報告書』278, 99-115.
原田朋子(1998)「一般の日本人は外国人の日本語をどのように評価するか」『北海道大学 留学生センター論集』1, 51-59.
原田明子・小池真理・小林ミナ(1998)「一般の日本人は学習者の日本語をどのように評価す るか」『日本語教育方法研究学誌』5(1)8-9.
原田明子(2001)「日本語レベルが異なる学習者の言語行動に対し母語話者による評価に違 いが見られるか」『群馬大学留学生センター論集』1, 51-59.
林文俊(1978)「対人認知構造の基本次元についての一考察」『名古屋大学教育学部紀要』
教育心理学会25, 233-247.
朴瑞庚・坪田康・壇辻正剛(2013)「日本人韓国語学習者のスピーチに対する印象評価 パ ラ言語に基づく韓国語母語話者の評価結果」『島根大学外国語教育センタージャーナル』
8, 77-87.