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本研究の位置づけ

第 2 章 先行研究

2.4 本研究の位置づけ

近年、日本語教育では日本語学習者の口頭能力における評価研究が注目を浴びている。

評価研究は、教室内で日本語教師から受けるものが主流であったが、1990年代後半には小 林ミナを中心とした評価研究ものが、会話授業のシラバスには円滑なコミュニケーション を支えるさまざまな要素が適切に取り込まれる必要があり、シラバス構築のためには日本 語教師のみならず一般日本人の評価も重要であると主張し、一般日本人による評価研究を 行なった。

同じデータを用いて、一般日本人13による評価(原田・小池・小林,1998;小池・原田・小 林,1998;原田,1998)、日本語教師と一般日本人による評価の違い(小池,1998;河野・松 崎,1998)、上級日本語学習者による評価(小池・小林,1998)、学習者の日本語レベルと評 価(原田,2001)、音声に関する評価(河野・小林・小池・原田,1999)、ジェスチャーに関 する評価(柳町,2000)の6つの評価について研究が行なわれた。これらの研究から明らか になったものは、日本語教師と一般日本人とでは評価が異なることであった。

2000年代に入ると、日本語学習者の言語運用能力だけでなく、印象に関する評価も重要 であると主張され、社会学の林(1978)の研究をもとに研究が進められてきた(西郡,1997;

渡部,2003a,2003b;崔,2007,2008,2009;野原,2009等)。これらの研究は日本語学習者 の言語運用能力の正確さや流暢さ、親しみやすさといった個々の評価の観点に注目をして おり、日本語学習者の日本語運用能力のみならず、表情や身振り手振りといった非言語行 動や、対人印象までも含めた研究であった。

韓国でも国際化に入り外国語能力においては従来重視されていた読解や書き能力から、

口頭能力が重要視されてきている。2001年度から大学に入るために受ける試験に第2外国 語が含まれるようになったこともあり、高等学校でも日本語の必要性が高くなっている。

さらに、教育課程では口頭表現能力を重視するようになり、高等学校での教育課程ではコ ミュニケーション能力向上が重視され、口頭表現能力の重要性が強調されてきている(呉,

2000)。しかし、口頭表現能力の評価に関しては、さまざまな観点から研究が行なわれてい

るものの、口頭表現を評価する基準や項目、またそれぞれの要素がどのように影響し合っ ているかについての研究は少ない。さらに、上記の先行研究の対象は、初対面会話や自由 会話、ストーリー・テリングのさまざまな場面からのものであるため、これらの結果に一 貫性があるとは言い難い。

筆者は、人が人を評価する時には言語だけでなく、前述のようなさまざまなものが複雑 に絡み合っていると考えている。人を評価する際には、話し方や姿勢、ジェスチャーなど の情報を集め、最終的には好感がもてるかどうかで評価を決定する。同じように、日本語 学習者も学習者なので、常に言語の面からの評価のみで全てが決定されるわけではないだ ろう。日本語学校などの日本語を学ぶ機関のテストであればそれが通用するが、日本人母

13 ここでいう「一般日本人」は先行研究での表現であり、日本人非日本語教師を指す。

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語話者と交わる場所などでは、その人に対する全体的な評価が、日本語能力だけに限るの か、ジェスチャーや容貌のような要素なのかは不明である。日本語教育でも、これまでの 評価観点から視野を広げ、言語の評価とそれ以外の評価がどのように絡み合っているのか を探るべきであろう。このことから本論文では先行研究のなかでも、主に崔(2009)を参 考にし、言語・パラ言語および非言語的特徴、対人印象、発音および発表内容という尺度 からの評価の観点を分析、考察する。なお、崔(2009)の評価項目は初対面会話に対して 作成されたものであるため、本研究の主題とは異なることから、本研究に合わせ修正する。

発音評価研究は、評価をする側の場面や評価される側の条件によってさまざまであると いう松崎(2007)の見解があるが、これは発音評価研究に限らず評価研究全体にも言える ことである。これについて井上(1994)は、出会った場所や状況によって、その人に対す る認知の仕方や印象が異なることがあると述べている。

よって筆者は、日本語学習者が日本語で行なうプレゼンテーション場面において、聞き 手側の評価の観点にはどのようなものがあるのかに着目する。日本語教育の研究ではない が、山下・中島(2009)は、現代社会ではプレゼンテーションをする機会が増えてきたた め、プレゼンテーション能力を育成することは重要である主張した。この根拠となるもの として、厚生労働省(2009)によるYESプログラムの中での指摘をあげている。すなわち、

若年者就職基礎力の目安のひとつにコミュニケーション能力があり、その中で自己表現力 の具体例として、状況にあった訴求力のあるプレゼンテーションを行うことができること が重要だという指摘である。また、プレゼンテーション能力の育成に関する研究のうち、

発表のスキルの研究やそれを支援する情報システムの開発はなされてきたが、プレゼンテ ーション時における聴衆の反応という視点が見過ごされてきたことも指摘している。

このように、現代社会においてプレゼンテーション教育は重要であり、日本語学習者に もプレゼンテーションのような場面で、自分自身の考えを主張することは大事である。宇 佐美(2001)は、スピーチを、大学のような高等教育の場で、講義や講演、発表、報告の ような形で行われているものと定義しており、したがって、本論文で扱っているプレゼン テーション(発表)14はスピーチに含まれているということができる。また、宇佐美(2009)

はこれからの日本語教育において、日本語を母語としない人にスピーチ能力を身につけさ せるために、日本語を用いてわかりやすいスピーチをする方法ついての研究が不可欠にな ると主張している。しかし、現段階での日本の大学は、留学生に対して、日本語による情 報発信や自己表現のための効果的な学習方法を提示できていないと指摘している。

また、これまでの評価研究では、日本人日本語教師と一般日本人との比較を行なうこと が主流であったが、評価を行なう立場にある人は必ずしも日本語母語話者ではない。変わ

14 「発表」を英語で翻訳すると「プレゼンテーション(Presentation)」になり、ほとんど同じ意味を持 っているが、厳密には一方的に情報を伝達するものを「発表」、何かの目的を持ち、Power pointや身振 り手振りのようにさまざまな要素からそれを伝えようとしているものを「プレゼンテーション

(Presentation)」と定義し、本論文では後者を採用する。

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りつつある日本の社会と、これから多文化社会となるためには広い視野を持つことが重要 であろう。本論文では、聴衆として、プレゼンテーションを行なう日本語学習者と同じ母 語を有する韓国人日本語学習者(次節以降、「韓国人学習者」)に焦点をあて、日本人日本 語教師「次節以降、「日本語教師」」との比較・対照を行なうことにする。

これについて、宇佐美(2001)は、スピーチを、情報発信者(聞き手・読み手)と情報 受信者(話し手・書き手)に分け、どちらも必ずしも日本語母語話者であるとは限らない ことと、日本語母語話者であるからといって同じ思考様式・価値観を持っているとは言え ないと述べている。よって、これからは、日本語母語話者および非母語話者による評価材 料が必要であることと、収集した材料を音声や語彙、文法、内容等さまざまな角度から分 析する必要があること、多くの人に評価をしてもらうこと、評価と分析とを照らし合わせ ること、これらの4つが重要であると述べている。

以上のことをまとめると、本論文は宇佐美(2001)の定義に従うとスピーチの中の一部 になり、また、研究の結果は宇佐美が志向しているスピーチ研究の方向性にも合致し、研 究の意義は十分あると思われる。加えて研究の結果は日本語教育において大きな貢献がで きると考えられる。

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