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第3章  道徳性の発達段階の再構成

第3節  道徳性の発達と教育

 第1節、2節では、道徳性の意味やその発達について考察してきた。道徳性 の発達段階を捉えることは、既述したように道徳教育を考える上で大きな示唆 を与えてくれる。

 第3節においては、認知発達理論の代表的な研究者であるピアジェの考え方 から、道徳性の発達殻階を三水準と6段階に表したコールバーグの道徳性の発 達理論を見ていきたいと考える。そして最後に、両者の考え方を、相等行為の 発達段階という独自の関係から見直しているハーバーマスの考え方に着目しな

がら、道徳性の発達段階の再構成を図りたい。

1 ピアジェの認知発達理論

 認知発達理論が問題にするのは道徳的判断であり、規範の理解の仕方や内面 化の仕方の変化が発達として捉えられる。この立場をとる代表的な研究者ピア

.63一

ジェは、道徳を次のように考えている。

 すべての道徳は規則の体系から成り立っており、すべての道徳の本質は個 人がこれらの規則に対してどれほど尊敬しているかというところに求められ

るべきである{8)。

 ピアジェはこの視点に立って、規則に関する子どもの意識と実践を実証的に 分析した。彼は「マーブル・ゲーム」をする子どもたちが、そのゲームの規則 をどのように意識し遊んでいるかということを研究の対象とした。この遊びは 複雑な規則をもっており、子どもにとって遊びは社会生活そのものであること から、遊びの規則の研究は社会生活の規則でもある道徳の研究に貢献し得ると 考えたからである。この研究から、規則に対する意識の発達、規則の実践の発 達、正義についての意識の発達等のそれぞれの各段階を以下のように見出した。

【規則に対する意識の発達】

(1)還動的・個人的段階

  純粋に個人の枠内に限定される運動的規則の段階。ここでは規則に対す  る義務意識は存在しない。したがって、道徳に対する意識も存在しない段  階といえる。

(2)他律の段階(4〜8歳)

  一方的尊敬に基づく強制的規則の段階。規則は大人がつくった神聖不可  侵のものと考える段階である。規則を修正して遊んだ方が面白いというこ  とが分かっていても、規則を修正・変更することはできないと考える。

(3)自律の段階(9〜13歳、平均10歳)

  相:互の同意に基づく合理的規則の段階。規則は集団内相互の同意による  ものであり、尊重されなければならないものと捉える。全員が賛成し公平  であれば規則を修正できると考える段階である。

【規則の実践の発達】

(1)純粋に個人的・運動的段階

  遊びは全く個人的。集団的規則は存在しない。自己の欲求のまま、ある  いは習慣的に遊ぶ。一規則の意識(1)

(8)J.ピアジェ、大伴茂訳『児童道徳判断の発達』岡文書院、董957年、1頁。

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(2)自己中心的段階(2〜5歳)

  自己の年長者の模倣はするが、おのおの自分だけの遊びをする。遊びに  ついての外的規則を受け入れるが、これを他の友人に及ぼして共通の規則  のもとで遊ぼうとしたりしない。子どもは「社会的材料をもって個人的に  遊ぶ」(9)のである。一規則の意識(1)〜(2)にかけて

(3)初期協同の段階(了・8歳〜10歳)

  規則を統一して、一緒に遊ぶことができるようになるが、規則に対する  理解は個々の子どもによってまちまちである。この段階の子どもは相手に  勝とうとする為、同じ規則でゲームをする必要ができる。そこで「共通  規則を守りつつ相手と競おうとする」⑯のである。一規則の意識(2)

(4)規則の制定化の段階(11歳〜12歳頃から)

  統一した規則をつくり、みんながそれを理解し、納得した上で遊べるよ  うになる。一規則の意識(3)

【正義についての意識の発達】

(1)大人の権威に服従することが正義だと考える段階(〜了歳、8歳)

(2)形式的平等を正義であると考える段階(8〜11歳)

(3)弱者への配慮などを含んだ実質的な平等(公正)が正義の原理であると   考える段階(11歳〜)

 このような分析を通して、道徳性の発達を大人の権威に由来して道徳的実在 論の形式をとる他律的道徳の段階と、社会的共同作業の経験に基づいて相互性

の原理を学び自律的道徳に至る段階とに区別した。このようなピアジェ理論の 認知的特質は、道徳的発達と知的発達とを並行関係として捉えることも認めら れる。拘束と一方的尊敬は、知的自己中心性と同時に道徳的実在論を生み出し、

共同と相互尊敬は、知的には形式的論理の諸原理の認識を、道徳的には規則の 内面化を達成するのである。このような考え方は、『小学校指導書 道徳編』

にも見られる通り、現在でも道徳性の発達段階の基本形として承認されている

のである。

 こうしたピアジェの研究から、子どもの道徳性は、総じて他律的道徳から自 律的道徳へ、大人(年長者)の権威による拘束、強制の道徳から、 協同による

〈g)ピァジェ、前掲書、31頁。

(10)同上、39頁。

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連帯の道徳へ、権威への服従としての正義から公正としての正義へ、義務の感 情しか伴わない道徳から善の感情を伴う道徳へと発達していくものと捉えるこ

とができる。

 ピアジェは大人の権威によって既存の社会的規則、規範に子どもたちを二二 させるのでは真の道徳性を形成するのは不十分であり、子ども同士の協同の関 係における相亙的な働きかけにより、これを超越し、栽たな規範を構成してい

くことを促すことの意義と必要性を主張している。そのために必要なこととし て、受身でなく子どもが能動的に活動できるような学校の在り方を提唱してい

るのである。

2 コールバーグの道徳性発達段階の考え方

 ピアジェと同じく認知的発達理論のアプローチに依りながら、他律的道徳か ら自律的道徳への発達の道筋を、より包括的で精緻なものにしたのがコールバ ーグである。コールバーグは道徳判断の基礎、前提となる能力として認知能力、

役割取得をあげている。これらの能力とコールバーグの発達段階との関連は、

表1鱒に示す通りである。

 コールバーグは、「道徳原理は、平等と相互性(reciprooi重y)としての公正を 中心にして組織された、役割取得における認知構造の型である」㈲として、

公正の構造がどのように発達していくか、どのような段階を経て道徳的判断が 真の意味での公正に近づいていくのかということを、三つの水準と6つの段階 に区分けし明確にしている個。

 コールバーグの発達段階理論は道徳教育の成果の有無を、子どもの道徳的意 識の変化において判定しようとするものであり、道徳教育において画期的なも のであったということができる。激一ルバーグの6段階論の概要を示すと、表

2のようになる。

(ll)永野重史編『道徳性の発達と教育一コールバーグ理論の展開一』新曜社、1985年、

  196:頁。

(12)コールバーグ、内藤・千田訳「『である』から『べきである』へ」永野重史編『道徳性   の発達と教育一円ールバーグ理論の展開一』漸曜社、1985年、65頁。

(13)コールバーグ、岩佐信道訳『道徳性の発達と教育』広池学園出版部、1987年,171頁。

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表1コールバーグの発達段階と他の発達段階との関連(コールバーグ1973,セルマン1976より)

道徳性 認知能力 役割取得能力

自我発達

(コールバーグ) (ピアジェ) (セルマン) (エリクソン)

第0段階 象徴的直観的 第0段階

自己の欲求のみに 思考 自己中心的視点(自他の視点の分

基づく道徳性 化なし)

第1段階 具体的操作 第1段階

罰と嚴従への志向 下位段階1(カ 主観的または対人的情報に関する テゴリー分類) 役割取得(人の主観性、人による情

報の異なりを理解する一自他の視点 の分化一が、自他がお互いを主体と 見ることは分からない)

第2段階 具体的操作 第2段階

道具的快楽主義 下位段階2 (可 自己内省的(sd赫組。面ve)役劇取

的志向 逆的操作) 得(自他がお互いを主体と見ること

に気づくが自他の視点の関連づけは 継続的で同時的には閣連させられな

い)

第3段階 形式的操作 第3段階

対人的一致 下位段階1 相等的役割取得(自他の視点を同

「よい子」への志 (形式的操作の開 時に相互的に関連させられる〉 与えられた同

始) 一性の受容

第4段陪 形式的操作 第4段階

法と秩序の維持 下位段階2(形式 社会的慣習的システムの役割取得 同一性の危機 への志向 的操作の初期) (集団の成員全体や一般的他者の役 またはモラト

第5段階 形式的操作 割がとれる〉 リアム(第4

社会契約的法への 下位段階 2/正段階に対

志向

(完成・定着)

応)自我同一

性の達成

第6段階

普遍的倫理的原理 への志向

噸67.

表2 :コールバーグの三水準6段階

1前慣習的水準

道徳的価値は外的、物理 的出来事や行為にある。

口慣習的水準

家族、集団、国家のもつ 期待がそれ自体価値のある

ものとされる。秩序に同調 しそれを積極的に維持する

ことが:正しいとされる。

柵脱慣習的水準、

  自律的原理的水準 道徳的価値や原理を定義 しようとする明確な努力が 認められる。

1.罰と服従への志向

 行為の善悪を、物理的な結果により判断し、その意味や価値 を無視する。罰を避け、権威あるものに聴従することが正しい

とされる。

2.道具主義的な相対主義志向

 正しい行為とは、自己の欲求や場合によっては他人の欲求を 満たすための手段である.規則を固定的、絶対的なものと考え ない。公平、相互性という要素はみられるが物質的で実用主義

に解釈されるウ

3.対人的同調あるいは「よい子」志向

 よい行為とは、他者から肯定されるようなことである。「よ い人」「立派な人」という一般的イメージへの同調。行為の善悪 をその動機によって判断する。

4.「法と秩序」志向

 正しい行為とは、「義務を果たす」こと、権威を尊敬するこ と、既存の社会的秩序を維持することである。社会秩序を広範 に考え、それを維持するために法律に従うことが強調される。

5.社会契約的な法律志向

 正しい行為は、一般的な人権の尊重と社会的に合意した基準 によって判断される。私的な価値観や見解は相対的なものとし て認識されている。法や社会的秩序は、社会の成員の幸福を増 進するためのものと捉えられる。

6.普遍的な倫理的原理への志向

 行為の正しさは、自己が選択した倫理的原理(黄金律や定書 命法、個々の具体的道徳律ではない)に照らして判定される。

原理は、普遍的で一貫性がなければならない。

 上記に示した6段階は、子どもの道徳性の発達の順序を示しており、道徳性 は役割取得の経験や高次の段階の考え方に触れることによって段階的に上がっ ていくと考えられている。つまり、道徳性は前慣習的水準の他律的な道徳から 慣習的道徳の水準を通り、自律的原理的水準の自律的な道徳に発達していくと

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