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第3章  道徳性の発達段階の再構成

第3節  ディスクルスによる道徳授業の創造

 子どもたち主体のディスクルスを、単に個々の相互理解として捉えるのでは なく、お亙いの関わりをつくり変えていく活動として捉える。これは、個人の 心の問題として、つまり個人のレベルで道徳性を考えたのでは、子どもの社会 化は促進されないからである。ディスクルスを中心とした道徳授業では、学級 の質的発展に目標をおきながら、個々人の道徳的な成長を促すのである。ハー バーマスは、道徳性を「相互行為調整能力」と定義している。すなわち、様々 な行為葛藤状況に直面した際に、行為選択をするための道徳的判断の基準をど こに求めるかが大切になってくるのである。ハーバーマスのいう道徳性は、諏 ミュニケーション的行為である相互行為を調整していく能力であり、道徳性の 発達段階は相互行為の発達段階と換言することができる。よって、ディスクル スを中心とした道徳授業の創造が望まれるのである。

1ディスクルスの成立の条件

 学級におけるディスクルスによる道徳の学習を可能にするためには、次ペー ジに示すような条件が考えられる。この条件は、ディスクルスに参加する全員 が前提としなければならないものである。ロバート・アレクセイによると、デ ィスクルスに真面目に取り組むということは、その条件を負うという責務が生

じることと考える.アレクセイは次のような主張している。

 何かを理由に正当化しようとする人は誰でも、少なくとも他の人を同じ権 利をもつパートナーとして受け入れる振りをするものであり、また少なくと

も正当化の過程に関わる事がらに敬意を払い、そしてまた、自分では強制を 行う素振りも見せず、他の人によって行われた強制的な手段に依存するよう な振りも見せない。さらに、男であろうと女であろうとみんな、本当に自分 の主張を誰に対してであれ正当化することができることを主張する働。

 このような考えに基づき、ハーバーマスが本来前提として取り入れているデ ィスクルスの三つの実践的なルール(前提)を引き出しているのである。これ

(21)Willlam R¢hg,囎G阻80催)戴U㎡ve疵s鯉y of C磁{bm諭P顧ess,1994,P.6Z

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に依拠すると、次のような条件が考えられる鋤。

1一.発話し行為する能力をもつ主体はすべて、ディスクルスに参加する   ことができる。

2. a誰でも、何であれすべての主張に疑問をもつことができる。

  b誰でも、いかなる主張もディスクルスに取り入れることができる。

  c誰でも、自分の立場や希望や欲求を表現することができる。

3.発話者は誰でも、内的な強制であれ外的な強制であれ、1と2で述べ   られるような権利を邪魔されてはならない。

 ハーバーマスは、誠ミュニケーション的行為における合意を真なるものにす るために、「理想的発話状況」という概念を提示している。議論の参加者は、

理想的な発話状況という条件が充分に満たされているという前提から出発しな ければならない欄。ディスクルスが「理想的発話状況」でなされるならば、

おのずと合意が出来上がると考えられる。つまり、「理想的発話状況」とは、

外的抑圧も内的指圧もない状態のことであるが、そうした状況下では全ての参 加者は、より強い論拠に出会ったとき、抵抗なくそれに従えるから全体の合意 は、全員の協力で発見する最高の論拠をもつ言明にいきつくと考えられるので ある。「理想的発話行為」について岡田は、次のように述べている。

 モレンハウアーが『教育過程の理論』で示したように、教える者と教えら れる者の世代差やそれぞれの子どもの属する社会階層の違いなど、取り去り

ようのない条件によって教育の場の人間関係、相互行為は非対称なものにな っている。これは討議の理想的発話状況の妨げである。それゆえ教師は正当 な教育的営為として、討議が理想的発話状況の中でなされ得るように諸条件 を整備しなければならない㈹。

「理想的発話状況」を単にユートピア的な理想としてしまわず、岡田の言う

(22)W溢am Reわg,.醒駆G欝50㎜)㎜『, P.62.

(23)ユルゲン・ハーバーマス、河上倫逸・Mフーブリヒト・平井俊彦訳 『凝ミュニケイショ   ン的行為の理論(上)』未来社、1985年、71頁。

(24) 岡鋒…、 前掲書、 189頁。

.. W6一

教育的営為として捉えることにより、子どもたち主体のディスクルスへ高めて いきたいと考える。

2 ディスクルスによる道徳授業

 ディスクルスによる道徳授業と、従来の道徳授業との違いをまとめると表 3に示すようになる樹。

      表3  道徳授業の再構成

項 自 従来の道徳授業 ディスクルスによる道徳授業 道徳の時間の 価値の伝達、注入 価値規範の創造

目的 個々の道徳性の発達のみを目指 集団の質の向上と社会化を目指す

す。 ことにより、個の道徳性の発達を

促す。

目指す能力 社会への適応能力 自ら社会をつくり出す能力 目指すか向 相互理解を図る 相互行為調整能力を育てる 授業形態 教師主導型(教師中心) 子どもたち中心

一問一答式 ディスクルス中心

教師と子ども 教師(辮)一子ども(客体)の関 教師(主体)一子どもたち(錐)の

の関係 関係

教える人、教えられる人の権力 子ども一子ども

的関係 相互主体の対等な関係

授業で扱う 子どもの身近な問題 より広範囲の問題

問題 (子どもの現実世界の問題) (我々の社会で出会う問題)

主な発問 資料の主人公の気持ちを問う。 より妥当な判断と根拠を問う。

1〜は、どんな鯖ちだつたでしょ殆 1〜は、どうすべきでほうか」

1磁、どう思ったでしょう。1

1その理蝋なぜでしょ勾

「どんな気持ちで、〜は、〜したのでしょう。」 「みんなが納得する理由を、話し合いましょう,1

きまり すでにあるきまりの押しつけ すでにあるきまりを吟味し、新し

(規範)

(規範の内面化) くっくり変えていく可能性をもつ

(規範づくりの重視)

(25) 嘱目徳子「生活無界に根ざす道徳授業の研究」兵庫教育大学修士論文、 1998年、62頁   を参照し作成したもの。

一87一

 ディスクルスを中心とした道徳授業の流れを簡単に表すと、図2のように

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させる。そして個々に各自が判断したことの根拠を表明し、ディスクルスが行 われるのである。ディスクルスによって、合意されたことは全員の納得が得ら れたものであるため、実践化へ進むことになる。さらに、実践化の過程におい て問題が生じると、再度ディスクルスが行われていくというサイクルが出来上

がる。

        図2 ディスクルスによる道徳授業の流れ

資料の提示 課題(問題)の状況 把握・理解

灘ンフリクトの発生 判断・根拠を 明確にする

      ロ実践から再度問題が発生す1 ればデ。ス,ルスー解るi       I

ディスクルス

[i藝藝=トー舗・了解

 上記のようなディスクルスによる道徳授業を支えていくものとして以下のよ うな点が重要になると考えられる。尚、コミュニケーション能力の育成につい ては、次節で述べることとする。

【道徳授業におけるディスクルス成立に向けて】

1.学級の中に話しやすい雰囲気の基盤がある。(学級づくり)

  ・一人ひとりが尊重され、どんな意見も大切にされる。

  ・みんなで何かをやっていこうという雰囲気(まとまり)がある。

2.全教育活動においてコミュニケーション能力の育成を図る。

  ・聞く・話す力を発達段階に応じて育てる。

  ・教師の主体の姿勢を改める。

3.資料を工夫する。

  ・子どもたちを、自然な形でディスクルスへ導く資料の作成・選出を

   する。

  ・子どもたちの道徳意識を、無理なくコンフリクト状態にさせる資料    の作成・選出をする。

 また、ディスクルスによる道徳授業の成立を目指すには、次ページに示すよ うな5つの点がポイントとなるであろう。

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【学級におけるディスクルス成立の条件】

1.二人以上の参加者がいる。

2.子どもたちが同一の課題(問題)を考えている。

3.子どもたちの中に、課題(問題)に対するコンフリクト状態が生じて

  いる。

4.子どもたちが課題(問題)に対する自己の考え(判断・根拠)をもつ

  ている。

5.子どもたちの考えが二つ以上に分裂しでいる。

3ディスクルスにおけるコミュニケーション能力の育成

(1)コミュニケーション能力について

 コミュニケーション能力とは、ほミュニケーション的行為を遂行できる行為 主体が備えるべき能力である。ハーバーマスはこのロミュニケーション能力と

して、:事実確認的発話行為、規制的発話行為、表自的発話行為の三つの発話行 為ができることとし、妥当性要求に基づく卜書を重視している。三つの発話行 為についてまとめると以下のようになる㈱。

コミュニケーション雛力 内      容

妥当性要求

:事実確認的発話行為 事実の真理性に基づき話すこと ェできる。

客観的世界のおける

^理性の要求 規制的発話行為 互いの関係の正当性に基づき話

キことができる。

社会的世界における ウ当性の要求

表自的発話行為 自分の思いや考えを誠実に話す アとができる。

主観的世界における ス実性の要求

 上記のコミュニケーション能力を備えることは、ディスクルスにおける前提 条件であり、コミュニケーション的行為の遂行できる行為主体となるための重 要条件でもある。

(26)ユルゲン・ハーバーマス、藤沢賢一郎・岩:倉正博・徳永拘・平野嘉彦・由口節郎訳   『コミュニケイション的行為の理論(中)』未来社:、1986年、46〜50頁。

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