第2章 日本の観光政策と観光地づくり
2.4 観光まちづくり推進組織が抱えている課題
2.4.1 財源
観光まちづくりに関する施策を実際に展開していくためには、安定的な財源の確保が 必要である。観光財源にはどのようなものがあるだろうか。
財団法人日本交通公社(2013:123)は自治体独自の財源である「自主財源」と、国や 県の裁量等に左右される「依存財源」に分けて、自治体の観光財源の体系を表 2.6の 通りまとめている。観光まちづくり推進組織の財源が自治体と異なるのは、地方税や地 方債がない点、自主財源として会費収入・協賛金・広告宣伝等の事業者分担金が含まれ る点、依存財源として金融機関からの借入金等が含まれる点である(財団法人日本交通 公社,2013:124)。
表 2.6 自治体の観光財源の体系
区分 種類 具体例
自 主財 源
地方税
法定税 入湯税(市町村税)
法定外税
法定外目的税:宿泊税(東京都)、乗鞍環境保全税(岐阜県)、遊 漁税(富士河口湖町)等
法定外普通税:別荘等所有税(熱海市)、歴史と文化の環境税(太 宰府市)
協力金 寄付金
協力金 花見山協力金(福島市)、おわら風の盆行事運営協力金(富山市)
等
寄付金 ふるさと納税制度等
その他 エコファンド、宝くじ事業収益金等
事業収入
利用料 使用料 等
観光施設等入場料、衛生施設利用料(トイレ・シャワー等)、温泉 施設利用料、空港施設利用料、駐車場利用料、不動産事業、有料 道路通行料、旅行業収入、製造業、卸小売業、国等の事業請負等
依 存財 源
地方債 過疎対策事業費(産業振興施設、ソフト事業)、辺地債等
国 等 の 補
助事業 観光振興費(観光庁)、離島振興費(国土交通省)、文化振興費(文化庁)等
出所:財団法人日本交通公社(2013:123)
(1)観光まちづくり推進組織の財源の実態
財源の実態として、日本版 DMO 法人ではどのような状態か。第4章で紹介する別府ハ ットウ・オンパクを含め、8の観光まちづくり推進組織の財源を表 2.7に整理した。別 府ハットウ・オンパク以外の組織は、観光庁 WEBサイトで日本版DMO形成・確立計画が 公開されている事例である。それに加え、他のさまざまな文献で取り上げられている事 例であったため、情報の補完が可能であると考え、ここで取り上げた。整理にあたり、
各法人の日本版DMO形成・確立計画を閲覧し、2016年度の数値を抜き出した。ただし、
株式会社南信州観光公社・一般社団法人長崎国際観光コンベンション協会・公益財団法 人佐世保観光コンベンション協会は、2016年度の数値が実績であるか見通しであるか、
それぞれの日本版 DMO 形成・確立計画に明確に示されていなかった。また、特定非営利 活動法人別府ハットウ・オンパクは2016年度数値が不明であるため、鶴田・野上(2008:
19)で公開されていた2006年の収入実績を参考数値として掲載した。
程度の差こそあれ、基本的には国・都道府県・市町村からの補助、すなわち依存財源 が重要な位置づけにある。そういった中で、株式会社南信州観光公社は収入の100%が収 益事業である(表 2.7)。南信州観光公社は設立以来、自治体からの出資を受けてはい るが、日常的な業務に対する補助金は受けておらず、自主事業の展開により自主財源を 獲得して事業を継続している(大社,2013:112;高橋,2017:110)。これは他の観光ま ちづくり推進組織にとって参考になるだろう。
補助金は恒久的にあるものではなく、国や都道府県・市区町村の政策転換あるいは財 政の悪化により、打ち切られる場合がある。したがって依存財源に頼り切っていると、
行政の状況変化によっては観光まちづくり推進組織の事業継続が困難になる。持続性確 保のため、観光まちづくり推進組織は自主財源比率を高めていく必要があろう。
ただし、観光まちづくりは観光振興による収益を求めるのみではなく、住民の暮らし のための改善や地域愛着の増進を図る公的な取り組みでもある。すなわち、取り組む事 業は採算性が低いものも含まれる。そのため観光まちづくり推進組織は、自主財源比率 を高める努力はしつつも、一定の公的な支援を受けることは必要であると考えられ、安 定的な組織運営のために自主財源・依存財源ともに拡大していくことが望まれる。では それぞれの財源として、具体的にどのようなものが考えられるだろうか。
表 2.7 観光まちづくり推進組織の総収入と内訳
観光まちづくり推進組織 総収入 収入内訳
特定非営利活動法人阿寒観 光協会まちづくり推進機構
(2016年度実績)
¥210,388,795
収益事業:72,092,947円(指定管理15,364,000円含む)
会費:29,719,354円 寄付金:2,026,586円 その他収益:4,579,533円
国・市からの補助金:10,197,0375円
一般社団法人八ヶ岳ツーリ ズムマネジメント
(2016年度実績)
¥99,992,173
国からの補助:35,850,891円
地方公共団体からの指定管理:5,258,101円 市町村からの事業負担金:42,305,020円 民間からの事業負担金:11,143,607円
ブランド事業事務費負担金(5%の手数料):3,318,870円 会費:195,000円
収益事業:1,363,997円 株式会社南信州観光公社
(2016年度)※1 ¥185,000,000 収益事業:185,000,000円
一般社団法人信州いいやま 観光局
(2016年度見通し)
¥112,679,000
飯山市からの補助金:4,400,000円 飯山市からの指定管理:41,000,000円 飯山市からの事業委託:11,380,000円 広域観光連携事業委託:22,500,000円 収益事業:33,399,000円
一般社団法人長崎国際観光 コンベンション協会
(2016年度)※1
¥565,645,401
国からの補助:14,300,000円 県からの補助:13,212,500円 市からの補助金:104,680,058円 民間企業基金:200,000円 受託:54,570,419円 収益事業:355,131,469円 会費:18,610,000円 その他収入:4,940,955円 一般社団法人由布市まちづ
くり観光局
(2016年度見通し)
¥41,807,000
市からの補助金:20,175,000円 市からの委託費:4,430,000円 会費:70,000円
収益事業:17,132,000円
公益財団法人佐世保観光コ ンベンション協会
(2016年度)※1
¥513,550,066
会費:3,975,001円 収益:331,324,849円
市町村からの補助金等:127,037,039円 都道府県からの補助金:16,439,000円 国からの補助金:29,179,573円 その他:7,762,768円
特定非営利活動法人別府ハ ットウ・オンパク
(参考:2006年実績)※2
¥127,100,000
出版事業(温泉本6万部の発行):8,000,000円 指定管理(市営温泉管理):111,000,000円
業務委託(地域通貨サポートセンター):2,300,000円 情報通信(多国籍語版別府ナビ事業):3,000,000円 情報通信(生活衛生営業活動センターWEB):1,000,000円 業務委託(オーダーメイドオンパク):1,800,000円
※1:各法人の日本版DMO形成・確立計画を閲覧し、2016年度の実績もしくは見通しを抜き出した。
この3法人は2016年度の数値が実績か見通しか、明確に示されていなかった。
※2:2016年度数値が不明であるため、鶴田・野上(2008:19)で公開されていた2006年の実績を 参考数値として掲載した。
出所:特定非営利活動法人別府ハットウ・オンパクを除き、各法人の日本版DMO法人形成・確立計 画をもとに作成(特定非営利活動法人別府ハットウ・オンパクは※2の通り)
(2)観光まちづくり推進組織の財源確保の方向性
自主財源は、表 2.6の協力金・寄付金や事業収入といったものが考えられる。日本 版 DMO 法人は観光まちづくりのかじ取り役として、観光振興に向けた取り組み方針を策 定しており、観光者への体験型プログラム提供や地域産品の開発・販売など、収益事業 の拡大を計画している。その成果がどのように上がるか、今後注目していく必要がある。
このほか自主財源として高橋(2017:168)は、入湯税の超過課税や法定外目的税の宿 泊税、TID(Tourism Improvement District)を挙げている。これらは基本的に自治体が 徴収対象から徴収する仕組みであり、観光まちづくり推進組織から見れば自治体から提 供される依存財源である。そのため本研究では、これらを依存財源として捉えて以下に 整理する。
依存財源は、表 2.6の地方税(法定税・法定外目的税)や、国・都道府県・市区町 村の補助事業、TIDが考えられる。補助事業については2.3でさまざまな事業を紹介し たため、ここでは地方税と TID について整理する。温泉地が多い日本においては、法定 税の入湯税に関し、超過課税の議論がある。梅川・吉澤・福永(2015:91-100)は、入 湯税の超過課税分を新たな財源として観光まちづくりに活用できる仕組みづくりについ て、可能性と課題を整理している。入湯税は目的税であり、①環境衛生施設の整備、② 鉱泉源の保護管理施設の整備、③消防施設その他消防活動に必要な施設の整備、④観光 の振興(観光施設の整備を含む)に要する費用に充てられる。入湯税の標準税率は 150 円であり多くの地域がこれを適用しているが、高橋(2017:169)によれば北海道釧路市
(250円)・三重県桑名市(210円)・岡山県美作市(200円)が150円を超える税額を設 定している75。梅川・吉澤・福永(2015:99)は各事例の分析を通して、入湯税の超過課 税導入にあたっては、目的の明確化・使途の明確化の必要性を挙げている。具体的には、
安定的な観光まちづくりのために税収はできるかぎり「観光の振興」に多く配分される こと、また観光者の理解を得るために使途を明確にすることが指摘されている。
入湯税の他に、昨今議論がなされるようになってきた法定外目的税の宿泊税がある。
その趣旨は、受益者である宿泊者から宿泊施設が税を徴収し、宿泊者にとってもメリッ トとなる特定の目的に支出することで、宿泊税対象地域が整備されて魅力が向上する、
75 それぞれの事例の詳細は、高橋(2017:170-173)や梅川・吉澤・福永(2015:94-96)を参照されたい。