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観光地におけるリーダーに関する研究

第3章 既往研究のレビューとリサーチクエスチョン

3.1 観光地におけるリーダーに関する研究

観光地におけるリーダーに関する研究について、安村(2006)以外は国立情報学研究 所の論文データベースCiNiiを用いて既往研究を探索した。最初の探索は2015年3月15 日、CiNiiで「観光」「リーダー」をフリーワード検索(63編抽出)した。学術的信頼性 を確保するためフルペーパーの学術論文に絞った。具体的には、論文掲載元を日本学術 会議協力学術研究団体に登録されている団体の発行雑誌、あるいは大学紀要に限定した。

絞り込まれた 8 編を確認し、観光地におけるリーダーに関して考察のある7 編を選択し た。その後の公表文献を確認するため、2016年2月18日にCiNiiで「観光」「リーダー」

をフリーワード検索した。その結果76編が抽出されたが、前述の絞り込み作業を行った ところ前回選択した7編と同じ論文が残った。さらに2016年12月8日、CiNiiよりも幅 広く論文探索が可能なGoogle Scholarで「観光」「リーダー」を検索した。その結果4,240

件が検索されたため、本研究のテーマにより近づけることを意図して「観光まちづくり」

「リーダー」で再度検索した。74件が検索され、これに前述の絞り込み作業を行ったと ころ、前述の 7 編と重複する3 編が残った。本研究ではこれらを日本における既往研究 として取り上げた。

岩松・岩井(2001:307-314)は、京都府美山町の伝統的景観を保存し、観光的に利用 しようと活動する住民リーダーを取り上げ、その属性や個人史を分析し、集落活性化と 住民リーダーとの関係を探った。住民リーダーの属性は帰郷者・定年退職者・大学卒業 者・公務員(学校教員)という傾向が見られ、彼らは集落外の人々との交流や他地域視 察の経験によって、集落に対する客観的で広い視野を培った。

安村(2006:93)は、観光まちづくりの実践には個性的なリーダーたちの精力的な活 動が深く関わっていると述べ、彼らの“比較の視点”が新時代の動向を反映する観光ま ちづくりの考え方を構成したと見なしている。ここでいう比較とは、大都市にはない地 域に根ざす“まち”の魅力で観光開発をするまちづくりに取り組むため、高度近代化を 地方と都会で比較することである。安村(2006:94-95)によれば、ほとんどの観光まち づくりリーダーは地方の町村で生まれ育ち、青年期を大都市で暮らした後に故郷に戻る という経歴を持っているため、比較の視点を持っている。安村(2006:104)は、観光ま ちづくりリーダーには自らの意志と行為で環境を創造しようとする考え方があり、それ にはリーダーのパーソナリティや経験が決定的に反映していると述べている。しかしこ の研究では、どのようなパーソナリティや経験が、いかにこのプロセスに反映している のか、明らかになっていない。

林(2007:635-659)は遠隔地農村を対象に、観光農業を牽引した地域リーダーの役割 に焦点をあて、観光農業の発展要因解明を行った。この中で林(2007:635-659)は、リ ーダーの役割として、観光農業の牽引役となること、農家の活動と町の観光事業をつな ぐこと、を挙げている。

鈴木・鈴木・鈴木(2008:50-68)は、広島県福山市鞆町における港湾架橋問題をめぐ る住民運動の過程を分析した。特に、架橋反対派のリーダー2名と推進派のリーダー1名 の問題への関わり方を分析し、社会関係の特質の違いによって問題への関わり方が異な ることを示した。具体的には、架橋反対派のリーダー1名と推進派のリーダーの活動は地

縁をベースに築き上げられたものを尊重する態度によって規定されているのに対し、架 橋反対派のもう 1 名のリーダーの活動は地縁や血縁に縛られることなく外部へと関係を 広げていく態度によって規定されていた。

山口(2008:101-117)は、観光振興に力を注いでいるリーダーとして、山形県銀山温 泉の旅館「藤屋」の若女将である藤ジニー氏と北海道ニセコ地域の NAC ニセコアドベン チャーセンター代表取締役のロス・フィンドレー氏にインタビューを行い、彼らの観光 振興の取り組みを整理した。この中で、2 名のリーダーに共通することとして、「自分の 住む地域に対する誇りや情熱をもち、地域の資源が何であるかをまっさきに理解し、活 用している」ことを挙げている。

捧(2011:101-116)は、観光地域づくりにおけるリーダーシップ機能の担い手にとっ て、「信頼」と「戦略(性)」が最も重要な要件であると述べている。しかし、この主張 は実証的に導いたものではなく、既往研究から抽出した要件であり、検証が必要である。

また捧(2011:114)は、現実の観光地づくりにおいてリーダーは、リーダーシップ機能 の担い手として育っていく中で「信頼」や「戦略(性)」を習得していくようにみえると 主張し、観光地づくり過程においてリーダーがいかにこれらの要件を身につけていった か、検証の必要性を指摘している。

竹田・小長谷(2010:89-92)や小長谷・竹田(2011:27-37)は、ニューツーリズム や着地型観光、サステイナブル・ツーリズムを次世代型観光とし、そこでは地元・住民 も主体となるため、新しい市民型のリーダーが求められると述べている。そして、リー ダーの共通点として次の 4 つを紹介している。①経済感覚を持ち、観光戦略=経済活動 によるまちおこし、事業採算性が考えられること、②優秀な観光マーケティング力・マ ネジメント力、③住民主導型であり、行政は応援型タイプ、ネットワーク力有り、④イ ベントによる広報活動をもちいたまちのにぎわい、地域活性化を目指す、などの特徴で ある。

3.1.2 国外における既往研究

観光地におけるリーダーあるいはリーダーシップに関する研究について、日本以外の 研究状況はどうか。Blackman, Foster, Hyvonen, Kuilboer and Moscardo(2004:66)

は、リーダーシップは多くの観光開発事例において主要なテーマとして挙げられるが、

Hall(2000)やGunn and Var(2000)あるいはWorld Tourism Organization(1994)と いった観光計画概説書においては無視されてきた要素であると述べ、観光におけるリー ダーシップや観光リーダーの発掘・支援プロセスはほとんど取り上げられてこなかった 分野であるとしている。そういった中で、Long and Nuckolls(1994)は数少ない観光に おけるリーダーシップ研究である。この中で彼らは、観光開発で成功するためには観光 産業について多少知識があり、情熱的でエネルギーに満ち溢れ、他者を動機付ける能力 を持つ人物が少なくとも1人必要であるとした(Long and Nuckolls,1994:22)。

このほか、観光研究あるいはホスピタリティマネジメント研究の分野において、ホテ ルやクルーズなどの観光産業におけるリーダーシップ研究が行われている。例えば Tracey and Hinkin(1996)は、米国の宿泊施設のロワー・ミドルマネジャーを調査対象 に彼らの直属の上司の変革型リーダーシップの影響を検証した。その結果、変革型リー ダーシップはリーダーとリーダーの効果に対する従業員満足に直接的な影響を与え、ま たコミュニケーションのしやすさ・ミッションの明確さ・役割の明確さを通して、これ らの変数に間接的な影響を与えることが明らかになった(Tracey and Hinkin,1996:

172-174)。さらにオーストラリアの高級ホテルを対象に、Patiar and Mia(2009)は財 務業績・非財務業績・市場競争と変革型リーダーシップスタイルの関係について検討し た。その結果、変革型リーダーシップスタイルは非財務業績と正の相関を示し、これを 通じて財務業績とも相関したが、市場競争と財務・非財務業績との間に相関関係は見ら れなかった(Patiar and Mia,2009:259-260)。Testa(2002)はクルーズ産業において、

文化の違いがリーダーシップ評価のプロセスに影響し、部下のリーダーへの対応に影響 を与えるかを検討した。その結果、文化が不一致の集団よりも文化が一致している集団 の従業員は、リーダーシップスタイルの配慮行動においてリーダーを高く評価し、リー ダーに高い信頼と満足感を持つことが明らかになった(Testa,2002:436-437)。

また、観光産業におけるリーダーシップ開発のあり方を研究するものもある。Weber and

Ladkin(2010)は、香港の観光産業リーダー10名にインタビューを行い、リーダーはど

のようにしてスキルを学んだのか、有能なリーダーを育成するために必要なことは何か を検討した。その結果、次のことが明らかになった(Weber and Ladkin,2010:424)。

第 1 に、効果的なリーダーになるには「経験から学ぶこと」と「他者から学ぶこと」が 重要である。第 2 に、リーダーはコミュニケーション力や、間違いや弱点を認識してそ れを認める力を持ち、寛容かつ果敢であることが必要不可欠であり、それによってチー ムから尊敬と支援を得る。第 3 に、特定の特性やスキルに関係なく、リーダーは観光産 業に熱心で、顧客に質の高いサービスを提供しようとする欲求を持つことが必須である。

最後に、効果的なリーダーシップ獲得に特定の手法は存在せず、リーダーシップは時間 をかけて育成され、さまざまな経験や人々から学ぶものである。情熱的な人物に経験か ら学ぶ機会を与えることが、おそらく将来のリーダーを育てる方法である。

以上の通り、観光産業におけるリーダーあるいはリーダーシップに関する研究は蓄積 されてきている。しかし、観光地づくりにおけるリーダーあるいはリーダーシップに関 する研究はほとんど見当たらない。そこで、世界各国の学術論文をオンラインで検索す ることができる EBSCOhost Hospitality & Tourism Complete を用いて、「leader」と

「destination」、「leader」と「community」、「leader」と「tourist areas」を学術専門 誌およびArticleに絞って探索をさらに行った83。その結果、「leader」と「destination」

で69編、「leader」と「community」で169編、「leader」と「tourist areas」で1編が 検索された。検索された論文の中には、リーダーが人ではなく地域組織を示しているも の(例えばSilvana,2015)、観光開発の事例研究においてインタビュイーの一部が地域 のリーダーであるもの(Geoffrey and Jones,2007)、また前述のような観光産業リーダ ーについてのもの(Weber and Ladkin,2010)が見られたが、観光地づくりにおけるリ ーダーとは直接的に関係のない研究であった。

3.1.3 まちづくりにおける人材に関する既往研究

関連研究を渉猟するという観点から、日本を中心にまちづくりにおける人材に関する 既往研究も探索した。その結果、次のようなものが挙げられる。

松村・尾田(2012)は行政職員へアンケート調査を行い、彼らのパーソナルネットワ ークと地域社会で多様な人々とまちづくりを行っていくために必要な基礎力の関連性を 探った。そして、まちづくり基礎力向上のために、勤務地内や勤務地外の多様な人々と

83 最終検索日は2018315日であり、AND検索(語順に関係なく、複数の条件をいずれも満たすもの)で 検索した。