第5章 オンパクリーダーの発達
5.3 考察
5.3.1 リーダーの発達プロセスの検討
4名のリーダーの言語データ分析結果を総括すると、2パターンの発達プロセスが見出 された。民間から生まれたリーダーの発達プロセスと、行政から生まれたリーダーの発 達プロセスである。H氏・I氏・J氏が民間から生まれたリーダーであり、彼らの発達プ ロセスは次の4段階であった。
① 観光まちづくりの想い萌芽:大学入学(編入)までを生まれた地域ないしその周 辺地域で過ごし、その地域を何とかしたいという想いが芽生えた。
② 地域外経験:大学・大学院生活を生まれ育った地域外で経験した。大学・大学院 や最初の就職先でプランニングやファシリテーションのスキルを身につけ、生ま れ育った地域にUターンした。
③ 観光まちづくり試行錯誤:生まれ育った地域の状況にショックを受け、地域を何 とかしたいという想いを強くし、まちを変える取り組みに着手する。その中で地 域の魅力を認識し、プランニングスキルや周囲を巻き込むスキルを活かして取り 組みを積み重ねていく。同時にリーダーシップスキルや実行力が実践的に磨かれ ていった。
④ リーダーとして観光まちづくり実践を継続:取り組みをまとめてオンパクを実行 し、地域住民の意識と行動に変化が生まれてきたことを実感する。次のステップ として、それまでの取り組みを継続するための収益を上げる仕組みづくりに取り 組む。
K氏が行政から生まれたリーダーであり、その発達プロセスは次の3段階であった。
① 観光まちづくり試行錯誤:行政職員としてオンパクなどの取り組みに従事する。
その中で地域の魅力を認識し、周囲を巻き込むスキルを活かして取り組みを積み 重ねていく。同時にリーダーシップスキルや実行力が実践的に磨かれていった。
② 観光まちづくりの想い醸成:観光まちづくり活動を通して地域住民と接している うちに、地域への想いが醸成されていった。
③ 継続して活動支援:異動によって職場での立場が変わり、行政職員としてオンパ
クのような観光まちづくりに関わることが難しくなった。また、同じことの繰り 返しにならないようリーダーは変わっていくべきという考えから、リーダーの役 職から外れて支援者の立場になった。
ここで挙げたオンパクリーダーと変革型リーダーシップの関係についてまとめる。第 4章の別府ハットウ・オンパクリーダーと同様、本章のリーダーも「鼓舞する動機づけ」
や「個別的配慮」といった変革型リーダーシップを持ち合わせていると考えられる。特 に、別府ハットウ・オンパクリーダーと比較して特徴的なのは、変革型リーダーシップ の「個別的配慮」と重なるファシリテーションスキルを早期に身に着けていたことであ る。堀(2004:38-39)によればファシリテーションは 1960 年代の米国において、グル ープ体験によって学習を促す「エンカウンターグループ」やコミュニティの問題を話し 合う技法として体系化され、日本には21世紀に入った頃からビジネス界で注目を集める ようになった。別府ハットウ・オンパクリーダーであるA氏・B氏のまちづくり萌芽期は ともに1990年代であり、ファシリテーションという概念は日本にはまだ入ってきていな い、あるいは定着していなかった。一方でH氏・I氏・J氏の学生時代や最初の就職をす る頃は、ファシリテーションという概念が日本に定着し始めており、彼らはそのスキル を観光まちづくりに関わる前、あるいは観光まちづくりの活動初期に身に着けた。そし て彼らは、そのスキルを駆使してさまざまな活動をリードしてきた。多様な人々を巻き 込んで活動を行う観光まちづくりにおいては、第4章に続いてやはり、「個別的配慮」の 重要性を挙げることができる。
5.3.2 発達プロセスに関連する要因
4名のリーダーの発達プロセスにはいくつか要因が関係していると考えられ、前述の通 り本章では、「生まれ育った地域の外での経験」「ショック」「ロールモデル」の3点を挙 げた。これらは、ビジネス・リーダー発達の既往研究とどのような関係になるだろうか。
4.4でも述べた通り、ビジネス・リーダー発達の既往研究を総括すると、リーダーの 発達には、「失敗や逆境といった修羅場」と「他の人とのつながり」の2点が大きく影響 していると考えられる。これに関して本章の調査対象であったリーダーたちの発達プロ セスはどうか。H氏やJ氏がUターンして受けたショックは、彼らにとって「失敗や逆境
といった修羅場」であったと考えられる。H氏やJ氏はこの逆境から逃げずに対処し、こ れを乗り越えることによって地域への想いを強くすることや、リーダーシップスキルを 高めていった。また、H氏・I氏・K氏にはロールモデルがいたと考えられ、この「他の 人とのつながり」がリーダーたちの思考や具体的な活動手法に影響を与えた。「他の人と のつながり」という観点では、手法はさまざまであるがリーダーたちは皆、周囲を巻き 込んで活動を行った。周囲を巻き込むために、形を見せて説得することやファシリテー ションの技術を用いることなど工夫した経験は、リーダーたちの発達を促したと推測で きる。以上を踏まえると、ビジネス・リーダー発達の既往研究で挙げられた発達要因は、
本章の調査対象リーダーたちの発達プロセスにおいても確認された。
また、日本の観光地におけるリーダーについての既往研究である岩松・岩井(2001:
307-314)や安村(2006:94-95)によれば、観光地におけるリーダーは地域外との交流 や視察あるいは大都市で暮らした経験を通じて客観的かつ広い視野を培い、観光まちづ くりに活かしている。本章の調査対象リーダーのうち H氏・I氏・J 氏は大都市(東京、
横浜、福岡)で暮らした経験を持ち、K氏も生まれ育った地域の外で暮らした経験を持つ。
また彼らは、ジャパン・オンパクの研修やその他会合において生まれ育った地域以外と の交流を積極的に行っている。本章も、岩松・岩井(2001:307-314)や安村(2006:94-95)
の主張を支持する結果となった。
これまで、観光まちづくりあるいは観光と関連ある地域づくりに関する事例研究にお いてリーダーの重要性は指摘され、それらの研究の中でリーダーの役割や特徴・求めら れることが論じられてきた。これらの中には岩松・岩井(2001)や鈴木・鈴木・鈴木(2008)
のように、リーダーの行動と地域の動きをプロセスで捉えるものもあった。しかし、リ ーダーの発達に焦点を当て、彼らの人生全体を分析し、これまでの事例研究で指摘され たような事柄が観測されるのか科学的に検証した研究は見当たらない。これに対し本章 の研究では、質的分析手法SCATを用いて、リーダーの発達の実態を照らし出すことに取 り組んだ。それによって探索的検討による知見ではあるが、科学的に導き出した発達プ ロセスとそれに関連する要因を示した。ここで示した知見を第6章・第7章において、
量的アプローチを用いて検証していく。