• 検索結果がありません。

観光地づくりとまちづくりの融合と課題

第2章 日本の観光政策と観光地づくり

2.3 日本の観光地づくり

2.3.4 観光地づくりとまちづくりの融合と課題

これまで観光地づくりに関する日本の観光政策を見てきたが、観光庁の観光政策にも 度々登場する通り、2000年頃から「観光まちづくり」という概念が注目されるようにな ってきた。ここでは、この概念が生まれてきた背景を見ながら「観光まちづくり」に対 する理解を進め、あわせて抱えている課題が何かを述べる。

第二次世界大戦後の大量輸送を前提とした団体・慰安といったマス・ツーリズムから、

1980 年代後半からは個人の趣味嗜好が強く反映したオルタナティブ・ツーリズムが顕在 化し始め、観光スタイルが団体から個人へ、物見遊山から体験へと変化している(十代 田,2011a:62-64)。日本においても観光客が関心を持つのは地域の自然や景観、地域の 生活・習慣・行事などの文化、地域住民との交流といった地域固有のモノ・コトになっ てきた(安村,2006:60-63、86-92;十代田,2010:10-13;森重,2014:14)。十代田

(2011a:65)は、全国から人を呼べるようなものはなくとも、固有の文化や生活といっ た地域資源を観光資源化することで、それぞれの地域が個性的な観光地となることを「観 光化」とした。そして、こうした観光化が、中心市街地の疲弊で苦しむ地方中小都市、

過疎化・高齢化に悩む農山漁村での新しい生業を産み出し、地域の活性化に一役買える のではないかと期待されている、と述べている(十代田,2011a:65)。

以上は観光からまちづくりへの接近であるが、まちづくりから観光にはどのように接 近してきたのだろうか。西村(2009:13)は、中心市街地の空洞化や人口の減少、消費 者の消費行動の変化、地方自治体の財政の悪化などから、地域経済がいずこも非常に困 難な状況にあると指摘している。そして、まちづくりが地域経済へも貢献することがで きるとするならば、地域の自慢に光をあてることからはじまる観光は、その大きな手が かりとなり得ると述べている。この一方で、経済的な面だけでなく、観光の視点でまち を見ることによって地域住民のまちへの愛着が増すことを挙げ、それが「住んで良かっ

70 北海道大学Webサイト、「デスティネーション・マネージャー育成プログラム」ページ

(https://www.imc.hokudai.ac.jp/imcts/destination_manager/、最終閲覧2019-3-3)

た」と言えるまちをつくることにつながると西村(2009:15)は述べている。すなわち、

地域経済を潤すことや、地域への愛着を増進して地域をさらに前進させることに役立て るため、まちづくりの動きは観光を巻き込んでいったと考えられる。

この状況を背景に日本の各地では、観光客集客のための改善を図る「観光地づくり」

と、住民の暮らしのための改善や地域愛着の増進を図る「まちづくり」が密接に関連し てきている。この流れを十代田(2011b:92)は図 2.3の通り示している。日本の観光 地づくりは単に観光客集客を追い求めるだけではなく、当該地域の住民の視座も意識す ることが大きな課題となっていると考えられる。今後は、観光地づくりとまちづくりを 融合した「観光まちづくり」という考え方を、いかにして実践へとつなげるかが課題で ある。

「観光まちづくり」とはどのような意味か、についてまとめる。第1章の研究の背景 では、「観光まちづくり」を「観光の視点を取り入れたまちづくり」(十代田,2010:10)

と述べた。これを言い換えれば、そもそもの基軸は「まちづくり」にあると捉えること もできる。しかし、「観光まちづくり」概念が生まれた経緯をあらためて見てみると、「観 光地づくり」と「まちづくり」のどちらが基軸かに関わらず、両方を融合したものが「観 光まちづくり」である。したがって「観光まちづくり」とは、「観光客集客のための改善

図 2.3 観光地づくりとまちづくりの接近 出所:十代田(2011b:92)より作成

を図る“観光地づくり”と、住民の暮らしのための改善や地域愛着の増進を図る“まち づくり”を、融合するという考え方、およびその考え方を実現しようとする活動」と本 研究では定義する。この定義であれば、「観光地づくり」か「まちづくり」か、どちらが 基軸であっても問題はない。両方の観点を融合させることが重要であり、それぞれの地 域の実情に合わせて、活動の進め方は検討されることが望ましい。

なお、「観光まちづくり」と、前項で述べた日本版 DMO はどのような関係であろうか。

日本版DMOとは、「地域の“稼ぐ力”を引き出すとともに地域への誇りと愛着を醸成する

“観光地経営”の視点に立った観光地域づくりの舵取り役(以下略)」のことである71

「地域の“稼ぐ力”を引き出す」は、観光客集客のための改善を図る「観光地づくり」

と対応している。一方で、「地域への誇りと愛着を醸成する」は、住民の暮らしのための 改善や地域愛着の増進を図る「まちづくり」と対応している。すなわち、日本版 DMO の

「“観光地経営”の視点に立った観光地域づくり」とは、換言すれば「観光まちづくり」

のことであり、日本版DMOは「観光まちづくり」の舵取り役である。

以上の通り、ここでは日本の地域を取り巻く状況変化を整理し、そこから「観光まち づくり」という概念が生まれてきた経緯と、その実践をいかに行うかが課題であること を述べた。では「観光まちづくり」を推進するにあたって、その推進組織が抱えている 課題はどのようなものであろうか。次節で整理する。

71 国土交通省・観光庁WEBサイト、「日本版DMOとは?」ページ

(http://www.mlit.go.jp/kankocho/page04_000048.html、最終閲覧2018-1-30)