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第2章 日本の観光政策と観光地づくり

2.4 観光まちづくり推進組織が抱えている課題

2.4.2 人材

日本版 DMO で言及されている通り、観光まちづくりはさまざまな地域の関係者を巻き 込み、その有機的な連携によって取り組みを実行していく必要がある。そのかじ取り役 が地域において求められており、地域や組織のかじを取る「人材」に関しては、観光ま ちづくりにおいて最も重要な課題であると言える。したがってここでは、かじ取り役と しての観光まちづくりの担い手についてまず整理を行い、その中でリーダーはどのよう な存在なのか、リーダーに関わる研究課題は何かを明らかにする。

(1)観光まちづくりの担い手

観光とまちづくりが接近して観光まちづくりが取り組まれていく中で、その担い手は どのように生まれてくるだろうか。大社(2013:25)は、観光振興にかかわる関係者の 変化を図 2.4で表現している。大社(2013:24-25)によれば近年、来訪者増加を目指 してまちそのものの価値を高めるため、宿泊・飲食・観光施設などの観光関連事業者が まちづくりに取り組むようになってきた。また観光以外のまちづくり関係者は、来訪者 に地域の魅力を伝えることに価値を見出し、集客交流事業に参画するようになった。さ らに、観光やまちづくりにこれまで関係のなかった一次産業従事者や一般市民も、集客 交流事業やまちづくりに参画するようになってきた。すなわち近年、観光振興を主導す る観光関連事業者のみならず、他産業も含めた複合的な人や組織がまちづくりに参画す るようになった。このような関係者の変化を経て観光まちづくりが取り組まれている。

図 2.4 観光振興にかかわる関係者の変化 出所:大社(2013:25)より作成

これらの関係者はどのような組織となっていくのか。安村(2006:128-129)は観光ま ちづくりが組織化する経緯を、次のように整理している。まず観光まちづくりの構想を もつリーダーの呼びかけで少数の有志が集まり、その集団が観光まちづくりの事業に着 手する。やがて、賛同する住民が事業に参加し、次第にまち全体を巻き込む社会運動に なり、観光まちづくりの実践に関わる関係者が組織化する。安村(2006:129)はこの中 で、観光まちづくりの目標に向けて関係者をまとめるために、「中核となる組織」の存在 が不可欠であるとしている(図 2.5)。この中核組織が日本版DMO法人などの観光まち づくり推進組織であり、住民の総意をできるだけ観光まちづくりに反映し、住民の多く の支持が得られる組織であることが必要である。

具体的に、観光まちづくり推進組織はどのような特徴があるのか。大社(2013:147-148)

は、従来の観光協会と観光まちづくり推進組織を比較し、観光まちづくり推進組織の特 徴を明らかにしている(表 2.8)。まず構成員は、前述の通り観光関連事業者にとどま らず、幅広い人や組織で構成されている。次に自治体との関係については、観光協会は 市町村からの補助金で運営されていることが多いために、行政の補完的な役割を担って いるケースが多い。その一方で、観光まちづくり推進組織は自ら活動資金を稼ぎ出すこ とで自律性を確保し、行政と対等なパートナーシップ型の関係を築いている。

図 2.5 観光まちづくりの組織化 出所:安村(2006:129)より作成

「誰のために活動する組織なのか」という観点では、既存の観光協会は運営資金を行 政に依存していることから公共性が重視され、かつ地域の内側に向けた配慮が常につき まとう。その一方で観光まちづくり推進組織は顧客志向が高いため、来訪者の方に向い た活動を優先する。主な事業内容は、観光協会が行政の補完的役割としてイベント運営 や当該行政区域の広報・観光案内といった限定的な範囲であるのに対し、観光まちづく り推進組織はランドオペレーター事業など多角的な事業を行っている。

表 2.8 従来の観光協会と観光まちづくり推進組織の特徴

従来の観光協会 観光まちづくり推進組織 機関決定を行う構成員 観光関連事業者 多様な事業者と地域住民 自治体との関係 行政補完型 パートナーシップ型 サービスの志向 構成員/来訪者/地域住民 顧客志向

事業活動の範囲 行政エリア内 顧客ニーズに対応したエリア 主な事業内容 イベント運営/広報/観光案内 ランドオペレーター事業ほか多

角的事業

法人格 一般社団~公益法人 株式会社をはじめとする多様な 法人格

出所:大社(2013:148)より作成

観光まちづくり推進組織には、どのような人材が必要だろうか。日本版 DMO を形成・

確立していく際の観光庁の「手引き書」(第2版)82によると、表 2.9のような役割を 担う人材が日本版DMO、すなわち観光まちづくり推進組織には必要とされている。

表 2.9 日本版DMOに求められる人材

役割 求められる知識・能力

トップ 人材

組 織 を 運 営 し、経営責任 を負う。

基本的な資質:地域に対する思いや誇りを持っていること

観光地域づくりに取り組む志を持ち、関係者との認識共有及び合意形成 を行う「リーダーシップ系統の能力」

加えて「マネジメント系統の能力」と「マーケティング系統の能力」

専門人材 経 営 戦 略 を 立て、効果的 に 事 業 を 執 行する。

各種データ等の継続的な収集・分析、収集したデータに基づく戦略の策定

マーケティング

目的税の導入検討や補助金等による財源確保

顧客管理

web・メディア等を活用した効果的なプロモーション

観光資源の発掘と着地型旅行商品づくり等 スタッフ

人材

個 々 の 事 業 を 着 実 に 実 施する。

各分野に関する基礎的な知識

観光という分野の特性である現場を大切にすること

※必ずしも高度な知識を備えておく必要はない。

出所:内閣府まち・ひと・しごと創生本部事務局、国土交通省、観光庁(2017:107-111)より作成

82 国土交通省・観光庁WEBサイト、「日本版DMO形成・確立に係る手引きを改訂しました!」ページ

(http://www.mlit.go.jp/kankocho/topics04_000086.html、最終閲覧2018-2-21)

(2)観光まちづくりにおけるリーダー

観光まちづくりの担い手の中で、まず求められる人材はリーダーであると考えられる。

安村(2006:128-129)は、リーダーの構想が観光まちづくりのはじまりにあることを主 張しており、リーダーの重要性が示唆される。また西村(2009:17-18)は、観光まちづ くりにおいて観光客数が安定もしくは増加しているところの共通点の1つとして、「リー ダーたるべき人材」の存在を挙げている。さらに山田(2009:163)は、観光まちづくり には必ず周りの人を引っ張っていくキーパーソンがいると述べている。「周りの人を引っ 張っていくキーパーソン」は、言い換えれば「リーダー」と言える。

社団法人日本観光振興協会(現公益社団法人日本観光振興協会)は、2011年に地域の 観光組織を調査対象として観光まちづくりに関する実態調査を行った。この報告書によ れば、都府県観光協会等 43 組織が観光産業において必要と考える人材は、「観光地全体 の経営・リーダー」が84%と最も多く、次いで「旅行業に関わる専門人材」と「ガイド・

インストラクター」がともに60%である(社団法人日本観光振興協会,2012:72)。また、

市町村観光協会111組織が観光産業において必要と考える人材は、「観光地全体の経営・

リーダー」が 70%と最も多く、次いで「ガイド・インストラクター」が 64%、「旅行業 に関わる専門人材」が 43%と続く(社団法人日本観光振興協会,2012:262-263)。やは り観光まちづくりにおいて、地域全体を牽引するリーダーは最重要の存在であると考え られる。

こういった中で観光庁(2014)は、『“人育て”から始める観光地域づくり―観光地域づ くり人材育成実践ハンドブック2014』(観光庁,2014)を発行し、観光地域づくりの中核 となる人材の育成企画を提案している。このハンドブックは、翌年には2015年版も発行 されている(観光庁,2015)。「観光地域づくりの中核となる人材」とは「観光まちづく りにおけるリーダー」と言い換えることができ、ハンドブックでは以下のような人材の ことであるとしている。

 地域に対して誇りと愛着を感じている人材

 組織・集団をまとめる役割を担うリーダーとしての組織管理、戦略的思 考等の理解や、洞察力、構想力のある人材

 利害関係者の相互理解や信頼関係を構築する対人対応力、対話力がある 人材

 事業に潜む各種の危険性に備えるリスク分析や危険回避策、不測の事態 が発生した際の効果的・効率的な対応がとれる人材

 地域資源を活かした観光地域の形成を促進させる観光戦略プランの策 定、地域づくり、環境の整備等が推進できる人材

(観光庁,2015:18)

そしてハンドブックでは、外部からこのような人材を確保するよりも、地域の人材を 育成することが望ましいと指摘されている。その理由として、中核となる人材には地域 への思いといった志の高さや、地域の人間関係への十分な理解、取り組みの持続性・継 続性などが求められるためとしている(観光庁,2015:18)。またこの人材に求められる 能力として「リーダーシップ系統の能力」「マネジメント系統の能力」「マーケティング 系統の能力」を挙げ、特に、観光地域づくりに取り組む志を持ち、関係者との認識共有 及び合意形成を行う「リーダーシップ系統の能力」は必須としている(観光庁,2015:

21)。「マネジメント系統の能力」「マーケティング系統の能力」は、他の人材と協力して 補完するものとしている。なお、「マネジメント系統の能力」とは、「多様な関係者をと りまとめ、必要な人材や資金を確保し、プロジェクトの立案や進行管理を行う能力」の ことである。「マーケティング系統の能力」とは、「地域の魅力を想像することで、来訪 者の新規獲得と既存顧客維持を行う能力」のことである。

このように、観光まちづくりにおけるリーダーの重要性が多くの文献や観光庁によっ て指摘されている一方で、森重(2011:64)は「リーダーの存在だけを高く評価すると、

優れたリーダーが現れることを待ち続ける“リーダー待望論”に陥ってしまう」と述べ ている。そして、持続的に観光まちづくりを進めていく上でのリスクの大きさを指摘し ている。この他にもリーダーへの過度の依存に警鐘を鳴らすもの(池内・朽木,2007:

174)や、優れたリーダーが出現するかどうかは偶然に左右される(金井,2008:83)と いう指摘もある。大社(2013:152-153)はこれらと同様の指摘を行った上で、個人に依 存していた能力や技術を可能な限り一般化し、組織的に推進するための持続可能な仕組