第5章 オンパクリーダーの発達
5.1 研究の目的・方法
ー」と言い換えることができ、事業機能としてこの人材育成を掲げているオンパクは、
観光まちづくりにおけるリーダーの発達に影響を及ぼしている可能性が高いと考えられ る。したがって、リーダーの発達プロセスとその関連要因を検討するためにオンパクは 格好の研究対象といえる。
本章の研究にあたり、オンパク手法を日本全国に広げているジャパン・オンパク事務 局に協力を要請した。研究趣旨を事務局に説明し、オンパク導入の代表的な地域および リーダーを以下の方針をもとに挙げて頂いた。リーダーシップ研究においてリーダーシ ップ行動は、課題関連と人間関連の2つに大きく分類される(金井,2005;山口,2011)。 課題関連とは、組織や集団における課題達成に向けてその方向を示すことである。人間 関連とは、組織や集団のメンバーに対して緊張を緩和して良好な人間関係を促進・維持 する行動である。これらの特性を持つ人物を今回の調査対象とすることが妥当であると 考えられるが、人間関連については調査前にそのような人物が地域に存在するか否か検 討が困難である。一方、課題関連については、オンパク導入支援を通してさまざまな地 域と交流があるジャパン・オンパク事務局に、そのような行動特性を持つ人物が存在す る地域を紹介してもらうことが可能である。そこでジャパン・オンパク事務局に、オン パク導入地域において課題関連の行動特性、すなわち地域の課題達成に向けて観光まち づくりの戦略を具体的に練り、その戦略を観光事業者や地域住民に示して彼らを牽引す る人物を挙げて頂くよう依頼した。
なお、ジャパン・オンパク事務局より提供頂いたオンパク事業開催リストに掲載され ている事業について、筆者はインターネット検索によって開催状況を調べた。そして、
オンパク推進の経験を鮮明に思い出せるよう、調査依頼時期(2015年3月)からさかの ぼって1年以内にオンパクが実施された38地域におけるリーダーを本研究の対象候補と した。
ジャパン・オンパク事務局には、数の制限を設けずに候補を挙げて頂いた。その結果、
4名のリーダーが候補として挙げられた。なお、オンパク導入地域の多くは多様な主体が プロジェクト推進に関わる委員会方式を採っている。この委員会には実行委員長という 役職リーダーが存在し、当該地域の首長、商店街や旅館組合の組合長、観光協会の会長 等がその任に就いている。プロジェクトをこの役職リーダーがリードする場合もあれば、
それ以外の地域住民がリードする場合もある。さらに、リーダーにはプロデューサーや ディレクターといった分類もある。このようにリーダーには役職レベルや種類が存在し ており、役職レベルや種類ごとの分析の必要性が考えられる。しかし3.1「観光地にお けるリーダーに関する研究」で整理した通り、観光まちづくりにおけるリーダーの発達 は現段階ではほとんど不明であり、第4章に続いて本章においても、役職レベルや種類 を限定せずにその実態についての探索的分析の必要がある。したがって本章では、役職 レベルや分類にこだわらず調査対象を設定し、観光まちづくりにおけるリーダーの発達 プロセスとその関連要因を探索的に明らかにすることを目的とする。
5.1.2 研究の方法
前項で挙がった 4 名に調査依頼を行い、全員から承諾を得てインタビューを行った。
インタビューは1名あたり53~84 分間であった。調査対象者全員にSCAT分析シートを 送付し、事実と異なる点がないか、記載に何かしら問題がないか、の確認をして頂いた。
全調査対象者から実名公表の許可を得たが、研究倫理を考慮して地域名および人物名を 匿名化して表記する(表 5.1)。
表 5.1 調査対象者一覧
調査対象者 活動地域 性別 年齢 インタビュー日 インタビュー当時のおもな役職
H D 男性 30代 2015年4月29日 まちづくりNPO・まちづくり会社代表
D地域オンパク実行委員長
I E 女性 40代 2015年4月6日 まちづくり会社代表取締役社長
Eおよび近隣地域オンパク事務局長
J F 男性 30代 2015年6月3日 まちづくりNPO理事長
F及び近隣地域オンパクプロデューサー
K G 男性 40代 2015年5月27日 G町役場危機管理室長兼情報防災係長
出所:筆者作成
調査方法は半構造化面接による聞き取りで、調査対象者が指定する場所で行った。調 査対象者の承諾を得て、聞き取り内容を録音した。聞き取り内容は、①オンパクにおけ る具体的な役割、②オンパクに関わった経緯、③成長したとご自身が思われる経験、④ プロフィール(性別・年齢・略歴等)である。聞き取り内容①は聞き取り内容②とあわ
せて確認することにより、調査対象者がオンパクあるいは活動してきた地域においてど のような役割を担ってきたのか、基礎的情報として把握することを意図した。聞き取り 内容②は、オンパク実施以前から実施までの調査対象者の関わりを把握することにより、
発達との関連、すなわち図 3.1のリーダー研究モデルにおける特性と媒介変数の関係 の探索を意図した。聞き取り内容③は、図 3.1のリーダー研究モデルの通り、リーダ ーの発達にはさまざまな経験という媒介変数が大きく影響しているのではないかと考え、
設定した。聞き取り内容④は、調査対象者の基礎的情報把握と、聞き取り内容①~③を 略歴と対照させることによって調査対象者の発達をプロセスとして整理するために設定 した。聞き取った内容を逐語録にし、これを分析に用いた。また、調査対象者から提供 された資料も参考にした。
分析には、SCAT(Steps for Coding and Theorization)を用いた。SCATは、教育工学・
教育社会学・臨床心理学・臨床研究・薬学・看護学・スポーツビジネス研究・ヒューマ ンサービス研究などで用いられてきた(大谷,2011:155)。これは、比較的小規模の質 的データの分析にも有効であり、明示的な手続きで分析過程を表す(大谷,2011:155)。 そのため、分析の省察可能性と反証可能性を有する分析法である(大谷,2007:40)。具 体的には、①言語データ(テクスト)を意味のかたまりで切片化、②切片化したテクス トごとに着目すべき語句を抽出、③抽出した語句の意味を表すような別の語(コード)
を検討、④コードを説明することのできる別のコードを検討、⑤ここまでの手続きに基 づいてテーマや構成概念を生成、⑥生成したテーマや構成概念の意味のつながりをもた せてストーリーラインを作成、⑦ストーリーラインを断片化して理論記述(普遍的な原 理ではなく、このデータから言えること)、⑧さらに追及すべき点・課題の検討、という 手順で分析する。
第4章でも述べた通り、観光まちづくりにおけるリーダーの発達プロセスについては ほとんど不明であり、まずは質的に彼らの実像を把握し、そこから仮説生成を行う必要 がある。そのため本章では、対象のリアリティを照らし出すことに適した質的研究の方 法を採用し、分析には明示的な手続きで省察可能性と反証可能性を確保できるSCATを用 いた。
本章における分析手順は次の通りである。前述①~⑧の手続きを調査対象者の言語デ
ータごとに行った。次に、それぞれのストーリーライン・理論記述を比較して共通点を 抽出し、概念を生成した。そして個々の概念について他の概念との関係をひとつずつ検 討し、カテゴリー・サブカテゴリーに統合した。すなわち、脱文脈化・再文脈化・脱文 脈化という手続きを取り、概念の抽象化を図った。