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第4章 別府ハットウ・オンパクのリーダーの発達

4.4 考察

状況を冷静かつ客観的に理解し、それまでの論理的対応のみならず、情緒的対応を組み 合わせることで対処した。このような対応は、変革型リーダーシップ理論における「個 別的配慮」、特に「組織のメンバーというよりも個人として尊重する」という特性に近い

(表 3.1)。「飲み食いをともにする」といった業務や組織における関係性とは異なる、

より個人的なアプローチが地域では必要とされると考えられる。このように、観光まち づくり試行錯誤期の逆境があったために、リーダーはそれまでの考え方を変化させる必 要に迫られ、地域の先輩という「他の人とのつながり」を活かして自己変革という発達 が促されたと考えられる。

自己変革によって生み出されたリーダーの情緒的対応は、「他の人とのつながり」のも う1つの側面であるフォロワーとの関係にも影響を及ぼした。A氏・B氏は別府ハットウ・

オンパクにおいて、フォロワーが能力を発揮できる、あるいは楽しいと思える仕事を任 せることや、トラブル対応など必要な時にフォローするといったことを行い、フォロワ ーからの信頼を獲得していった。すなわち、観光まちづくり試行錯誤期に培った情緒的 対応が、フォロワーの信頼を獲得する「個別的配慮」という変革型リーダーシップスキ ル獲得につながったと考えられる。なお、フォロワーであるC 氏が語った A氏のトラブ ル対応は、フォロワーに負の影響を与える受動的・回避的行動をしなかったということ であり、別府ハットウ・オンパクリーダーが持つ変革型リーダーシップの有効性をさら に支持する。

また、岩松・岩井(2001:307-314)や安村(2006:94-95)によれば、観光地におけ るリーダーは地域外との交流や視察あるいは大都市で暮らした経験を通じて、客観的か つ広い視野を培い、観光まちづくりに活かしている。別府ハットウ・オンパクのリーダ ーも大都市(両氏とも東京)で暮らした経験を持ち、海外温泉地との意見交換・視察と いう国際交流を経験しており、岩松・岩井(2001:307-314)や安村(2006:94-95)の 主張を支持している。この経験は、小長谷・竹田(2011:34)や捧(2011:113)がリー ダーの要件あるいは特徴の 1 つとして述べた「戦略性」を養うことにつながったと考え られる。

次に、これらの発達プロセスに関係する要因が有効に機能する前提条件として、「リス クを冒して新しいことに挑むこと」と「経験からの学ぶこと」を挙げたい。Kotter(1982:

101)、McCall(1998:102-127,187-194)、McCauley・Moxley・Velsor(1998:6-8)、Bennis

(2003:90,192)らは表現に多少の違いはあれど、リスクを冒して新しいことに挑む行 動がリーダー発達のきっかけになっている点を指摘している。行動しなければ、自身の 発達を促すような経験をすることはできない。別府ハットウ・オンパクリーダーは図 4.

4の【経験から学習したネットワークづくり】の通り、周囲からの信頼を勝ち取るため、

自らリスクをかけてまちづくりの取り組みを行った。それにより「失敗や逆境といった 修羅場」や「他の人とのつながり」を経験することになり、その結果彼らの発達は促さ れたと考えられる。

また、McCauley・Moxley・Velsor(1998:6-8)は、リーダーシップ開発には「成長を 促すさまざまな経験」のみならず、「経験から学ぶ能力」の必要性を指摘している。別府 ハットウ・オンパクリーダーは、これまで述べてきた通りさまざまな経験をしてきたが、

これらの経験に意味を見出さなければ彼らの発達は促されなかっただろう。すなわち、

観光まちづくりにおけるリーダーはリスクを冒して新しいことに挑み、その経験から学 習して発達し、地域住民からの信頼を獲得してリーダーシップを発揮すると考えられる。

最後に、別府ハットウ・オンパクリーダーと変革型リーダーシップの関係についてま とめる。別府ハットウ・オンパクリーダーの「自らリスクをかけてまちづくりの取り組 みを行う」といった地域のための行動は、変革型リーダーシップの「理想的な属性」の

「自己利益を超えて組織のために行動する」(表 3.1)という特性を発揮していると言 える。このほかにも、「まちづくりの軸」を考え示すことや(「鼓舞する動機づけ」)、そ の軸を活かして別府活性化のアイディアを創出すること(「知的刺激」)など、変革的リ ーダーシップと捉えられるような行動が見られる。また前述の「個別的配慮」や、受動 的・回避的行動をしないといった事象も踏まえると、別府ハットウ・オンパクリーダー は変革型リーダーシップを活用して地域を牽引していると考えられる。

さらに詳細に別府ハットウ・オンパクリーダーのリーダーシップを検討すると、観光 まちづくりにおけるリーダーシップの特徴が際立つ。前述した通り、リーダーが別府に 戻って観光まちづくりの取り組みを行おうとした際の地域社会は、組織としてある程度 方向性や仕事の仕方が決まっていた企業社会とは異なっていた。地域社会は、地域のあ り方やそのあり方に近づく方法などに関し、多様な考えを持つ人々で構成されている。

地域を活性化しようとする際、地域をある一定の方向へ導くことは必要であるが、それ を受け入れない人々がいた場合にも対処する必要がある。そのような場合に、「個別的配 慮」が有効に機能すると考えられる。「個別的配慮」で信頼関係を築き、住民が建設的に 地域の活動を考えていくように促すのである。その下支えがあって、他の変革型リーダ ーシップの下位尺度が地域全体で有効性を発揮すると考えられる。観光まちづくりにお いては「個別的配慮」、特に「組織のメンバーというよりも個人として尊重する」の位置 づけが、企業組織等よりも重要な位置づけにあることが示唆される。